厚生労働省の定める労災の認定基準では、労働時間が1つの考慮要素となります。
なかでも目に見えづらい脳・心臓疾患、精神障害に関する労働時間の基準が、過労死ラインです。
過労死ラインを超えて長く働き、脳や心臓、精神の病気になったら、労災。
死亡に至る最悪のケースは、労災による死亡、つまり、過労死となります。
長時間労働による労災は、明らかには説明できず、客観的な基準が設けられたのです。
労働時間の負担が大きくても、精神障害などは、業務以外の理由で起こることもあります。
もともと体調が悪かったり、持病を抱えていたりする人もいます。
こんなときも、一定ラインを超えた長時間労働さえあれば、労災認定される目安となるのです。
働きすぎでからだを壊せば、会社には、管理を怠った違法があります。
労働者の安全に配慮するのは、会社の義務だからです。
今回は、過労死ラインを超えた労働の違法性について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 過労死ラインは、月80時間の残業が、目安となる
- 過労死ラインを超えた残業があり、労働者が死亡したら、過労死として労災認定される
- 過労死ラインを超えたときは、残業代請求や労災申請をし、危険を未然に防ぐ
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過労死ラインとは

過労死ラインとは、健康障害を生じやすい労働時間として、労災を認定する基準のこと。
過労死ラインを超える長時間労働になると、業務と、疾病ないし死亡との因果関係があるものと判断されやすく、労災だと認定されることとなります。
過労死ラインは、脳・心臓疾患、精神障害に適用されます。
過労死ラインを越えて働き続ければ、心身の故障や死亡には、労災の認定が受けられます。
労災のなかでも、死亡の結果を招くのが「過労死」。
その判断の目安となる労働時間のラインという意味で「過労死ライン」と呼ばれます。
過労死ラインは、労災認定の基準だけでなく、安全配慮義務違反の基準にもなります。
つまり、これを超えて働き、死亡したら、会社への慰謝料請求も可能です。
(労災と、安全配慮義務の基準はまったく同一ではないものの、大いに参考にされます)
過労死ラインを超えるほどの労働を強要されたら、労働環境の改善を求めるべき。
しかし、違法な労働が続き、死亡する前に、早急な対応が必要です。
会社による自発的な改善に委ねるのは、限界があります。
また、ブラック企業で、残業代が払われないときは、残業代請求も可能です。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次の解説をご覧ください。

過労死ラインは月80時間が目安

過労死ラインは、月80時間の残業が、1つの目安となります。
これを超えて残業していれば、労災となる可能性が高いからです。
月80時間の残業は、月20日出勤なら、1日4時間の残業ということになります。
1日8時間労働の会社ならば、1日12時間労働を超えると危険ということです。
ただし、月80時間の残業があれば、必ず労災認定されるというわけではありません。
あくまで、月80時間の残業があり発症したら、業務との因果関係が認められやすいということ。
業務以外に理由があるケースでは、労災認定されないおそれもあります。
また、これを超え、月100時間、月120時間などの残業があれば、さらに労災認定されやすいです。
一方、月80時間を超える残業がなくても、それだけで労災でないとはいえません。
むしろ、36協定の限度時間は、月45時間を基本としています。
そのため、月60時間などの残業でも、働き方次第では、労災となる可能性は大いにあります。
36協定の上限については次に解説しています。

過労死ラインを超えると労災認定の基準を満たす

過労死ラインは、月80時間の残業が目安と解説しました。
ただ、実際の労災認定の基準は、もう少し細かく判断されています。
月80時間の残業を超えれば危ういのは当然です。
しかし、労災認定を受けられるかは、もっと複雑な要素が考慮されるのです。
過労死ラインを超えて労働を強要されたとき、起こりやすい症状ごとに基準が異なります。
ここでは、脳・心臓疾患、精神障害について、厚生労働省の定める労災認定の基準を説明します。
いずれも、基準を満たして死亡し、労災認定されれば、過労死となります。
2021年、約20年ぶりに、労災認定の基準が見直されました。
したがって、過労死ラインも、修正されたものといえます。
2021年9月より、新たな基準での運用がなされています。
脳・心臓疾患の労災認定基準
脳・心臓疾患の場合、過労死ラインは80時間です。
発症前2〜6ヶ月の平均で、月80時間を超える残業があると、脳・心臓疾患の発症と、業務との関連性が強いと判断されるからです。
ただし、発症前1ヶ月に100時間を超える残業があるときも、関連性が強いと判断されます。
そのため、6ヶ月にわたり恒常的に残業がなくても、直近1ヶ月の残業が100時間を超えるほど長いと、それだけで過労死ラインを超えたと判断することができます。
なお、労働時間の他に、パワハラや重責な業務などがあると、さらに労災と認定されやすくなります。
精神障害の労災認定基準
精神障害が、労災と認定されるかどうかは、その心理的負荷の程度で判断されます。
心理的負荷が「強」の場合に、労災と判断される傾向にあります。
長時間労働の観点から、心理的負荷が「強」とされるのは、例えば次のケースです。
- 発病直前の1ヶ月におおむね160時間以上の残業をした場合
- 発病直前の3週間におおむね120時間以上の残業をした場合
→「特別な出来事」としての「極度の長時間労働」に該当
- 発病直前の2ヶ月間連続して1月当たりおおむね120時間以上の残業をした場合
- 発病直前の3ヶ月間連続して1月当たりおおむね100時間以上の残業をした場合
→「出来事」としての長時間労働に該当
- 転勤して新たな業務に従事し、その後月100時間程度の残業をした場合
→他の出来事と関連し、恒常的長時間労働と認められる
なお、以上の労働時間の基準は、あくまで目安に過ぎません。
これを下回る程度の労働時間によって精神障害になったときも、労災になる場合があります。
また、労働時間以外に、セクハラ、パワハラなどのハラスメントといった違法行為があれば、必ずしも過労死ラインを超えた長時間労働でなくても、労災認定がおり、会社に慰謝料請求できる可能性があります。
残業が月100時間を超える場合の違法性について、次に解説します。

過労死ラインを超えると違法

次に、過労死ラインを超えることの違法性と、会社の責任について解説します。
過労死ラインを超えた残業は、違法の可能性が高いです。
労災認定されるだけでなく、その違法性について、責任追及できます。
放置したブラック企業には、制裁があるともいえるでしょう。
安全配慮義務違反がある
過労死ラインを超えるほど労働させることは、安全とはいえません。
会社は、働く人の健康と安全を守る義務があります(安全配慮義務)。
したがって、過労死ラインを超えれば、安全配慮義務違反の違法があります。
その責任は、会社への慰謝料をはじめ、損害賠償請求によって追及できます。
労災の慰謝料の相場は、次に解説します。
36協定の上限を超える
残業させるには、それがたとえ短い時間でも、36協定が必要です。
そして、36協定に定められる時間には、上限あり。
36協定の上限は、「月45時間、年360時間」が基本です。
月80時間残業といった過労死ラインを超える労働が、36協定の上限を超えるのは明らかです。
月45時間の残業を超えたところから、徐々に、労災認定がおりやすくなります。
36協定の限度時間について、次に解説します。
未払いの残業代がある
過労死ラインを超えるかどうかにかかわらず、残業代を払う義務が会社にはあります。
月80時間残業など、長すぎる労働を放置する会社ほど、未払い残業代を生じさせる可能性が高いもの。
残業代を払わないのは、労働基準法違反であり、違法なのは明らかです。
未払いのまま放置する場合には、遅延損害金や付加金といったペナルティもあります。
残業代の正しい計算方法は、次の解説をご覧ください。

過労死ラインを超える長時間労働への対処法

過労死ラインを超えた残業が継続するということは、「これ以上無理をすると、からだを壊す」という行政からの警告だと考えたほうがよいでしょう。
どれほど仕事が好きでも、これ以上働き続けてはいけません。
長時間労働を抑制するのは、会社の義務です。
しかし、労働者側でも、できる対策はしておいたほうがよいでしょう。
家族が止める
家族が、過労死ラインを超えるほど働きすぎていたら、止めるべきです。
同居の家族なら、何時に帰宅するかなどで、労働時間の長さは把握できるはずです。
その他、体調や健康状態など、家族のストレスの度合いも確認しましょう。
責任感の強い人ほど、仕事を続けてしまいがちです。
「退職になっても、気にしない」と家族が伝えてあげれば、大きな助けになります。
家族が働きすぎなとき、過労死の前兆についても参考にしてください。
医師のチェックを受ける
あなたが気付かなくても、もうからだは悲鳴をあげているかもしれません。
これ以上働き続けられるかどうかは、医師の意見に従うようにしてください。
危ないと感じたら、まずは医師に、健康状態をチェックしてもらいましょう。
脳・心臓疾患はもちろん、精神疾患でも、診断書をもらえるか、よく相談してください。
弁護士に警告してもらう
過労死ラインを超える労働に意見しても、聞いてくれないならブラック企業です。
このとき、悪質な会社に対しては、弁護士から警告を発してもらいましょう。
会社が労災認定に協力してくれなくても、手続きを弁護士に依頼できます。
安全配慮義務違反に基づき、慰謝料を請求してもらうことも可能です。
労働基準監督署に相談する
次に、過労死を含めた労災の問題は、労働基準監督署に相談すべき事案です。
生命に関わるほどの深刻なケースなら、労働基準監督署も速やかに動いてくれます。
会社に、指導、是正勧告してくれ、違法状態の改善が期待できます。
労働基準監督署への相談について、次の解説をご覧ください。
残業代を請求する
過労死ラインを超える労働を強要して、さらに残業代も払わないのは相当悪質です。
しかし、残業が長いとき、対価を十分払えば、人件費もかなり高くなります。
そのため、長時間労働を気にしない会社ほど、残業代を払ってくれない傾向にあります。
しかし、残業代の未払いは違法です。
なので、残業代を請求することで、長時間労働を止められるケースもあります。
まずは内容証明で請求書を送り、交渉での解決を目指しましょう。
話し合いで解決できないときは、労働審判、裁判に訴える方法も有効です。
過労死ラインを超える労働で、出席できないほど弱っていても、弁護士に代理してもらえます。
残業代請求に強い弁護士への無料相談は、次に解説します。

まとめ

今回は、過労死ラインの違法性について解説しました。
過労死ラインを超える長時間労働を続けるのは、労働者にとって酷です。
それだけでなく、過労死を招けば、会社にとっても結果的には不利益になります。
過労死ラインを超えた労働を強要されたら、拒否し、自分の身を守るべき。
間違っても、責任感から自主的に違法なサービス残業をしてはなりません。
健康を害し、ブラック企業に生命を奪われぬよう、残業代、労災認定の知識をつけてください。
ブラック企業に長時間の残業を強要され、過労死寸前なら、早めに弁護士に相談ください。
- 過労死ラインは、月80時間の残業が、目安となる
- 過労死ラインを超えた残業があり、労働者が死亡したら、過労死として労災認定される
- 過労死ラインを超えたときは、残業代請求や労災申請をし、危険を未然に防ぐ
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