残業代を支払わずに労働者をタダ働きさせる、ブラック企業のサービス残業問題の一番の解決は、労働者が泣き寝入りせずに残業代請求を行うことです。
将来、間違いなく高額の残業代を支払わされることが予想できていれれば、ブラック企業であっても、「違法な残業代未払い」をストップすることが予想されるわけです。
労働者が、ブラック企業に対して、過去の未払い残業代を請求するにあたっては、「残業代の時効」の問題が立ちはだかります。
正当な残業代請求であっても、いつまでも放置していた場合には、残業代請求権が時効消滅し、請求できなくなってしまうということです。
- 「退職したら全額請求すればよい。」
- 「在職中に残業代請求をするといづらくなる。」
- 「今は少し忙しいから落ち着いてから請求しよう。」
- 「会社の今後の態度次第で残業代請求をするかどうかを判断しよう。」
このような考えで、未払い残業代を請求せずに放置しておくと、事後に残業代請求することが困難となる場合があり、注意が必要です。
先延ばしにしておけば、それだけ残業代請求が困難になりますし、時効消滅した分だけ請求できる残業代の金額が減少します。時効が到来する前に残業代請求しなければなりません。
今すぐ残業代請求することがどうしても難しい場合でも、残業代請求権が消滅しない手当をしておく必要があります。少しでも多額の残業代を請求するため、残業代請求はお急ぎください。
つい残業代請求を先延ばしにしていませんか?残業代請求を検討されている方は、労働問題に強い弁護士へご相談ください。
目次
1. 残業代は徐々に消滅している
残業代請求の時効は2年であり、労働者(あなた)が残業代請求を躊躇している間にも、刻一刻と、請求できる未払い残業代の金額は目減りしています。
残業代請求を躊躇する理由は、労働者によって様々でしょうが、感情的な理由、「忙しい。」などの理由であれば、残業代を減少させるのはもったいないといえます。将来請求する気があるのであればできる限り早めに準備してください。
労働者(あなた)自身で残業代問題を解決することが面倒であれば、労働問題に強い弁護士に依頼する方がよいでしょう。
請求できる残業代を減少させるぐらいであれば、弁護士費用としていくらかの費用を支払っても十分元が取れます。
これに対して、残業代が発生していることを証明する証拠が不足している場合には、残業代請求自体を性急に進めるべきではなく、まずは専門家のアドバイスをもとに残業代請求の準備を進めることをお勧めします。
2. 残業代の消滅時効は?
「消滅時効」とは、その期間を過ぎると、権利があるにもかかわらず請求ができなくなる、という制度です。
残業代にも消滅時効が設定されている理由は、次のとおりです。
- 労働者側の理由
:正当な権利であっても、長年請求しない労働者に対して、その権利を認めてあげなくても保護が不十分となることはない。 - 会社側の理由
:不当な残業代未払いであっても、あまりに長い間請求されなければ「請求されないであろう。」という期待が生まれる。
消滅時効は、請求する権利の性質に合わせて消滅時効期間が法律で定められています。
消滅時効期間が経過すれば、権利者としてもそれ以上請求する意思がないという一つの証左となりますし、むしろ請求する気があるのであれば消滅時効期間より早く請求すべきであるという意味です。
他方で、義務者としても、もはや請求されないであろうという期待を抱く場合が多いというわけです。
2.1. 残業代の消滅時効期間は、原則2年
残業代の消滅時効は2年です。
残業代の消滅時効期間のルールは、労働基準法に次の通り規定されています。
労働基準法115条この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。
すなわち、労働基準法115条に規定されている「賃金」とは労働の対価のことであって、未払い残業代も「賃金」に含まれます。
残業代も労基法上の「賃金」であることから、2年間の消滅時効の適用があります。
つまり、過去分の残業代請求は、2年分までしかさかのぼることができないわけですから時間の経過と共に、徐々に請求できる残業代は減っていくということです。
2.2. 具体的に、残業代が時効消滅する流れ
残業代は、基本給などの通常の賃金が「毎月ごとに支払わなければならない。」ことと同様に、毎月ごとに算出して計算することとなります。
未払い残業代の支払日もまた、通常の賃金の毎月の支払日と同様となるのが原則です。
未払い残業代(割増賃金)の支払日は、通常の賃金と同様の締日、支払日とされている会社が多いですが、そうでない会社もあります。労働法上、残業代の支払日や締日についてルールがあるわけではありません。
例えば、基本給など毎月変わらない賃金は「当月末締め、当月末払い」とするが、残業代は月間の労働時間によって変わるため、計算する時間を確保するため「当月末締め、翌月末払い」とする例があります。
残業代の消滅時効である2年間は、それぞれの残業代の支払日から起算しますので、各月ごとに1か月分の残業代の消滅時効が到来することとなります。
具体例で説明してみます。
ある会社の賃金の支払日が、月末〆、翌月25日払いだったとします。すると、平成26年1月分の残業代は、平成26年1月分の通常の賃金とともに、平成26年2月25日に支払われることとなります。
そして、平成26年1月分の残業代が未払いとなった場合、その残業代の支払日である平成26年2月25日から、残業代の消滅時効が進行することとなります。
そこから2年間の消滅時効期間を経過し、平成28年2月24日の終了と共に、平成26年1月分の残業代は請求できなくなります。
同様に、平成28年3月24日には平成26年2月分の残業代が、平成28年4月24日には平成26年3月の残業代が、それぞれ順々に消滅時効の適用を受けて残業代請求が不可能となっていきます。
以上のように、未払い残業代が消滅時効によって一度に消滅するわけではなく、1か月ごとに徐々に目減りしていくということです。
そのため、残業代請求を検討している場合には、速やかに労働問題に強い弁護士へご相談ください。
2.3. 残業代の時効が例外的に3年とされたケース
残業代の消滅時効は2年であり、2年間のうちに残業代請求を行わなければ徐々に請求額が減少してしまいます。
例外的に、残業代請求の時効が、2年よりも長く判断された裁判例があります。
残業代請求の消滅時効を3年に延長したケースでは、会社の残業代未払いの悪質性が高かったことから、不法行為として、消滅時効の期間を延長した裁判例です。
不法行為の場合には、民法の規定により、消滅時効期間は3年となります。
民法724条不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
加えて、不法行為の消滅時効期間の起算点は、「損害及び加害者を知った時」とされています。
民法の不法行為と評価されるのであれば、損害を知らなかった場合には時効期間は進行しないわけですから、残業代の発生を全く知らなかったという場合には、消滅時効期間は進行しないとも考えられます。
ただ、注意して頂きたいのは、この裁判例は例外的な判断であり、「すべての残業代が2年以上放置しておいても大丈夫。」、ということには決してなりません。
あくまでも、「2年以上放置してしまった残業代について、ダメ元で請求する際に利用できる裁判例」、という程度に考えておくべきであり、原則は、2年の消滅時効期間が経過する前に残業代請求するよう心掛けてください。
3. 残業代請求の時効中断
残業代請求の「2年」の消滅時効期間は、時効中断の手当てをすれば、その分だけ時効期間を延ばすことができます。
残業代請求を迷っているうちに消滅時効期間が進行して、残業代が請求できなくなってしまうのは非常にもったいないことです。
一定の期間であれば、時効中断の措置を講じておくことで、残業代請求を検討するための期間の余裕を確保しておくことができます。「残業代を請求したいけれども、準備や計算が間に合わない。」という場合にも、時効中断を活用しましょう。
残業代請求の消滅時効を中断する方法は、次の通りです。
- 裁判によって残業代を請求する
- 会社に残業代請求権の存在を承認してもらう
残業代請求の消滅時効を中断すれば、そこまでの消滅時効の進行はストップし、時効中断事由がなくなったところから新たに時効がスタートします。
ただ、残業代を裁判で請求する方法は非常に手間と費用がかかります。また、残業代を支払わないブラック企業に対して残業代請求権を承認させるのにも非常な苦労がかかります。
残業代の時効中断方法には、相当の手間がかかることから、通常は、次で解説するとおり、法律上の「催告」に当たる行為を行うことで、しばらくの間の猶予を稼ぐこととなります。
4. 残業代請求の催告とは?
残業代請求の催告とは、裁判手続とまではいかないものの、法律に認められた一定の行為を行うことによって、消滅時効の進行を一旦ストップさせるというものです。
残業代請求の催告を行うと、時効の中断のように時効期間がリセットされるわけではないものの、6か月間だけ消滅時効の進行を止めることができます。
実務的には、残業代請求の催告を行うことによって消滅時効をストップさせ、その間に会社との話し合い(任意交渉)を行って残業代の回収を目指します。
残業代請求は、話し合い(任意交渉)によって行う場合でもそれなりの期間(1~2か月程度)がかかることが多いことから、催告を先に行っておくことが有効です。
残業代請求の催告の方法は、内容証明郵便の送付による方法が一般的です。
内容証明郵便は、郵便局が、その送付日時と内容とを証明してくれるため、残業代請求の催告を行った事実を、後に労働審判や訴訟において消滅時効の経過が争いとなった場合に証拠とすることができます。
弁護士名義で送る残業代請求の内容証明により、会社に対して相当なプレッシャーをかけることができます。ケースによっては、内容証明と話合いだけで、早期に、和解の方法によって残業代を回収できることも少なくありません。
5. まとめ
請求できる残業代を少しでも多くするためには、消滅時効、その中断方法、催告の方法に関する正確な知識が必要です。
残業代請求を焦るがあまりに、残業代の計算方法が不正確となったり、準備すべき証拠を見落として請求したりした結果、最終的に得られる残業代の金額を損してしまうおそれもあります。
残業代請求を行うことを検討する場合には、労働問題に強い弁護士へご依頼ください。