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残業命令にしたがう必要はある?違法な残業の断り方もあわせて解説

今回は、会社から残業を命じられる、いわゆる残業命令とはどんなものか、残業が違法な場合や、断る方法について、労働問題に強い弁護士が解説します。

会社員として働くなら、残業は避けては通れません。
しかし、残業命令されても、時と場合によっては残業を断りたい日もあるもの。
仕事がどれほど好きな人でも、ご家庭の事情など「どうしても今日は残業できない」というタイミングもあります。

相談者

残業命令が多すぎ、プライベートがなくてつらすぎる

相談者

子どもが生まれたので、ワークライフバランスが重要

ブラックな会社ほど、残業命令を拒否すれば「やる気がない」と低評価し、昇進・昇格に悪影響のおそれも。
残業命令にしたがって長時間労働している方も多いでしょう。
しかし、仕事での活躍は大切ですが、家事や育児など、プライベートを犠牲にしてまで仕事にはげみ、家庭が崩壊してしまっては元も子もありません。

そもそも、会社から下された残業命令に、必ず従わなければならないわけではありません。
労働者が従うべきでない違法な残業命令や、断ることができる残業命令もあると理解してください。

この解説のポイント
  • 残業命令は違法なのが原則だが、36協定があれば一定の限度でしたがうべき
  • 残業命令が違法だったり、不当な命令だったりすれば、残業を拒否できる
  • 残業命令を断り、残業を拒否してクビになったら、不当解雇を争える

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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残業命令とは

残業命令とは、会社が、その雇用する労働者に対して残業を命じることです。
残業というのは、労働契約によって労働時間と決められた時間(所定労働時間)を超えて働かなければならない時間のことをいい、残業をしたときには、残業代(割増賃金)を払ってもらえます。

残業命令は、雇用契約を結ぶことで会社がもつ、業務命令権の一種です。
そのため、適法な残業命令であれば労働者は拒否できず、したがわなければなりません。
ただ、あまり深く考えず、残業命令にしたがっている方も多いでしょうが、実際には、違法な残業命令であり、断れるというケースも少なくありません。

残業命令の根拠は、就業規則か雇用契約書にかかれているのが通常です。
これらの書類に「残業を命じられる」と記載されている会社では、会社側に、残業を命じる権利が与えられているということなのです。
逆に、残業についてなにも書かれていなければ、残業命令する権利はありません。

残業命令が違法となり、残業を拒否できるケース

まず、会社がする残業命令には、違法なものが多いことを理解しましょう。
残業命令の違法性について、弁護士が解説します。

違法な残業命令なら、雇用契約をかわしていても、断固として拒否してよいのは当然。
労働基準法など、労働法に違反するような残業命令は、無視しておいてよいでしょう。

そのため、残業命令をどうしても断りたいときは、その残業命令が違法か判断しなければなりません。
逆にいえば、会社が、適法に残業命令できる条件を知っておく必要があります。

36協定がなければ残業命令は違法

サラリーマンだと、残業は当たり前と思いがちです。
しかし、法律の観点からいえば、「残業は違法」が原則。

労働基準法では「休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」(労働基準法32条1項)、「休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない」(同法32条2項)と定められています。
この「1日8時間、1週40時間」を、「法定労働時間」といい、原則として、これを超える残業は、違法です。

そして、この原則の例外として、労働基準法に定められた労使協定(いわゆる36協定)を結び、労働基準監督署に届け出ることによってはじめて、この時間を超えた残業を命令する権利が与えられるのです。

法定労働時間とは
法定労働時間とは

このルールを守らず、36協定なしに残業命令するのは違法です。
労働者保護のため、36協定を結ばずに残業命令すれば、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰が科されます。

36協定の限度を超えた残業命令は違法

36協定がなければ、残業命令は違法と解説しました。
36協定は、原則違法である残業命令を、合法化するという重要な協定。
そのため、36協定のなかに、残業時間の上限を定めておく必要があります。
当然ながら、36協定に書かれた上限を超えるような残業命令は違法であり、断ってもよいです。

一方で、36協定にどれほど長時間の残業を書いても許されるとすれば、36協定の意味が薄れてしまいますから、36協定に書ける残業の上限時間には、労働基準法36条には、次のような限度基準が設けられています。

  • 基本は、月45時間、年360時間が限度
  • 特別条項をつけた36協定では、年6ヶ月まで、特別の事情があるときには年720時間、(時間外労働と休日労働をあわせて)月100時間未満、2〜6ヶ月平均80時間以内で延長できる
36協定の限度基準
36協定の限度基準

これを超える36協定は違法ですから、それを前提とした残業命令も違法。
つまり、断れる残業命令だというわけです。

嫌がらせ目的の残業命令は違法

残業命令をする会社側に、嫌がらせの目的があるとき、ハラスメントにあたります。
会社が残業を命じられるのは、あくまでも業務上必要だからです。
社長や上司の個人的な感情で、嫌がらせでされた残業命令は違法であり、したがう必要はありません。

むしろ、嫌がらせ目的でされた不公平な残業命令には、慰謝料請求で対抗できます。
嫌がらせかどうか、判断が微妙なとき、次の事情を考慮して判断してください。

  • 同部署、同じ業務を担当する社員に、残業命令が下されているか
  • 命じられた残業の時間数、程度
  • 残業をして遂行する業務の有無、内容

残業命令の断り方を知れば、残業を拒否できる

次に、残業命令の断り方について、解説します。

残業命令は、会社から労働者に対する業務命令なので従う義務があります。
しかし、残業命令に応じなければならないのは、あくまで残業命令が適法で、正当なケース。

違法な残業命令、不当な残業命令にしたがう必要はありません。
とはいえ「残業を断ってもいい」といわれても、どう断ったらよいのかわからなかったり、残業を断れない人もいて、無理やり仕事を押しつけられていること多いもの。

残業命令の根拠を確認する

まず、残業命令を受けたら、その根拠を確認してください。
残業命令の根拠は、はたらいている会社の雇用契約書、もしくは就業規則をチェックします。
残業命令の根拠が書いていなければ、それを理由に残業を拒否できます。

会社によって、残業をしなければならない場面、しなくてもよい場面や、申請のルールなどが定められていることもあり、この場合、そのルールにしたがわない残業命令は拒否できます。
事前に会社のルールを知れば、無理な残業命令を受けたり、サービス残業を強制されそうになっても、会社側の決まりにしたがって反論できます。

残業命令の業務上の必要性を確認する

次に、残業命令をした社長や上司に、その残業の業務上の必要性を確認してください。
必要性のない残業は、断ることができます。
むしろ、必要性がないのに残業命令するのは、あなたへの嫌がらせが目的のことも。
嫌がらせ目的の残業命令は、違法なパワハラにあたりますから、慰謝料を請求できます。

業務上の必要性があるといわれてもなお、残業を断りたいなら、まだあきらめるのは早いでしょう。

業務上の必要性についての説明をよく聞き、残業する以外の方法でその必要性を果たせないか検討し、代替案を提案してみてください。

残業命令を断る理由を説明する

違法、不当な残業命令のおそれがあれど、理由なく断れば、職場の人間関係に支障があります。
できるだけスムーズに話し合いをすることで、「残業命令を断ったら解雇された」といった最悪の事態を回避できます。

残業を断るのは勇気がいりますが、粘り強く説得し、理解を求めましょう。
このとき、残業命令を断る理由を、具体的に話すようにしてください。
育児や家族の病気など、やむをえない理由であれば、会社も理解し、その日の残業を免除してくれる可能性があります。

残業命令を断り続ける

一旦、残業命令を断ろうと決意を固めたときは、拒否し続ける姿勢が大切です。
心の弱い人のなかには、断り続けることができず、しつこく命令されて嫌々したがってしまう人もいます。

ブラック企業ほど、毎日毎晩、仕事を押しつけ、残業を命じようとしてきます。
ひとたび決心したら、徹底して断り続けなければなりません。

弁護士に、残業が違法だという警告を発してもらう

一人では残業を断りきれない人は、限界に達する前に、弁護士にご相談ください。
弁護士は、残業を断るために、残業が違法だという警告を発することができます。

このとき、あなたに下された残業命令を検討し、違法性があるとき、弁護士名義の内容証明によって警告書を送ることでその違法性を強く指摘し、これ以上の残業命令をストップさせるようはたらきかけます。

残業できない理由が正当なら、残業命令を断ることができる

残業をしたくてもできない事情のある方もいるでしょう。
いつも残業できないわけでなくても「今日はどうしても理由がある」というときもあります。
残業できない労働者側の理由が正当であれば、残業命令を断れるケースもあります。

正当な理由があるなら、残業命令に従う義務が、例外的になくなるというわけです。
残業したくない理由の正当性は、次のように考えられます。

【正当な理由あり(断れる)】

  • 体調がとても悪く、残業すると健康状態がさらに悪化しそう
  • 子どもが生まれたばかりで育児の支障が大きい
  • 家族が病気で、介護の必要がある
  • 残業代を払わないがサービス残業しろといわれた
  • 前月の残業代が払われていない
  • ある労働者だけに嫌がらせで差別的にされた残業命令

【正当な理由なし(断れない)】

  • 私生活への支障は軽い
  • なんとなく今日は残業したくない気分だ
  • 彼女とのデートがあるから残業したくない

日本では特に「会社の命令は絶対だ」と思われがちです。
繁忙期の人手不足を、残業によっておぎなう典型的な日本企業では、残業命令は、業務命令のなかでもとても重要だといってよいでしょう。
しかし、労働者側に正当な理由があるなら、残業命令を断ることができます。

体調不良を理由に、残業命令を断れるケース

会社は、雇用する労働者に、健康で安全な環境で働いてもらう義務があります。
これを「安全配慮義務」、「職場環境配慮義務」と呼びます。

そのため、会社は安全配慮義務違反とならないよう、労働者の健康状態を把握する必要があります。
残業できないほど体調不良の労働者に、残業命令を強要すれば、義務違反はあきらかです。
したがって、残業命令に応じると健康を害しそうなとき、残業命令を断る理由となります。

家庭の事情を理由に、残業命令を断れるケース

家庭の事情といえど、残業命令を断る正当な理由となるケースがあります。
育児、介護などの事情が典型です。

育児介護休業法には、3歳に満たない子を養育している期間は、事業の正常な運営を妨げる場合を除いて、所定労働時間を超えて働くよう指示する残業命令は拒否できると定められています。
さらに、育児期間中や、要介護状態の家族を介護している労働者は、短時間勤務、深夜業の制限などの配慮を受けられると定められています。

育児・介護を理由とする場合、この育児介護休業法による支援を参考に、残業命令を断る理由を考えるのがよいでしょう。

育児・介護を理由とした不利益な処遇は、マタハラの可能性も。
違法なマタハラへの対応は、次の解説をご覧ください。

残業を拒否したらクビになったときの対応

次に、残業命令を拒否したら解雇されてしまったときの対応を解説します。

残業命令を拒否すると、会社から不利益な扱いを受けてしまうことがあります。
「残業ができないやつは仕事ができない」などと嫌がらせを受けたり、残業代を払ってもらえなかったり、低い評価を受けてしまったりなど。
その最たる例が、残業命令の拒否を理由として、解雇されるケースです。

残業命令が正当なら、したがう

残業命令が正当であれば、業務命令違反として、クビになるおそれがあります。
しかし、残業命令が違法、不当だったとき、むしろ断るのは当然のこと。
不当解雇は、違法、無効ですから、クビをおそれてしかたなく違法な残業命令にしたがう必要はありません。

このとき、一度の残業命令を断っただけでは、いくら業務命令違反といっても、一発でクビはないでしょう。
ただ、何度も残業命令を無視したり、拒否したりすれば、解雇になってしまいます。

残業命令を拒んだ後に注意指導を受けたときは、その内容をよく聞き、適法かどうか見極めてください。
注意指導の内容が正しく、従うべき残業命令だったときは、態度を改善し、クビを回避してください。

不当解雇の撤回を求める

残業命令を拒否できるケースなのに、もし解雇されてしまったら、不当解雇。
不当解雇であることがあきらかなら、直ちに撤回を求めて争いましょう。

日本では「解雇権濫用法理」というルールにより解雇が制限されています。
「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」、解雇は無効です(労働契約法16条)。

解雇権濫用法理とは
解雇権濫用法理とは

解雇には理由が必要なため、そもそも36協定や就業規則がなく残業命令が違法なケースでは、その命令を断ったからといって解雇の理由とすることができません。
少なくとも、「残業しない人は一律にクビ」というのは違法といえるでしょう。

そして、解雇には相当性も必要なため、解雇して当然といえるほどの悪質性がなければなりません。
会社側に残業の必要性があり、かつ、労働者側にあり正当な理由もないのに、何度も残業を拒否し続け、注意指導されても改善がみられない、といった悪質なケースでは、解雇が有効となるでしょう。
しかし、この程度に至らないなら、解雇は無効の可能性があります。

不当解雇を撤回させる方法は、次の解説をご覧ください。

ブラック企業に不当解雇されてしまったとき、労働審判や裁判を活用して争えます。
労働問題を戦いたい方は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。

残業命令を断りたいときの注意点

最後に、残業命令されて断りたいとき、労働者側で注意しておいてほしい点を解説します。

あまりに違法性の強いブラック企業で、サービス残業している方は、残業命令の拒否を検討しましょう。
違法な長時間労働で、過労死、過労自殺など最悪のケースに至る前にご決断ください。

残業代が払われているか確認する

今回は、違法な残業命令や、残業命令を拒否するシーンの解説でした。
一方で、残業命令に応じて残業した場合には、残業代をもらうことができます。

そのため、残業した後には、必ず、労働基準法にしたがった正しい残業代が払われているか、チェックしてください。
残業命令を断れず、やむをえず応じたとき、働いた分だけ多めに給料がもらえます。
法律どおりの残業代が払われていないときや、計算にミスがあるとき、会社に指摘し、未払い残業代の請求をしておきましょう。

残業代請求を検討する労働者は、ぜひ次の解説を参考にしてください。

他の社員への配慮は欠かせない

残業命令が違法だったり、断れるケースだったりするときも、他の社員への配慮は欠かせません。
残業を拒否した結果、業務に支障が出たり、他の社員にしわ寄せがいってしまったりするのは本意でないでしょう。

残業命令を断ったとしても、業務時間中はしっかり働く必要があります。
残業になるより前に自分の仕事を終えれば、堂々と残業せずに帰宅できます。

「残業命令を断るなど、空気が読めない」といわれる原因は、日頃のコミュニケーション不足です。
介護、育児など、あなたに残業命令を断らざるをえない理由があるときは、周囲にも伝えておけば、いざというときには周りの協力を得られるでしょう。

なお、あなただけでなく全社員が違法な残業命令の犠牲になっているブラック企業や、社長や上司が違法な残業を押しつけてくるとき、配慮だけでは解決できません。
こんなケースでは、きっぱりと残業命令を断り、会社とも縁を切ることも検討してください。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、残業命令を断ってよいかどうか迷う労働者に向けて、残業命令が違法となるケース、拒否してよいケースを解説しました。

残業命令が違法であれば、断ったことを理由に解雇されれば不当解雇。
とはいえ、円満に働き続けたいなら、残業命令の良い断り方についても理解してください。

解雇をおそれて違法な残業命令にしたがい、長時間労働などの無理をしていたとき、うつ病、適応障害などのメンタルヘルスにかかり、最悪は過労死、過労自殺に追い込まれるのはとても不運です。
残業命令を断れず、つらい思いをしている方は、ぜひ一度ご相談ください。

この解説のポイント
  • 残業命令は違法なのが原則だが、36協定があれば一定の限度でしたがうべき
  • 残業命令が違法だったり、不当な命令だったりすれば、残業を拒否できる
  • 残業命令を断り、残業を拒否してクビになったら、不当解雇を争える

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