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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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残業代の時効は3年!時効の起算点、時効中断の方法についても解説

残業代を払わずタダ働きさせる、ブラック企業のサービス残業を放置してはなりません。
労働者の正しい対応は、泣き寝入りせず、残業代請求すること。
このとき重要なのが、残業代の時効です。

過去に未払いだった残業代を、いつまで請求できるのでしょうか。
残業代の時効は3年です。
なので、過去の未払い残業代の請求は、3年間はすることができます。
(※残業代の時効は、2020年4月1日より改正され、2年から3年に延長されました)

時効を過ぎるまで放置すれば、残業代の請求権が消滅し、請求できなくなります。
請求すれば、6ヶ月間は時効をストップできるので、時効中断の方法も知っておいてください。
気まずいでしょうが「退職したら請求しよう」というのでは間に合わないことも。

今回は、残業代の時効の考え方について、労働問題に強い弁護士が解説します。
先延ばしにしないよう、早めに相談ください。

この解説のポイント
  • 残業代の時効は、2020年3月31日以前は2年、2020年4月1日以降は3年
  • 残業代の時効は、支払日ごとに起算され、そこから3年の経過をもって完成する
  • 残業代の時効を止めるには、時効の更新時効の完成猶予の2つの方法がある

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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残業代の時効は3年

残業代の時効は、3年とされています。

この時効は、法律用語では「消滅時効」と呼ばれます。
その意味は、時効期間が過ぎると、法的な請求権が消滅し、請求することができないということ。
つまり、残業代の時効である3年が経過すると、残業代請求ができなくなります。

時効は、権利を行使しなかった労働者に対し、ペナルティとしてはたらきます。
残業代は正当な権利ですが、長年請求しない労働者には、それ以上の保護は不要ということ。

会社にとっても、あまり長い間請求がなければ「請求されないだろう」という期待が生まれます。

消滅時効、法律で、その権利の性質ごとに定められます。
残業代の時効が3年というのは、労働基準法に次のように定められます。
(次章のとおり、残業代の時効は、2020年4月1日より改正され、2年から3年に延長されました)

労働基準法115条

この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から2年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

労働基準法143条3項

第115条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から5年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から3年間」とする。

労働基準法(e-Gov法令検索)

残業代も、労働の対価なので、労働基準法にいう「賃金」に該当します。
そのため、上記の条文のとおり、3年間の時効にかかるのです。

残業代の時効の起算点

残業代の時効、3年の起算点は、残業代の支払い期限からとなります。
残業代は、各月の給料日に払うのが通例なので、給料日ごとに時効が起算されるのが基本。

つまり、未払い残業代の時効が、一度に完成するわけではありません。
3年分しかさかのぼれず、時間の経過とともに、請求できる残業代は「徐々に」減るのです。

各月の給料日ごとに時効がスタートします。
3年後の給料日が来るたび、1ヶ月ごとの残業代が、時効の完成を迎えるわけです。

残業代の時効の起算点
残業代の時効の起算点

なお、残業代も給料なので、毎月一定期日払いの原則があります(労働基準法24条)。
一定期間の残業代を、まとめ払いしたり、後払いしたりするのは許されません。
なので時効の完成も毎月ごとで、1ヶ月の経過ごとに未払い残業代が時効消滅していきます。

残業代の後払いが許されないことは、次に解説します。

残業代の時効は援用が必要

残業代の時効には「援用」が必要です。
「援用」とは、自分の利益のために時効の主張をすることです。

残業代を請求したとき、会社が「時効だ」と反論しなければ、時効は適用されません。
つまり、会社が、時効の主張をせずに払ってくれるなら、残業代はどこまでもさかのぼれます。
そのため、時効はひとまず考えず、過去の未払い分をすべて請求するのが基本です。

損しないよう、残業代の正しい計算方法を理解してください。

残業代の時効消滅の具体例

未払い残業代の支払日が、通常の給料日と同じとなります。
その給料日を起算点に、3年を経過すれば、残業代の時効が到来します。

この時効消滅の流れを、わかりやすい具体例で解説します。

給料の支払日が、月末〆、翌月25日払いの会社の例で説明します。

この会社では、2022年1月分の残業代が、2022年2月25日に払われます。
この給料日を起算点とし、3年間の時効を計算。
すると、2022年1月分の残業代は、2025年2月24日が経過した時点で時効消滅します。

同じく2022年2月分の残業代は、2025年3月24日の経過によって請求できなくなります。

未払い残業代を請求せず放置すると、後から請求するのが難しいことも。
時効はもちろんのこと、残業の証拠が入手しづらくなる面もあるからです。

先延ばしは、労働者にとって良いことがありません。
少しでも多くの残業代を請求するため、準備は怠らないでください。

残業代トラブルは、弁護士の無料相談で解決できます。

残業代の時効は2年から3年に延長された(2020年4月〜)

残業代請求の時効は、ここまで解説したとおり、現時点では3年です。
しかし、これは近年の法改正の影響を受けて改正されたもの。
2020年3月31日までは、2年であり、今後も、延長される可能性があります。

残業代の時効が、2年から3年に延長されたのは、2020年4月1日施行の改正民法の影響。

もともと民法は、賃金の短期消滅時効を1年と定めていました。
労働基準法は労働者を保護すべく、この短い時効を修正して2年としていました。

しかし、民法改正で短期消滅時効は廃止、債権の消滅時効は5年に統一されました。
すると、労働者を保護するはずが、労働基準法の時効のほうが短くなってしまいます。

そこで、あわせて労働基準法が改正され、賃金の時効は5年とされ、ただし、経過措置として当面の間は3年という定めになったのです。

スクロールできます
〜2020年3月31日2020年4月1日〜
民法賃金の短期消滅時効
(1年)
債権の消滅時効
(5年)
労働基準法労働者保護の特例
(2年)
民法の基本より短くならないよう延長
(5年、ただし当面は3年)

残業代の時効が、法改正によって延長されました。
この法改正の適用は、時効の起算点、つまり、給料日を基準として考えられています。

施行日である2020年4月1日以降に支払うべき残業代について、時効が3年となります。
2020年3月31日以前に支払うべき残業代は、時効は2年のまま。
なので、例えば、2020年3月31日の給料日に払われる残業代は、2023年3月30日の経過をもって時効となります。

残業代の時効が3年に延長される前でも、3年の時効を認めた裁判例があります。
未払いが悪質なのを理由に、不法行為(民法709条)を根拠として3年の時効と判断したケースです。

不法行為の時効は「損害及び加害者を知った時から3年」が原則。
なので、2020年3月31日以前ならば残業代の時効よりも長かったのです。

この裁判例は、あまりに悪質なブラック企業から労働者を救済する意味合いがありました。
ただ、2020年4月1日以降は、残業代の時効も3年に延長され、この裁判例のような救済の意味は薄れました。

残業代の時効をストップさせる方法

残業代の時効3年は、時効中断などの手当をすれば、できるだけ先延ばしすることができます。
そのため、時効をストップするための方法を知るのが大切です。
残業代の時効をストップさせる方法には、2つあります。

残業代の請求を迷っているうちに時効期間が進行するのはもったいないこと。
時効中断の措置や、催告をしておいて、準備の期間を確保し、余裕をもって進めましょう。

時効の更新

残業代の時効をストップさせる1つ目の方法が、「時効の更新」です。
時効の更新にあたる事由は、次の例があります。

  • 裁判上の請求、支払督促など
    法的手続きがされれば、その事由が終了するまで時効の完成が猶予される。
    確定判決が出ると、そこから10年間の時効が新たにスタートする。
  • 労働審判の申立て
    労働審判の申立てによっても、時効は更新される。
    異議申立てし、訴訟に移行すると、労働審判申立時に訴訟提起があったとされる。
  • 強制執行など
    法的手続きがされれば、その事由が終了するまで時効の完成が猶予される。
    事由が終了すると、時効が更新される。
  • 債務の承認
    債務の承認があると、その時点で時効が更新され、新たな期間が進行する。

時効の更新にあたる事由があると、そこまでの時効期間はリセット。
事由が消滅した時点から、新たな時効期間がスタートします。

時効の更新
時効の更新

残業代の時効の更新のための方法は、相当な手間がかかるものばかりです。
まして、残業代を払わないブラック企業に、債務を承認させるのは困難でしょう。

なので、残業代請求の流れでは、次に解説する時効の完成猶予(催告)で時間を稼ぐことになります。

2020年4月1日施行の改正民法で「時効の中断」から「時効の更新」に改められました。

時効の完成猶予

時効の完成猶予とは、時効の進行を一旦ストップさせるもの。
その期間を利用して、残業代請求の準備を進めたり、前章の「時効の更新」をしたりします。
期間がリセットされるわけではないものの、一時的に時間を確保できます。

時効の完成猶予になる事由は、次の例があります。

  • 催告
    催告した時点から6ヶ月、時効の完成を猶予する。
  • 仮差押え、仮処分
    法的手続きの申立てにより、その事由の終了時から6ヶ月、時効の完成を猶予する。
  • 協議を行う旨の書面による合意
    合意書の作成により、①合意から1年、②合意で定めた協議期間、③協議の続行拒絶の通知から6ヶ月のいずれかの期間、時効の完成を猶予する。

このなかで、最もよく利用されるのが、「催告」による時効の完成猶予。
「催告」という法律用語は、わかりやすくいえば裁判以外で請求をすることです。

時効の完成猶予
時効の完成猶予

催告し、時効の完成を猶予しているのを証拠に残すため、残業代の請求書を内容証明で送ります。
内容証明の方法によれば、郵便局が、その送付日・受領日と内容を証拠化してくれます。

しっかり計算ができていなくても、ひとまず「いつの残業代を、請求する意思があるのか」を明確にした上で、書面を送付し、時効をストップさせるのが大切です。

さらに、弁護士名義で内容証明を送れば、会社に相当なプレッシャーとなります。

内容証明による残業代請求の通知書は、次に解説します。

残業代の時効が経過しても、あきらめず請求する

以上のとおり、残業代の時効が、経過してしまう前に請求するのが原則。
しかし、なかには、残業代の時効期間が過ぎてしまってから気付く方もいます。

このとき、たとえ時効が過ぎてしまっていようと、あきらめるのはまだ早いでしょう。
まず、前章で説明したとおり、時効の効果を得るには、会社が援用しなければなりません。

会社もまた、時効の主張をしなければ、残業代を払ってもらえる可能性があります。

また、過去のあなたの行為が、時効の完成猶予と評価できるかもしれません。
残業代を請求したいという意思を表示しているなら、その証拠を保存しておくのが有効です。
残業代の一部が時効にかかってしまっていても、残部がまだあることもあります。
まだ時効でない残業代を少しでも増額すれば、時効になってしまった損失を取り返せます。

残業代請求について、労働問題に強い弁護士に相談ください。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、残業代の時効についての考え方を解説しました。

残業代の時効を気にしないと、請求できる残業代が知らぬうちに減ってしまいます。
請求する残業代の額をできるだけ増やすため、時効とその起算点、中断方法をご理解ください。

時効があることから、残業代請求は、余裕をもって早めにしなければなりません。
時効ぎりぎり間近の請求を焦るあまり、証拠が不足したり、計算が不正確になれば、損するでしょう。
残業代を、時効にかからないよう早めに、確実に請求するため、ぜひ弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • 残業代の時効は、2020年3月31日以前は2年、2020年4月1日以降は3年
  • 残業代の時効は、支払日ごとに起算され、そこから3年の経過をもって完成する
  • 残業代の時効を止めるには、時効の完成猶予、時効の更新の2つの方法がある

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