社会問題しているパワハラは、人の心に大きな傷跡を残します。
パワハラが原因でうつ病になり、働けなくなる方も少なくありません。
身体的な暴力はもちろん、「言葉の暴力」でも、精神的な苦痛は計り知れません。
パワハラで、うつ病など精神疾患になったとき、労災の認定を受けられます。
パワハラによるうつなら、労災(業務災害)だからです。
労災認定されれば、保険の給付がもらえ、解雇が禁止されるなど、さまざまな保護があります。
正しい救済を得るには、その要件を知る必要があります。
しかし、精神疾患のダメージは、外からは見えづらいもの。
パワハラが原因だと、因果関係もあいまいで、労災認定されない危険もあります。
悪質な会社ほど「人間関係による病気は、労災ではない」と反論してくるでしょう。
今回は、パワハラが理由でうつになってしまった方の労災認定について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- パワハラによる精神障害は、労災認定を受けられるが、厳しい要件がある
- パワハラの強いストレスが、うつ病、適応障害などの精神疾患につながっている必要あり
- パワハラで労災認定を得やすくするには、会社や弁護士のサポートを受ける
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【パワハラの基本】
【パワハラの証拠】
【さまざまな種類のパワハラ】
- ブラック上司にありがちなパワハラ
- 資格ハラスメント
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【ケース別パワハラの対応】
【パワハラの相談】
【加害者側の対応】
パワハラによるうつ病は労災認定が受けられる
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労災とは、業務に起因する事故(業務災害)によって起こる病気やケガのことです。
パワハラは、職場の優越的な地位を利用した嫌がらせであり、業務に関連しています。
上司と部下といった上下関係など、職場内での優位性を利用してされるから。
もちろんパワハラは、業務上の必要性がまったくありませんが、業務の危険に含まれます。
パワハラの被害にあうと、大きな精神的、肉体的ダメージを受けてしまいます。
したがって、パワハラによって生じた被害は、労災(業務災害)となるのが基本です。
パワハラの労災認定は、増加傾向にあります。
令和2年度「過労死等の労災補償状況」(厚生労働省)によれば、精神障害に関する事案の労災補償状況について、請求件数2051件中、支給決定件数は608件。
そのうち、出来事別の支給件数は「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が99件と、最多となっています。
★労災の法律解説まとめ
【労災申請と労災認定】
【労災と休職】
【過労死】
【さまざまなケースの労災】
【労災の責任】
パワハラが労災認定される基準
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次に、どんな条件を満たせば、パワハラが労災認定されるか、パワハラの労災認定基準を解説します。
パワハラのなかでも、強度のパワハラや、強度とまではいえなくても継続的になされたパワハラがあり、その結果として起こったうつ病などの精神疾患は、パワハラが原因の労災だとされます。
うつ病などの精神疾患は、原因が見えにくいもの。
そのため、要件を満たせば「パワハラが原因の労災だ」と認定されるよう、基準が設けられたのです。
パワハラによる精神的な被害について、労災認定を受けるための要件は、次の3つです。
以下、パワハラの労災認定基準の各要件について、順に解説します。
なお、精神障害の労災認定基準は、令和2年6月より改正されました。
詳しくは、次の資料をご覧ください。
精神疾患を発症したこと
パワハラによる病で、労災認定を受けるには、労働者が精神疾患を発症している必要があります。
そして、パワハラによる労災認定の対象となる疾患は、一定のものに限られています。
最も典型的な例が、うつ病です。
それ以外にも、適応障害や急性ストレス反応など、さまざまな精神疾患が含まれます。
労災認定の対象となる疾患は、国際疾病分類第10回修正(ICD-10)第5章「精神および行動の障害」に分類される、以下の精神疾患が基本となります。
F0 症状性を含む器質性精神障害F1 精神作用物質使用による精神および行動の障害
F2 精神分裂病、分裂病型障害および妄想性障害
F3 気分[感情]障害
F4 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
F5 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
F6 成人の人格および行動の障害
F7 知的障害(精神遅滞)
F8 心理的発達の障害
F9 小児〈児童〉期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害、詳細不詳の精神障害
国際疾病分類第10回修正(ICD-10)
そして、これらの症状があることを、医師によって、医学的に証明してもらう必要があります。
発症前6か月間に、業務による強い心理的負担が認められること
パワハラによる精神疾患が、労災認定を受けるには、発症前6ヶ月間に、業務による強い心理的負担が認められることが必要となります。
まず、業務により強いストレスを受けたら、原則として労災認定されます。
強いストレスといえる例が、精神障害の労災認定基準に次のとおり定められています。
- 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
- 上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
- 上司等による人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない精神的攻撃が執拗に行われた場合
これにあたらない中程度のストレスでも、会社が適切に対応しないなら、労災認定される可能性があります。
例えば、社内のパワハラの相談窓口に連絡しても、パワハラが止まないケースです。
パワハラによる心理的負担は、「言葉の暴力」でも大きいもの。
その際、心理的負担が強いかどうかは、パワハラの程度や回数も考慮して判断されます。
一方で、パワハラにあたらない指導なら、たとえストレスを感じても労災認定されません。
上司からの叱責に、指導の目的があり、方法も相当ならば、労災とはいえないからです。
パワハラと指導の違いは、次に解説しています。
業務以外の心理的負担、個体側の要因により発病とは認められないこと
パワハラで労災認定されるには、発症した精神障害が「パワハラを原因としている」必要があります。
パワハラ以外の原因で発病したなら、労災認定が受けられないのは当然です。
つまり、「業務以外の心理的負担」と、「個体側の要因」によるケースは、労災認定されません。
これにより、労災認定を得られないのは、例えば次のケース。
【業務以外の心理的負担】
- 離婚など、家族の問題
- 家族の病気や危篤、死亡
- 多額の財産の損失
- 天災
- 犯罪被害
【個体側の要因】
- 過去に精神疾患が再発した
- アルコール依存症
- 薬物依存症
このような労働者が精神障害を発症しても、パワハラが直接の原因とはいえないケースもあります。
労災は、業務で発生した傷病のみを対象としています。
そのため、労災認定されるには、業務とは関係なストレスが原因ではないことが要件となります。
労災認定の要件について、次の解説を参考にしてください。
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2017/09/dansei-kangaeru-300x169.jpg)
パワハラで労災認定されれば、解雇が禁止される
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うつ病、適応障害になってしまうほどのパワハラを受ける職場は、ブラック企業でしょう。
パワハラの末に、退職勧奨されて辞めざるをえなかったり、解雇されたりする危険もあります。
このとき、パワハラによる精神障害について労災の認定が得られれば、解雇を避けられます。
労災の療養による休業中と、その後30日間は、法律による解雇制限があるからです(労働基準法19条1項)。
この点でも、パワハラの被害を受けた方が、労災認定を得る努力をする意味があります。
「労災の休業中の解雇の違法性」の解説
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2024/05/28451920_s-1-300x169.jpg)
なお、たとえ労災認定が得られなくても、解雇は、正当な理由がなければ無効です。
解雇権濫用法理により、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でなければ違法な「不当解雇」だからです。
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2024/03/kaikokenrannyouhouri.jpg)
パワハラによるうつ病かどうか不明確でも、少なくとも、休職による保護をすべきです。
就業規則に定められた休職にできる場合にあたるなら、まずは休職にして様子見するのが適切。
その後、休職期間が満了してもなお復職できないときにはじめて、退職させられる場合があるのです。
また、一旦休職となっても、その後に労災認定が下りれば、労災に切り替わります。
このとき、労災の支給額と、すでにもらった傷病手当金は調整されます。
うつ病による休職・復職の注意点は、次の解説をご覧ください。
パワハラで労災認定を得やすくするための注意点
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2018/09/sunadokei-1.jpg)
最後に、パワハラ被害にあい精神疾患となったとき、労災認定を得やすくするための注意点を解説します。
残念ながら、パワハラ被害にあっていても、労災認定を受けられずにいる人もいます。
労災の要件は厳しく、しっかり準備しなければ、誤った判断が下ることもあります。
長時間労働を主張する
言葉による暴力など、肉体的なダメージがみえないパワハラでも、労災認定される可能性があります。
このとき、労働者の被害としては、精神障害ということになります。
労災認定の可能性を上げるため、パワハラ以外にも業務によるストレスがあるなら、指摘すべきです。
わかりやすいのが、パワハラとあわせて長時間労働があるケースです。
長時間労働は、タイムカードなど残業の証拠が、パワハラより集めやすく、証明しやすいもの。
軽度のパワハラなど、それだけで労災認定に十分でないとされるおそれがあるとき、有効な手です。
労災申請を会社に協力してもらう
「パワハラによってうつ病になったかどうか」は、見た目から判断するのは難しいもの。
しかし、会社が協力的に、労災だと認めてくれるなら、労災認定が得やすくなります。
それが、労災申請の際の、事業主証明です。
労災申請では、事故状況について記載し、事業主の証明を得ます。
この際、会社が「パワハラによるうつ病は労災だ」と認めてくれるなら、相当有効です。
ただし、次章のとおり、慰謝料による責任追及をおそれ、事業主証明に協力しないおそれもあります。
労災認定に会社が協力しないときの対応は、次に解説します。
会社に慰謝料請求する
パワハラによるうつ病が労災認定されたら、あわせて会社に慰謝料請求できます。
会社は、労働者を安全に働かせる義務(安全配慮義務)があるためです。
労災となるパワハラを防止せず、うつ病にさせてしまえば、安全配慮義務違反は明らかです。
労災は、精神的苦痛についてはカバーせず、慰謝料は会社に請求する必要があります。
なお、労災認定と、安全配慮義務違反は、必ずしも同じ判断基準ではありません。
パワハラによるうつ病で、労災認定が下りかなくしても、安全配慮義務違反の責任は追及できます。
労災の慰謝料請求について、次に解説しています。
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2017/10/keisan-300x169.jpg)
まとめ
![弁護士法人浅野総合法律事務所](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2022/03/asanosougou-zentai.jpg)
今回は、パワハラを理由に、うつ病など精神疾患になった労働者の救済について解説しました。
どんなケースで労災認定を受けられるかを知り、損せず保険給付を受けとってください。
パワハラの被害にあって病気になったのに、労災と認められないのは最悪です。
労災申請から弁護士に依頼すれば、証拠集めのタイミングからサポートしてもらえます。
精神疾患の原因がパワハラだと、証拠により証明し、有利な書類を作成できます。
スムーズに労災認定を受けるため、パワハラ被害にあったときこそ、弁護士に相談ください。
- パワハラによる精神障害は、労災認定を受けられるが、厳しい要件がある
- パワハラの強いストレスが、うつ病、適応障害などの精神疾患につながっている必要あり
- パワハラで労災認定を得やすくするには、会社や弁護士のサポートを受ける
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【さまざまな種類のパワハラ】
- ブラック上司にありがちなパワハラ
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【加害者側の対応】