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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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過労死ラインとは何時間?月80時間を超える残業が違法な理由を解説

厚生労働省の労災の認定基準では、「労働時間」が重要な考慮要素とされます。なかでも目に見えづらい脳・心臓疾患、精神障害に関する労災認定の基準とされるのが「過労死ライン」。

長時間労働による労災は、原因を明らかにしづらく、「労働時間」による客観的な基準として過労死ラインが設けられています。過労死ラインを超えて長く働き、脳や心臓、精神の病気になれば労災、それによって死に至る最悪のケースが労災による死亡、つまり「過労死」です。

相談者

過労死ラインは何時間?

弁護士

過労死ラインは80時間が1つの目安となります。

脳や心臓、精神の疾患は業務以外の理由でも起こり得ますが、一定ラインを超えた長時間労働が証明できれば労災認定される可能性が高まります。労働者の安全に配慮するのが会社の義務であり、過労でからだを壊せば、会社には管理を怠った責任があります。

今回は、過労死ラインを超えた労働の違法性について、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 過労死ラインは、月80時間の残業が、目安となる
  • 過労死ラインを超えた残業があり、労働者が死亡したら、過労死として労災認定される
  • 過労死ラインを超えたときは、残業代請求や労災申請をし、危険を未然に防ぐ

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

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過労死ラインとは

過労死ラインとは、健康障害を生じやすい労働時間として、労災を認定する基準となる時間を指します。過労死ラインを超える長時間労働があると、業務と疾病ないし死亡の因果関係があると判断され、労災認定されやすくなります。そもそも過労死は、業務を原因とした死亡のことで、過労死等防止対策推進法2条に次のように定義されます。

過労死等防止対策推進法2条(定義

この法律において「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。

過労死等死亡対策推進法(e-Gov法令検索)

過労死ラインは、脳・心臓疾患、精神障害に適用される、厚生労働省の定める労災認定の基準の目安です(詳細は「過労死ラインを超えると労災認定の基準を満たす」参照)。

過労死ラインを越えて働き続ければ、心身の故障や死亡には、労災の認定が受けられます。過労死に該当する疾患には、過労によって生じやすい次の症状が挙げられます。

  • 脳血管疾患
    脳出血、クモ膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症
  • 心臓疾患
    心筋梗塞、狭心症、心停止、解離性大動脈瘤
  • 精神疾患
    うつ病、適応障害

上記以外のものでも、業務に起因するといえるならば労災です。

そして、労災のなかでも、死亡という最悪の結果を招くのが「過労死」。適正な判断のため、目に見えない症状に起因する過労死の、客観的な目安として設けられた労働時間の基準が、過労死ラインです。

なお、過労死ラインは、労災認定の基準だけでなく、安全配慮義務違反の基準にもなるため、本解説の過労死ラインを超えて働き死亡した場合は、会社への慰謝料請求も可能です(労災と、安全配慮義務の基準はまったく同一ではないものの、裁判所では大いに参考にされます)。

過労死ラインを超えるほどの労働を強要されたら、労働環境の改善を求めるべき。違法な労働が続いたとき、死亡する前に早急な対応を要します。労働者を酷使する悪質な会社では、自発的な改善などされないおそれがあり、弁護士に依頼して警告したり、残業代請求したりといった対策を講じるのが適切です。

労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

過労死ラインは何時間?

過労死ラインは、これ以上に働くと過労死の危険が高まるとされる残業時間であり、月80時間残業が1つの目安とされます。その理由は次章「過労死ラインを超えると労災認定の基準を満たす」で詳述の通り、厚生労働省の労災認定基準が、月80時間残業を大きな分かれ目とするからです。

ただ、過労死ラインはあくまで目安で、80時間以内なら残業させてよいというわけでもなく、当然ながら健康と安全に配慮した適切な残業時間を設定すべきです。残業のストレスや負担は、業務の内容や個人のストレス耐性、年齢などによっても異なり、個別の配慮を要します。

ここでは「過労死ラインが何時間なのか」、言い換えると「何時間以上残業すると過労死の危険が高まり、労災認定がされやすくなるのか」を、4つの観点から説明します。

過労死ラインは月80時間が目安

過労死ラインは、月80時間の残業が1つの目安です。月80時間の残業だと、月20日出勤なら1日4時間の残業があることになります。

次章「過労死ラインを超えると労災認定の基準を満たす」の通り、脳・心臓疾患の労災認定の基準は、「1ヶ月100時間以上」又は「2~6ヶ月の平均が80時間を超える」とされ、1ヶ月80時間の残業のみではこの要件を満たさないものの、80時間を超えて残業が続けばいずれは労災となるリスクが高いです。いわば、労災認定の一歩手前の危険な状態です。

また、80時間を超えると、労働安全衛生法によって会社に次の義務が生じることも、80時間を超える残業の危険性を示しています。

なお、月80時間の残業があれば、必ず労災認定されるというわけではありません。あくまで、月80時間の残業があり発症したら、業務との因果関係が認められやすいということ。業務以外に理由があるケースでは、労災認定されないおそれもあります。

月100時間を超えると明らかに違法

80時間を超え、月100時間の残業があると、明らかに違法といえ、これによって生じた健康被害は労災認定される可能性が非常に高いです。

前述の通り、脳・心臓疾患の労災認定の基準が「1ヶ月100時間以上」又は「2~6ヶ月の平均が80時間を超える」とされ、単月で100時間の残業があればそれだけで労災であると認定されます。会社としても労働者としても、直ちに対処の必要な危険な状態です。

残業が月100時間を超える場合の違法性」の解説

過労死ライン以下でも長時間労働は危険

過労死ライン以下ならどれだけ残業させてもよいわけはありません。労働時間が長くなるほど、業務と死亡や疾病との因果関係が高まり、リスクがあるのは当然。月80時間残業は目安に過ぎず、残業は短いに越したことはありません。例えば、月80時間の残業が過労死ラインだといって、毎月79時間ずつ働かせるやり方が酷なのは明らかに理解できるでしょう。

もう少し安全なラインとしては、36協定の限度時間である「月45時間」を目安とすべきです。特別条項を付した上で例外的に年に6ヶ月のみといった要件を守れば、月45時間を超えて働かせることも可能ではあるものの、あくまでも例外的な扱いと考えるべきだからです。

36協定の限度時間」「36協定違反の罰則」の解説

年間の目安はないが配慮が必要

厚生労働省の労災認定基準に、時間外労働の年間の目安はありません。しかし、80時間が過労死ラインとして1つの目安だからといって年960時間(80時間×12ヶ月)働かせれば、明らかに残業が長すぎて違法です。36協定の上限によれば、原則として「月45時間、年360時間」が限度とされ、特別条項を付してもなお年720時間以内に残業を抑える必要があるからです。

長時間の残業のある月が継続するほど、睡眠時間や休息を確保できず、心身を休められず、疲労が蓄積していきます。この点でも、月80時間を超える残業がなかったとしても、不規則なシフトや継続的な長時間労働によって疲弊した事例などでは、労災認定が下される可能性は十分にあります。

年間休日の平均」の解説

過労死ラインを超えると労災認定の基準を満たす

前章で、過労死ラインは月80時間の残業が目安であると解説しました。

ただ、実際の労災認定の基準は、もう少し細かく判断されています。月80時間の残業を超えれば危ういのは当然ですが、労災認定を受けるには、厚生労働省による詳細な基準を理解する必要があります。専門知識による検討を要する場合、労働問題に精通した弁護士への相談が有益です。

過労死ラインを超えて労働を強要されたとき、起こりやすい症状ごとに基準が異なります。ここでは、脳・心臓疾患、精神障害について、厚生労働省の定める労災認定の基準を説明します。いずれも、基準を満たして死亡し、労災認定されれば、過労死となります。

2021年、約20年ぶりに、労災認定の基準が見直されました。

したがって、過労死ラインも、修正されたものといえます。2021年9月より、新たな基準での運用がなされています。

脳・心臓疾患の労災認定基準

脳・心臓疾患の場合、過労死ラインは80時間です。発症前2〜6ヶ月の平均で、月80時間を超える残業があると、脳・心臓疾患の発症と、業務との関連性が強いと判断されるからです。

ただし、発症前1ヶ月に100時間を超える残業があるときも、関連性が強いと判断されます。そのため、6ヶ月にわたり恒常的に残業がなくても、直近1ヶ月の残業が100時間を超えるほど長いと、それだけで過労死ラインを超えたと判断することができます。

なお、労働時間の他に、パワハラや重責な業務などがあると、更に労災と認定されやすくなります。

脳・心臓疾患の労災認定基準(厚生労働省)

精神障害の労災認定基準

精神障害が、労災と認定されるかどうかは、その心理的負荷の程度で判断されます。心理的負荷が「強」の場合に、労災と判断される傾向にあります。

長時間労働の観点から、心理的負荷が「強」とされるのは、例えば次のケースです。

  • 発病直前の1ヶ月におおむね160時間以上の残業をした場合
  • 発病直前の3週間におおむね120時間以上の残業をした場合
    →「特別な出来事」としての「極度の長時間労働」に該当
  • 発病直前の2ヶ月間連続して1月当たりおおむね120時間以上の残業をした場合
  • 発病直前の3ヶ月間連続して1月当たりおおむね100時間以上の残業をした場合
    →「出来事」としての長時間労働に該当
  • 転勤して新たな業務に従事し、その後月100時間程度の残業をした場合
    →他の出来事と関連し、恒常的長時間労働と認められる

なお、以上の労働時間の基準は、あくまで目安に過ぎません。これを下回る程度の労働時間によって精神障害になったときも、労災になる場合があります。また、労働時間以外に、セクハラパワハラなどのハラスメントといった違法行為があれば、必ずしも過労死ラインを超えた長時間労働でなくても、労災認定がおり、会社に慰謝料請求できる可能性があります。

心理的負荷による精神障害の労災認定基準(厚生労働省)

過労死ラインを超えると違法

次に、過労死ラインを超えることの違法性と、会社の責任について解説します。

過労死ラインを超えた残業は、違法の可能性が高いです。労災認定されるだけでなく、その違法性について、会社の責任を追及できます。放置したブラック企業には、制裁があるともいえるでしょう。

安全配慮義務違反がある

過労死ラインを超えるほど労働させることは、安全とはいえません。会社は、働く人の健康と安全を守る義務があります(安全配慮義務)。したがって、過労死ラインを超えれば、安全配慮義務違反の違法があります。その責任は、会社への慰謝料をはじめ、損害賠償請求によって追及できます。

労災の慰謝料の相場」の解説

36協定の上限を超える

残業させるには、それがたとえ短い時間でも、36協定が必要です。そして、36協定に定められる時間には上限があります。具体的には、36協定の上限は、「月45時間、年360時間」が基本です。月80時間残業といった過労死ラインを超える労働が、36協定の上限を超えるのは明らかです。月45時間の残業を超えたところから、徐々に、労災認定がおりやすくなります。

36協定の限度時間」の解説

未払いの残業代が生じる

過労死ラインを超えるかどうかにかかわらず、残業代を払う義務が会社にはあります。月80時間残業など、長すぎる労働を放置する会社ほど、未払い残業代を生じさせる可能性が高いもの。残業代を払わないのは、労働基準法違反であり、違法なのは明らかです。未払いのまま放置する場合には、遅延損害金付加金といったペナルティもあります。

残業代の計算方法」の解説

過労死ラインを超える長時間労働への対処法

過労死ラインを超えた残業が継続するということは、「これ以上無理をすると、からだを壊す」という行政からの警告だと考えたほうがよいでしょう。どれほど仕事が好きでも、これ以上働き続けてはいけません。

長時間労働を抑制するのは、会社の義務であり、残業削減や勤怠管理を適切に整備し、労働時間に偏重しない人事評価制度を導入するといった工夫をすべきです。しかし、悪質な会社だと対応は誠実でないことが多く、労働者側でも過重労働が発生してしまわないよう、できる対策はすべきです。

家族が止める

家族が、過労死ラインを超えるほど働きすぎていたら、止めるべきです。同居の家族なら、何時に帰宅するかなどで、労働時間の長さは把握できるはずです。

体調や健康状態など、家族のストレスの度合いも確認しましょう。責任感の強い人ほど、仕事を続けてしまいがちです。「退職になっても、気にしない」と家族が伝えてあげれば、大きな助けになります。家族が働きすぎなとき、万が一の事態を避けるため、過労死の前兆に敏感になってください。

過労死の前兆」の解説

医師のチェックを受ける

あなたが気付かなくても、もうからだは悲鳴をあげているかもしれません。これ以上働き続けられるかどうかは、医師の意見に従うようにしてください。危ないと感じたら、まずは医師に、健康状態をチェックしてもらいましょう。脳・心臓疾患はもちろん、精神疾患でも、診断書をもらえるか、よく相談してください。

労働安全衛生法で義務化されたストレスチェックを活用するのもお勧めです。

弁護士に警告してもらう

過労死ラインを超える労働に意見しても、聞いてくれないならブラック企業です。このとき、悪質な会社に対しては、弁護士から警告を発してもらいましょう。会社が労災認定に協力しないときは、労災申請の手続きも、専門家である弁護士に依頼してサポートしてもらうことができます。安全配慮義務違反に基づき、慰謝料を請求してもらうことも可能です。

労働基準監督署に相談する

過労死を含めた労災の問題は、労働基準監督署に相談すべき事案です。

生命に関わるほどの深刻なケースなら、労働基準監督署も速やかに動いてくれます。会社に、指導、是正勧告してくれ、違法状態の改善が期待できます。

労働基準監督署が動かないときの対処法」の解説

残業代を請求する

過労死ラインを超える労働を強要し、更に残業代も払わないのは相当悪質です。しかし、残業が長いとき、対価を十分払えば、人件費もかなり高くなります。そのため、長時間労働を気にしない会社ほど、残業代を払ってくれない傾向にあります。

残業代の未払いは違法です。なので、残業代を請求することで、長時間労働を止められるケースもあります。まずは内容証明で請求書を送り、交渉での解決を目指しましょう。話し合いで解決できないときは、労働審判、裁判に訴える方法も有効です。過労死ラインを超える労働で、出席できないほど弱っていても、弁護士に代理してもらえます。

残業代請求の流れ

残業代請求に強い弁護士への無料相談」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、過労死ラインの違法性を解説しました。

過労死ラインを超える長時間労働を続けるのは労働者にとって酷です。そして、厚生労働省による脳・心疾患ないし精神障害の労災基準を読み解くと、過労死ラインは月80時間の残業が1つの目安。つまり、80時間以上の残業をした従業員が死亡してしまったら、それは業務が原因の過労死の可能性が高いわけです。

過労死ラインを超えた労働を強要されたら、拒否し、自分の身を守るべき。間違っても、責任感から自主的に違法なサービス残業をしてはなりません。健康を害し、ブラック企業に生命を奪われぬよう、残業代、労災認定の知識をつけましょう。

ブラック企業に長時間の残業を強要され、過労死寸前なら、早めに弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • 過労死ラインは、月80時間の残業が、目安となる
  • 過労死ラインを超えた残業があり、労働者が死亡したら、過労死として労災認定される
  • 過労死ラインを超えたときは、残業代請求や労災申請をし、危険を未然に防ぐ

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