残業代請求を、一度は弁護士に依頼したものの、次のようなことで弁護士にご不満がある方はいませんでしょうか?
- 残業代請求を弁護士に依頼したが、話を全然聞いてくれない。
- お金の話ばかりで、労働問題、会社の問題点などを全く気にしてくれない。
- 残業代請求を依頼した弁護士と、考えが合わない。
このような不満を、残業代請求を依頼した弁護士にお持ちの場合、その弁護士に任せておいては、ご納得のいく解決にはならないおそれがあります。
というのも、労働問題は、労働者の生活に密接にかかわる重要な問題であり、「残業代」という「お金」だけの問題ではないからです。
残業代請求を依頼した弁護士との考えが合わなかったり、頼りにならなかったりする場合、労働問題に強い他の弁護士へ、ご依頼を変更したいと考えるのではないでしょうか。
残業代請求の途中で、依頼していた弁護士を変更することが可能なのかについて、弁護士が解説します。
目次
1. 残業代請求で弁護士を変えることはできる!
残業代請求を、一度はある弁護士に依頼したものの、途中で弁護士を変えたいということもあります。
法律相談でも、「既に別の弁護士に依頼しているのだけれども、頼りにならない。」とか、「依頼している弁護士の言っていることが正しいのか信用できない。」といった相談があります。
このように、今すでに弁護士に依頼していたとしても、他の弁護士の法律相談を受けることを「セカンドオピニオン」といいます。
セカンドオピニオンの法律相談を受け、そちらの弁護士の方が信用でき、頼りになると思った場合には、思い切って、残業代請求の途中でも弁護士を変更することも1つの手です。
2. 依頼中の弁護士と話合いをしましょう
すでに解説しましたとおり、結論からいうと、「残業代請求の途中でも、弁護士を変えることは可能!」ということになります。
しかし、当然ながら、弁護士を変えることによって、すでに進行している残業代請求に影響を与えかねないケースもありますから、やたらと弁護士を変更することはオススメできません。
残業代請求の途中であるにもかかわらず「弁護士を変えたい。」と思うからには、労働者(あなた)の側にも、大きな理由があるはずです。
労働者の側の理由によっては、既に依頼中の弁護士が努力をして改善できるものもありますから、まずは依頼中の弁護士に話してみるとよいでしょう。
特に、セカンドオピニオンの法律相談でよく聞く弁護士変更の理由のうち、次のようなものであれば、話し合いで改善が可能なように思います。
- 残業代請求をするにあたって、こまめに依頼者(労働者)に報告をしてくれない。
- 長期間連絡がなく、進捗状況がよくわからない。
- 残業代請求の示談の方針について、コミュニケーションがあまりない。
以上の不満は、いずれも依頼者(労働者)と弁護士とのコミュニケーション不足に原因があり、よく話し合えば解決できる可能性があります。
これに対して、次のような不満を残業代請求の途中で抱いてしまった場合には、弁護士の変更を検討しなければならないでしょう。
- 残業代請求や労働問題について、弁護士に知識、経験が不足している。
- 弁護士費用について不明確な部分がある。
- 残業代請求の示談について、依頼者(労働者)に全く確認がない。
3. 支払い済みの弁護士費用はどうなる?
残業代請求という業務の途中で弁護士を変える場合に、一番心配なのは、今まで支払ってきた弁護士費用についてではないでしょうか。
この部分について、通常の事件であれば、着手金など、既に支払っている金銭がもったいないので弁護士を変えない、という選択肢も考えられますが、残業代請求の場合にはどうでしょうか。
まずは、さきほど解説したことでもありますが、「現在依頼している弁護士との話し合い」によって解決を図るのが原則です。
特に、一番問題となる弁護士費用として、「着手金」があります。残業代請求の途中で弁護士を変更した場合、着手金はどのように扱われるのでしょうか。
3.1. そもそも着手金とは?
そもそも、着手金とは、弁護士が残業代請求に「着手」するよりも前に支払う費用のことをいいます。
そのため、着手金は、弁護士が残業代請求に着手すれば、その後、残業代が回収できたとしても、残念ながら回収に失敗したとしても、戻ってこないお金です。
着手金の金額は、事件ごとに決められていますが、労働問題、特に残業代請求の場合「着手金0(無料)」としている法律事務所、弁護士も増えています。
3.2. 着手金は、「着手」すると戻ってこないのが原則
着手金は、「着手」の前にかかる弁護士費用です。
そのため、着手した後に解約をしてしまうと、原則として、着手金は返ってきません。
したがって、残業代請求の途中で弁護士を変更した場合には、着手金は返ってこないのが原則です。
まだ残業代請求業務がそれほど進んでいなかった場合には、弁護士との話し合いで、一部返金してもらうことができる場合もあります。
残業代請求の途中で弁護士を解任し、変更するような場合、その弁護士との間ではもう話し合いができないような状態かもしれません。
このような場合、既に支払ってしまった弁護士費用を、一部でも返金して欲しいという場合には、新たにお願いする弁護士に、前の弁護士との話し合いもまとめてお願いするとよいでしょう。
3.3. 「着手金0(無料)」のときの注意
残業代請求の場合、最近では、「着手金0(無料)」とする法律事務所、弁護士も増えてきました。
この場合、残業代請求の途中で弁護士を解任し、変更する場合にも、支払い済みの弁護士費用はないため、自由に変更できるかのように思えます。
しかし、弁護士との間で締結している委任契約書を、よく注意して読むようにしましょう。
残業代請求で「着手金無料」であっても、途中で弁護士を解任した場合には、次のような一定の費用が発生するという契約内容となっているケースがあります。
- 途中解約の場合、違約金を支払うという内容
- 途中解約の場合、進み具合に応じて報酬金の一部を支払うという内容
「着手金無料」であるからといって、弁護士選びを適当にしていては、あとで解任、変更をする際に、余計な費用が発生してしまう場合があります。
「着手金無料」であっても、残業代請求を依頼する前に、事前によく弁護士選びを行わなければなりません。
4. 残業代請求の途中で弁護士を変更しないために!
残業代請求の途中になって、弁護士を解任、変更したいというような、弁護士への不満を抱かないようにするためには、一番最初の依頼のときから、しっかりと弁護士選びをする必要があります。
特に、残業代請求の場合、「着手金がかからない。」ことを売りにする法律事務所が多いことから、軽い気持ちで依頼をし、あとから「この弁護士でよかったのだろうか。」と不安になるケースが多いです。
残業代請求の場合、時効によって請求額が減ってしまうケースもあるため、スピーディに行わなければいけませんが、弁護士選びは慎重に行ってください。
また、一度依頼をした弁護士と、信頼関係をしっかりと作るためにも、弁護士からこまめに報告を受け、コミュニケーションをとることが重要です。
残業代請求を依頼する労働者の方の中には、「弁護士に任せたのだから、あとは適当にやっておいてくれるだろう。」という「丸投げタイプ」の方も、残念ながら少なくありません。
もちろん、弁護士は労働問題、残業代請求の専門家ですから、できる限り依頼者(労働者)にご負担をかけないよう進めていきますが、「任せきり」にはせず、しっかり信頼関係を築いていかなければいけません。
5. まとめ
残業代請求を依頼したものの、依頼した弁護士が「頼りない。」「労働法の知識がなかった。」といったことから、弁護士を変更したい方へ向けた解説でした。
「相談料無料」「着手金無料」であるとしても、残業代請求を依頼する弁護士選びは、慎重に行わなければ、あとになって無駄な出費が生じるおそれがあります。
「途中解約をしてもすべて無料」というのでは、残業代請求ばかりを専門で取り扱っている法律事務所、弁護士にとって、解任されてしまうとビジネスとして成り立たないからです。
残業代請求の途中で「弁護士を変えたい。」という気持ちになった方は、今依頼している弁護士、次に依頼する予定の弁護士のいずれとも、しっかり話し合って方針を決めるようにしてください。