みなし残業は、実際の残業時間の有無や長さにかかわらず、一定の時間だけ残業したものと「みなし」て割増賃金を支払う制度のことです。
適切に運用されれば問題ないものの、みなし残業には違法な運用がしばしば見られます。残業代は労働基準法上の権利であり、みなし残業があるからといって不当な減額は許されません。違法な運用によって残業代の支払いを免れようとする企業もあるため、労働者としても正しい法律知識をもとに残業代を請求しなければなりません。
今回は、みなし残業が違法になる場合について、具体的なケースを踏まえながら、労働問題に強い弁護士が解説します。
- みなし残業は、一定の時間残業したものとみなして残業代を支払う制度
- 就業規則や雇用契約書にみなし時間や金額の明記がない場合は違法となる
- みなし時間を超過した残業分が支給されない場合、未払い残業代が発生する
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みなし残業とは

みなし残業とは、実際の残業時間にかかわらず、一定の時間の残業をしたと「みなし」て、その分の残業代をあらかじめ支払う制度で、「固定残業代」とも呼びます。「みなす」とは、「本来異なるものを同一として扱う」という意味で、みなし残業では、実際の残業時間が少なくても残業をしたかのように扱い、残業代が支払われます。
みなし残業の内容や時間数は、就業規則や賃金規程、雇用契約書などで明示しなければならず、制度設計が不適切だと、残業に対する正当な対価が支払われない違法な状態に陥りがちです。
みなし残業が違法となるケース

みなし残業が違法である場合には、未払い残業代が発生する可能性が高いため、発覚したら直ちに請求する必要があります。
以下では、みなし残業が違法となるケースについて解説します。
就業規則に定めがない場合
みなし残業は、就業規則や雇用契約書に明記する必要があります。
常時10名以上の社員を使用する事業場では、就業規則を労働基準監督署に届け出ることが義務とされており(労働基準法89条)、賃金に関することは「絶対的必要記載事項」とされるため、みなし残業についても必ず記載しなければなりません。就業規則にみなし残業の規定がなく、労働契約の締結時の説明もなかった場合、違法である可能性が非常に高いです。
残業代の正確な金額が計算できない場合
みなし残業を適法に運用するには、みなし時間と金額の明示が必要です。
どれだけの残業をしたものとみなされ、いくらの残業代が支払われているかが計算できなければ、労働者としても未払い残業代の金額を算出することができません。みなし残業が通常の賃金と区別されていない場合、残業代として支払われたとは評価できず、違法となります。
例えば、そもそも就業規則や雇用契約書にみなし残業に関する記載がない場合や、「基本給25万円(みなし残業を含む)」とされ、時間数や金額の記載がない場合は、違法となる典型例です。
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残業代の性質を有していない場合
性質上、残業代とは評価できない手当の支払いは、みなし残業として不適切です。実際の裁判例でも、次のように判断して残業代に未払いがあるとした事例があります。
- 東京地裁平成24年8月28日判決(アクティリンク事件)
「営業手当」は、営業活動のインセンティブであり、残業の対価の性質を有していないと判断されました。 - 東京地裁平成25年2月28日判決(イーライフ事件)
「精勤手当」は、年齢、勤続年数、業績によって変動するため、残業の対価としての性質以外のものが含まれていると判断されました。
超過分が追加で払われない場合
みなし残業は、一定の時間だけ残業したものとみなして残業代を前払いするに過ぎず、その時間を上回る残業が生じたときは、超過分の支払いが必要です。超過分が生じたのに追加の残業代を受け取ることができない場合、未払いが発生し、違法となります。
みなし残業を除くと最低賃金を下回る場合
最低賃金法により、最低賃金を下回る給与は違法となります。
低賃金で酷使されることを防ぐ趣旨であり、たとえ労働者が同意していても違反することは許されません。最低賃金の判断に残業代は含まれないため、みなし残業分を除いた給与の総額が最低賃金を下回る場合には違法となります。
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みなし残業の時間数が多すぎる場合
過剰な時間のみなし残業を設定することは、違法となる可能性が高いです。
残業命令を行う際に必須となる36協定は、原則として「月45時間・年360時間」の上限があり、例外的に特別条項を付けた場合に限り年720時間までの範囲で延長可能です。みなし残業は一般的に、5時間〜20時間程度が目安とされており、月45時間を超えるような過剰な設定は、公序良俗(民法90条)に違反するとして無効になるおそれがあります。

実際の裁判例でも、みなし残業を無効と判断した事例があります。
- 東京高裁平成30年10月4日判決(イクヌーザ事件)
みなし残業を、月80時間分の残業に相当する対価として支払った点について違法性を認めた事案です。実際にも、月80時間を超える残業が実施されていました。 - 宇都宮地裁令和2年2月19日判決(木の花ホームほか1社事件)
月131時間余に相当する職務手当をみなし残業代として支払っていた事案です。
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役職手当のみなし残業扱いが不適切な場合
役職手当を支給していることを理由に残業代を支払わないのは不適切です。
例外的に、役職手当がみなし残業としての性質を有する場合がありますが、その場合も、役職手当が「何時間分の時間外労働の対価となるか」が明確に区分されている必要があります。就業規則や賃金規程で、役職手当の中に含まれる残業代の金額や時間数が明記されていない場合、その手当は単なる役職への対価であって残業代とはみなされません。
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求人情報や募集要項に詳細が明示されていない場合
求人票や募集要項にみなし残業の詳細が記載されていない場合、違法の可能性があります。
みなし残業について曖昧に記載することで、実際よりも好条件の求人であるかのように見せかける行為は不適切であり、入社後にトラブルとなるリスクが高いため、労働者側でも注意深く検討しておくことが必要です。
みなし残業が違法なときの対処法

みなし残業は、不適切な運用をすれば違法となりやすくなってしまいます。
悪用や誤用によってみなし残業が違法だと、その制度自体が無効となり、未払い残業代が発生する可能性があります。労使ともに、違法にならない対処法を理解しておきましょう。
労働者側の対処法
みなし残業が違法であれば、制度そのものが無効となる結果、労働者としては未払い残業代を請求することができます。

証拠を集めて未払い残業代を計算する
未払い残業代を請求するため、証拠を集めることから始めます。
みなし残業を設定していることにより、追加分の残業代が不要であると考えている会社では、十分な証拠が集まらないおそれがあります。就業規則やタイムカードなど、会社の手元にある必要書類は速やかに開示を要求しておいてください。
残業代を請求する意思表示は、会社に内容証明を送付することで行います。残業代の時効は3年なので、みなし残業の違法性に気付いたら、速やかに内容証明で証拠に残しながら「催告」することで、6ヶ月間時効の完成を猶予することができます(民法150条)。

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労働審判や訴訟で争う
交渉で解決しない場合、労働審判や訴訟で請求します。
特に、会社がみなし残業を理由に支払いを拒否する場合、法的な判断が必要となります。労働者と会社の主張が食い違う場合、中立的な立場である裁判所の判断を下してもらわなければ解決が困難なケースもあります。
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弁護士に相談する
不当な扱いを受けている場合、労働問題に詳しい弁護士に相談してください。
みなし残業制度が違法かどうかを判断するには、過去の裁判例を踏まえた専門的な知識が必要となります。また、弁護士名義で内容証明を送ったり、労働審判や訴訟を代わりに行ってもらったりすることで、残業代の回収がスムーズに進むことが期待できます。
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企業側の対処法
みなし残業の制度を設計する企業側でも、違法にならないよう対処が必要です。
適切な時間数のみなし残業を定める
企業がみなし残業を導入する際は、実態に即した適切な時間数とすべきです。
一般には月5時間〜20時間程度に設定することが多く、この範囲であれば公序良俗に反すると判断される可能性は低いです。
しかし、36協定の原則的な上限である月45時間を大幅に超える場合や、過労死ライン(月80時間残業)に近い長時間労働を前提とした時間数を設定する場合、労働者の健康を害するおそれがあり、裁判所でも無効とされる可能性があります。
制度導入前の平均的な残業時間を分析した上で、実態と大きく乖離することのないよう時間数の設定を工夫することは、法律に違反しないだけでなく、従業員の不公平感を招いたりモチベーションを下げたりしないためにも重要です。
従業員の残業時間を把握する
みなし残業の導入後も、労働時間を正確に把握する義務は変わらず負います。
みなし残業を支払っていても日々の勤怠管理を怠ることは許されず、タイムカードや勤怠管理システムの記録に基づき、みなし時間を超える残業がないかを確認する必要があります。もし超過した場合、差額分の残業代は支払わなければなりません。
労働時間の把握を怠っていると、労働者から超過分の請求を受けるだけでなく、健康被害を生じさせ、安全配慮義務違反の責任を問われるおそれもあります。
実態に沿った内容となるよう定期的に見直す
みなし残業は、導入後も定期的な見直しが必要となります。
実態に沿った内容とするには、企業や事業の規模、業務内容の変化などに伴って実際の残業時間が増減した場合、それに合わせた制度設計とする必要があるからです。実態と乖離していると、法的トラブルが起こりやすくなるだけでなく、制度が形骸化したり、労働者の不信感の原因となったりもします。時間数や手当の額を見直し、実態に即した公平な制度を目指しましょう。
なお、変更内容によって不利益変更に該当する場合は、就業規則の変更には合理性が求められます(労働契約法10条)。
「安全配慮義務」の解説

みなし残業を違法と判断した裁判例

みなし残業が違法であり、無効であると判断された裁判例は数多くあります。
会社が独自の主張に固執して残業代の未払いを継続したとき、悪質であると評価されると、裁判で付加金の支払いが命じられる可能性もあります。
横浜地裁令和3年2月18日判決(アルデバラン事件)
看護師による残業代請求に対し、管理者手当(月8万円)は残業代の性質を有し、みなし残業として支払われたものであると反論された事案です。裁判所は、労働条件通知書に管理者手当が残業の対価となる旨の記載は一切なく、その他に残業代の趣旨と認めるに足る証拠がないことからこれを認めず、残業代約990万円のほか、付加金約780万円の支払いを命じました。
東京地裁令和2年11月6日判決(ライフデザインほか事件)
退職後の残業代請求に対し、月14万円の業務手当が残業代とみなされ、みなし残業として支払い済みであると反論された事案です。裁判所は、以下の事情から会社の主張を否定し、残業代約260万円と同額の付加金の支払いを命じました。
- 雇用契約書で、業務手当が支払われる趣旨の記載が全くなかったこと
- 採用時にも説明がなかったこと
- 会社側も、業務手当を残業代として支払っていたかはわからないと述べたこと
- 就業規則は労働者の退職後に初めて作成され、その中でも業務手当が残業の対価だと明記されていなかったこと


みなし残業の違法性に関するよくある質問
最後に、みなし残業の違法性に関するよくある質問に回答しておきます。
みなし残業のメリット・デメリットは?
みなし残業は、労働者と企業の双方にとって利便性の高い仕組みです。
労働者にとっては、実際の残業時間が少なくても一定の金額が保障されるため、毎月の収入が安定する点がメリットです。企業側にとっても、給与計算の事務負担を軽減できるという点で便利な制度です。
一方で、制度の悪用によって長時間労働が助長されたり、みなし時間を超えて働いても残業代が支払われなかったりといったリスクがあります。企業側にとっても、効率化して残業を減らしても固定のコストが発生し続けるなど、デメリットがあるため、制度を導入・運用する際は正しい理解が不可欠です。
みなし残業とみなし労働時間制の違いは?
みなし残業とみなし労働時間制は、異なる制度なので区別すべきです。
みなし残業は一定の残業をしたものとみなして支払う、残業代の計算に関する制度であるのに対し、みなし労働時間制は、法律上の要件に該当する場合に、あらかじめ定めた一定時間労働したものとみなす、労働時間に関する制度です。
みなし労働時間制は「裁量労働のみなし労働時間制」と「事業場外のみなし労働時間制」の2種類があり、裁量労働は労働者に時間的な裁量があること、事業場外労働は労働時間の算定が困難であることが必要で、就業規則や労使協定に定められます。
みなし残業は、みなし時間を超えて働いたら超過分の清算を要するのに対し、みなし労働時間制では、1日8時間以内のみなし時間とすれば時間外割増賃金が生じません。みなし労働時間制は例外的な扱いなので厳しい要件があり、正しく運用されなければ違法となる可能性の高い制度です。
【まとめ】みなし残業が違法となるケース

今回は、みなし残業が違法となるケースと、その際の対処法について解説しました。
みなし残業は、企業側の労務管理を目的として導入される一方で、労働者にとっては未払い残業代が発生するリスクを伴う制度です。実際の残業時間にかかわらず、一定の時間だけ残業したものとみなして残業代を支払う制度ですが、みなし時間以上に働けば差額を請求できます。
残業代を減らそうとする会社が、みなし残業を悪用すると、残業代を受け取るという労働者の正当な権利が損なわれる危険があります。みなし残業のある会社では、勤務先の制度の内容を理解し、違法な運用となっていないかを精査することが肝心です。
みなし残業が違法ではないかと疑われる場合、過去の裁判例を踏まえた専門的なアドバイスを受けるため、ぜひ弁護士に相談してください。
- みなし残業は、一定の時間残業したものとみなして残業代を支払う制度
- 就業規則や雇用契約書にみなし時間や金額の明記がない場合は違法となる
- みなし時間を超過した残業分が支給されない場合、未払い残業代が発生する
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