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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

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雇用契約書がもらえないのは違法?雇用契約書がない会社で起こるトラブルと対処法

雇用契約書は、労使間で取り交わす労働契約の基本となる書類。労使間の契約内容、つまり、給料や労働時間といった重要な労働条件が記載され、労動者の権利を守る役割を果たします。

しかし現実には雇用契約書を交付しない会社も存在します。雇用契約書がもらえないと、雇用関係の有無や労働条件を証明できません。すると、労働トラブルが起こって会社と争う際、労動者に不利益が生じてしまいます。

相談者

不当解雇を争おうにも雇用契約書がない……

相談者

残業代請求の前提となる労働条件が不明確…

雇用契約書は労働契約の基礎となるため、あらゆる労働問題において重要な証拠となります。そもそも雇用契約書がないと「自分の労働条件が本当に守られているのか」を確認する手段すらありません。一方で、雇用契約書をもらえない悪質な企業からの救済を図るには、争おうにも雇用契約書がないケースにおける対処法を知る必要があります。

今回は、雇用契約書がもらえないことが違法なのかどうか、そして、雇用契約書がないことによって起こるトラブルや対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 雇用契約書がないことで労働条件を通知されていないなら労働基準法違反
  • 雇用契約書がないと、労働トラブルになったとき労働者にデメリットがある
  • 雇用契約書がもらえないときは、代替の証拠を準備して戦うのが正しい対処法

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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雇用契約書の意味と重要な役割

雇用契約書は、使用者と労動者との間で締結される、労働契約を文書化した書類です。

雇用契約書には賃金や労働時間、休暇、試用期間の有無といった重要な労働条件が記載され、労動者の権利と義務を明らかにする重要な役割を果たします。労動者にとって雇用契約書は安心して働くための「約束」を意味し、もらえないのは不利益です。会社側にとっても雇用契約書の果たす意味は非常に大きく、労働において必須の書面といってよいでしょう。

雇用契約書の果たす役割は、大きく分けて次の3つがあります。

  • 労働条件の明確化
    雇用契約書により労働条件が明確化されます。これによって労動者は法的に保護された自身の権利を理解し、権利侵害による労働トラブルを回避することができます。
  • 業務内容と責任の明確化
    雇用契約書に業務内容や責任の範囲が示されることで、労動者は自分に寄せられた期待や責任を理解できます。業務遂行の指針とすることで能力不足勤務態度の不良協調性の欠如といった理不尽な非難を受けないように行動できます。
  • 労使関係の調整
    雇用契約書に労使の約束を記載しておくことは、労動者と企業との間の調整をし、信頼関係を構築するのに役立ちます。

以上の雇用契約書の重要性からして、機能を十分に発揮するには書くべき事項がある程度決まっており、「労働条件通知書(厚生労働省)」のような書式・ひな形もあります。一方で、その重要性からして、雇用契約書がもらえない場合は、次章の通り違法となる可能性があります。

就業規則と雇用契約書の優先順位」の解説

雇用契約書がもらえないのは違法の可能性がある

雇用契約書は、労働における最も基本的な書類であり、もらえないときは違法の可能性があります。というのも、労働基準法15条は「労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定め、重要な労働条件を社員に知らせることを企業の義務としているからです。

そして、労働基準法施行規則5条1項では、入社時に示すべき事項について更に詳しく定めます。下記の事項は、必ず入社時に伝える必要があり、かつ、1〜4号については書面による方法で明示する義務が課されています。

一 労働契約の期間に関する事項

一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項

一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項

三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項

六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項

七 安全及び衛生に関する事項

八 職業訓練に関する事項

九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項

十 表彰及び制裁に関する事項

十一 休職に関する事項

労働基準法施行規則(e-Gov法令検索)

書面による労働条件の明示は、必ずしも「雇用契約書」という名称でしなければならないわけではありません。そのため、厳密にいえば「雇用契約書がもらえない」というだけで直ちに違法だとは断定できません。このとき、労働条件を通知する役割は「労働条件通知書」という書面によって果たされます(実務的には「労働条件通知書兼雇用契約書」が締結される例が多い)。

雇用契約書がなくても、労働条件通知書によって法定の要件が満たされているなら違法ではありません。それでもなお、雇用契約書を渡すことで「労働契約を結んだ」ということを明確化しておくべきであり、雇用契約書がもらえない会社には他にも大きな労働問題が潜んでいるのではないかと邪推してしまいます。まして、雇用契約書もなく、労働条件通知書もなく、労働条件が不明確にされてしまっているというならば、違法で間違いありません。このことは正社員だけでなく、パートやアルバイト、契約社員や派遣など雇用形態に関わりませんし、日雇いのような簡易な働き方でも同様です。

書面での明示義務への違反は、「30万円以下の罰金」の刑事罰に処されます(労働基準法120条)。

労働問題の種類と解決策」の解説

雇用契約書がない場合に起こり得るトラブル

次に、雇用契約書がないことによって具体的に起こり得るトラブルを解説します。

雇用契約書がないと、労働条件や業務内容についての約束が曖昧になってしまい、様々な労働トラブルが発生しやすくなります。雇用契約書の発行は使用者側で行われ、労動者は要求しかできないこと、にもかかわらず雇用契約書は労使紛争での重要な証拠となることから、雇用契約書がないと労動者にはデメリットがあります。

雇用契約書がない場合に発生するトラブルは多岐にわたりますが、共通するのは、労動者の権利が守られにくくなってしまうということです。重要な労働条件が書面で明らかになっていないと、労動者は不安定な地位に置かれてしまうからです。

賃金の未払いが起きやすい

雇用契約書がもらえないと、労動者がいくらの給料を受け取る権利があるかを明確に証明できず、賃金の未払いや不適切な控除が起こる可能性が高まります。また、約束された業務や責任の重さによって給料を決められることが多く、これらの約束が示されないことによって減給処分や給与の不当な切り下げといった労働条件の不利益変更も起きやすくなります。

未払いの給料を請求する方法」の解説

残業代を正しく計算できない

決められた時間より長く働けば残業代を請求できますが、雇用契約書が手元にないとその計算ができず、未払い額を正しく算出できないデメリットがあります。残業代の計算方法は法律で決まっていますが、給与額や始業・終業時刻といった労働条件の情報を得られないと計算できません。

また、みなし残業固定残業代を定める会社では「既に残業代は支払済みだ」と反論されることがありますが、これらの制度が有効となるには、通常の給料と残業代として払われる金銭とを区別して労動者に示す必要があります。その機能を果たすのも雇用契約書なので、雇用契約書なしにはみなし残業や固定残業代は無効となる可能性が非常に高いです。

なお、労働条件を示すメールやチャット、求人内容や給与明細など、雇用契約書以外の証拠によって労働条件を証明することによって残業代を計算し、請求することができます。

雇用契約書に残業代の記載がない場合の対応」の解説

労働時間が曖昧になり過剰労働させられる

雇用契約書がないと、労働時間についての取り決めが曖昧になり、いつからいつまで働いたらよいかがわかりません。その結果、労動者が過剰な労働を強いられたり、残業代が払われなかったりするケースが増えてしまいます。

長時間労働が辛いのは当然ですが、「仕事が終わる時間すらわからない」というのは、終わりのない苦痛を強要されるに等しく、疲労やストレスが蓄積して健康に悪影響を及ぼすおそれがあります。

長時間労働の相談窓口」の解説

業務内容を不利益に変更される

雇用契約書がない場合、業務内容や責任の範囲が不明確です。そのため、会社の勝手な都合で業務内容を不利益に変更される危険があります。すると、入社時には予期していない業務を強いられたり、自身のスキルや経験に見合わない業務が割り当てられたりするリスクがあります。

また、業務に対する責任の所在が曖昧になった結果、不当な責任を押し付けられると、労働トラブルの原因となってしまいます。

違法な異動命令を拒否する方法」の解説

信頼関係が築くことができない

労使の関係は「信頼」で成り立っています。労動者としては会社が約束した給料を払ってくれること、会社としては労動者がサボらず働いてくれること、といった根幹の部分に信用があるからこそ、互いに健全な労働環境を築くための協力ができるのです。

信頼の大前提として、雇用契約書によって約束が形になっていることには重要な意味があります。信頼関係が築けないと、会社が労働条件を一方的に悪化させる危険があります。労働時間の延長や休暇の削減といったトラブルが起こると、雇用契約書なしには労動者の対抗手段が不足します。

会社の不当な要求は、ハラスメントや職場いじめといった別の問題にも繋がります。

パワハラの相談先」の解説

「雇用関係がなかった」と反論される

契約書は、契約の証拠です。雇用契約書がないと、そもそも雇用関係の存在が争われてしまい、不当解雇を主張しても会社から「そもそも雇っていなかった」と反論されるおそれがあります。また、雇用主を曖昧にされ「親会社でなく子会社の雇用だ」と反論されるケースもあります。

ちなみに、契約書がなくても契約は成立するので、口頭の労働契約も有効です。「労務を提供する意思」と「賃金を払う意思」が合致してさえいれば労働契約があったと言えます。口頭の契約成立を主張するには、メールやLINE、採用面接時の録音など、書面以外の証拠が必要です。

なお、雇用契約書がないと法的な性質が争いになり、「雇用ではなく請負の個人事業主(フリーランス)」だったと反論される例もあります。そうすると、労動者なら受けられたはずの法的な保護がなくなってしまう危険があります。とはいえ、個人事業主(フリーランス)だからといって保障が全くないわけではありませんし、実質が雇用ならば、労動者としての保護を主張することもできます。

個人事業主の解雇の違法性」の解説

不当に解雇されやすくなる

雇用契約書がないケースにおける最大の危険は、会社を辞めざるをえなくなってしまう場合です。雇用契約書がもらえないと、退職の手続きが曖昧になりがちです。有給消化や業務引き継ぎの方法についても、書面で示してもらうことができません。また、解雇の手続きについても曖昧になり、会社の都合によって一方的にクビにされやすくなってしまいます。

解雇は、解雇権濫用法理のルールによって制限され、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上の相当性がなければ違法な不当解雇として無効になります(労働契約法16条)。

解雇には正当な理由が必要となりますが、労動者の職責が雇用契約書によって示されていないと、反論は容易ではありません。解雇は、つまり「労働契約に定めた約束の違反」と、それによる信頼関係の破壊を理由にしています。

例えば、能力不足を理由とした解雇では、労働契約においてどのような能力が期待され、求められた水準に達していないかが争点となるものの、雇用契約書なしにはこの点について有利な戦略は立てづらいです。無断欠勤による解雇を争うなら営業日がいつかを特定する必要があり、遅刻による解雇を争うなら始業時刻を明らかにする必要があります。いずれも雇用契約書が重要な証拠となります。

不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

争いたいのに雇用契約書が手元にない場合の対処法

最後に、争いたいのに雇用契約書が手元にない場合の対処法を解説します。

雇用契約書は、あらゆる労働トラブルで重要な役割を果たすので、労動者としては、争う際は必ず入手しておきたいですが、残念ながら、雇用契約書を出してはくれない問題ある会社も少なくないもの。このとき、雇用契約書がなければ戦えないわけではないので、あきらめないでください。

むしろ、雇用契約書を渡さない企業ほど、重大な労働問題を抱えており、労動者を救済すべき必要性は高いといえます。

会社に雇用契約書の発行を求める

まず、雇用契約書が労動者の手元にないとき、その原因によってトラブルは次のように分類できます。

  • そもそも雇用契約書を提示されていない
  • 雇用契約書にサインしたが控えをもらっていない

いずれにしても、争うタイミングになって雇用契約書が手元にないことは、労動者の責任ではありません。したがって、労動者の不利益を減らすために、まずは会社に対し、労働契約書(もしくはその写しや控え)を発行するよう強く要求してください。

雇用契約書を要求するときは、まずは直属の上司や人事部などに口頭で連絡し、誠実に応じてもらえない場合は内容証明で記録に残して送付します。書面で要求する際には、発行してほしい理由(例:労働条件を確認したい)と、期限(例:本年◯月◯日までに)を明記してください。

弁護士に相談する

労動者が要求しても、会社が雇用契約書の発行に応じてくれないときには、弁護士から警告書を送る方法が有効です。弁護士が、労働条件を書面で明示しないことについての法違反を説明し、粘り強く交渉することで会社に違法性を理解させ、発行に応じてもらえる可能性が高まります。

弁護士に相談をしておけば、雇用契約書を入手した後に控えている労働トラブルにおいても、有利なアドバイスをもらうことができます。

労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

労働基準監督署に相談する

労働基準監督署は、労動者の権利を守るための行政機関です。前章でも説明の通り、雇用契約書がないというだけでは直ちに違法とはいえないものの、それによって労働条件の通知に不足があるときは、労働基準法15条違反で、「30万円以下の罰金」の刑事罰が科されます(同法120条)そのため、雇用契約書が発行されず、労働条件の通知に問題があるときは労働基準監督署に相談できます。

労働基準監督署は、企業の法律違反について是正勧告を行う権限があります。労基署の指導や勧告によって、企業の違法状態は改善されることが期待できます。

労働基準監督署への通報」の解説

雇用契約書の代替となる他の証拠を収集する

雇用契約書が手元にない場合でも、労動者が自身の権利を守るには、あきらめずに様々な対処をする必要があります。雇用契約書は、労働条件を証明する非常に重要な証拠ではありますが、労働条件を立証するには他の証拠で代用することもできます。そのため、どうしても雇用契約書が入手できないとしても、他の証拠を用意して権利を実現する工夫が可能です。

残念ながら会社のせいで雇用契約書が手に入らないと、労動者が証拠集めの努力をしなければなりませんが、他の証拠で労働条件や業務内容を証明できれば使用者側の責任を追及できます。このとき、以下のような証拠資料が役立ちます。

【雇用されていた事実の証拠】

  • タイムカードや勤務表など就労の事実を示す証拠
  • 指示書やメール、チャットなどの業務命令を示す証拠

【労働条件の証拠】

  • 求人票
  • 内定通知書、承諾書
  • 労働条件通知書
  • 給与明細
  • 離職票(退職する場合)
  • その他、労働条件について説明されたメールやチャット

書類の形の証拠だけでなく、一緒に働いていた同僚の証言も、証拠として役立ちます。詳しくは、お悩みの労働問題ごとに、下記の解説を参照して、必要な証拠を集めるようにしてください。

残業の証拠」「不当解雇の証拠」「パワハラの証拠」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、雇用契約書がもらえないとき、どのように対処すべきかを解説しました。

雇用契約書は、労働者の権利と義務を明確にし、トラブルを未然に防ぐ重要な役割があります。労働問題を争う際の重要な証拠となり、弁護士の相談でも必要書類として指定されるはずです。そのため、雇用契約書がもらえないことは問題であり、それによって労働条件を知ることができないなら違法の可能性が高いです。

雇用契約書の存在しない会社は、悪質なブラック企業と考えてよいでしょう。雇用契約書をくれないからといって戦うことをあきらめるのでは、泣き寝入りになってしまいます。万が一手元に雇用契約書がないにしても、適切な対処をすれば自身の権利を守ることができます。経験豊富な弁護士は雇用契約書がないというだけで依頼を断ることはなく、良い解決策を提案できます。

この解説のポイント
  • 雇用契約書がないことで労働条件を通知されていないなら労働基準法違反
  • 雇用契約書がないと、労働トラブルになったとき労働者にデメリットがある
  • 雇用契約書がもらえないときは、代替の証拠を準備して戦うのが正しい対処法

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