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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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労働時間を適正に把握するためのガイドラインとは?労働時間の把握は会社の義務!

2019年4月の労働安全衛生法改正は、労働時間の把握は会社の義務と定めました。
これにより、労働時間を適正に把握しないと、法律上の義務違反となります。

労働時間の把握の方法は、厚生労働省のガイドラインが参考になります。
2017年1月20日、労働時間を適正に把握するためのガイドラインが出されました。
(正式名称:「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」

労働時間を把握しないと、長時間労働は避けられません。
もちろん、残業時間がわからないと、残業代も正しく払えないでしょう。
その結果、長時間労働による過労死など、最悪のケースが起こりかねません。

今回は、ガイドラインで示される労働時間の把握方法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
労働時間をまったく把握しない会社では、労働者が証拠を集めるべき。
長時間のサービス残業があるなら、速やかに残業代を請求しましょう。

この解説のポイント
  • 労働時間を適正に把握し、管理するのは、労働安全衛生法上の義務
  • 会社が、義務を怠り、労働時間を把握しないと、残業代が請求しづらくなってしまう
  • 労働時間を把握する正しい方法は、従来のガイドラインの定めが参考になる

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

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労働時間の把握が会社の義務とされる理由

冒頭のとおり、労働安全衛生法の改正で、労働時間の把握は、会社の義務となりました。

従来も、厚生労働省の通達、そしてガイドラインに定めていた内容。
それが「会社は、労働時間を正しく把握し、管理しなければならない」という点です。
しかし、これまでは、法律上の義務ではなく、法的拘束力がありませんでした。

労働時間の適正把握に関するガイドラインの趣旨は、次のように定めています。

1 趣旨

労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している。

しかしながら、現状をみると、労働時間の把握に係る自己申告制の不適正な運用等に伴い、同法に違反する過重な長時間労働や割増賃金の未払いといった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるところである。

このため、本ガイドラインでは、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を具体的に明らかにする。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

労働基準法では、「1日8時間、1週40時間」を法定労働時間と定めます。
これを超えた労働は「残業」となり、制限されます。
つまり、法定労働時間を超えて労働させるには、次の条件を満たさねばなりません。

  • 就業規則に、残業命令の根拠を定める
  • 労働者の過半数代表(もしくは過半数組合)と、36協定を締結する
  • 36協定の限度時間内の残業に留める

そして、残業した時間に対し、その対価として残業代を払う必要があります。
この残業代を正しく払うのもまた、会社の義務。

そのため、会社側が、労働時間を把握し、管理しなければならないのです。

悪質な会社は、労働時間の把握をしません。
しかし、把握しなくても、残業はなかったことにはなりません。

不適切な管理は、残業代未払いというお金の問題にだけではありません。
うつ病や過労死など、労働者の健康や、生命にも影響する重大な問題を引き起こします。

適用の範囲

労働時間の適正把握に関するガイドラインの適用範囲は、次のように定められます。

2 適用の範囲

本ガイドラインの対象事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定が適用される全ての事業場であること。

また、本ガイドラインに基づき使用者が労働時間の適正な把握を行うべき対象労働者は、労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者を除く全ての者であること。

なお、本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

労働時間の適正把握に関するガイドラインは、すべての労働者に適用されるのが基本です。

労働基準法は、すべての労働者の保護のためにつくられた法律だからです。
例外的に、裁量労働制の場合や、管理監督者など、一定の労働者は除外されます。
これらの者は、そもそも残業代を請求できないためです。

ただし、労働基準法で、残業代が請求できないケースは、非常に限られています。
裁量労働制や管理監督者も、厳しい要件を満たさねばならず、限定的にしか認められません。
要件を満たさないのに、労働時間を把握しないのは、違法です。

他にも、残業代に関わる制度に、事業場外労働みなし労働時間制があります。

この場合にも、みなし制の適用されない時間は、ガイドラインの適用対象。
つまり、適切に労働時間を把握せねばなりません。

そして、みなし制の適用しない時間を把握したら、その時間に対する残業代は請求できます。

労働時間の考え方

労働時間の適正把握に関するガイドラインは、「労働時間」の定義を次のように定めます。

3 労働時間の考え方

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。

……(中略)……

なお、労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。
また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

そもそも「労働時間」にあたらないなら、残業代は生じません。
拘束されず、自由にしてよいなら、その対価も不要だからです。

したがって、「労働時間にあたるかどうか」は、しばしば裁判例でも争いになります。
ガイドラインの定義も、裁判例を踏襲しています。

つまり、労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」というわけです。

使用者の指揮命令下に置かれているかどうかは、裁判所が、客観的に判断します。
労働契約や、就業規則などで、会社の一方的な考えを押し付けるのは違法です。

このことを示すため、ガイドラインでは「労働時間ではないものと扱われている可能性があるけれども、労働時間にあたるもの」を、具体的に列挙しています。

ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間

イ 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)

ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

以上の3つの時間は、特に労使の対立が生まれがち。
なので、ガイドラインに記載し、改めて注意を促しているのです。
(参考:「荷待ち時間の労働時間性」、「社内行事の労働時間性」)

労働時間の定義は、会社が決めるのではありません。
会社が「自由参加だから」「成果がないから」と考えても、働いていれば「労働時間」。
残業代や給料を請求することができます。

労働時間の定義は、次に詳しく解説します。

労働時間の適正把握の方法について

本解説のメインでもある、労働時間の適正把握の方法について解説します。

適正把握の方法には、一定のルールがあります。
これを守らず、ずさんな労務管理だと、労働時間を把握する義務を果たせません。
ガイドラインに定められた方法のポイントを理解してください。

始業・終業時刻の確認及び記録

ガイドラインは、労働時間を把握するための方法が定めています。
なかでも最も重要なのが、始業時刻・終業時刻を記録しておく方法によるべきとする点。

使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・ 終業時刻を確認し、これを記録すること。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

始業時刻とは、何時に仕事を始めたか、という時間。
終業時刻とは、何時に仕事を終えたか、という時間です。
(あわせて、間に何分の休憩をとったかも把握すれば、労働時間が明らかになります)
「何時間働いたか」を知るだけでなく、「始まりと終わり」を正確に把握せねばなりません。

始業時刻、終業時刻は、形式的には雇用契約書に記載されています。
しかし、ここで把握すべきは、「実際に」労働した時間。
そして、仕事は、実作業をするもののみならず、その前後の準備時間なども含まれます。

会社が把握する時刻が誤っていると、本来より、労働時間が短くなってしまいます。

タイムカードの開示請求についても参考にしてください。

始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法

そして、始業・終業時刻の確認、記録の仕方の原則も決められています。
ガイドラインで勧められている原則的な方法は、次の2つ。

  • 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること
  • タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録

つまり、使用者の現認と、客観的証拠の2つです。
小規模な会社なら、会社が常に労働者を監督することができます。
このとき、上司や社長が目視で確認できれば、労働時間を管理できます。
(もちろん、目視で確認後、正確に記録しなければ意味がありません)

ただ、大規模だったり、営業所が複数あったりすると、常に監視はできません。
そこで、タイムカードなど、客観的な証拠で把握する方法が挙げられます。
目で見て確認する方法より、記録の信用性が保証され、証拠としても価値があります。

残業の証拠について、次の解説をご覧ください。

自己申告制の注意点

労働時間は、自己申告制で把握するのも、必ずしも違法ではありません。
ただし、自己申告制は悪用されやすいため、特に注意点があります。
自己申告のやり方を誤ると、実際より残業代が少なくなってしまいます。

自己申告制の注意点は、次のとおり。

  • 労働者に、適正な自己申告をするよう十分説明すること
  • 労働時間の管理者に、自己申告制の適正な運用について十分説明すること
  • 自己申告と実態が合致しているか、調査すること
  • 自己申告した時間を超えて事業場内にいるとき、その理由を労働者に報告させること
  • 自己申告に上限を定めるなど、不適正な運用は避けること

「週の労働時間が45時間を超えないように自己申告せよ」など命じるのは違法です。
自発的に仕事しているかにみえても、実際には強制していれば、残業代を請求できます。

なお、自己申告制はあくまで例外で、タイムカードなど客観的な記録を残すのが原則です。

賃金台帳の適正な調製

ガイドラインは、賃金台帳など書類を記入すべきことが定めています。
そして、違反に対する「30万円以下の罰金」もあります。
いずれも、労働基準法に定められたルールの確認です。

使用者は、労働基準法第 108 条及び同法施行規則第 54 条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと。

また、賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法第 120 条に基づき、30 万円以下の罰金に処されること

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

労働時間を管理する責任は会社にあり、証拠に残さなければなりません。
必要となる情報が明らかでないと、労働者に不利な結論となってしまいます。
なお、時間外か、休日労働か、深夜労働か、残業の種類を区別して記入しなければなりません。
(残業の種類によって、割増率の計算が異なるためです)

労働時間の記録に関する書類の保存

使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第 109 条に基づき、3年間保存しなければならないこと。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

労働時を記録した書類には、保存義務があります。
労働基準法109条の定めに従い、3年間保存しなければなりません。
ガイドラインにも、その確認が定められています。

残業代請求を労働者がしようとしても十分な証拠がないとできません。
会社が、タイムカードなどの記録を保存している必要があるわけです。
ブラック企業のなかには、記録を捨て、証拠を隠滅する悪意あるケースもあります。

残業代の時効は3年です。
少なくとも3年は書類が保存されないと、十分な残業代請求ができません。

残業代請求の時効について、次に解説しています。

労働時間を管理する者の職務

労働時間管理の、最終的な責任は、会社が行います。
しかし、この責任を実際に果たすには、担当者が必要。
そこで、具体的な職務や、責任者を置くべきことが、ガイドラインに定められています。

事業場において労務管理を行う部署の責任者は、当該事業場内における労働時間の適正な把握等労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図ること。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

労働時間を管理する地位についた社員は、責任をもって職務遂行せねばなりません。
他の社員を管理する地位は、例えば、工場長、営業所長などの組織の長。

管理業務のために、自身は時間的裁量があるとき、管理監督者に該当する可能性あり。

管理監督者は、労働時間の規制が適用除外となり、残業代が生じません(労働基準法41条2号)。

労働時間等設定改善委員会等の活用

労働時間のルールを厳しく定めても、従わず不当な扱いをする会社もあるでしょう。
最終的には、労働者が、残業代請求で訴えなければ改善されないことも。

しかし、労使の信頼がかろうじて残るなら、話し合いで解決できるケースもあります。
裁判など強硬手段に出る前に、交渉を試してみる手もあります。

ガイドラインでも「労働時間等設定改善委員会」など、労使協議の組織を活用し、交渉による問題解決を検討すべきことが言及されています。

残業代トラブルは、弁護士の無料相談で解決できます。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、労働時間の把握が、会社の義務となったことを解説しました。
2017年1月に公開された、労働時間の適正把握に関するガイドラインも理解してください。
ガイドラインは、労働時間の把握が法律上の義務となった後も役立ちます。

ガイドラインの内容は、通達や、裁判例などで繰り返し会社に指導されてきた内容。
どのように労働時間を把握するのが適正か、詳しく定めています。
適正な方法でなされないと、労働時間の把握は不十分になってしまいます。

その結果、働いた時間の対価を、正しく受け取れません。
このような会社だと、未払いの残業代が生じている可能性は高いもの。
弁護士に相談し、残業代の請求をしたほうがよいでしょう。

この解説のポイント
  • 労働時間を適正に把握し、管理するのは、労働安全衛生法上の義務
  • 会社が、義務を怠り、労働時間を把握しないと、残業代が請求しづらくなってしまう
  • 労働時間を把握する正しい方法は、従来のガイドラインの定めが参考になる

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