労働問題を弁護士に相談するとき、最も基本的な証拠が「雇用契約書」。
労働法の保護が受けられるのは、会社に雇用された労働者だからです。
雇用契約書がないと、あなたが会社に雇われたときの労働条件を証明できません。
むしろ「雇われたかどうか」すら疑問なケースもあります。
雇用契約書を結んでいないと、労働トラブルの戦いで労働者の不利益になってしまいます。

解雇を争ったが雇用契約書がなく、「雇っていない」と反論された

残業代請求するにも雇用契約書がなく、いくら払われているか不明
雇用契約書が重要な証拠なのは、解雇、残業代、セクハラ、パワハラなど、どんな労働問題でも同じこと。
しかし、雇用契約書すらまともに作らないブラック企業に勤める方は、救済策を検討せねばなりません。
そもそも、雇用契約書がない時、労働条件がわからないなら、違法の可能性が高いです。
今回は、会社と争うにあたり、雇用契約書のないケースの対応を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 雇用契約書がないことで、労働条件の通知がないと、労働基準法違反となる
- 雇用契約書がないと、労働問題を争うとき、労働者側にもデメリットがある
- 雇用契約書がもらえないとき、不利益にならないよう代替の証拠を用意して戦う
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雇用契約書がないのは違法の可能性あり

雇用契約書は、労働における最も基本的な書類で、ないと違法となる可能性があります。
会社は、入社時に、重要な労働条件を社員に説明しなければなりません。
労働基準法施行規則5条1項で、入社時に示すべき事項は、次のように定められます。
一 労働契約の期間に関する事項
一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
七 安全及び衛生に関する事項
八 職業訓練に関する事項
九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
十 表彰及び制裁に関する事項
十一 休職に関する事項
労働基準法施行規則(e-Gov法令検索)
このうち、1〜4号は、書面により明示する義務があります。
書面による明示は、必ずしも雇用契約書によらなくてもよく、労働条件通知書が使われることもあります。
したがって、労働条件通知書があれば、雇用契約書がなくても違法とは言い切れません。
ただ、労働条件通知書がなく、雇用契約書もなければ、書面での明示はなされていませんから違法。
正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員や派遣など、非正規でも雇用契約書は必要です。
労働条件通知書は、あくまで労働条件を示すもので、「契約」ではありません。
そのため、できれば雇用契約書もあわせて両方あったほうがよいでしょう。
実務的には「労働条件通知書兼雇用契約書」という書面が使われることもあります。
書面での明示義務は、労働基準法15条1項に定められ、違反すると、「30万円以下の罰金」に処されます(労働基準法120条1号)。
雇用契約書のないことは、あらゆる労働問題に悪影響です。
労働問題の種類と、その解決方法は、次に解説しています。

雇用契約書がない時の労働者のデメリット

次に、雇用契約書がない時の労働者側のデメリットについて解説します。
雇用契約書は、とても重要な証拠なので、ないと労働者にとってデメリットとなることも。
よく理解し、少しでもデメリットが少なくなるよう注意しなければなりません。
信頼関係が築けない
労使の関係は、信頼で成り立っています。
労働者として、「約束した給料を払ってくれる」という信頼があるからこそ、労働するのです。
しかし、雇用契約書がないと、信頼関係が築けません。
約束の内容が形になっておらず、後から守ってもらえなくなってしまう危険があるからです。
「雇用していない」と反論される
雇用契約書は、労働契約をしたことの証拠。
そのため、雇用契約書がないと、大前提として「そもそも雇用されているか」の検討を要します。
「解雇された」として争っても、会社から「雇っていなかった」と反論されるケースが典型です。
また、雇用主が曖昧にされてしまうリスクもあります。
例えば、親会社に雇用されたと思ったら雇用契約書がなく、子会社の雇用だと反論されるケース。
しかし、雇用契約書は、あくまで労働契約の証拠に過ぎません。
そのため、契約書がなくても契約自体は成立しますから、口頭での労働契約も有効です。
「労務を提供する意思」と「賃金を払う意思」が合致してさえいれば、労働契約ありといえるのです。
口頭だけでも、労働契約は成立します。
詳しくは、次に解説します。
「雇用」でなく「請負」だと反論される
会社で働く人の契約について、その法的性質は「雇用」だけではありません。
いわゆる個人事業主のフリーランスは、「雇用」ではなく「請負」だからです。
違いは、次の点にあります。
- 雇用
会社と雇用契約を結び、指揮命令を受け、労務に従事し、給料をもらう労働者の契約 - 請負
会社と請負契約を結び、発注を受け、業務遂行については自身の裁量で決め、仕事の完成を目指す個人事業主のフリーランスの契約
重要なことは、労働者なら受けられるはずの法的な保護が、「請負」だと受けられないこと。
労働基準法をはじめ、労働者保護のための法律は、「雇用」を前提としているからです。
雇用契約書がないと、会社から、「『雇用』でなく『請負』だ」と反論されるおそれがあります。
この反論が通ってしまうと、労働トラブルにおいて、次の悪影響があります。
- 解雇権濫用法理による制限なく、契約を解約できる
- 労働時間の管理が不要
- 残業代を払う必要がなくなる
とはいえ、「請負」だからといって、保障がまったくないわけではありません。
合理的な理由のない解約には、損害賠償を請求できますし、残業代は発生しないものの、契約以上の業務をさせられれば、別途の報酬を請求することができます。
個人事業主は、労働者としての保護は受けられません。
しかし、実質は労働者であり、保護を要するケースもあります。
給料・残業代の未払い額が計算できない
ここまでの解説は、不当解雇トラブルにおける問題。
雇用契約書がないことは、残業代トラブルにも影響してきます。
給料や残業代に未払いがあるなら請求すべきですが、雇用契約書がないと、計算方法がわからなかったり、その結果、未払い額がいくらか計算できなかったりするデメリットがあります。
残業代の正しい計算方法は、法律に定まっています。
ただ、計算式にしたがって算出するには、労働条件について会社から情報を得る必要があります。
このとき、雇用契約書以外の証拠で、いくらの未払いがあるか証明しなければなりません。
労働条件を示すメールやチャット、LINE、給与明細などが証拠となります。
特に、固定残業代を有効にするには、通常の給料を区別し、労働者に示す必要があります。
なので、雇用契約書がなければ、固定残業代は無効の可能性が高いです。
その結果、会社が支払い済みだと反論してきても、残業代請求することができます。
雇用契約書に残業代の記載がなくても、請求できます。
詳しくは、次の解説をご覧ください。

雇用契約書がないと不当解雇されやすい

雇用契約書がないケースで、最大の危険は、会社を辞めざるをえなくなってしまう場合。
つまり、雇用契約書がないと、不当解雇されやすくなってしまいます。
解雇は、解雇権濫用法理のルールにより制限されます。
具体的には、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上の相当性がなければ「不当解雇」として違法、無効です(労働契約法16条)。

解雇の理由は様々ですが、労働者の責任を理由にして解雇されたとき、反論が必要。
このとき、雇用契約書に基づいて反論をしたいところですが、雇用契約書が存在しないと、そのような有効な反論の手立てが打ちづらくなってしまいます。
単純に、雇用契約書もかわさないようなブラック企業は、解雇を軽々しくしがちという面もあります。
解雇とは、「労働契約に定めた約束の違反」です。
例えば、「能力不足」といいたいなら、「約束した能力に足りていない」といわなければならず、労働契約でどんな能力が期待されていたのかが、その基準となります。
雇用契約書がないと、こんな基本的な考え方ができず、安易な不当解雇を招きがちです。
また、「無断欠勤による解雇」としたいなら、雇用契約書で休日がいつかを確認しなければなりません。
「遅刻による解雇」としたいなら、雇用契約書で始業・終業を確認する必要があります。
いずれのケースも、雇用契約書がないと、解雇理由の争いに明確な基準が持てなくなってしまいます。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次の解説をご覧ください。

雇用契約書をもらえない時の対応方法

本解説のとおり、不当解雇や残業代など労働トラブルを争うとき、雇用契約書は重要な役割を果たすもの。
労働者として、雇用契約書がほしいのはやまやまですが、ブラック企業は出してくれないことも。
雇用契約書がないと戦えないわけではないので、あきらめないでください。
むしろ、こんなケースほど、労働者を救済すべき必要性は高いからです。
- そもそも雇用契約書を結んでいない
- 雇用契約書にサインしたが、控えをもらっていない
- 雇用契約書をなくしてしまった
- 雇用契約書の重要性を知らず、破棄してしまった
雇用契約書を用意できないのは労働者の責任ではありません。
労働者の受ける不利益を減らせるよう、正しい対応を知っておく必要があります。
雇用契約書がないと、雇用されていた事実と、その労働条件の証明が困難になるデメリットあり。
逆に言えば、その点を、他の証拠で証明できれば、用意できなかった雇用契約書の代わりにできます。
残念ながらブラック企業で、雇用契約書がないなら、証拠集めの努力は労働者がせねばなりません。
例えば、次のような資料が、雇用契約書の代替となります。
【雇用されていた事実の証拠】
- タイムカードなど、労働していたことを示す証拠
(「残業の証拠」と共通します。) - 指示書やメール、チャットなど、労働を命じられたことを示す証拠
【労働条件の証拠】
- 求人票
- 内定通知書、承諾書
- 労働条件通知書
- 給与明細
- その他、労働条件について通知を受けたメール、LINEN、チャットなど
また、会社には確かに雇用契約書があるはずなのに出してくれないケースでは、粘り強く請求しましょう。
労働者1人で請求しても、会社が誠実に対応しないとき、弁護士から警告書を送る方法が有効です。
弁護士が窓口となり、労働審判、訴訟など法的手続きで争う姿勢を示せば、雇用契約書を開示してくれる可能性を、高めることができます。
現状の労働トラブルに不安があるまら、まず弁護士の無料相談を活用できます。

まとめ

今回は、雇用契約書がない労働者が、労働問題を争うときどう対応したらよいか解説しました。
弁護士に相談する際にも、雇用契約書は必要書類とされることが多いです。
雇用契約書すら存在しない会社、見せてくれない会社は、悪質なブラック企業。
こんなとき、雇用契約書がもらえないからといって、戦うのをあきらめないでください。
弁護士は、万が一雇用契約書がなくても、法律相談をよくお聞きし、解決策を提案できます。
労働問題の犠牲になって不安なときは、ぜひ一度弁護士に相談ください。
- 雇用契約書がないことで、労働条件の通知がないと、労働基準法違反となる
- 雇用契約書がないと、労働問題を争うとき、労働者側にもデメリットがある
- 雇用契約書がもらえないとき、不利益にならないよう代替の証拠を用意して戦う
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