病気になってしまったため、会社の許可をもらって休職ができたとしても、復職を認めてもらえないという法律相談について解説します。
休職制度がどのような内容となっているかは、会社の就業規則に書いてあることが一般的です。会社のやり方に納得がいかない場合には、まずは就業規則を見てみましょう。
就業規則を見ることができない会社はブラック企業です。労働基準法で、「1事業所あたり10人」の労働者(従業員)がいる場合、就業規則を作成し、労働者(従業員)に閲覧させることが会社の義務となります。
一般的な休職制度では、休職をしたあと、復職ができない場合には、「退職」もしくは「解雇」となるとされています。
そのため、会社は、この休職制度を悪用し、会社に戻ってきてほしくない社員に対して「復職を認めない!」というやり方をするわけです。
では、会社が、休職後の復職を認めてくれないとき、労働者(社員)側としては、どのように対応したらよいのでしょうか。注意しておくべきポイントはどこでしょうか。
復職を認めてくれないブラック企業に対する対応を、労働問題に強い弁護士がまとめました。
目次
1. 「休職」と「復職」とは?
「休職」とは、うつ病、メンタルヘルス、その他の理由によって、一定期間の間、会社の業務ができない場合に、労働者(従業員)に対してまとまったお休みを与えるための制度です。
休職には、その理由に応じて、次のようなさまざまな種類があります。
- 私傷病休職
- 起訴休職
- 自己都合休職
- 組合専従休職
- 出向休職
どのような理由のケースで、休職をすることができるかは、会社によって異なります。詳しくは、会社の就業規則に書いてあることが一般的ですので、就業規則を見せてもらいましょう。
1事業所あたり10人以上の労働者がいるにもかかわらず、
- 就業規則がない。
- 就業規則を見ることができない。
もしくは、
という会社は、労働基準法に違反している疑いがあります。
決められた休職期間が終わったときに、会社に戻ってくることを「復職」といいます。
2. 休職しても、復職できることが原則!
今回の解説は、「休職後、会社が復職を認めてくれなかったら?」という内容ですが、まず大前提として、休職をしても、普通は復職できることが原則です。
むしろ、会社は、休職という制度を用意している以上、休職をしても、復職ができるよう、社員をサポートしなければなりません。
休職は、会社にもどってきてほしくない労働者(従業員)に対する「厄介払い」ではないからです。
したがって、まずは、「休職をしても、復職できることが原則である。」ということを、しっかり理解しておいてください。
「復職を認めないようなブラック企業ではないか?」と不安、心配がある方は、休職期間が終わるよりも前に、会社に問い合わせ、復職に向けた話し合いをしておくとよいでしょう。
会社との交渉を、自分だけで進めることが精神的につらい方は、労働問題に強い弁護士へ、お気軽に法律相談ください。
3. 休職後、復職を認めてくれない会社への対応策
ここまでお読みいただければ、休職をすることに対する大きな不安は解消できたのではないでしょうか。
休職をしたとしても、きちんと療養を進め、症状がよくなれば、復職できるのが原則だからです。
しかし、ブラック企業の中には、会社が「戻ってきてほしくない。」と考える労働者(社員)に対して、復職を認めないことによって、会社から追い出してしまおうと考える会社もあります。
冒頭で解説したとおり、休職後、復職が認めてもらえなければ、就業規則のルールにしたがって、「退職」もしくは「解雇」となってしまうからです。
休職後、復職を認めてくれない会社への対応策は、次のとおりです。
3.1. 復職できる理由をしっかり理解しよう
繰り返し解説していますとおり、休職をしたとしても、しっかりと療養し、症状が軽くなっていれば、復職できるのがむしろ原則です。
法律上、どのような理由で復職ができるのか、しっかり理解し、会社に説明できるようにしておきましょう。
「休職」とは、永遠のお休みではなく、休職理由がなくなるまでしか続きません。
したがって、まず、「休職の理由がなくなったこと」が復職の理由となります。
これは、裁判例では、通常の業務を行うことができるようになったことであるとされています。主治医(医師)の診断書などの証拠によって、業務が遂行できることを証明し、会社に復職を求めましょう。
3.2. 契約内容によっては、元の業務ができなくても復職できる
では、休職の理由となったケガや病気が、完全に治っていなければ復職は絶対にできないかというと、かならずしもそうではありません。
総合職の正社員として雇用されている場合など、業務内容を特定されていない場合には、元の業務ができなくても復職できるケースもあります。
つまり、より軽い業務が会社にある場合には、会社はその軽い業務を与えて、復職を認めてあげなければならないと認めた裁判例があるからです。
「元の業務が完全にはできない。」という場合に、どの程度回復していれば「復職を認めるべきか。」、言いかえれば、「退職しなくてもよいか。」は、ケースバイケースの微妙な判断となります。
お悩みのケースで、復職できるかどうか、判断にお困りの方は、労働問題に強い弁護士へ、お気軽に法律相談ください。
3.3. 「ブラック産業医」に注意!
「休職から復職できるかどうか。」という判断は、法律的な判断であり、最終的には裁判官が決定することとなります。
ただ、休職の理由がケガや病気、うつ病やメンタルヘルスなどであった場合には、この判断の際には、どうしても医師による医学的判断が大きな影響を持ちます。
労働者の通院していた「主治医」は、「復職できる。」という判断をしている場合であっても、会社が決めた「産業医」が、「復職できない。」という判断をする場合があります。
この場合、会社は、産業医の言い分を聞いて、復職を認めてくれないおそれがあります。
そして、更には、産業医に会社の意見を強く伝えることによって、産業医に「復職できない。」という判断を出すよう指示するような「ブラック産業医」の問題すらあります。
「1事業場あたり50人」以上の労働者を雇っている会社は、産業医を置くことが義務とされています。
したがって、50人以上はたらいている事業場で、産業医がいない場合には、法律違反の疑いが強いといえます。
なお、産業医を置く義務がない場合であっても、会社の指定する「指定医」の診断を受けるよう指示されるケースがあります。
指定医の診断の場合であっても、会社の強い影響を受ける可能性がある意思であるという点で、産業医について解説したことがあてはまります。
3.4. 退職強要は拒否すること!
「復職を認めない。」という不当な取り扱いをする場合に、あわせて労働者に対して、退職をするよう強要するケースも珍しくありません。
ここまでお読み頂ければご理解いただけるとおり、会社に復職を認めてもらえないとしても、むしろ会社の「復職を認めない。」という判断の方が違法であるケースも多くあります。
そして、その場合には、労働審判、訴訟などの方法で、裁判所で争うこととなります。
したがって、退職を強要されたとしても、自主的に退職する必要はありません。退職強要は違法ですから、退職の強要があった場合には、退職の意思を示してしまうよりも「事前に」、弁護士にご相談ください。
4. 復職を認めない会社への反論
最後に、どれほど話し合ってもまったく復職を認めてくれない会社の理屈に対して、労働者ができる反論をまとめておきます。
いずれも、ご相談の多いケースで役立つ可能性の高い反論ですので、しっかり理解しておきましょう。
なお、復職できるかどうかを決める、「会社の業務を遂行できるかどうか。」という判断基準は、会社や業務の内容によって異なります。
というのも、会社が労働者(あなた)に任せていた業務は、ケースバイケースだからです。
したがって、「復職することができる。」「復職を認めるべきである。」と会社に対して主張、反論するときは、会社の業務内容を、今まで以上によく理解しなければいけません。
4.1. 休職制度を負い目に感じる必要はない
「休職して会社に迷惑をかけた。」という負い目からか、復職を認めてもらえずに強く退職強要をされると、つい退職の意思表示をしてしまう方も珍しくありません。
しかし、休職制度が、就業規則において会社の制度として用意されている以上、休職制度を利用したことを、負い目に感じる必要はありません。
むしろ、長時間労働、サービス残業、パワハラなどが原因でうつ病になった場合などには、本来であれば、休職ではなく「労災」とすべきであった可能性もあります。
4.2. 復職後に通院をしてもよい
「通院をする必要が全くなくならなければ復職できない。」というわけではありません。
通常どおり業務が遂行できる状態にまで回復をすれば、会社は復職を認めるべきであるといえます。
そして、業務時間中に、会社の業務を通常どおりこなせるのであれば、復職したあとも通院を続けることは構いません。
むしろ、うつ病や適応障害など、メンタルヘルスの問題では、回復は徐々に、長い目で見なければならず、すぐに通院をやめることができないケースの方が多いといえます。
5. まとめ
休職となってしまったことをいいことに、復職をみとめず、退職させたり、解雇としたりというブラック企業の法律相談が相次いています。
ブラック企業によって、復職を認めてもらえないという事態におちいると、どうしてよいのかわからなくなってしまう労働者の方が多いようです。
しかし、「休職をしても、復職できることが原則である。」という大原則をしっかり理解してください。復職ができず「退職」、「解雇」となるのは、むしろ例外的なケースとお考えください。
裁判例でも、退職や解雇などとせず、復職をさせるべきであると判断されたケースが多くあります。
むしろ、ブラック企業の中には、戻ってきてほしくない従業員や、問題社員扱いしている社員に対し、休職制度を利用して会社から追い出そうとする会社すらあります。
休職後に復職をすることができなくてお悩みの労働者の方は、労働問題に強い弁護士へ、お気軽に法律相談ください。