残業代請求を検討するにあたっては、まず、どのような残業が違法となるかを知らなければなりません。「サービス残業は違法」と覚えておいてください。
残業代請求の際には、労働基準法に従って労働時間に該当する時間を検討していきます。
ブラック企業が利用する「サービス残業」とは、労働者が、サービスとして労働力を無料で会社に提供する残業をいいます。
労働者としては、「残業をしないと申し訳ない。」「他の社員がみんな残業代を請求せずにただ働きしているのに、自分だけ残業代を請求すると嫌われる。」といった思いから、周りに流されてついサービス残業をしがちです。
しかし、労働者は労働基準法による手厚い保護を受けており、労働した時間は、それが雇用契約で定められた時間以外の時間であれば、残業として割増賃金が支給されるのです。
周囲の流れに逆らって残業代を請求したからといって、残業代の請求を行ったことだけを理由に、あなたに対して解雇などをすることはできません。
今回は、違法なサービス残業はどのようなものか、また、ブラック企業がなぜサービス残業を強要するのかについて解説します。
サービス残業は違法です。未払い残業代を請求する場合には労働問題に強い弁護士へご相談ください。
目次
1. 労基法上の労働時間と、サービス残業
労働基準法は労働者に手厚い保護を与えており、長時間労働を抑止するという考え方から、ある一定の労働時間を越えて労働者を就労させた場合には、残業代を支払うことを義務付けています。
具体的には、1日8時間、1週40時間を「法定労働時間」と呼び、この法定労働時間を超えて就労させた場合には、残業時間となります。
労働基準法32条1.使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2.使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。
労働基準法は、労働組合法、労働関係調整法と共に労働三法と呼ばれ、労働者の権利を守るための非常に重要な法律です。
そのため、労働基準法に対する違反は、強行法規として違法無効となるほか、刑事罰が科されられるケースもあります。
なお、1週間の上限労働時間である40時間については、特例措置対象事業の場合には、44時間とすることが可能です。
特例措置対象事業とは、次の通りです。
商業(卸・小売業)、理・美容業、倉庫業、映画・演劇業、病院、診療所等の保健衛生業、社会福祉施設、接客・娯楽業、飲食店などの事業を営み、かつ、常時使用する労働者(パート・アルバイトを含む)が10名未満の事業が、特例対象事業に該当します。
したがって、労働基準法に定められた1日8時間、1週40時間の法定労働時間を越えて会社が労働者を労働させる場合には、残業代の支払が義務付けられます。
この法定労働時間を越えて働いているにもかかわらず、残業代が支払われない残業を、サービス残業といい、労働基準法の重大な違反となります。
2. ブラック企業がサービス残業を強要する理由
残業代の支払われないサービス残業の問題が、近年社会問題化していますが、サービス残業の問題は、昔から存在しました。
好景気の時代には、働けば働くだけ会社の業績が好調となり、その分基本給も年々上昇します。
その上、日本の伝統的な雇用社会では、終身雇用制の文化があり、賃金の上昇率が高い中、残業代を請求してまで会社と揉めて、長期雇用を台無しにしようという労働者は少なかったといえます。
しかし、不景気の時代となり、会社がリストラ、問題社員の解雇を繰り返すようになると、会社とトラブルとなった労働者が、解雇紛争に付随してサービス残業の未払い残業代を請求するようになります。
また、長期雇用慣行、終身雇用制は崩壊し、必ずしも一つの会社に長く勤め続けることが美徳とはされない時代となりました。
サービス残業に甘んじることなく、未払い残業代は大手を振って請求できる時代となったのです。
サービス残業が行き過ぎ、未払い残業代を支払わなかったことによって、会社の経営者が送検されたというニュースも報道されるようになりました。
このような背景があってもブラック企業がサービス残業を強要し続ける理由は、例えば次のものです。
2.1. ブラック企業に労働法の知識がない
ブラック企業の経営者は、労働法の知識がまるでない、もしくは、あえて身に着けない、勉強しないようにしている場合があります。
ブラック企業の経営者にとって、最も重要なことは、いかに労働者を酷使して会社の利益を出すか、という点であって、労働法をいかに遵守するかという点に関心はありません。
そのため、労働基準法でどのような場合に残業代を支払わなければならないかについての正確な知識がありません。
また、「長く働かせたら残業代が必要。」という程度の知識はあったとしても、「管理監督者」「事業場外みなし労働制」「裁量労働制」など、残業代を支払わなくてもよいケースを会社に都合のよいように解釈し、結果として残業代を支払わないばかりです。
サービス残業による残業代の未払いは違法ですから、未払い残業代を請求することでブラック企業に立ち向かいましょう。
2.2. サービス残業は「人件費の節約」
残業代を支払わない方が、利益が多くなるのは当然です。労働者がサービス残業をしてタダ働きをしてくれる分、人件費が浮き、労働力は減らないからです。
サービス残業をさせれば、その分ブラック企業が潤い、同じ売上であっても、人件費の分だけ利益が上がります。
しかし、サービス残業による残業代の未払いは、刑事罰すら科せられる可能性のある重大な犯罪行為です。
「サービス残業をさせることによって利益が上がった。」というブラック企業経営者の主張は、「泥棒をしたら働かなくても儲かった。」というのと同じです。
経営者は、経営に対して責任を持ち、その分利益の帰属を受けるため、労働時間、残業の概念はなく、「24時間働けますか。」というポリシーを持っている経営者がいたとしても当然のことです。
これに対し、労働者は、決められた給与に対して決められた時間を労働することが決められています。そのため、雇用契約で定められた労働時間を越えて時間外労働をした場合には、残業代を請求できることとなっているのです。
終身雇用の文化の中で、会社側から「会社が潰れては元も子もない。」「会社あっての労働者だ。」という反論も聞かれますが、現在では終身雇用制は崩壊し、労働基準法に違反しなければ立ち行かない会社であれば、もはや労働者を雇用して守ることなど不可能です。
2.3. 業界ルール、慣習がサービス残業を認めている
ブラック企業の経営者の中には、よく、「うちの業界は残業代を払わないのが当然。」「他の社長もサービス残業を強要しているのだから、うちの会社だけ残業代を支払ったら競争に負けてしまう。」といった理由でサービス残業を強要するケースがあります。
しかし、労働基準法は、業界によって適用内容は変わりありませんから、残業代を支払わなくても良い業界というのは存在しません。
繰り返しますが、サービス残業による残業代の未払いは違法です。残業代は、あなたの労働に対する適正な対価ですから、残業代請求を躊躇する必要はありません。
3. 時代は変化し、終身雇用制は今や昔
終身雇用制の文化は崩壊し、現在では、労働者は一つの会社に留まることなく、そのキャリアにおいていくつもの会社を経験します。
その分、一つの会社にすべての労働力をささげるのではなく、自身の労働の価値を高めていく必要があります。労働者の価値は、ただ働きのサービス残業をたくさんしてくれることではなく、同じ時間の労働で多くの価値を生み出すことへとシフトすべきです。
そのため、会社が労働者の成果に応じて賃金を支払いたいという成果報酬型の給与体系へと移行しているのも納得がいきます。
しかし、会社が残業代を支払わないでも良いようにする制度の利用を適切に行うためには、労働法の専門的な知識が必要です。
であるにもかかわらず、ブラック企業では、労働法を十分に理解することなく様々な労働時間制、賃金制度を導入することによって、結果として残業代を支払わないサービス残業を横行させています。
これに対し、労働者側がきちんとした労働法の知識を身に着け、あるいは、専門家の助けを借りることなしには、ブラック企業の主張に反論していくことは困難です。
残業代が支払われていないサービス残業の時間が存在する疑いがある場合には、労働問題に強い弁護士へご相談ください。