残業代を支払わないことで価格競争に打ち勝とうなど、労働者の立場を考えないブラック企業は跡を絶ちません。
残業代請求を、労働審判や訴訟などで行うには、「証拠」が重要ですが、「タイムカード」や「就業規則」などの重要な証拠は、会社が保管しており、労働者の手元にはないこともあります。
しかし、あきらめる必要はありません。残業代を請求するための証拠は、労働者の皆さんの周りにもたくさん隠れており、その1つが、労働者(あなた)のメモ、手帳です。
メモや手帳を証拠として残業代請求をすることは可能ですが、効果的に記録をとっておかなければ、いざというときに役に立たないおそれもあります。
今回は、残業代請求の証拠としてメモや手帳を用いる際の、効果的なメモのとり方について、残業代請求に強い弁護士が解説していきます。
1. 残業代請求には「証拠」が重要!
労働者は、「1日8時間、1週40時間」を越えて労働した場合や、休日や深夜に労働をした場合には、次のとおりの計算によって残業代を請求することができます。
- 1日8時間以上、週40時間以上の勤務
: 25% - 月の残業時間が60時間を超えた場合
: 50% - 休日出勤
: 35%
残業代請求は、労働者(あなた)が残業をした対価ですから、退職した後であっても受け取ることができますし、2年間分をさかのぼって残業代請求することができます。
しかし、残業代請求も、労働者の意見だけが必ずしも認められるわけではなく、労働審判や裁判などの方法によって残業代請求を認めてもらうためには、「証拠」が重要となります。
1.1. 労働者が証明しなければならない
労働審判や裁判などを通して残業代を請求する場合、会社側は「残業時間はなかった。」もしくは、「労働者側が主張するよりも残業時間は短い。」と反論してくる場合がほとんどです。
その場合、残業をしており、残業代を受け取る権利があることは、支払いを求める労働者側が自分で証明しなければなりません。
1.2. 何を証明すればよいの?
では、残業代請求をするときに、労働者側としては、どのような事実を証拠によって証明すればよいのかというと、次の3つのポイントが重要となります。
- 雇用契約があること
- 残業をしていること
- 残業代が未払いであること
しかし、これらの事実を証明する証拠のうちのほとんどは、会社側の手元にあるものであって、残業代請求をしようと思っても、労働者の手元には証拠が乏しい場合があります。
残業代請求をしようと検討している労働者の方は、まずはどのような証拠が必要であるかについて、労働問題に強い弁護士のアドバイスを受けるとよいでしょう。
2. 手書きのメモは証拠になる?
残業代請求をする労働者が、収集すべき最重要の証拠が、「残業を行った。」という事実を証明する証拠です。
典型的な証拠の例が「タイムカード」ですが、しかしながら退職後に残業代請求をする場合など、もはや会社にある「タイムカード」を入手することが困難なケースも少なくありません。
このような困難なケースでも「残業を行った。」事実を証明して残業代請求をするために、収集して頂きたい証拠が、「手書きのメモ、手帳」です。
2.1. タイムカードはなくてもよい!
タイムカードは、あくまでも会社が労働者の労働時間を管理、把握するためのツールであり、その所有権は会社にあります。
その上、ブラック企業の中には、次のように、タイムカードが証拠とならないケースもあります。
- タイムカードによる労働時間の把握をそもそも行っていない。
- 定時になると自動的にタイムカードを押すよう強制されている。
- 定時になると勝手にタイムカードを押される。
しかし、タイムカードなどの証拠がなくても、残業時間を証明できる別の証拠があれば、残業代を受け取る権利を証明するのは不可能ではなく、手書きのメモなども証拠となります。
2.2. メモは早めに収集!
ここまでお読み頂ければ、残業代請求には「証拠収集」が重要であって、「証拠」としては手書きのメモや手帳などであっても重要なものがあることをご理解いただけたのではないでしょうか。
自分で手書きしたメモの場合、重要性がそれほど高くないと考え、捨ててしまったり、新たに書き込んでしまったりする労働者も多いですが、残業代請求をするのであれば、早めに保管しておきましょう。
残業をした日の出勤・退勤時間について手書きのメモを残しておけば、証拠として使える場合があるからです。
2.3. メモの信用性に注意
手書きのメモや手帳も、「残業時間」の証拠となると解説しましたが、しかし、きちんと作らなければ信用性が低くなってしまうこともあります。
労働者が残業代請求をするとき、それぞれの証拠にどれほどの価値があるかは、裁判所が決めるからです。
とりわけ、手書きのメモは、いつでも自分で作ることができ、嘘の事実を書き込むこともできるため、「タイムカード」などよりは信用性が低いと評価されてしまうケースもあります。
3. 正しいメモのとり方
残業代請求をするときに提出する証拠として、手書きのメモや手帳を有効活用するためには、メモをとって記録化する時点から、慎重な配慮が必要となります。
何も考えずに適当に作成したスケジュール帳やメモなどは、残業代請求をするときに証拠としてあまり価値が認められなくなってしまうおそれもあるからです。
残業代請求をすることを予定しているときは、メモの取り方についても、労働問題に強い弁護士のアドバイスを受けるのも1つの手です。
3.1. 出勤・退勤・休憩の時刻をメモする
残業代請求をするときに、証拠として役に立つメモとするためには、残業代請求をするときに証明すべきすべての時刻について、メモに記載しておく必要があります。
少なくとも、次の3つについては、残業代請求をするときに残業時間を知るため、必ず必要となります。
- 出勤時刻
:いつ労働を開始したか - 退勤時刻
:いつ労働を終了したか - 休憩時間
:何時から何時まで休憩を取得したか
したがって、以上の3つの時刻、時間について、手帳やスケジュールにメモをとるようにします。
3.2. 毎日メモをとる
残業代請求をするときに、役立つメモとするためには、毎日メモをとることが重要です。
タイムカードなどの無いようなブラック企業では、労働者が手書きで作成したメモやスケジュール帳、手帳が、非常に重要な証拠となります。
毎日の勤務時間をその都度しっかりとメモに残しておけば、数日分だけポツポツと記録されているよりもメモの信用性が高くなり、残業代請求の証拠として重要性を増します。
3.3. 残業がない日もメモをとる
残業代請求をするときに、残業のあった日だけしかメモをとっていないと、「残業代請求をするためにメモを偽造したのでは?」という印象を裁判官に持たれてしまいかねません。
残業がない日の勤務時間もしっかりメモしておけば、仕事場の勤務状況のイメージが裁判所に伝わりやすくなり、残業代の請求を認められやすくなります。
3.4. 詳しく具体的にメモする
残業代請求の証拠として役立つメモをとるポイントは、「できるだけくわしく具体的にメモする。」ということです。
ざっくりとしたメモよりも、その日ごとに内容がことなる詳しいメモを残した方が、でっち上げやねつ造だと疑われる可能性が低くなります。
ただでさえ、労働者が手書きで作成したメモや手帳は、「真実と異なるのではないか?」と疑われていることに配慮し、真実味のあるメモを作成しましょう。
3.5. まとめてメモを作成しない
メモの作成日もまた、残業時間を証明する証拠を作成するときには重要となります。
つまり、勤務時間などを手帳やスケジュール帳にメモするときには、毎日、その都度メモを作成することが重要であるということです。
メモを作成しわすれていたり、1週間分をあとからまとめて作成したようなメモは、労働者の記憶に基づくものですが、忘れてしまっていたり、記憶の改ざんがあったりするおそれがあり、信用性が低いものと考えられてしまいます。
3.6. 業務内容もメモする
メモを作成するときには、勤務時間だけでなく、その労働時間にどのような業務を行ったかについてもメモしておくと、残業代請求をするときに有効です。
残業代を請求するためには、残業時間しっかり労働している必要があるわけですが、勤務時間以外に業務内容もメモしておくことによって、残業時間にしっかり働いていたことを証明できます。
その業務内容について、上司から指示、命令を受けた場合には、そのメールやチャット、LINEなどの証拠も残しておきましょう。
4. 手書きメモの信用性を高めるポイント
残業代請求をするときの証拠の中でも、メモの信用性が特に低いのは、労働者が自分で作ることができ、偽造やねつ造が簡単にできるからです。
そこで、手書きメモの信用性を高め、少しでも証拠としての価値を上げるためには、さきほど解説した「メモのとり方」以外にも、多くの注意点があります。
4.1. 他の証拠と整合させる
残業代請求の証拠を収集するときに、労働者側で収集できる証拠には限界があるわけですが、その中でも、価値の高い証拠と、低い証拠があります。
労働者が自分で作成した手書きメモであっても、その他の価値の高い証拠と整合するものであれば、より重要な証拠と評価してもらうことができます。
例えば、会社が作成・保管しているタイムカードや、会社の印鑑や社長のサインが入っている証拠など、労働者による偽造やねつ造がしにくい証拠と矛盾していなければ、手書きのメモも裁判所に信用してもらえるといえるでしょう。
4.2. 複数の証拠を集める
証拠集めでいちばん大切なことは、「複数の証拠を集めておくこと」です。用意していた唯一の証拠が役に立たなかったりすると、残業代請求ができないおそれがあるからです。
特に、容易していた唯一の証拠が「手書きのメモ」しかない場合、せっかく働いたのに、残業時間分の残業代を認めてもらうことが難しくなってしまいます。
また、同じ内容が記録された証拠が複数存在あれば、それだけ証拠から推測できる事実の信用性が高くなり、証明に有利になるからです。
5. メモ作成前に弁護士に相談する3つの理由
残業代請求の法律相談を受けていると、請求をする直前になって弁護士に相談に来られたり、自分で交渉をしてみてうまくいかなくなってから相談に来られたりする労働者の方が少なくありません。
しかし、その段階から弁護士がお手伝いしても、残業をしていたときに収集しておかなければならなかった証拠については取返しがつきません。
5.1. 証拠集めのアドバイスを受けられる
労働者が、残業代請求の証拠になると思って作成していたメモが、全て証拠として役立つとは限りません。
証明しようとしていた事実とは全く関係ないことだけしかメモされていなかったり、メモの信用性が低すぎて裁判所に信用してもらえなかったりするかも知れません。
自分で証拠を集める前に、どんなものが証拠になり、どんな証拠を集めれば有利になるかを知るためには、残業代請求を得意とする弁護士に相談するのが確実です。
5.2. 残業代請求もサポート
残業代請求を、労働者の代わりに行うことができるのは、弁護士だけです。
特に、会社が非協力的であり、労働審判や裁判などの法的手続となる場合には、労働法に熟知した弁護士のサポートが必須といえるでしょう。
5.3. 弁護士には守秘義務あり
メモを作成するよりも前の段階で弁護士に法律相談するとなると、まだ会社に在籍して、働いているタイミングで、残業代請求の法律相談をするということになります。
しかし、弁護士には守秘義務があり、弁護士に相談したことが会社にバレてしまうことは決してありません。
6. まとめ
今回は、残業代請求をするときに重要な証拠収集のポイントと、労働者の手書きメモによって残業代請求をする方法について、労働問題に強い弁護士が解説しました。
残業代を受け取ることは、残業をした労働者の権利ですから、会社や他の従業員に遠慮する必要はありません。
残業代請求を検討している労働者の方は、残業代請求に強い弁護士に、お早目に法律相談ください。