やりがい搾取の意味は、労働者のやる気、努力を不当に利用して働かせること。
「やりがい」の全くない仕事が辛いのは当然。
そんな会社に労働者は定着せず、早晩につぶれるでしょう。
ですが逆に、やりがいがありすぎても、悪用して搾取される危険があります。
低賃金で劣悪な環境でも、不当だと気付けないのがやりがい搾取の怖いところ。
やりがいが大きいと激務に耐えてしまい、むしろ率先して長時間労働する人もいます。
とはいえ、やりがい搾取を我慢して働けばいずれ限界が来ます。
「やりがい搾取なのでは?」という小さな不安が増大しないうちに対処が必要です。
進行し、その程度がひどいと法律問題になり、違法となることもあります。
心身の負荷が増え、うつ病など労災事故にならぬうちに、違法なやりがい搾取は拒絶すべき。
今回は、やりがい搾取の特徴、違法な扱いへの対処を、労働問題に強い弁護士が解説します。
正しく理解し、会社の美辞麗句にだまされないよう心がけてください。
やりがい搾取とは
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やりがい搾取とは、会社が労働者のやりがいを悪用し、違法な働かせ方をすること。
具体的には、低賃金で、かつ、長時間労働を強制したり、重度のハラスメントを放置したりします。
普通なら違法だとわかりそうな状況も、やりがいの大きさのあまり、労働者も気づきません。
結果、やりがいに隠された違法状態が継続し、労働者の権利を侵害していきます。
労働者としても、やりがいある仕事を奪われぬよう、従順に従ってしまいます。
やりがい搾取には、次の2つの意味があります。
- 労働力の搾取
労働者が会社に提供できるのは労働力、その対価として給料をもらいます。
この労働力を、安く買い叩くのがやりがい搾取の意味です。 - やる気の搾取
やりがい搾取は、当初はあったやる気を減退させていくものです。
どれだけ努力しても、その成果を評価されず、金銭的に報われないからです。
「働きすぎ」や「ワーカホリック」は重要な社会問題です。
会社は、利益のためにできるだけ安い給料で働かせようとします。
労働者にとっては「搾取」なわけですが、「やりがい」によって巧妙に隠す、狡猾なやり口です。
やりがい搾取は、東京大学大学院教育学研究科教授の本田由紀氏により名付けられました。
同氏が、著書で使い始めた2007年頃から広まり、現在は一般に認知されました。
同様の現象は、日本特有のものではなく、海外でも問題視されています。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説しています。
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やりがい搾取の何が悪いのか?
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やりがい搾取のすべてが違法というわけではありません。
しかし、やりがい搾取の多くは、少なくとも不適切であり、不当です。
やりがいを悪用するかどうかにかかわらず、低賃金、長時間労働は推奨されるものではありません。
次章で解説するとおり、違法なやりがい搾取による法令違反は頻発しています。
やりがい搾取の悪質さは、このようなグレーゾーンな労働を黙認してしまう点にあります。
労働者自身もまた、やりがいを理由に納得してしまうのです。
あからさまに違法な低賃金、長時間労働は、遅かれ早かれ、その不当性に気づくもの。
嫌なら拒否したり、退職して転職したりなど、様々な選択肢があるはずです。
しかし、やりがいをもった労働者は「仕方がない」「これが普通だ」と正当化し、我慢を続ける。
その結果、自分の首を絞めてしまいます。
例えば、健康被害に気づいてもなお、やりがいに背中を押されて無理して働き、悪化させてしまいます。
「夢」「ベンチャー精神」「当事者意識」といった高尚な言葉でまぎらわしても、実際その裏は「企業としての経済的な目的を達成するため、安くこき使いたい」というブラックな考え方しかないのです。
長時間労働の相談窓口は、次の解説をご覧ください。
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違法なやりがい搾取の具体例
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次に、違法なやりがい搾取の具体例を解説します。
やりがい搾取が違法かどうかは、労働基準法などの法令への違反の有無で判断します。
やりがいの大きさに誤魔化されず、慎重に判断すれば、違法なやりがい搾取を見抜けます。
やりがい搾取がひどいと、過労死にもつながりかねない危険な状態です。
違法状態に置かれていないか不安なら、労働法を熟知した弁護士に相談ください。
仕事量に対して給料が低すぎる
相場に比べて給料が低すぎるなら、やりがい搾取の可能性あり。
業界の相場や、他社の平均と比べて検討してみてください。
仕事量や役職が変わらないのに明らかに低い給料だと、離職が多くなるものです。
それでも社員が辞めず続ける裏には、やりがいが退職の足かせになっているのではないでしょうか。
基本給の低さからやりがい搾取に気付けないと、生涯年収で大きな不利益を被ります。
基本給が低いのは違法かどうか、次の解説をご覧ください。
精神論を押し付けられる
やりがい搾取をする会社では、労働者の不満を精神論で抑え込みます。
精神論や価値観は、抽象的で曖昧なため、反論が難しいもの。
精神論ばかりで具体的な方策が見えないとき、やりがい搾取を疑ってください。
労働時間とは扱われない時間がある
どれだけ長時間働いても残業と扱われないなら、やりがい搾取の可能性が高いです。
人件費を抑え、長く働いてもらうために、やりがいを崇高な目的に掲げます。
本来会社は、「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を超えて働かせたら、割増賃金(残業代)を払う必要があります(労働基準法32条)。
また、やりがい搾取をする会社では、労働時間以外に、研修や教育、ボランティアや合宿など、拘束はされているけれども「労働時間」とは扱われない時間があることも特徴の1つです。
いくらやりがいがあっても、私生活とのバランスが取れないのは苦しいでしょう。
労働時間の定義を知り、残業代の未払いを見逃さないでください。
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やりがい搾取が起こる原因
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悪質な会社が、やりがい搾取を止めないのには、理由があります。
確たる動機をもって、意図的に、労働者のやりがいを搾取しているのです。
やりがい搾取の原因を知っておけば、対処もしやすくなります。
人件費を節約できるから
仕事のやりがいを強調し、安月給で働かせれば、人件費を節約できます。
本来なら払うべき給料を「やりがいある仕事だから」といって減額するのです。
会社は利益の追求を目的とする集団です。
「賃金を最低限に抑え、たくさん働かせて利益を得たい」と思うのは当然です。
労働者の反発を抑えられるから
仕事にやりがいを感じる労働者なら、搾取されても反発してきません。
不満を最小限にしつつ多くの利益を得られます。
仕事にやりがいを見出させ、労働者が反発できないようにします。
教育や研修で教え込み、仕事に意味づけし、社員を「飼いならす」のです。
やりがい重視の社員は低賃金でも文句を言わず、離職もしないため採用コストも節約できます。
労働者がやりがい搾取を受入れているから
以上のような会社側の動機だけでなく、労働者側にも原因があります。
やりがい搾取のなくならない会社では、労働者もまたその状況を許容してしまっています。
会社の価値観に染まり、洗脳され、働きすぎを正当化してしまうのです。
次章で解説するように、やりがい搾取されやすい価値観をもつ人ほど、犠牲になってしまいます。
労働問題を弁護士に無料相談する方法は、次に解説します。
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やりがい搾取が起こりやすい職場の特徴
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次に、やりがい搾取が起こりやすい職場の特徴について、解説します。
価値観を押し付ける会社
会社組織をまとめるにはルールが必要で、社風や文化、価値観は悪ではありません。
組織の一員となる以上、ある程度統一された価値観に順応すべきです。
しかし、それも労働者の不利益にならない限度においてのこと。
やりがい搾取をする会社は、企業に都合のよい一方的な価値観を押し付けます。
- 「ベンチャー精神をもって働くべき」
- 「当事者意識を持ち、責任感強く行動すべき」
- 「夢は必ず叶う」
- 「最高の職場、仲間との出会いに心から感謝」
- 「学びながら成長し、仕事をする」
- 「仕事に誇りを持つ」
一見すると、宗教や自己啓発セミナーに見えるかもしれません。
いわゆる「意識高い系」と言ってもよいでしょう。
社長や上司からこのような発言があったら要注意。
社員に夢や希望を抱かせようとするのは良いですが、これら価値観はいずれも、労働者が違法な環境を受け入れやすいようにできています。
長く働いても給料が上がらない会社
いつまで経っても給料が上がらない職場も、やりがい搾取が起こりやすいです。
定期昇給は、法律で保証されているわけではなく、会社の義務でもありません。
しかし、モチベーション維持には、適切な能力評価と、それに応じた昇給が不可欠でしょう。
昇給や昇進が全くないのは、会社がやりがいを悪用している疑いがあります。
「やりがいある仕事だから、少ない給料で十分」と考えているなら、やりがい搾取の典型例。
給料が上がらないどころか、無給のインターンで学生を酷使する会社もあります。
「貴重な社会経験が積める」というイメージを押し付けてただ働きさせるのは違法です。
やりがい搾取されやすい職業
やりがい搾取はどんな会社でも起こりますが、性質上、やりがい搾取されやすい職業が存在します。
やりがいの強い良い性質の仕事ほど、その反面、搾取されやすい業種ともいえます。
例えば、やりがい搾取されやすい職業には次のものがあります。
- 奉仕性のある職業
人助けで奉仕するため、やりがいを感じやすく、搾取されがち。
スキルを前提とした現場の裁量が強く、拘束時間が長くなる傾向あり。
(例:看護師、介護士、保育士などの医療・福祉業界) - 使命感を抱きやすい職業
高尚な目的のために自分を犠牲にする傾向にあり、やりがい搾取がよく起こる。
他人や社会のために頑張る人ほど搾取される。
(例:学校教師、塾講師などの教育業界、公務員) - 趣味性があり、仕事と遊びの区別が曖昧な職業
特技や趣味を活かせる職業ほど、公私の境が曖昧になり働きすぎてしまう。
クオリティにこだわるほど、労働者の自己犠牲を伴う。
(例:アーティスト、デザイナー、クリエイター、エンジニア、メディアやマスコミの仕事など) - 夢そのものが仕事になる職業
夢のために、という目的を強くもつほど、やりがい搾取の犠牲になる。
(例:テーマパーク業界、モデル、アイドル、芸能業界など) - 責任感、達成感を抱かせやすい職業
責任が重い分だけ裁量が広く、工夫次第で成果を伸ばせることにやりがいを感じる。
重要な立場を任される責任感ある人ほど、自ら長時間労働を進んでしてしまう。
(例:店長、所長、営業職などの管理職、フリーランス)
なお、これらの職業に当てはまるからとて、必ずやりがい搾取があるとは限りません。
多くはホワイトで、適法な労務管理をしており、やりがい搾取をするのは一部の悪質な企業のみです。
やりがい搾取をされやすい人の特徴
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次に、やりがい搾取されやすい人の特徴を解説します。
やりがい搾取をする会社は、搾取しやすい人の性質を見抜き、徹底的に悪用します。
自分が当てはまる場合、特に注意してください。
自己犠牲を惜しまない人
「社会のために働きたい」など、奉仕の心が強い人ほど、やりがい搾取されがち。
自己犠牲の精神は素晴らしいですが、行き過ぎると自分に無理が来ます。
低賃金や長時間労働は、自分の「お金」や「健康」を犠牲にした働き方です。
労働法の知識が乏しい人
労働法の知識がないと、やりがい搾取は避けられません。
特に、賃金や労働時間について法律に疎いと、やりがいを押し付ける会社に判断力を奪われます。
社会経験に乏しい人ほど、やりがい搾取のターゲットにされます。
経験がないばかりに、会社の評価に踊らされ、低賃金の労働を受け入れてしまいます。
新卒の社会人が、ベンチャーに騙され、やりがい搾取をされるのが典型例です。
様々な労働問題と、その解決方法を参考に、知識を付けてください。
やりがい搾取されやすい価値観を持つ人
やりがい搾取されやすい人には、その特殊な価値観に染まりやすい傾向にあります。
元々の価値観なこともあれば、会社にそのように思わされていることも。
具体的には、次のような価値観が、やりがい搾取の根底にあります。
- 「好きなことを仕事にするのは良いこと」
- 「未熟なうちは修行だから嫌なことも我慢すべき」
- 「責任の重い仕事をするには自分を犠牲にすべき」
- 「裁量制や創意工夫のともなう仕事は激務で当然」
- 「社会貢献のために働いている」
- 「自分の夢を実現するために働いている」
- 「会社に学ばせてもらっている」
これらの価値観も、行き過ぎなければ有用ですが、時として金銭を度外視してしまいます。
長時間労働の実態に気づいても、仕事を失うのが怖く、従ってしまいます。
労働者として働くうえで最も重要なのは「給料」と「健康」。
これらを犠牲にしてまで実現すべき価値観など存在しません。
やりがい搾取への対処法
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最後に、違法なやりがい搾取に遭ったとき、その対処法を解説します。
違和感に早く気付くべき
多くの場合、搾取の事実に気づくのは、取り返しのつかない被害が生じてから。
しかし、会社が意図的にやりがいを押し付ける「違和感」に、早く気付いてください。
長く放置すると、無意識のうちに自分の価値観に変わってしまうおそれもあります。
できるだけ早く、適切な対応を心掛ければ、やりがい搾取の影響を最小限に抑えられます。
仕事を押し付けられた時の断り方は、次に解説します。
健康を害さないうちに休む
働きすぎの一番の解決策は「休むこと」。
心身に鞭打って働き続ければ、結果的に仕事ができなくなります。
適度な休みをとるには「休憩」「休日」「休暇」の法律知識が必要です。
- 休憩
6時間以上8時間未満の労働の場合には45分、8時間以上の労働の場合には1時間以上の休憩を与える必要がある。
(参考:休憩が短い場合の対処法) - 休日
「1週1日または4週4日」の法定休日を与える義務がある。
法定休日に労働させた場合、休日手当として通常の賃金の1.35倍の割増賃金を払う。 - 休暇
有給休暇は労働者に認められた権利。
労働日の8割以上、半年以上勤務すれば、最低でも年間10日取得でき、勤続年数に応じて付与日数が増加する。
また、どうしても体調が悪いときは、休職を申し出るのもよいでしょう。
うつ病でも休職できないときの対応は、次に解説します。
違法な業務命令は拒否する
やりがいを意図的に植え付け、長時間の労働をさせる会社ほど、残業代は払いません。
適法かつ正当な業務命令なら従う必要がありますが、違法なら拒否してよいでしょう。
特に、やりがい搾取の会社では、サービス残業が当然のように存在します。
残業代の正しい計算方法を知り、損しないよう対応してください。
違法な残業の断り方は、次の解説をご覧ください。
転職する
やりがい搾取のある会社に、無理して留まるより、退職したほうがよいケースもあります。
転職は一般化しており、早期に辞めたからといって転職が難しい時代ではありません。
正当な評価が受けられるなら耐えるべきですが、やりがい搾取なら我慢は不要。
同じ仕事内容で、配慮ある会社は他にもあるはずです。
そのような会社なら、やりがいを維持しつつ、私生活も充実させることができます。
ただし、やりがい搾取をしてくる会社だと、簡単に辞められるとも限りません。
退職、転職時の嫌がらせにも注意を要します。
会社を辞めたいのに辞められない時の対応は、次に解説しています。
外部の相談窓口に相談する
やりがい搾取は、労働者一人では手に負えない問題です。
というのも、価値観が既に染まってしまうと、適切な判断ができないから。
早急に、外部の窓口に相談してください。
やりがい搾取する悪質な会社で、組織ぐるみで行われると、社内での解決も難しいでしょう。
閉鎖的になりがちで、第三者の客観的な意見が大いに役立ちます。
労働基準監督署、労働組合、弁護士など、色々な外部の相談窓口があります。
弁護士であれば、やりがい搾取かどうか判断しかねるときでも相談可能です。
やりがい重視の職場では、周囲の社員からの目もあり、実行に移せない人も多くいます。
しかし弁護士には守秘義務があり、相談した事実はバレません。
パワハラの相談窓口について、次の解説をご覧ください。
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2018/05/stop-300x169.jpg)
まとめ
![弁護士法人浅野総合法律事務所](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2022/03/asanosougou-zentai.jpg)
今回は、やりがい搾取について、特徴や具体例を挙げて解説しました。
やりがい搾取は、労働者の熱意や真摯な気持ちを手玉にとった、悪質な労働問題。
違法な労働を強いるブラック企業には、毅然とした対応が必要です。
どれだけやりがいを感じる仕事も、無理をすれば必ず限界が来ます。
少なくとも、やりがいがあるからといって、違法な労働問題を見逃して良い理由にはなりません。
長時間で低賃金の労働を、「やりがいがある」ことを理由に正当化するのは止めましょう。
会社の言うことを鵜呑みにせず、法律の知識に基づいた正確な判断をすべきです。