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美容師の残業代について解説│カット練習も労働時間に含む場合あり

「美容師だと残業代はもらえないだろう」とあきらめている方もいます。
しかし、美容師でも、残業代は請求できます。

美容師だと、カット練習をはじめ、勤務時間後に遅くまで特訓している方もいます。
なかには、過酷な長時間労働を強要される美容師もいます。
美容業界では、人件費をカットして利益に変える手口が横行しているからです。

相談者

「新人は居残ってカット練習」と命じられた

相談者

美容師だから、残業代は出ないと思っていた

ブラックな美容業界の慣習を信じ、無給でサービス残業してしまう美容師は少なくありません。
日中に混み合い、来店があると休憩がとれず、食事する暇もない方もいます。

食事もとらず、睡眠時間すら削って働く美容師は、ブラック労働の典型といってよいでしょう。
こんなとき、残業代を請求して、違法な労働実態をストップさせるべきです。

今回は、美容師の残業代、特に「カット練習が労働時間になるか」を、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 美容師は、違法な残業実態となっていることが多いが、未払いの残業代は請求できる
  • カット練習は、明示または黙示の命令の場合が多く、労働時間に含まれる
  • 美容師の残業代請求では、タイムカードなどとともに美容師ならではの証拠が活用できる

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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美容師のブラックな残業の実態

美容師が、ブラックな労働環境で働かざるをえないことには、さまざまな理由があります。

まずは、美容師のブラックな残業の実態について解説します。
1つでもあてはまる方は、未払いの残業代を請求できる可能性があります。
美容室にも、当然に労働基準法は適用されるからです。

美容師のやりがい搾取

「もともと美容が好きで美容師になった」という方は多いもの。
目指し続け、やっと美容師として働けるようになれば、労働も楽しいかもしれません。
カット練習はじめ、給料をもらえない特訓を押し付けられても、従う方は珍しくありません。

会社は、そんな美容師の思いにつけ込み、やりがい搾取で利益をあげようとします。

「練習し、営業し、売上をあげる」のを、美容師に無償でするよう強要します。
カット練習からSNS投稿、ビラ配りなど、本来の仕事以外にも活動せざるをえない方も多いでしょう。

しかし「練習」にも給料、残業代は発生します。
また、「営業し、顧客を獲得して売上をあげる」のは会社の責任で、労働者の仕事ではありません。

「売上がなければ給料はない」という考え

カット練習を無給と考えてしまう裏に、「売上がなければ給料はない」という考えがあります。
しかし、「お客さんからお金がもらえないなら残業にあたらない」という発想なら、改めるべきです。

「新人のうちは腕をみがくため無給で練習すべき」という精神論、根性論は誤りです。
練習の大切さは当然ですが、給料や残業代が発生しない限りは、労働を強制されはしません。

「手に職」の考えが強く、「個人のスキルアップにもなる」と従いがちです。
悪質な会社ほど、新人研修、技術試験やコンテストなどの制度を悪用して、美容師のスキルアップへの気持ちをあおり、無償労働させようと誘導してきます。

「自発的に練習している」と反論されても、黙示の強要があれば、それは労働時間です。

顧客対応せざるをえない

美容師のような接客業では、顧客対応のために、自分で労働時間を調整できないことがあります。
たとえ休憩中でも、突然来店されたお客さんがいれば、対応せざるをえません。
繁盛店だと「まったくお客さんがいない」という時間帯などないのではないでしょうか。

閉店時間を過ぎても、施術が終わらなければ残業せざるをえません。

逆に、お客さんがまったくいない時間でも、自由に利用できないなら休憩ではありません。
お客さんのいない間に練習し、薬剤を準備したり、事務作業をしたりなど、仕事があるなら「労働時間」。
決められた時間を超えて働けば、残業代を請求できます。

休憩が短すぎると、労働基準法違反の可能性があります。

零細企業が多い

美容室のなかには、経営がそれほど順調でないサロンもあります。
大手チェーンもありますが、多くは、個人経営に近い、零細企業です。

人件費をできるだけカットして利益を増やし、その分、限られた美容師が必死に労働時間を長くして働き、多くのお客さんの相手をしなければ、経営が立ち行きません。
経営の苦しいサロンは、残業代など払う余裕がなく、サービス残業は必要悪となっています。

カット練習は残業になる

美容師の労働時間、残業代を考えるにあたり、重要なのが「カット練習が残業になるか」という点。
結論としては、カット練習は残業になるのが原則と考えてよいでしょう。

カット練習は、自発的にされるものも確かにあります。
しかし、その多くは、会社からの明示ないし黙示の指示によるものでしょう。
それは、美容師としてカット練習をしておかないと、会社に不利益を課されるおそれがあるからです。

  • カット練習をしないと、施術を担当させてもらえない
  • カット練習しないと、給料がいつまでも上がらない
  • アシスタントなら時間は無制限に働くべき
  • 自主練習、営業後練習は、労働時間ではないと言われる
  • 居残り練習をしないと、同期と差別される
  • カット練習しないと嫌味を言われ、ハラスメントの対象となる

結局は、スキルアップはもちろんのこと、会社での出世昇進も閉ざされてしまいます。
過労で倒れてしまえば、元も子もありません。

すると、やむをえずカット練習を無償でもせざるをえません。
残業代請求をすることが、違法な命令を止めるのにつながります。
もう退職してしまう美容室なら特に、これまでの未払い残業代を必ず請求し、損しないようにしましょう。

カット練習が、サービス残業となってしまう背景にあるのがサロンの営業時間の問題。
「営業時間=労働時間」とする会社だと「営業終了後は業務でない」と考えることも。
しかし、このような考えは間違っています。

営業時間内だけが労働時間なら、店が終了したらすぐ帰ってよく、その後の居残りは自由。
強制されている時点で、その後も労働時間なのは明らかです。

違法な残業命令を拒否するには、次の解説をご覧ください。

例外的に美容師が残業代をもらえないケースもある

美容師の労働のなかには、残念ながら残業代が発生しないものもあります。
労働法には、残業代を払う義務をなくす制度もあるからです。

ただし、いずれも労働者に不利益なので、厳しい要件が定められています。

安易な会社が「美容師だから残業代が発生しない」と反論しても、その理由をよく聞けば、これらの要件が満たされておらず違法なケースは少なくないことでしょう。
以下の解説は、あくまでも例外だとお考えください。

残業代が基本給や手当に含まれる場合

美容師の仕事には、残業代がつきものです。
そのため、予想される残業代に充当するため、基本給や残業手当をあらかじめ払う美容室は多いもの。
これを、法律用語で固定残業代、みなし残業代などと呼びます。

このとき、あらかじめ払った一定額を超えないかぎり、残業代はもらえません。
ただし、残業代がまったくなくせるわけではありません。

事前に払われた額を超える残業が発生すれば、差額を追加で請求できます。
また、残業代がいくら支払い済かわかるよう、固定残業代と通常の給料が区別されていなければ違法です。

この要件を満たさない場合は多く、そのような美容師には未払い残業代が多く存在します。
また、最低賃金以下で働かされている美容師も多いです。

固定残業代が有効になるかどうか、次の解説を参考にしてください。

面貸しの個人事業主の場合

美容師のなかには、雇用される労働者でない人がいます。
つまり、美容室のなかで場所を借りて、個人事業主として営業している美容師です。
「面貸し」「ミラーレンタル」といった形態のケースです。

「労働基準法は適用されない」と会社が反論してくるケースも同じ問題点です。

個人事業主の美容師は、委任契約、請負契約、業務委託契約、賃貸契約などを結びます。

労働基準法は、「労働者」を対象としますから、個人事業主なら残業代は発生しません。

ただし、個人事業主と評価されるには、独立した個人として働き方に裁量が必要です。
労働時間や業務に指揮命令があれば、形式はフリーランスでも労働者に違いありません。
「美容師は個人事業主だ」という説明だけで残業を強要されるなら、残業代の請求が可能。
こんな面貸しは、違法といってよいでしょう。

個人事業主でも受けられる保護について、次の解説をご覧ください。

管理職の店長の場合

店長など、店舗の責任者となると、仕事が多くなり、労働時間も長くなりがち。
しかし、悪質な会社では、「店長は管理職だから」といって残業代を払いません。

確かに、店舗の責任者には、残業代が適用除外とされることがあります。

経営層と同視できる「管理監督者」は残業代をもらえない定めがあるからです(労働基準法41条2号)。
ただ、これはあくまで、十分な権限と裁量、そして、保障が与えられることが要件です。

会社が「管理職」扱いしても、法律上「管理監督者」の要件を満たさないなら、いわゆる「名ばかり管理職」であり、残業代を払わないのは違法です。

管理職の残業代について、次に解説しています。

美容師が未払いの残業代を請求する方法

美容師でも、残業代がもらえるケースが多いと理解いただけたでしょう。

最後に、美容師が、これまで未払いとなっていた残業代を請求する方法について解説します。
一人でブラックな経営者に立ち向かうのが難しいときは、弁護士に相談ください。

労働時間の証拠を集める

まず、自分が美容師としてする活動で、「労働時間」になるものを理解しましょう。

接客し、カットやカラーしている時間が労働時間なのは当然。
それ以外にも、次のものが含まれます。

  • 営業時間前後の清掃
  • カット練習
  • 休憩中の接客
  • 電話対応
  • 日程調整、予約作業
  • 新人研修
  • 会社に指示されたSNS投稿
  • ビラ配り、カットモデルのスカウト

そして、これら労働時間にあたる1つ1つにつき、証拠を準備します。

美容室側で、労働時間だと考えられていない時間だと、タイムカードなど良い証拠がないことも。
このときでも、あきらめず、美容師ならではの次の資料を検討してください。

  • 顧客管理表
  • 売上伝票
  • 指名履歴
  • 予約管理票
  • ポータルサイト経由の予約履歴

なお、タイムカードなど、一般的に残業の証拠となる資料は、美容師でも当然に大切です。
証拠が整ったら、残業代を計算してください。
美容師といえど特別なルールはなく、労働基準法にしたがって計算をします。

残業代の計算方法は、美容師だからといって変わりありません。

正しい計算方法について次に解説しています。

内容証明で残業代を請求する

未払いの残業代が計算できたら、内容証明による通知書を送り、会社に請求します。

残業代の請求は、後に法的手続きで争う場合に備え、内容証明で証拠化しておきましょう。

残業代を請求する内容証明は、次の解説を参考に作成ください

労働審判、裁判で残業代を請求する

交渉では解決できないときや、美容室側がまっとうな話し合いをしてくれないケースもあります。
このとき、交渉は決裂といわざるをえず、裁判所を活用した手続きに移行します。

労働審判や裁判など、法的手続きによって、未払い残業代を請求しましょう。
裁判所への申し立てには、弁護士のサポートが有効です。

労働問題の解決方法について、次に解説しています。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

美容師の労働環境は、過酷であることが多いです。
今回解説した長時間労働、サービス残業の問題はもちろん、基本は立ち仕事であり、顧客対応。
身体だけでなく、心の疲弊もとても大きい職種です。

「美容師になるのが夢」「好きでやっている」という考えだけでは続きません。
将来の活躍のために労働時間を確保するなら、その分の残業代もきちんともらっておきましょう。
法律に定められた正しい残業代をもらわないことは、美容室の経営者の得にしかなりません。

無理して体を壊したり、うつ病、適応障害になってしまう前に、弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • 美容師は、違法な残業実態となっていることが多いが、未払いの残業代は請求できる
  • カット練習は、明示または黙示の命令の場合が多く、労働時間に含まれる
  • 美容師の残業代請求では、タイムカードなどとともに美容師ならではの証拠が活用できる

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