介護を要する家族がいても、仕事を続ける限りは支障が生じてはなりません。
休暇や休職の制度を活用できる企業もあるが、残念ながら離職を余儀なくされる方も。
このように、介護は仕事を続けるハードルとなることがあります。
介護が職場に迷惑をかけ、敵視されると嫌がらせの理由となり、ハラスメントの標的にされます。
こうした介護を理由とした職場における嫌がらせが、ケアハラスメントです。

介護で休んだら「出世させない」と言われた

親の介護が必要なのに休ませてもらえない…
ケアハラには、様々な種類があります。
介護を理由に不利益な処分をする、必要な休暇を利用させないといったのが典型例。
いずれも、家族の介護という重荷を抱えた労働者の心身を蝕みます。
そもそも、介護と仕事の両立は、嫌がらせがなくても難しいものです。
更にケアハラスメントの被害に遭えば、タフな人でも心が折れてしまうでしょう。
耐えきれず退職してしまう前に、ケアハラを予防し、対策を講じる必要があります。
介護で仕事に影響が出そうなとき、早めにケアハラを予防するのが大切。
今回は、ケアハラの知識と具体例、被害への対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- ケアハラスメントは介護を理由とした嫌がらせであり、育児介護休業法違反となる
- 育児休業、育児休暇などの制度利用を阻害するのが、ケアハラスメントの典型例
- ケアハラスメントが不法行為に該当するなら、弁護士に相談し、慰謝料請求をすべき
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- 職場での無視
- ケアハラ
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ケアハラスメントとは

ケアハラスメントとは、介護を理由とした職場での嫌がらせのことです。
その名の通りセクハラやパワハラ同様にハラスメント、つまり嫌がらせの一種。
略して「ケアハラ」といい、介護ハラスメントと呼ぶこともあります。
ケアハラスメントの定義は法律で定められてはいませんが、一般に介護を要する家族がいることが原因で生じるトラブルの火種は、広くケアハラに含むと考えてよいでしょう。
超高齢化社会が到来し、介護しながら働く人が増えました。
「介護」は多くの人が経験するイベントなのに、企業では共感や理解を得づらいもの。
利益を重視し、効率化を追い求める職場ほど、介護などの私的な事情は敵視されます。
こんな社会的な背景から、ケアハラスメントは今後ますます増加が予想されます。
ケアハラスメントの典型例は次の通りです。
- 法律上の要件を満たすのに、介護休業を取得できないようにする
- 介護休暇を取得したら、重要なプロジェクトを外され雑用ばかりになった
- 介護をしていることを理由に、人事評価を低評価とする
- 介護を要する親がいることを皆の前でけなし、人格的な尊厳を傷つける
(参考:ケアハラスメントの具体的な事例)
他のハラスメント同様、ケアハラも、加害者は嫌がらせと気づかず、無自覚な例が多いです。
エスカレートし、周囲の社員を巻き込んだ職場いじめにも発展しかねません。
なお、ケアワーカーや在宅ヘルパーなど、介護現場で働く労働者に対する嫌がらせを「ケアハラスメント」と呼ぶこともありますが、今回の解説では扱いません。
ケアハラスメントの起きる理由
ケアハラの起きる理由の1つに、少子高齢化の進行があります。
1人の若者の支える高齢者の数が増えるほど、誰しもが介護を抱える可能性が生じます。
一方で、ビジネスの現場では、介護といった私生活の事情は軽視されます。
周囲の社員にとっては、介護で休む人がいる分だけしわ寄せが来ます。
業務量が多い繁忙期に、押し付けるように仕事を割り振られれば不満も溜まるでしょう。
このような不満が、ケアハラスメントを生む理由となっているのです。
また、他のハラスメントに比べ、理解が乏しいのがケアハラの問題点です。
ハラスメント研修の多くは、セクハラ、パワハラにスポットを当てています。
その結果、ケアハラの重大さは理解されず、自ずと配慮が行き届かなくなってしまいます。
ケアハラスメントの種類
ケアハラスメントには様々な行為がありますが、類型的には、次の3種類に分けられます。
- 介護を要する労働者の保護のために法律上、雇用契約上設けられた制度の利用を阻害する行為
- 同制度を利用したことを理由とした不利益な取り扱い
- 介護をしていることなどのプライベートな事情を理由とした人格的な尊厳の侵害
(参考:ケアハラスメントの具体的な事例)
いずれのケアハラも違法であることは、次章で解説します。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次の解説をご覧ください。

介護への配慮の足りないケアハラスメントは違法!

介護で休むことに「申し訳ない」と後ろめたいさを感じる人もいます。
「優遇されすぎではないか」と、他の社員の反感を買うこともあります。
しかし、ケアハラスメントは違法であり、不法行為(民法709条)に該当します。
その結果、加害者に慰謝料を請求できるほか、あわせて使用者である会社に対しても安全配慮義務違反もしくは不法行為の使用者責任(民法715条)を理由に、損害賠償を請求できます。
それだけでなく、ケアハラスメントは育児介護休業法の定める保護にも違反する行為です。
特に、介護を理由として休むのは、法律の認める労働者の権利です。
次の通り、育児介護休業法は介護を理由に休める2つの制度を用意しています。
- 介護休業
(育児介護休業法11条〜16条)
要介護状態にある対象家族1人につき、3回まで通算93日間取得できる休業 - 介護休暇
(育児介護休業法16条の5)
要介護状態にある対象家族1人につき、年間5日間(対象家族が2人以上の場合10日間)取得できる休暇
※ なお、継続的な雇用を予定しない非正規社員などは、労使協定を締結して介護休業、介護休暇の適用を除外できるため、勤務先の規程類をあらかじめ確認してください。
また、休みをとるほかにも、所定外労働の制限(育児介護休業法16条の9)、時間外労働・深夜業の制限(同法20条)、所定労働時間の短縮措置(同法23条3項)といった介護に関する支援が法定されており、労働者は手厚いサポートを受けられます。
そして、育児介護休業法25条は、介護を要する家族を抱える人に対して会社が配慮し、雇用管理上必要な措置を講じることを求めると共に、不利益な扱いを禁止しています。
(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
育児介護休業法25条
1. 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2. 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
育児介護休業法(e-Gov法令検索)
本来権利であるこれらの制度を使わせないのはもちろん、利用したことを理由として嫌がらせなど不利益な取扱いをすることも、明らかにケアハラスメントに該当するのです。
禁止される「不利益な取扱い」は指針(平成21年12月28日厚生労働省告示第509号)で次の通り例示されます。
- 解雇
- 雇止め(有期雇用の契約を更新しないこと)
- あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること
- 非正規社員の労働契約の内容の変更を強要すること
- 自宅待機命令
- 希望する期間を超えて、意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること
- 降格
- 減給
- 賞与などにおける不利益な算定
- 昇進・昇格の人事考課における不利益な評価
- 不利益な配置の変更
- 就業環境を害すること
ケアハラスメントをはじめ不利益な取扱いは無効で、不法行為として損害賠償を請求すべきです。
介護離職を決断する前に、法律で保障された制度を活用するよう心がけましょう。
介護のために有給休暇を取得することも可能です。
有給休暇は取得の理由によらないため、介護を目的とすることも当然できます。
有給休暇を取得する方法は、次の解説をご覧ください。

ケアハラスメントの具体的な事例

次に、ケアハラスメントの種類で説明した類型ごとに、ケアハラの具体例を解説します。
介護のための制度の利用を妨げられる
具体例の1つ目は、介護のための制度利用を妨げられることです。
前述の通り、介護休業、介護休暇をはじめ、育児介護休業法には、介護を要する家族を抱える労働者を保護するための多くの制度があります。
しかし、社員を酷使するブラック企業ほど、制度の利用を阻害しようとケアハラスメントをします。
- 「介護休業を取ると今後の昇進に響くぞ」
- 「介護休暇を取る前に有給休暇を使うのが筋だ」
- 「これ以上介護を理由に休むなら会社を辞めろ」
- 「介護で帰られると困るので重要な仕事は任せられない」
発言で明示されなくても、会社が上記のような意図をもとに制度の利用を妨げてきたり、居心地が悪いと感じたりするなら、ケアハラスメントの疑いがあります。
法的な制度を利用するのは労働者の権利ですから、業務の多忙は言い訳にはなりません。
理由にかかわらず、権利行使ができない時点で、ケアハラスメントになるといってよいでしょう。
介護のための制度の利用を理由に不利益な取扱いを受ける
制度の利用そのものを阻害しなくても、申し出たことを理由に不利益に扱うのも、ケアハラスメントの具体例の1つです。
- 介護休業を申し出たら、出世コースから外された
- 介護休業を終えたら「戻るポジションがない」と言われて辞めざるを得なかった
- 時短勤務を掛け合ったら、平社員に降格された
- 介護休暇を申し出たら、別部署に配転された
法的な権利だとしても、処遇が悪くなると脅されれば、自由に利用するのは難しいことでしょう。
介護を理由とした人格的な尊厳の侵害
介護に関する会社の制度に関わらずとも、嫌がらせは起こります。
なかでも、介護を理由として人格的な尊厳を踏みにじるのは、ケアハラスメントの具体例の1つです。
- 「介護なんて嫁にまかせておけば良いんだ」
- 「男が介護だからって休むのはよくない」
- 「介護で休まれるとこちらにしわ寄せが来る」
- 「介護を言い訳に早く帰れてうらやましいね」
- 「本当はどうせズル休みなんだろう」
- 「介護を言い訳にするのは2流のやり方だ」
介護が必要な家族がいると、どうしても職場に迷惑をかけてしまうことがあります。
しかし、プライベートへの過度な干渉は、パワハラとしても問題になります。
嫌味を言われ、陰口を叩かれるのも、立派なハラスメントの1つなのです。
他のハラスメントに該当する発言や言葉についても参考にしてください。


ケアハラスメントの被害を受けたらすべき対処法

最後に、ケアハラスメントの被害に遭ったときの対処法を解説します。
「介護うつ」ともいうように、そもそも介護自体が相当なストレスです。
なのに、ハラスメントまで加わっては精神的苦痛は計り知れません。
普段は聞き流せる悪口も大きなダメージになる危険があり、決して放置してはなりません。
介護と仕事の両立を試みる
まず、ケアハラスメントを予防するべく、介護と仕事の両立を試みましょう。
可能な限りで対策し、ケアハラを避けられるなら、それに越したことはありません。
ケアハラを予防するには、介護が仕事に及ぼす影響を少なくするのが大切です。
自身のご家族の状況をよく会社に報告し、相談しましょう。
突然休むのではなく、しっかり引き継ぎし、他の社員の負担を軽減する努力をすべきです。
また、家族や近隣住民との良好な関係を築き、介護への協力を得る手も有効です。
周囲からの協力を得づらいなら、地域包括センターへの相談も検討してください。
地域包括センターは、高齢者の生活全般の相談を受け付ける窓口で、看護師や社会福祉士などが配置され、必要なサポートを一緒に考えてくれます。
会社に相談する
軽微なケアハラスメントは、社内での相談で解決するケースもあります。
会社には、介護を要する家族のいる労働者の相談に応じ、適切な体制を整備する義務があります(育児介護休業法25条1項)。
ただし、会社そのものが制度の利用を阻害していたり、社長が直接の加害者だったりする場合、社内の相談ではケアハラスメントのトラブルは解決しません。
ケアハラの証拠を収集する
ケアハラ被害に遭ったときも、他のハラスメントのように証拠の収集が大切です。
交渉で解決せず、争いが裁判所に持ち込まれれば、証拠がない事実は認めてもらえないからです。
また、裁判でも認められるほどの証拠があれば、結果的に、交渉段階で加害者や会社が譲歩してくれる可能性もあります。
ハラスメントの証拠収集と録音について、次に解説しています。


公的機関へ相談する
交渉で決着しないとき、より専門的な意見を求めるなら公的機関に相談する手が有効です。
ケアハラスメントのトラブルは、労働局の雇用環境・均等部(室)が適切な相談先となります。
労働局に紛争解決の援助を申し込むことによって、会社に助言や指導をしてくれます。
状況が変化しない場合は、労働局に調停を申し立てることも可能です。
労働基準監督署もまた、相談先の1つとなりますが、ハラスメントの問題は、証拠が十分にない限り、速やかには動いてもらえないおそれがあります。
労働基準監督署への相談のポイントは、次に解説します。
弁護士に相談して慰謝料を請求する
ケアハラの抜本的な解決を望むなら、弁護士にご相談ください。
公的機関は、あくまで問題ある会社の是正であり、ケアハラスメントに悩む労働者の味方になってくれるとは限りません。
弁護士なら、お悩みの内容に応じた柔軟な解決策を提示できます。
特に、ケアハラスメントの問題では、弁護士に依頼し、加害者もしくは会社に慰謝料を請求する方法が有効です。
その他に、責任追及だけでなく、退職の手続きを代行してもらうこともできます。
他のハラスメントの相談先、相談窓口についても参考にしてください。


まとめ

今回は、ケアハラスメントの問題と、その対処法を解説しました。
労働者にとって仕事と私生活(プライベート)の調和はとても大切。
どんなに仕事が順調でも、プライベートとのバランスが取れないと辛いでしょう。
家族の介護はその代表例で、これに拍車をかけるのがケアハラスメントの被害です。
大切な家族と、仕事を天秤にかけなければならないと追い詰められてしまいます。
いくら「家族のため」といえど、生活や収入は捨てられません。
逆に、他の社員にしても「仕事が大変なときに介護で抜けられると困る」という本音もあります。
そして、職場に配慮するほど、ケアハラスメントを我慢してしまう方もいます。
しかし、権利である有給休暇、介護休業、介護休暇を阻害するのは違法です。
介護や、これらの権利行使を理由に嫌がらせをするのも許されません。
仕事と介護の両立に疲弊しきってしまう前に、ぜひ弁護士にご相談ください。
- ケアハラスメントは介護を理由とした嫌がらせであり、育児介護休業法違反となる
- 育児休業、育児休暇などの制度利用を阻害するのが、ケアハラスメントの典型例
- ケアハラスメントが不法行為に該当するなら、弁護士に相談し、慰謝料請求をすべき
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