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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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アカハラとは?大学におけるアカデミックハラスメントの事例と対策

アカハラは、近年問題視されるハラスメントの一種で、大学で起こるトラブルです。
大学は、教授と学生の身分の差が大きく、アカハラの起こりやすい場所です。

アカハラ被害者が、学内の地位を脅かされるのを怖がり、あきらめるケースもあります。
明らかにアカハラなのに、研究や将来のために致し方ないと言い聞かせ、ひたすら耐える方も少なくありません。

しかし、度を超えた心理的な負担は、いつか必ずしわ寄せがきます。
教授など、強い地位を持つ人ほど、悪気なくアカハラの加害者となってしまう例もあります。
自分の誤りを正せない人ほど、アカハラで訴えられる可能性が高く、紛争は長期化しがち
です。
最悪は、被害者に慰謝料を払わされたり、大学を辞めさせられたりする場合もあります。
軽い冗談で済むというのは勘違いで、事態を客観視し、丁寧に対応すべきです。

今回は、アカハラ(アカデミックハラスメント)の意味や事例、対策を、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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アカハラとは

アカハラは、学術機関の場で起こる、優越的な地位や権力を利用した嫌がらせです。
アカデミックハラスメントの略称であり、その典型例が、大学でのハラスメントです。

大学には、立場の異なる多くの人間が集まります。
そのなかには、指導する側と指導される側といった明確な身分の差があります。
教員と学生の身分の差は、一般の会社における上司と部下以上に、大きな力の格差を表します。
ハラスメントは地位や権力の差を利用したものなので、上下関係が大きいほど起こりやすいもの。
この点で、大学における教授と学生の間こそ、特にアカハラが発生しやすい環境
といえます。

大学でアカハラが起こる理由には、次の点があります。

  • 教授と学生の身分の格差が大きい
  • 教授が学生の進路に大きな影響を与える
  • 教授には、学生の進級や評価を決める大きな権限がある
  • 教授によるサポートを受けなければ学生の研究は進まない

もちろんアカハラは、典型的なケースである教授と学生の間以外にも、その他の教員(准教授、助教など)と学生の間や、教員間、教員以外の職員との間、学生間などでも起こる可能性があります。

いずれのアカハラも、他の類型と同じく、被害者の精神・身体に損害を与えます。
特に、学生が被害者だと、大切な学習・研究の機会が阻害され、将来に重大な影響を及ぼします。
内定先への就職を断念する、留年する、退学するといった最悪のケースもあります。

こうした事情から、アカハラは問題がこじれやすく、加害者・被害者いずれも、適切に対処しなければなりません。

労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説します。

大学で起こるアカハラの具体例

次に、アカハラの具体的な事例を解説します。
典型的なアカハラを理解し、知らずのうちにアカハラを受け、泣き寝入ることのないようにしましょう。

加害者となりうる教員側からしても、アカハラの具体例を知り、避けるようにしてください。

学習や研究を妨害するアカハラ

学生の本分は勉学にあり、これを妨げるのは嫌がらせ、つまり、ハラスメントです。
学習や研究を妨害する次の行為は、アカハラの具体例です。

  • 学習に必要となる机や椅子、実験機器を使わせない
  • 学習の場所を一人だけ隔離する
  • 学習や研究に必要となる書籍を使用させない
  • 学生を理由なく教室から追い出す
  • 研究室に入室させない
  • 研究テーマを与えない
  • 希望しない研究テーマを押し付ける
  • 無意味な学習、研究をするよう強制する
  • 研究費を強制的に徴収する
  • 研究のための出張を認めない
  • 学会への参加を拒否する

学習や研究を妨害するアカハラは、特に研究室内で起こりがちです。
専門性が高いほど、外部から口出ししづらく、閉鎖的でチェックが働きづらいからです。

教育や指導を放棄するアカハラ

学習ないし研究の場である大学では、教授など指導的な立場にある者は学生を指導すべきです。
教育や指導を放棄するのもまた、アカハラの具体例です。

  • 研究に必要なサポートをせず、放置する
  • 正当な理由なく授業をしない
  • 放任主義で「自分で考えろ」と突き放す
  • 講義での誤った回答を「無知だ」と笑いものにする
  • 学生からアドバイスを求められても全く指導しない
  • 研究の成果が出ない原因が全て学生にあると決めつける
  • 実験の目的を知らせず作業のみを押し付ける
  • 論文の添削指導をしない
  • 特定の学生をターゲットにして指導を拒否する

積極的な嫌がらせ行為ではないため見逃しがちですが、消極的な行為(不作為)もまたアカハラに該当します。

アイデアの盗用や研究成果の収奪

大学は、研究機関であり、研究成果の奪い合いはアカハラにつながります。
指導者の立場を悪用し、アイディアや研究成果が横取りされるアカハラはよく起こります
嫌がらせというだけでなく、論文の著作権など、他の法律にも絡む問題に発展します。
深刻なケースは、学問における不正ともなります。

  • 執筆者でない教授を、論文の第一著者とするよう指示される
  • 論文の著者の順番を勝手に変更される
  • 研究の成果に貢献した学生の名前を載せない
  • 未発表の論文を盗用して発表される
  • 第一著者となるべき研究者に「第一著者を要求しない」という念書を書かせる
  • 学生のアイディアであることを隠し、こっそり論文を書く
  • 単位を与えることを条件に、論文の共著者に教授の名前を入れさせる

学生の立場だと、指導を受ける必要があるために我慢してしまうケースがよくあります。
しかし、たとえ学生でも、研究主体として実績が認められる必要があります。

単位取得や卒業・修了に関するアカハラ

大学における単位取得は、教員の裁量の余地が大きいものです。
そのため、単位取得に関わるアカハラは、非常によく起こります。

  • 教授から気に入られていないことが理由で単位を与えられない
  • 単位を取得させない理由を説明してもらえない
  • 学期の初めから「単位をあげない」と明言される
  • 他の同期と同程度の点数なのに、自分だけ単位を与えられない

必要な単位が得られないと進級できず、卒業、修了できないケースもあります。
大学の教員は独立性が強く、他の教員や関係者のチェックが働きづらい状況です。

  • 指導教員を途中で変更したことを理由に留年させる
  • 特定の学生の卒論のみ、受理しない
  • 卒業論文を読んでもらえない
  • 卒業の判定条件を独断で変更する
  • 卒業研究は修了したのに「お礼奉公」と称して実験を手伝わせる
  • 指導教員が強固に「卒業させない」と主張する
  • 「気に入らないから」という不当な理由で低評価を付ける

特に、卒論などの提出には、指導教員の許可を要するのが原則となり、強い権限が与えられるがためにアカハラの起きやすい環境となっています。

進路の選択を妨害するアカハラ

進路に関する決定についても、アカハラがよく起こります。
本来、進路は学生の自由のはずで、教員が強い影響を及ぼそうとする行為は、アカハラの可能性があります。

  • 就職活動を禁止されている
  • 「大学院に進学する者でないと研究室には所属させない」と発言された
  • 合理的な理由がないのに、進学に必要となる推薦状を書いてもらえない
  • 就職活動に必要な書類の記入・押印を拒否する
  • 就職活動に不利に働く情報を口外された
  • 誤った情報を伝え、進学をあきらめさせる
  • 会社に圧力をかけて内定を取り消させる
  • 結婚するなら研究室を辞めるようプレッシャーをかける

その他のハラスメントに該当する行為

以上はあくまで、大学内でよく起こるアカハラの典型例です。
一方、一般の会社でもよく起こるパワハラセクハラが、大学内でも問題視されるのは当然です。

例えば、暴言や暴力、誹謗中傷といった違法行為が、大学内でもパワハラなのは当たり前。
同僚や後輩に悪い噂を流して孤立させれば、研究だけでなく生活にも支障が出ます。
企業よりも「仕事」という意識が薄いことが多く、私生活への過度な干渉もよく起こります。
女性学生や女性職員などは、性的言動については、セクハラに該当する可能性があります。

その他のハラスメントの相談については、次に解説します。

アカハラは違法!

次に、アカハラが違法となるかどうかを解説します。

アカハラは、被害者となった人の心身に苦痛を与えます。
したがって、不法行為(民法709条)に該当するアカハラは、民法において違法となります。

その結果、被害者に与えた損害について、慰謝料をはじめとした賠償請求を受けます。
さらにひどいアカハラは、暴行罪や脅迫罪、名誉毀損罪といった犯罪となる可能性もあります。

アカハラが違法かどうかは、被害者側、加害者側いずれにとっても重要なことです。
とはいえ、アカハラを明確に定義し、禁止した法律はありません。
また、憲法における学問の自由によって、大学には自主性が認められています。
大学という閉鎖空間ではアカハラ被害を申告しづらく、周囲も見て見ぬ振りをしがちです。

そのため具体的なケースで、アカハラが違法かどうか、ケースバイケースで判断する必要があります。
最終的な判断は、裁判所において行われるため、裁判例を参考にする必要があります。
ただ、各大学がハラスメント防止規程を作成しているとき、裁判例においてもこれらの規程が大いに参考にされます。

アカハラを受けた被害者側の対策

次に、アカハラを受けた被害者側の対応を解説します。

アカハラを受けた直後は、動揺と混乱で正しい対応ができないおそれがあります。
「辛い」「許せない」といった感情に任せた行動では解決しません。
アカハラに無自覚な加害者ほど、対抗するとエスカレートする危険もあります。

いざというとき冷静に対処するため、正しい対策を知っておいてください。

なお、加害者側の対応は「アカハラ加害者となった教員側の対策」参照

アカハラの証拠を集める

アカハラの責任を追及しようとするなら、証拠収集が最優先です。
証拠がないと、いくらアカハラが真実でも、加害者に認めさせることができません。

音声を録音するほか、送られてきたメールの文面は必ず保存しておきます。
裁判でも、メールの文面が有力な証拠となって、アカハラの認定が下された例もあります。

もちろん、アカハラ加害者は証拠に残りづらい態様でするケースがほとんどです。

閉鎖的な研究室内だからこそ、録音する努力が必要です。
人間関係が密なので、周囲の人もアカハラの証言をしてくれない危険があります。

パワハラを録音する方法は、次に解説します。

大学の相談窓口に相談する

証拠の収集が完了したら、しかるべき窓口に相談しましょう。
まずは、アカハラ防止のために設置された大学の相談窓口が適切です。

多くの大学は、社会問題化したアカハラ被害を受けた学生や教職員のため、相談窓口を設けています。
学内にある相談窓口は、外部の窓口よりハードルが低く、また、相談に対して事実確認をしてくれ、必要に応じて当事者間の調整をしたり、学部長や学長といった上位者に申し送りしてもらえるメリットがあります。

しかし、組織内の迅速な解決は、むしろ公平性に欠ける危険もあります。

外部機関に相談する

一方で、強度のアカハラで直ちに対策を要するケースや、そもそも学部長などトップに近い人物からのアカハラのケースなど、学内の相談窓口では解決できないアカハラもあります。

まともに取り合われず、迷惑な人とのレッテルを貼られ、大学という狭い社会のなかで孤立させられる危険もあります。

アカハラをなくすために活動するNPO法人「特定非営利活動法人アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク」などが著名な団体として存在するほか、労働問題として、労働基準監督署、労働局などへの相談も有効です。

労働基準監督署への相談について、次に解説しています。

弁護士に相談する

外部機関に相談しても、アカハラ事案の根本的な解決のできないケースもあります。
たとえ外部機関が相談を聞いてくれても、法的な解決のサポートはしてくれません。

アカハラを根本的に解決するために、弁護士への相談がお勧めです。
弁護士に依頼すれば、労働審判や訴訟などの法的手続きを進めてもらえます。
加害者はもちろん、大学側も、責任追及される危険を知れば、対応せざるを得なくなります。

被害が拡大して手遅れになるまえに、お早めにご相談ください。

アカハラ加害者となった教員側の対策

次に、逆にアカハラ加害者側の対応についても解説します。

教員の職務を行うなか、避けて通れないのがアカハラ問題。
真面目に取り組む人ほど指導に熱が入り、誤ってアカハラと受け取られる例もあります。

仮にアカハラが事実でも、適切な対処により、必要以上の責任を追及されないようにすべきです。

なお、被害者側の対応は「アカハラを受けた被害者側の対策」参照

大学に報告する

思いがけずアカハラを訴えられるケースはともかく、その前兆のあるケースもあります。
後ろめたいことがあるなら、速やかに大学に報告しましょう。
指導のことで学生や教員と言い合いになるなど、起こったトラブルを隠すのはお勧めではありません。

決して自己解決しようとはせず、大学側を敵に回さないために、先手を打っておきます。
研究や業務に本気だと伝えれば、大学側も重大事と捉えずに、少しの注意で済む場合もあります。

アカハラしたと容易に認めない 

アカハラを理由に処分を受けるとき、その前に、学内の調査委員会で事実確認されることがよくあります。

このとき、アカハラであるとは容易に認めてはいけません。
たとえ事実関係に争いがなくても、教育や研究に必要で、指導の範囲だと考えるなら、そのように反論すべきです。

被害者となる学生が退学に追い込まれたと主張するケースなどは、安易にアカハラを認めてしまうと、逸失利益や慰謝料など、多額な金銭を請求されるおそれもあります。

調査中は、嘘や誇張はせず、被害者が報告した事実について、誤りがないかきちんと確認します。
同時に、証拠の有無についても必ず確認しましょう。

被害者が大学に対し、都合のよい事実だけ述べている場合もあります。
問題とされた行為までの時系列を整理するなど、情報は正確に説明する必要があります。

被害者と示談交渉する

被害者の弁護士から書面が届いた、大学から調査を受けたなど、アカハラで責任を追及されそうな局面では、被害者への謝罪や示談といった事後対応が有効です。

アカハラの示談では、被害者との直接の接触は避け、交渉は弁護士に任せるべきです。

大学内での人間関係から、「話せばわかってもらえる」というのは加害者の勝手な心理です。
アカハラの被害者は、直接不満を打ち明けられなかったからこそ、大学や弁護士に相談してきているのであり、今後は顔を合わせたくないというのが本音でしょう。

セクハラの示談の流れ、示談金の相場も参考にしてください

不当な処分は争う

以上の対応を適切にしてもなお、大学から不当に処分される危険もあります。

事実でない理由であったり、処分が重すぎたりなど、不当な処分なら撤回を求めるべきです。
まして、アカハラが冤罪なら争うべきことは当然です。

たとえ形式的に学内の規程に違反していても、客観的に合理的な理由がなく社会通念上も相当でない場合、不当な処分として無効となるからです(労働契約法15条)。

世間から問題視されやすいアカハラでは特に、社会問題化するのを抑えるため、大学側が十分な調査をせずに事実認定し、処分を下すケースがあります。

アカハラに関する裁判例

最後に、アカハラについて判断した裁判例を紹介します。

アカハラで慰謝料を請求した事例

まず、アカハラで慰謝料を請求した裁判例について。
つまり、アカハラの被害者と加害者の争いに関する事案です。

神戸地裁姫路支部平成29年11月27日判決

兵庫教育大大学院の学生が、ゼミの教授と大学に対して損害賠償請求した事案で、教授の不法行為責任が認められ、100万円の慰謝料の支払いが命じられました。

本事案は、教授が、原告の修士論文を理由も告げずに突き返す一方で、他のゼミ生には「私が今日一日書いてあげましょう」などと差別的な扱いをした点が問題視されました。
その他にも、カウンセリングを優先するよう示唆して希望する講義の受講をあきらめさせた点、「あんたは発達障害だよ」「いい精神科知ってますよ。教えてあげようか」などと発言して人格を傷つけた点などが、いずれも違法行為と評価されました。

大阪地裁平成30年4月25日判決

関西大学大学院の学生が、指導担当教授に対して損害賠償請求した事案で、慰謝料60万円の支払いが命じられました。

学生は、学内のバイトの交通費が支給されないのを問題視して労働組合活動をしていたものの、教授から、活動をやめないと希望のフィールドワークを白紙にすること、指導教員を降りることを告げられ、組合の脱退を余儀なくされたと主張。
裁判所はこの主張を認め、教授の労働組合に関する言動は違法と判断しました。

また、学生は、修士論文執筆のために、遠隔地に滞在するフィールドワークに従事していたものの、研究手法や指導教員の変更を述べたのを理由に一方的に中止させられていました。
裁判所はこれについても、自由な研究を行い、教育を受ける権利を侵害する違法があると認めました。

高松高裁令和2年11月25日判決

徳島大学薬学部の准教授が、同学部の教授から受けたパワハラについて、大学に損害賠償請求した事案で、慰謝料10万円の支払いが命じられました。

本事案では、准教授からの研究室の運営上の提案を非難した教授の発言が問題となりました。
具体的には「あんたは非常識だ」など、考えが理解できない旨を述べ、「こんなことだから他大学に転出できないんですよ」「早くどこかの職を探して、ここを出て行けばいいじゃないですか」など、通常よりも大きい声、厳しい口調で非難したことが認定されています。

裁判所は、これらの事情に加え、教授が一定の影響力を有していたこと、相対的に優位な立場にあったこと、発言が職位に関する内容であったことなどを考慮し、人格と尊厳を侵害する違法な行為だとし、准教授の請求を認めました。

アカハラを理由とする処分が争われた事例

次に、アカハラを理由とする処分が争われた裁判例について。
つまり、アカハラ加害者と、処分をした大学などとの争いに関する事案です。

東京地裁平成31年4月24日判決

教授が、大学に対し、アカハラを理由としてされた懲戒処分(減給)の無効確認を求めたケースです。

本事案では、教授の学生に対するメール送信が、大学が懲戒事由と定める「信用失墜行為」に当たるか、当たるとしても懲戒処分が重すぎるのではないかが争点となりました。
(例えば、「卒研も学内外活動も金魚のフン」、「このオオバカモノ。大バカ野郎」、「お馬さんがいます。鹿さんもいます」などのメールの送信行為)

裁判所は、以下の通り、懲戒事由に該当し、相当性も認められるとし、教授の請求を棄却しました。

学生に対する暴言ともいうべき人格を傷つける言葉を繰り返し使用している点、威嚇的とも受け止められる不適切な言辞を用いて、学生に圧力を与え、指導に従わざるを得ないような状況を生じさせている点において、被告の防止委員会規程所定のアカデミック・ハラスメントに該当する行為があったといわざるを得ない……(略)……本件メールにおける原告の言動は、学生らに指導等を施す立場にあることを背景として、社会経験に乏しく、立場も弱い学生らに対して繰り返し人格を否定する言動をしたり、学生らをゼミから排除したり就職活動支援の打ち切りといった不利益を告知して不安感を煽り、威嚇的とも受け止められる言辞を用いて指導に従うよう強制するもの……(略)……手法として甚だ不適切で不当なものであったといわざるを得ない。……(略)……原告の言動の結果、少なくともこれを契機に本件女子学生は短期大学部を退学するに至っているのであって、生じた結果も相当に重大である。

東京地裁平成31年4月24日判決

東京地裁令和元年5月29日判決

准教授が、アカハラを理由としてされた懲戒処分(減給)の無効確認を求めた事案です。

女子学生らに対するアカハラ、セクハラ、パワハラが合わせて問題となり、裁判所は、准教授が行った以下の行為をアカハラと認めました。

  • レポートの採点者でないのに、学生に対して「不本意な最終結果となっています」とメールを送ったこと
  • 特定の学生のみに、試験の結果が悪く単位を取得できないので再試験を受けるようメールを送ったこと

裁判所は、准教授の行為を「総じて、不見識であったり、手法として甚だ不適切な行為」であった判断し、女子学生の被害について、不快の念から就学にも支障を来したとし、「軽視できないものがある」と判断しました。
そのほかにも、大学側のハラスメント防止のための努力を損ないかねないものであった、反省の感情が薄かったとして、懲戒処分を有効と認めました。

東京地裁令和2年10月15日判決

2名の教授が国学院大学に、労働契約上の地位にあることの確認を求めた事案です。
そのなかで、留学中の学生にした以下のような教授の行為が、アカハラかどうか問題となりました。

  • 「あなたの人生は終わっている」「あなたのお先は真っ暗だ」「あなたは奴隷と一緒である」旨の発言
  • 隣の部屋に下級生がいるのに、下級生にお願いして卒論の書き方を聞いてくるように発言した事実
  • 学生のバイトに関する「小金を稼いで遊んでいるに違いない」旨の発言

裁判所はこれらが懲戒事由に該当するとしましたが、懲戒処分の効力は否定しました。
というのも、教授の言動と学生の再留年の因果関係が必ずしも明らかないためです。
教授の言動が与えた精神的苦痛は大きかったものの、学生にも指導を要する問題行動がありました。
そのため、発言は不適切だったとはいえ、指導全般が問題だとまでは認められませんでした。

加えて、教授に懲戒処分歴がないことなどを合わせ、処分は相当性を欠き無効だと判断しました。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、アカハラ(アカデミックハラスメント)の意味や事例、対応法について解説しました。

大学は、その構造上、一般的な会社よりも、アカハラが平然と行われがちです。
教授と学生には、それほど大きな身分の差があるから
です。
アカハラの多くは閉鎖的な空間で行われ、現場が確認しにくいため、被害は一層深刻化します。

しかし、一度問題化し、裁判などに発展すると、隠してはおけません。
アカハラを巡る裁判例が多く存在するとおり、重大な事態となるのは明らかです。
アカハラの被害者になってしまったら、証拠を集めたり、周囲に相談したりなど、我慢せずに速やかに対処することが必要とですし、加害者側においても(たとえアカハラの意思がなくても)被害者から慰謝料請求を受けたり、大学から懲戒処分を受けたりしないよう対策を講じる必要があります。

この解説のポイント

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