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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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転勤を断ることはできる?子供の病気など、転勤拒否の正当な理由を解説

突然、会社から、転勤を伝えられ、迷ってしまうことがあるでしょう。
出世になる転勤でも、家族がいると、子供への影響などがどうしても気になります。
子供がまだ幼い場合や、病気にかかっている場合、転勤を拒否できるケースがあります。

ましてや、左遷に違いない不利益な転勤だと、拒否したいのは当然です。
引っ越しをともなう長距離の転居の多い、いわゆる「転勤族」は、子供に影響ありという意見も。
深い友人が作りづらかったり、精神的ストレスにつながったりします。

単身赴任もまた、気が進まないこともあるでしょう。
家族あっての人生ですから、転勤を拒否することを検討しましょう。
このとき、正当な理由があれば、転勤を拒否できます。
例えば、子供の病気(難病など)は、転勤を断る理由として十分で、裁判例も認めています。

今回は、転勤を断れるか、特に、家族の病気が正当な理由かどうか、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 転勤を拒否する正当な理由があれば断れる
  • 子供の病気、親の介護など、家庭の事情は、転勤を拒否できる理由になりうる
  • ただし、その不利益が小さいとき、転勤拒否が解雇につながるおそれあり

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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転勤を拒否できる場合とは

まず、転勤を拒否できる場合とは、どのようなケースかを解説します。

納得のいかない転勤、不利益の大きい転勤は、拒否したい労働者も多いでしょう。
現在の勤務先で、活躍できているならばなおさらです。
会社はさまざま理由を付けて転勤させようとしますが、従わなくてよい場合もあります。

転勤を命じる権利がない場合

まず、大前提として、会社に、転勤を命じる権利がなければ、転勤命令はできません。
命令そのものができないわけですから、労働者としても従わなくてよいです。
(なお、命令する権利がなくても、労働者が同意すれば転勤させられてしまいます)

業務命令のなかでも、転勤は労働者やその家族に大きな影響を及ぼすもの。
次の場合、転勤命令をする労働契約上の根拠はありません。

  • 労働契約に、転勤命令の根拠となる規定が定められていない
    (就業規則、雇用契約書、労働協約などの定めが根拠になります)
  • 労働契約に、就労場所の限定があり、転勤が制限されている
    (定められた範囲内の場所にしか、転勤させることはできません)

まず、就業規則、雇用契約書を確認しましょう。

「転勤を命じる」という根拠規定があるかどうかを検討してください。
また、雇用契約書に勤務地の定めがあるとき、「そこでしか働かない」という意味なら、転勤は断れます。

就業規則と雇用契約書が違う場合の対応は、次に解説します。

拒否する正当な理由がある場合

次に、拒否する正当な理由がある場合にも、転勤を断ることができます。
たとえ雇用される労働者といえど「どんな場合も転勤に応じなければならない」のは酷すぎます。

正当な理由となるのは、労働者の不利益が、耐え難いほど大きい場合。
交通費がかかるとか、日常生活が大変になるといった程度の理由は、正当とはいえません。

これに対し、家族の事情、特に、子供の病気や介護は、正当な理由と認められるケースがあります。

転勤を拒否したいとき、弁護士に相談ください。

労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説します。

家庭の事情が、転勤拒否の正当な理由となるか

正当な理由として、労働者が主張したいと考えるのが、家族のことでしょう。
自分だけのことなら我慢できても、家族への支障は無視できません。

「仕事と家族、どちらが大切か」という質問に、答えはありません。
仕事のために家族を犠牲にするのは酷であり、家庭の事情が、転勤を断る理由となることがあります。
どんな場合であれば、正当な理由として転勤拒否が認められるのか、解説します。

裁判例の「正当な理由」の考え方

「正当な理由があり、転勤を拒否できるか」について、裁判例は、次のポイントで判断します。
このとき、言い換えると、「転勤は違法」ということになります。

  1. 業務上の必要性があるか
  2. 不当な動機・目的で命じられていないか
  3. 労働者に著しい不利益を負わせていないか

家庭の事情(子供の病気、介護など)は、著しい不利益になるかどうかが争われます。

また、家庭の事情が起こったのを会社に報告しており、それと近接したタイミングで転勤が命じられたのであれば、嫌がらせ的な意図があるのではないかとも疑われます(結婚直後の単身赴任など)。

子供の病気で、異動・転勤を拒否するには?

「子どもの病気」などの家族の事情が、転勤を拒否する理由になるという方は多いでしょう。
この理由で転勤を断れるかは、前章で解説したうち3つ目、「著しい不利益かどうか」によります。

裁判例でも実際に、子供の病気を理由に転勤を拒否したことにつき、争われたケースがあります。
子供の病気が、転勤を拒否する正当な理由かどうかの判断は、次の事情が基準となります。

  • どんな病気か
    どんな治療が必要か、完治は困難か、など
  • 病状が重大かどうか
    治療期間はどれくらいか、入院・看護が必要か、など
  • 転勤する人以外に、他の看護者がいるか
    妻が仕事をしているか、両親の協力が得られるか、など
  • 転勤先で、病院を探せるか
    特別な専門医が必要な難病でないかどうか

「労働者側の不利益がどれほど大きいか」をまず主張し、転勤を拒否する理由として伝えましょう。
ただ、子供の病気を理由に転勤を断れるかは、会社側の事情も考慮されます。

会社の行動によって、転勤が違法となるケースには、例えば次の事情があります。

  • 単身赴任となるのに、手当の増加などの配慮がない
  • 生活費の負担が増大するのに、給料の増額がまったくない
  • 異動先での便宜が図られていない
  • 突然に転勤を命じられ、準備の時間がない
  • 帰郷するための旅費の支払いが自己負担である
  • その他、不利益を軽減する対応がない

子供の病気を理由とする転勤拒否について判断した裁判例

子供の病気が、転勤を拒否する「正当な理由」になるかどうか、争われた裁判例を解説します。

なお、育児介護休業法は、次のとおり、異動させるとき子供への配慮を要すると定めています。
子供の養育や家族の介護にまったく配慮のない転勤は、同法の違反となります。

育児介護休業法26条

事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。

育児介護休業法(e-Gov法令検索)

ケンウッド事件

まず紹介する判例が、ケンウッド事件(最高裁平成12年1月28日判決)です。
この事案は、東京都目黒区の職場から、八王子へ転勤するよう命じられたケースです。

通勤時間が1時間ほど長くなり、子供の送迎に支障が生じると主張し、転勤を拒否しました。
しかし、裁判所は、子供の送迎への支障の程度が「著しい不利益」とはいえないと判断。
転勤拒否に正当な理由があるとは認められませんでした。

北海道コカコーラボトリング事件

次に紹介するのが、北海道コカコーラボトリング事件(札幌地裁平成9年7月23日判決)という裁判例。

この事案は、子供の病気を理由だけでなく、両親の面倒を見ていたことも主張されています。
病気の子供2人と、両親の世話もしていた労働者に対する、単身赴任を要する転勤は、著しい不利益にあたると判断し、転勤命令を違法、無効だと判断されました。

明治図書出版事件

次の裁判例は、明治図書出版事件(東京地方裁判所平成14年12月27日決定)です。
この裁判例は、上記のものと違い、「仮処分」という手続きで争われました。

妻と共働きの労働者に、東京から大阪への転勤を命じた事案について、違法だと判断しました。
この事案でも、転勤を拒否する理由は、子供の病気。
子供が、重度のアトピーで、治療を要するという理由は、「著しい不利益」として考慮されました。

前述の育児介護休業法における配慮の必要性が説かれ、会社が十分な説明を事前にしていない点もまた、労働者にとって有利な事情になりました。

日本レストランシステム事件

最後に紹介する裁判例が、日本レストランシステム事件(大阪高裁平成17年1月25日判決)です。

この事案では、心臓病の子供がいる労働者を、関西から東京へ異動するよう命じたケース。
裁判所は、労働者が現地採用であったことなどを理由に、転勤命令は違法、無効だと判断しました。

転勤を拒否して、解雇された時の対応

以上のとおり、ブラック企業が、強行に転勤を命令してきても、断れると理解いただけたでしょう。
家族の事情、育児や介護などは、人生にとって非常に重要なもの。
たとえ仕事とはいえ、家庭を守ることにはかないません。

ただ、会社内の秩序を守るためには、転勤命令の重要性は高いものと考えられます。
そのため、拒否して良い「正当な理由」なく、転勤を拒否すると、解雇されるリスクがあります。
これは、たとえ労働者にとってやむをえないと感じる事情があっても同じこと。
最終的な判断は、裁判所がするので、裁判例をよく理解しなければなりません。

転勤を断り、懲戒解雇されるケースは少なくありません。
そして、実際に争われた裁判例でも、そのような転勤拒否を理由とした解雇を有効であると判断したものもあるため、細心の注意を要します。

不当解雇なら、すぐ弁護士に相談ください。

不当解雇に強い弁護士への相談方法は、次に解説します。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、納得のいかない転勤の拒否について解説しました。

正当な理由があるならば、労働者は転勤を断れます。
なかでも、家族への影響、子供の病気などを理由とすれば、拒否できる例も少なくありません。

ただ、転勤の拒否は、下手をすれば解雇につながるリスクもあります。
たとえ家族の都合など、きちんと理由があっても、拒否する前に弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • 転勤を拒否する正当な理由があれば断れる
  • 子供の病気、親の介護など、家庭の事情は、転勤を拒否できる理由になりうる
  • ただし、その不利益が小さいとき、転勤拒否が解雇につながるおそれあり

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