残業代は、決まった時間より長く働いたらもらえる給料の一種。
労働者の正当な権利です。
未払い残業代をできるだけ多く回収するには、法律知識が必要。
損しないための残業代請求の基礎知識を、労働問題に強い弁護士が解説します。
【残業代とは】
【労働時間とは】
【残業の証拠】
【残業代の相談窓口】
【残業代請求の方法】
残業代の計算方法
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残業代は、労働基準法にしたがった方法で算出せねばなりません。
会社が法違反の計算をルールとして定めても無効。
残業代を払わず働かせれば「サービス残業」であり、違法です。
サービス残業への対応についても参考にしてください。
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残業代の計算
![残業代の計算方法](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2024/03/zangyoudaikeisanhouhou.jpg)
法律上の計算方法は、次のとおり。
- 残業代 = 単価/月平均所定労働時間 × 割増率 × 残業時間
わかりやすくいうと、残業1時間の単価(時給)に、割増率と残業時間をかけます。
割増率は、残業の時間帯や種類により、次のとおり。
※ 休日手当の計算にあたり「休日と休暇の違い」「振替休日と代休の違い」参照。
※ 特殊なケースの計算は「副業の残業代の計算」「遅刻して残業した場合」参照。
残業代の正しい計算方法は、次に解説します。
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「労働時間」は、「使用者の指揮命令下に置かれた時間」のこと。
純粋に仕事をした時間だけでなく、その前後の時間も含みます。
労働時間の定義は、次に解説します。
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例えば、次の時間は、労働時間になる可能性あり。
つまり、これらの時間に残業代が払われないなら違法です。
- サービス早出
終業時刻後だけでなく、始業時刻前の時間も、残業になりうる - 着替え時間
業務に必要な着替えの時間は、労働時間となる - 休憩時間
短すぎる休憩は違法であり、休憩時間もまた労働時間となりうる - ランチミーティング
昼休憩やランチの時間も、業務をしているなら労働時間である - 接待
飲み会もまた、接待など業務に関連するなら労働時間である - 仮眠時間
緊急の必要があるなど、対応を余儀なくされるなら労働時間になりうる - 出張中の移動時間
出張中なら、移動している時間も拘束され、残業になりうる - 持ち帰り残業
仕事を持ち帰らざるをえないなら、オフィス外で働いても労働時間 - 社内行事
社内行事に参加を強制されたら、労働時間になる
遅延損害金・付加金の計算
未払いが長引いた制裁として、遅延損害金、付加金の計算も忘れないようにしましょう。
遅延損害金は、在職中は年3%、退職後は年14.6%、各支払日から起算して計算します。
付加金は、裁判所の命令で、残業代元金と同額まで、命じてもらえます。
残業代の遅延損害金、付加金について、次に解説します。
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残業代請求に必要な証拠
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残業代を請求するには、残業した事実を証明せねばなりません。
このとき必要なのが、残業の証拠です。
証拠がないと、労働審判や訴訟で、残業を認めてもらえません。
タイムカード
残業の証拠資料で、最も大切なのが、タイムカードです。
タイムカードは、会社が管理するもの。
なので、請求相手である会社が、その時間だけ労働したと認めたことを意味します。
残業代請求を検討するなら、ただちにタイムカードの開示請求をしましょう。
タイムカードの開示請求について、次に解説します。
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ただし、タイムカードが実態通りでないとき、注意を要します。
タイムカードの重要性から、改ざんされてもあきらめないでください。
タイムカードの不正への対応は、次に解説します。
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その他の証拠
タイムカード以外にも、さまざまな資料が、証拠として活用できます。
例えば、次の資料を集めてください。
- 労働者の作成したメモ・手帳
手書きのメモでも、証拠になります。
残業した日中にメモを作れば、証拠の価値も高まります。 - パソコンのログ履歴
パソコン作業の仕事なら、ログ履歴も証拠になります。
パソコンを使用した時間は、少なくとも労働時間と言えるから。 - デジタルタコグラフ(デジタコ)
ドライバーの残業代で活用できるのがデジタコ。
労働時間把握のため、デジタコの設置は義務となりました。 - 残業代アプリ
残業代アプリなら、労働者側で積極的に証拠を保存できます。 - 雇用契約書
残業代の計算をするため、労働条件を証明しなければなりません。 - 就業規則、労使協定
残業をさせるには、就業規則上の根拠と36協定を要します。
なお、36協定なしの残業は違法です。
証拠がなくてもあきらめない
タイムカードなどの証拠がなくても、あきらめてはいけません。
労働時間の把握は会社の義務であり、証拠がないのは会社の責任。
あきらめれば、違法な会社なのに、残業代請求から逃げられてしまいます。
ひとまず残業代を概算し、会社が反論のため資料を出すのを待ってください。
資料が足りず反論が不十分なら、むしろ有利な概算が認められます。
違法な残業隠しへの対応についても参考にしてください。
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残業代についての相談窓口
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未払い残業代があるとき、その回収には法律知識を要します。
複雑なケースでは、専門家のサポートが必要。
次に、残業代の悩みについて、相談窓口を解説します。
労働基準監督署
確たる証拠があるなら、労働基準監督署に通報しましょう。
指導ないし是正勧告により、違法状態の改善が期待できます。
残業代の未払いは「6ヶ月以下の懲役または30万円行かの罰金」の刑罰あり(労働基準法119条)。
悪質な未払いは、逮捕、送検し、刑事罰を科せる可能性があります。
ただ、労働基準監督署は、費用がかからない一方、必ず味方になるとは限りません。
労働基準監督署への相談について、次に解説します。
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労働局
残業代について労働局にも相談できます。
労働局は、各都道府県に設置された行政機関。
窓口で相談をしたり、労働問題についてあっせんでの解決を目指したりできます。
労働組合
残業代請求を、労働組合とともに戦う手もあります。
なかでも、社外にある合同労組(ユニオン)への相談がお勧め。
組合は、憲法、労働組合法という法律で、労働三権が保障され、団体交渉ができます。
労働組合への相談について、次に解説します。
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弁護士
残業代トラブルの得意な弁護士に依頼しましょう。
残業代に関する相談数、解決実績などが参考になります。
最終的には、相談し、その説明に納得できるかで決めてください。
残業代請求で、できるだけ損しないために、リスクは低いほうがよいもの。
初期コストを抑えるため、相談料や着手金が無料の弁護士がお勧めです。
なお、残業代請求の管轄は、会社の営業所の所在する裁判所が原則です。
この点で、全国対応の弁護士に依頼するメリットがあります。
残業代請求を依頼すべき弁護士について、次の解説をご覧ください。
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残業代請求の方法
![残業代請求の流れ](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2022/08/zangyoudaiseikyuunagare.jpg)
残業代請求では、その方法を段階的に進める必要があります。
具体的には、まず交渉、決裂する場合は労働審判、そして訴訟という順。
この順番で進めるのが、リスクが最も少ないからです。
(参考:未払いの給料を請求する方法)
交渉で、残業代が払われないとき、労働審判を申し立てます。
労働審判は、個別の労働問題を、迅速かつ柔軟に解決する裁判所の手続き。
話し合いを前提とした「調停」をし、まとまらないと「審判」を下します。
期日は3回までとされ、平均審理期間は約70日。
訴訟よりスピーディに済ませられるメリットあり。
(参考:労働審判による残業代請求)
交渉でも労働審判でも解決しないなら、訴訟が必要。
訴訟は最終手段です。
公正な解決が得られる反面、厳密な証拠を要し、審理は時間がかかります。
60万円以下なら、少額訴訟も利用できます。
(参考:少額訴訟による残業代請求)
判決で、残業代の支払いが命じられれば、強制執行で、財産を差し押さえが可能。
なお、解決には一定の期間がかかります。
解決の流れにより、交渉なら1〜2ヶ月、労働審判なら3ヶ月、訴訟なら半年〜1年程度が目安です。
残業代請求の解決にかかる期間と、早めるコツは次に解説します。
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残業代請求のタイミングと、時効
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残業代請求に、不適切なタイミングなどありません。
在職中にできるのはもちろん、退職後でも遅すぎることはありません。
できるだけ多くの額を請求できるタイミングでするのが正解です。
在職中なら、社内でこっそり証拠集めができます。
ただし、在職中の残業代請求では、報復に注意して進めてください。
在職中の請求と、報復への対応は次に解説します。
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残業代は、給料の支払いとともに適切なタイミングですべき。
残業代の後払いは、違法です。
一方で、退職後の請求は、時効に注意。
残業代請求の時効は3年で、起算日は、各月の給料日です。
「遠慮がある」「気まずい」としても3年以内には請求してください。
残業代の時効について、次に解説します。
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会社を辞めた後でも請求できますが、倒産後はもはや回収できません。
勤務先が倒産したら、未払賃金立替払制度を活用しましょう。
倒産で収入を失った労働者に、国が給料の8割を立て替える制度です。
未払賃金立替払制度について、次に解説します。
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会社の反論別、残業代を請求すべきケース
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残業代を少しでも減らそうと、会社は必死に反論します。
確かに、残業代が発生しないケースは、法律上いくつか定めがあります。
しかし、これらはいずれも、厳しい要件あり。
甘い考えで反論する会社に、残業代請求をあきらめる必要はありません。
会社の反論ごとの対処法は、次のとおり。
- 年俸制
年俸制は、あくまで収入を年単位で計算、改定する意味。
残業代をなくすものではないはず。
例外的に、他の制度と併用され、残業代がもらえない年俸制の方もいます。 - 固定残業代
残業代の一部をあらかじめ固定で払う制度で「みなし残業」ともいう。
会社からは「残業代込み」という反論を受けるケースです。
通常の給料と明確に区別され、差額が払われないと違法です。
悪用されやすいため、固定残業代の通達も発出されました。
(ボーナスに含んで払う方法も、違法の疑いがあります) - 管理監督者
労働基準法41条2号の管理監督者は、労働時間のルールが適用除外。
その結果、残業代は生じません。
しかし、管理監督者の実態なく管理職扱いする「名ばかり管理職」は残業代請求できます。
(同じく、「名ばかり役員」も、残業代がもらえます)
この場合、役職手当は、残業代の単価に含めて計算をします。
※「管理監督者かどうか」の微妙なラインとして「課長の残業代」が問題となります。
ケースバイケースではありますが、課長は管理監督者ではない、と判断されるケースがほとんどです。 - 残業許可制・残業禁止
残業許可制、残業禁止が正しく運用されれば、残業は許されません。
ただし、その運用は徹底される必要あり。
黙示に残業が命じられたなら、残業代を請求できます。 - 事業場外労働みなし労働時間制
会社外で働き、時間の把握が困難なとき、一定の時間働いたとみなす制度。
労働時間のみなしの結果、残業代が生じないことがある。 - 裁量労働制
企画業務型と専門業務型の2種類。
いずれも専門性の高い業務につき、一定の要件を満たせば残業代がなくなります。
ただし、業務に裁量がないなど、有効要件を満たさなければ無効。 - フレックスタイム制
総労働時間の範囲内で、柔軟に始業・終業を変更できる制度。
清算期間における総労働時間を超える時間が、残業となる。 - 変形労働時間制
法定労働時間を変形させる制度。
繁閑の差の激しい業務で、残業代を減らすのに利用される。 - 高度プロフェッショナル制
専門性が高く、収入も高いなど、要件をもとに残業代をなくす制度。
業種別の残業代請求の注意点
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残業代は、どのような業種でも得られます。
言いかえれば、残業代のない業界などありません。
「この業界は残業代なしが当たり前」と言われてもあきらめないでください。
ただ、業種、職種によって、注意すべきポイントがあります。
それは、残業代が生じやすい職業、違法な未払いが隠蔽されやすい業界があるからです。
特に、未払いの残業代が生じやすいケースについて解説します。
- 飲食店の店長
ワンオペによる長時間労働が社会問題化。
飲食店では、経費削減のため、残業代が抑制されがちです。 - 運送業のドライバー
荷待ち時間が、労働時間と評価できるか注意。
休憩なしの長時間労働は、交通事故など命に関わります。
(運転日報やデジタコなど、固有の資料が活用できます) - 美容師
見習い期間の残業代が未払いになりがち。
カット練習など、居残り修行もまた、労働時間です。 - 病院の医師
当直、急患の対応や夜勤など、労働時間があいまいになりがち。
医師もまた、労働者であれば労働基準法が適用されます。 - 看護師
看護師は、シフト制の交代勤務、夜勤、当直など、残業代の生じやすい働き方。
病院の現場では医師と同様、労働者の権利が軽視されがちです。 - IT企業のSE
IT業界は「IT土方」といわれるように人件費で稼ぐビジネスモデルです。
(裁量労働制の悪用もよく見られます) - 営業職
外回りが多く、労働時間を把握されづらい。
(営業手当の悪用によるごまかしがよく起こる) - ベンチャー企業
ベンチャー企業では、モチベーションが高い社員が集まりやすいもの。
その分、根性論によるやりがい搾取から、残業代の未払いが横行します。 - 警備員
夜勤が多く、仮眠時間の給料が適正でないおそれあり。
指揮命令下に置かれていれば、仮眠もまた労働時間です。 - 保育士
保育士の業務も、園児の状況により突発的な対応を要する大変な仕事です。
人手不足から長時間労働となり、違法状態に陥りがちです。
なお、残業代は、雇用形態によらず、すべての労働者に生じます。
正社員だけの権利でなく、アルバイトやパート、派遣社員も、残業代を請求できます。
入社直後だろうと、長く働けば残業代はもらえます。
入社直後の残業代についても、参考にしてください。
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残業代が払われても長時間労働は許されない
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たとえ残業代が払われても、長すぎる労働は、それ自体が違法の可能性あり。
会社は安全配慮義務があり、労働者の健康を害してはならないからです。
労働時間が長すぎると、うつ病、適応障害など精神疾患になることも。
さらに深刻なのは過労死のケースです。
このような事態を防ぐため、労働時間には一定の上限があります。
法律上は、36協定の限度時間として、ルールが決められています。
残業の上限については、次に解説しています。
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残業代が未払いな場合はもちろん、長すぎる残業も断るべき。
違法な残業命令は、拒否して当然です。
会社がブラックならば、自分の身を優先してください。
違法な残業からの自衛手段についても解説しています。
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まとめ
![弁護士法人浅野総合法律事務所](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2022/03/asanosougou-zentai.jpg)
今回は、残業代請求について、基礎知識を解説しました。
正当な残業代が払われているか、不安な方、ぜひ弁護士に相談ください。
法律と裁判例に基づき、正しい残業代を計算します。
残業代を全額払ってほしいなら、訴訟による請求のサポートも可能です。
【残業代とは】
【労働時間とは】
【残業の証拠】
【残業代の相談窓口】
【残業代請求の方法】