病気で体調が悪化し、思うように仕事ができないことは誰しもあります。
決して、本人の怠慢や努力不足ではないにもかかわらず、欠勤や業務量の調整が続いたことを理由に、病気を理由としたハラスメントを受けてしまうケースは少なくありません。
社長やる気がないなら、無理して来なくてもいいよ
社長体調が悪いと周りに迷惑だから辞めたらどうか
このような心無い発言が典型例です。病気で十分に働けないと、労働者自身が最も悔しく、不安を感じるはずです。追い打ちをかけるハラスメントがあると、ますます症状が悪化し、職場復帰を断念せざるを得なくなります。
病気を理由とした不当な言動は、内容や状況によっては違法な「ハラスメント」に該当する可能性があります。仮に病気がきっかけだとしても、人格否定や退職強要は許されません。違法なハラスメントとなる場合、慰謝料請求などの法的措置を講じることが可能です。
今回は、病気を理由としたハラスメントへの具体的な対処法と注意点について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 病気を理由としたハラスメントは、違法なパワハラとなる可能性が高い
- ハラスメントの違法性は、病気の内容、会社の対応の両面で検討する
- ハラスメントで退職を余儀なくされたら失業保険・傷病手当金を受け取る
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病気とハラスメントの関係とは

はじめに、病気とハラスメントに密接な関係があることと、よくあるハラスメントの具体例について解説します。
病気はハラスメントの理由になりやすい
病気になった社員が十分に能力を発揮できないのは当然です。
本来病気が原因でも、問題ある会社ほど社員の能力や意欲が原因であると扱い、「問題のある社員」と評価するなど、ハラスメントを繰り返す例が多く見られます。
不摂生が原因なら個人の責任でしょうが、長年の持病や生まれつきの障害、原因不明の難病など、努力では避けられない病気もあります。回避できない病気を理由に、叱責や罵倒を受けるのは辛いでしょう。このような行為は問題があり、ハラスメント、つまり嫌がらせに当たります。
病気を理由としたハラスメントの具体例
病気を理由としたハラスメントの具体例は、次の通りです。
【体調不良・病気を理由に欠勤や休みを責められる】
- 「また休み?」「社会人失格だ」と叱責される。
- 診断書があっても仮病・詐病を疑われる。
- 業務上必要な範囲を超えて、休みの理由を執拗に質問する。
【病気や体調不良を職場で言いふらされる】
- 本人の許可なく病歴を職場でバラす(プライバシー侵害)。
- 「メンタルが弱い」と噂を広められる(名誉毀損)。
- 公然と「どうせまた入院でしょ」と発言される。
【病気に配慮のない働かせ方をする】
- 体調不良の出勤強要、入院中も仕事をさせるなど。
- 「体調不良なら無理させられない」と言って仕事を取り上げる。
- 病気療養のための有給休暇を取得できない。
【病気を理由に退職を迫られる】
- 「仕事をしないなら辞めるしかない」と言われる。
- 「病気の人がいると職場に迷惑」と遠回しに退職を促される。
- 労災からの復帰を急かされる。
病気についての配慮がなく、不当な扱いをされる場合、その裏には嫌がらせの意図があると評価できます。直接の加害者の責任はもちろん、抑止しなかった会社に対しても健康や安全に配慮すべき義務(安全配慮義務)の違反の責任を追及すべきケースもあります。
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病気を理由としたハラスメントは違法

病気を理由としたハラスメントは違法です。
病気で働けない社員に対し、会社は一定の配慮をすべきであり、病気になった原因がどこにあるかにかかわらず、嫌がらせは許されません。
会社が本来、病気の社員に行うべき配慮
病気を理由としたハラスメントが違法となり得るのは、会社が本来、次のような適切な配慮をすべきだからです。
有給休暇を消化する
有給休暇は、一定の要件を満たす社員への恩恵として付与されます。そのため、たとえ病気が理由でも、有給休暇が残っているなら先に消化すべきです。これまでの貢献があるなら、病気で迷惑をかけたとしても、すぐに会社を辞める必要はありません。
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休職命令を発する
休職制度があるときは、休職命令を下して休ませるのが通例です。
一定期間休めば、回復して復帰できるような軽度の体調不良なら、すぐに会社を辞める必要はありません。休職は、私傷病(私生活上の理由によるケガや病気)で就労できない場合に、解雇を一定期間猶予する制度です
休職から復帰する
休職期間の満了時に、仕事ができる状態に回復していれば、復職可能です(なお、復職不能の場合には就業規則に基づいて当然退職または解雇となります)。会社には安全配慮義務があるため、復職後しばらくの間は作業を軽減したり残業を免除したりといった配慮が必要となります。
しかし、病気の社員にハラスメントをする悪質な会社は、上記の手続きが踏まれることはなく、特に、うつ病や適応障害といった精神疾患は敵視され、「問題のある社員」という扱いを受けてハラスメントの犠牲になりやすい傾向があります。
病気を理由としたハラスメントの違法性の判断基準
病気を理由としたハラスメントの違法性について判断する際は、次の要素をご確認ください。
病気でも仕事ができる状態か
薬を飲むなどして症状を抑え、就労できる状態であれば労働者に落ち度はありません。それでもなお、「病気で仕事に支障がある」と叱責されるのは、違法なハラスメントです。
- 腰痛を理由に事務職を希望したが、営業職に異動させられた。
- アルバイトで業務時間を調整しているのに、正社員と同等の成果を求められた。
- 軽い頭痛があるが平均的な能力・成果は示せている。
- 他の社員なら許される遅刻やミスについて厳しい処分を受けた。
担当する業務の範囲は、労働契約の内容として定められています。「業務に問題がある」という評価を下すのであれば、それは「他の社員と比べて成果が低い」というだけでなく、「労働契約の内容に従った十分な責任が果たせていない」ことを理由としなければなりません。
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病気の原因は労使どちらにあるか
病気の原因が会社側にある場合、それは労災(業務災害)となります。そのため、病気を理由に不利益な扱いを受けるいわれはなく、違法なハラスメントです。

業務に起因する病気が労災となるケースには、劣悪な職場環境によって頭痛やめまいなどの体調不良に見舞われたケースだけでなく、長時間労働によるうつ病や、上司からのセクハラ・パワハラによる適応障害なども含まれます。
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医師の診断書に沿った対応か
病気についての判断は、医学的な判断であり、医師の診断に従うべきです。
したがって、病気になった労働者に対し、社内でどのような処遇をするかについても、医師による医学的な判断(具体的には診断書の記載)に沿った対応をすべきです。合理的な理由なく医師の診断書に反した対応をされたなら、違法なハラスメントを疑いましょう。
就業規則に休職制度があるか
就業規則に整備された制度を使わない会社も、違法なハラスメントの疑いがあります。
典型例として、休職制度があるのに使えなかったり、休職したら復職させてもらえなかったりといった対応は、いずれも違法なハラスメントの可能性が高いです。他の社員は問題なく休職できるのに自分だけ狙い撃ち的に休めないなら、嫌がらせの意図は明らかです。
また、休職申請時の次のような言動も、ハラスメントであることを基礎づけます。
- 「病気がつらいなら早く辞めろ」と言われた。
- 「今忙しい時期なので、休職されたら困る」と言われた。
- 「病気で働けなそうなので戻ってこなくてよい」と言われ、辞めるしかなかった。
休職の前後は、病気になってしまった労働者が敵視され、退職に追い込まれやすいタイミングなので、特に注意を要します。
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病気を理由にハラスメントされた時の対応

次に、病気を理由にハラスメントを受けたときの、労働者側の具体的な対応を解説します。
ハラスメントの証拠を集める
病気を理由としたハラスメントの多くは、パワハラ発言となります。
パワハラは、職場内の優越的な立場を利用した嫌がらせであり、損害賠償請求などの責任追及をする際には、客観的な証拠を準備する必要があります。例えば、次のような記録を証拠として活用することができます。
- メールや社内チャットで病気に言及する発言
- 業務連絡を装った圧力や嫌味の文面
- 病気や欠勤について言及したメッセージのスクリーンショット
- 病気への侮辱的な発言の録音
- ハラスメントの経緯を記載した時系列メモ
- 病気や体調不良の診断書(特に、ハラスメントにより症状が悪化したことが分かる記載)
病気を理由としたハラスメントは、基本的に発言によるものが多く、突発的に起こるのが通常です。そのため、証拠集めを常に意識しておく必要があり、病気に言及する発言が日常化している場合は、録音の準備を怠らないようにしてください。
「パワハラの証拠」の解説

安全配慮義務違反の責任を追及する
会社の配慮が足りずハラスメントを防止できなかった場合、加害者個人だけでなく会社の責任も追及することができます。責任追及の方法は、安全配慮義務違反もしくは不法行為の使用者責任(民法715条)を理由とした慰謝料の請求です。
裁判例でも、精神疾患の既往歴のある職員からパワハラの訴えがあった場合、会社は事実を調査し、配置転換などの措置を講じることで、うつ病の悪化を防ぐ配慮義務があると判断した例があります(東京高裁平成29年10月26日判決)。
病気は、プライバシーに関わる重要な情報なので、伝え方には慎重になるべきです。とはいえ、職場において配慮が必要な病気であれば、会社は、管理職などに対して、必要な範囲で情報共有をしなければなりません。
病気を前提に雇用される人もいて、不当な処遇が特に問題視されやすいです(例:持病を理由にアルバイトとして業務量を調整している、障害者雇用など)。会社は、周囲が不公平感を抱かないよう、制度や業務分担を説明する必要があります。上司にも理解させ、ハラスメントが起きないよう配慮するのは会社の責任です。
「安全配慮義務違反の損害賠償請求」の解説

休職させてもらえない場合の対応
病気を理由としたハラスメントの1つに、休職したいのにさせてもらえない問題があります。
このようなケースに直面したら、就業規則に休職制度があること、自分がその要件を満たすことを確認して、休職させてもらえるよう強く求めてください。
休職を拒否されたことで症状が悪化したのであれば、少なくともその後の病気の責任は、会社にあるといってよいでしょう。病気のハラスメントでこれ以上の仕事が難しいときは休まざるを得ませんが、会社に原因があるなら、労災申請への協力を求めるのが適切です。
「休職を拒否されたときの対応」の解説

復職させてもらえない場合の対応
次に、一旦休職できても、復職させてもらえない問題もあります。
病気を理由としたハラスメントで会社にいられなくされるなら、違法といってよいでしょう。このとき、医師の診断書を提出することによって「復職可能」の旨を証明し、復職させてもらえるよう求めるのが正しい対応です。
「復職させてもらえないときの対策」の解説

解雇された場合の対応
病気によるハラスメントの最たる例が、不当解雇の問題です。
病気が原因でも、業務に従事することができないと判断されると、「辞めてもらおう」と考えた会社から解雇されてしまうケースがあります。しかし、解雇は法的に厳しく制限されており、解雇権濫用法理によって、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合には、不当解雇として違法、無効となります(労働契約法16条)。

また、労災である場合には、その療養による休業中とその後30日間は、解雇が禁止されます(労働基準法19条1項)。病気による欠勤を理由とした解雇は、不当解雇となりやすいため、適切な対応について以下の解説もご覧ください。
「病気を理由にした解雇の対応」の解説

病気でハラスメントを受けて退職する際の注意点

最後に、病気でハラスメントを受けた労働者が理解すべき注意点を解説します。
残念ながら病気を理由に仕事をやめざるを得ないときでも、少しでも損失を抑えるために利用できる制度を知っておいてください。
失業保険を受け取る
雇用保険に加入し、一定の要件を満たす労働者は、退職後に失業保険を受給できます。
病気などやむを得ない理由で退職した場合は「特定理由離職者」にあたり、会社都合退職として、失業保険で有利な扱いを受けられます。このとき、給付制限期間(1ヶ月)はなく、待機期間(7日間)の経過後すぐに受給が開始されます。
「失業保険の手続きと条件」の解説

傷病手当金を受け取る
病気で会社を休み、収入を失ったときは、健康保険の傷病手当金を受給できます。
健康保険の被保険者で、労務不能が連続して3日間あるなどの要件を満たすと、最長1年6か月、給付を受けることができます。傷病手当金は、退職日前日までに連続3日以上の労務不能期間があれば、退職後も受給を続けることができます。
「退職後も傷病手当金を受給し続けるポイント」の解説

【まとめ】病気を理由とするハラスメント

今回は、病気を理由としたハラスメントの違法性と、適切な対応について解説しました。
病気になること自体、身体的にも精神的にも大きな負担を伴います。さらに職場で病気を理由に責められたり、退職を迫られたりといったハラスメント被害に遭えば、仕事を続ける気力を失ってしまう方も少なくありません。しかし、病気を理由とした不当な言動は、違法なハラスメントであり、決して我慢すべきものではありません。
病気によるハラスメントは違法となり、会社や加害者に対して慰謝料などの損害賠償を請求できる可能性があります。理不尽なハラスメントに耐えた末に退職を選ぶ前に、法的にどのような対応を取るべきかを知ることが重要です。
病気を理由とした違法なハラスメントの犠牲になってしまった場合には、早めに労働問題に精通した弁護士へご相談ください。
- 病気を理由としたハラスメントは、違法なパワハラとなる可能性が高い
- ハラスメントの違法性は、病気の内容、会社の対応の両面で検討する
- ハラスメントで退職を余儀なくされたら失業保険・傷病手当金を受け取る
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