残業代の請求書の書き方と、残業代を請求する内容証明のテンプレート

どれだけ長く働いても残業代が払われないなら、違法なブラック企業でしょう。我慢せずに、すぐに未払いの残業代を請求しましょう。

未払いの残業代を請求するとき「通知書」「請求書」などの書面を送るのが適切。内容証明にて郵送すれば、残業代を請求したことが証拠に残るからです。ただし、書面の書き方には注意を要します。内容証明は、確実に証拠化できるので、労働者にとって有利な内容で書かなければなりません。

今回は、未払いの残業代を請求する書面の書き方を、テンプレートも示して解説します。残業代の請求書は、弁護士名義で送るのがプレッシャーが強いでしょう。未払いの請求を検討している方は、労働問題に強い弁護士に相談ください。

未払い残業代の請求書の書き方

未払い残業代の請求は、口頭では証拠に残りません。口頭での請求にこだわると、会社から軽く見られ、いつになっても払ってもらえません。

そこで、未払い残業代の請求書を作り、内容証明で送るという方法が有効なわけです。請求書の書き方について、はじめに解説します。

請求相手を特定する

まず、残業代の請求書には、「誰に請求するか」、つまり、請求相手を特定します。請求相手が書面から明らかでなければ、有効な請求になりません。

残業代の請求相手は、勤務している会社、つまり「法人」です。会社に雇用されているなら、社長個人や上司は請求先でないのでご注意ください。

法人名や所在地などは、法務局で登記簿謄本を取得すれば誰でも調べられます。

請求元の労働者を特定する

次に、自分が誰なのかを書きます。誰の残業代請求なのか、請求書上からわからないと、会社としても対応しようがありません。請求元の労働者を特定するには、請求書に次の情報を記載します。

未払い残業代の期間、金額を記載する

次に、請求したい未払い残業代の内容を、具体的に書きます。労働者の手元の証拠が十分でないと、この時点では正確な記載ができないこともありますが、最低でも次の情報は書きましょう。

請求が特定されないと、時効を中断する効果が不十分になり、損してしまいます。証拠が不十分なために特定が困難なら、あわせて会社が保存する証拠の開示を求めます。タイムカードの開示請求は、請求書に必ず書いておきたい内容です。

請求の意思を示す

最後に、残業代を「請求する」という意思を明確に示します。残業代をもらうのは「権利」です。
したがって、希望や依頼、願望でなく、「請求する」とはっきり書くのがポイントです。

会社にプレッシャーを与えるため、支払い期限を明記しておいてください。支払い方法（振込先など）も、あわせて記載します。あまりに期間が切迫していると非常識ととられることもあります。書面の到達日から、1，2週間程度を目安として期限を区切るのがおすすめです。

未払い残業代の請求書のテンプレート

以上の解説で、最低限、書くべきことは理解いただけたでしょう。

次に、具体的な書式・文例を示し、どのような請求書を送るべきかについて解説します。送るべき未払い残業代の請求書はケースによって異なるため、場面ごとに紹介していきます。

タイムカードなど証拠が十分ある場合

タイムカードなど、残業の証拠が十分なら、証拠に基づいて妥当な残業代がいくらかを計算することができます。法律に基づいた正しい残業代の計算方法にしたがって正確に未払い額を算出し、請求書にも具体的な金額を記載しましょう。

証拠が十分なら、労働条件も記載し、会社でも未払い額の検算ができるようにしましょう。

簡易かつ速やかに交渉できるよう、メールアドレスや電話番号を記載しておくと便利です（社用のアドレスや貸与された携帯電話の番号は使用しないように注意してください）。

残業の証拠が手元にない場合

残業を証明する証拠が、労働者の手元にないケースのほうが多いものです。タイムカードなどの重要な資料は、退職してしまえば手に入りません。

この場合には、会社に保存された証拠の開示を、請求書のなかで求めます。あわせて、少なくとも残業代を請求する意思を明示するため、請求額について概算を書くか、もしくは、請求する期間で特定する方法が適切です。

なお、証拠が開示されなければ、労働審判、訴訟など、法的手続きを利用せざるをえません。このとき、労働者保護の観点から、裁判所から、証拠の開示を強く指導してもらえるでしょう。とはいえ、退職前に、証拠を集めておくに越したことはありません。

未払い残業代の請求書を内容証明で送るメリット

内容証明とは、送付日・到着日、その書面の内容を、郵便局が証拠化してくれる郵便形式です。厳密には、内容証明郵便は、文書内容を証明する「内容証明」と、相手方に届けたことを証明する「配達証明」の機能を合わせ持ちます。

日常生活では、あまり用いることはありませんが、未払い残業代の請求書を内容証明で送るのには、理由があります。内容証明には次のように多くのメリットがあるからです。

時効の進行を止められる

残業代請求の時効は3年です。そのため、支払日から3年間が経過した残業代の請求権は消滅し、それ以降は請求ができなくなってしまいます。

この時効の進行を止めるためによく活用されるのが「催告」。法律用語で「催告」とは裁判外での請求のことで、催告すれば6ヶ月は時効の完成が猶予されます（民法150条）重要なのは、催告した証拠を残さなければならない点であり、内容証明を使えば、いつ、誰が、どのような書面で送ったかについて郵便局が証明してくれます。内容証明を出せば、6ヶ月は、交渉する時間の猶予が生まれます。この6ヶ月の間に、会社の態度を見て、労働審判、訴訟にするかを決めることができます。

会社にプレッシャーをかけられる

内容証明は、郵便形式の1つに過ぎません。弁護士はよく利用しますが、専門家でなくても、書式を守れば活用できます。

とはいえ、内容証明は、あまり目にしない形式で届くので、プレッシャーが大きいです。よほど裁判慣れした会社でもなければ、内容証明に驚き、慎重に対応するでしょう。結果、請求書を送るだけで、未払い残業代が払われることもあります。

労働審判、訴訟で証拠になる

内容証明は、いざ労働審判や裁判などに発展したとき、証拠として活用できます。

会社が、請求書を受け取ったことを否定しても無駄です。内容証明なら、受領したことは、証拠に残ってしまうからです。裁判所では、証拠がない事実は認められないおそれがあります。口頭でしか未払い残業代を請求していないと、請求していた事実が認められず、時効を主張される危険もあります。

未払い残業代の請求書を送るときのポイント

最後に、未払い残業代の請求書を送るとき、労働者が注意すべきポイントを解説します。せっかく残業代の請求書を送るなら、できるだけ効果を発揮しやすくしたいでしょうから、自身で対応する場合にもコツを理解するようにしてください。

弁護士を窓口にする

労働者が自分で残業代を請求し、話し合いがスムーズに進めば、弁護士は不要です。しかし、未払い残業代が生じているような会社は、ブラック企業でしょう。すんなりと請求に応じ、払ってもらえるとは限りません。

この際、弁護士の送る未払い残業代の請求書には、直接の連絡をとらないよう要求するのが通例です。これによって直接の交渉を控えさせ、有利に進めることができます。

残業代の計算書を別紙で添付する

残業代の計算は、証拠に基づいて正しく算出しなければなりません。このとき、社内のルールに従うのではなく、法律を守って計算してください。社内では「30分未満の残業はつけない」など、不当なルールがまかり通っていることもあるからです。

残業代の計算は、専用のエクセルやアプリなどのツールを使うのが通常です。そのため、未払い残業代の請求書を出すときも、計算書を別紙で添付します。内容証明は表や図が送れないので、一般書留などで別送します（請求書のなかに「別紙がある」ことを記載し、証拠化しましょう）。

回答期限を書き、強く請求する

今回は、交渉を開始するために送付する、請求書の文例についての解説でした。請求書を送ると、交渉が開始し、次は会社の反論のターンとなります。

しかし、不誠実に対応する会社なら、いつまでも交渉を続けるべきではありません。残業代請求の時効は3年であり、時間的余裕のないこともあります。

最初の書面への回答には1，2週間程度の期限をつけ、期限を過ぎたら厳しく請求しましょう。ケースにもよりますが、1，2ヶ月程度の交渉で解決しないなら、法的手続きへの移行を検討した方がよいといえます。

まとめ

今回は、残業代が払われないブラック企業で働く労働者に向けた解説でした。そのなかでも、残業代請求を決意した方に向け、すぐに使える請求書のテンプレートを紹介しました。

残業代を請求するなら、会社に書面を送ってするのがお勧めです。本解説にある、通知書の書式を活用し、すぐに請求の意思を示しておきましょう。

「残業代を請求したいが、方法が不安だ」とお悩みの労働者は、残業代を徹底して請求するためにも、ぜひ弁護士にお任せください。