普通にはたらいていれば、給料が支払われなくなることなどなかなかないと思いがちです。給料を払われなければ、はたらかなければよいわけです。
しかし、ブラック企業では、想定外のことがよく起こります。はたらいたのに、労働した分の給料(賃金)がまったく払われないという事態になったときでも、労働者保護がされています。
会社ではたらき続ける場合、「給料が払われていません。」「賃金を払ってください。」と、面と向かってはなかなか言いづらいかもしれません。
「いつか払ってもらおうと思っていた。」ということだと、会社が倒産してしまったり、賃金請求が時効になってしまったりしたとき、労働者はもはや給料を払ってもらうことができなくなってしまいます。
給料を払ってもらうことは、はたらいた時間に対する正当な対価を請求することですから、全くやましい気持ちを抱く必要はありません。
給料が未払いとなっている場合には、給料の請求をすみやかにするべきです。給与未払い額が少額であり、弁護士費用を払うと採算が合わない場合であっても、労働者自身で給料の請求を行いましょう。
目次
1. 給与未払いの証拠を確保しよう
給料が支払われていないことは明らかなのだから、すぐに労働者は救済されるはず、と安易に考えないでください。
ブラック企業の場合、給料を支払わないと決めたら、強行に戦ってくる場合もありますし、そもそも会社にあまりお金がなければ、給料を払ってもらうことは、思ったより難しい場合もあります。
今後、給料の請求を、労働審判や裁判などの法的手続きで請求しなければならない可能性も念頭に置いて、まずは、給与未払いの証拠を確保しなければなりません。
給料未払いの証拠には、大きく分けて次の3つがあります。
- 会社と労働者との間で約束した給料の金額についての証拠
- 労働者が、決められた労働を行ったことについての証拠
- 支払われるべき給料が支払われていないことについての証拠
裁判や労働審判などの争いになった場合、証拠の無い事実は、なかったものとして扱われてしまうため、労働者側に不利益な判断となってしまうおそれがあります。
なお、給料請求のトラブルの場合に、どのような証拠が必要であるかは、具体的なケースによってさまざまですので、詳しくは、労働問題に強い弁護士へ法律相談ください。
給料の金額は、「決められた給料の金額」に、「労働者がはたらいた時間」を書けて計算されます。
したがって、労働者と会社との間で、給料の金額についてどのような合意があったか、そして、労働者がどれだけの時間はたらいたかについて、労働者が証拠によって証明する必要があるのです。
1.1. 給料の金額の証拠
そもそも、給料の金額は、会社と労働者の約束によって決まります。
給料の請求をするためには、未払いとなっている金額と支払日を証拠によって証明しなければなりません。
そこで、次のような、給料の金額についての証拠を収集しておきます。
- 労働条件通知書
- 雇用契約書
- 就業規則
- 求人票
- 内定書
- 給与明細
給料の金額や計算方法は、労働者にとって一番大事な労働条件の1つです。
そのため、会社と労働者が雇用契約を締結するのであれば、給料の金額や計算方法について、書面で明示しておかなければならず、上で列挙したような証拠はかならず用意されているはずです。
会社がこの義務をおこたり、「給料の金額がわからない。」という場合であっても、会社の義務違反によるものですから、給料が支払われていたころの毎月の支払金額などによって推認していくことが可能でしょう。
1.2. 労働を行った事実の証拠
雇用契約では、労働者は、労働の提供の対価として給料を請求することができます。
すなわち、はたらいたことを証明して給料の請求をするということです。
逆に、労働者が労働を行っていないとすれば、「ノーワークノーペイの原則」といって、はたらいていない時間に対する給料を請求することはできないのが原則です。
そこで、次のように、労働者が決められた時間に働いたことについての証拠を収集しておきます。
- タイムカード
- 出勤簿
- 業務日誌
- 日報、月報
タイムカードによって始業時刻、終業時刻の打刻があれば、その間は労働をしていたであろうということを証明するのに十分な証拠となります。
むしろ、会社には、労働者の労働時間を把握しておかなければならない義務がありますから、「タイムカードはあるが、その間の時間はたらいていなかった。」と反論するのであれば、会社側が証明しなければなりません。
タイムカードが会社になかったとしても、その他の方法によって、はたらいていたことは立証可能なケースが多いです。
1.3. 給与が未払いとなった事実の証拠
法的にかんがえれば、給料の請求のトラブルでは、「給料を支払ったこと」を会社側が証明すべきであり、「未払いであること」を労働者側が証明するのではありません。
とはいえ、念のため、労働者側でも、適切な給料が支払われていないことを確認しておきましょう。
給料の一部だけが未払いの場合には、いくらが支払われているのかも確認しておく必要があります。
そこで、次のような、給与が未払いとなった事実の証拠を収集しておきましょう。
- 給与明細
- 源泉徴収票
- 給与口座の履歴
2. 未払いの給料を請求する具体的な方法
証拠収集などの準備がおわったら、具体的に未払いの給料を請求していきましょう。
未払いの給料を請求する方法は、会社がどれほど強硬に未払いを続けるかによって、何段階かに分けることができます。
会社の態度が明らかでない場合には、まずは社長に支払請求をし、会社の態度をさぐることが重要です。
どうしても支払われないことが明らかな場合には、労働問題に強い弁護士に依頼し、法的な手続での請求を試みるとよいでしょう。
2.1. 内容証明で給料を請求する
給料の支払い忘れであった場合など、社長に支払をお願いしたらすぐに払ってもらえたような場合はいいですが、そうでなければ、会社との争いを覚悟しなければなりません。
給料の支払い請求をするとき、労働者(従業員)の側が、会社に対して、本気度を示すためには、書面によって請求すべきでしょう。
給料を請求するときの書面の題名は、「賃金支払請求書」などとして、未払いの給料を請求することを明らかにしましょう。
書面によって会社に対して給料の請求をするとき、後に労働審判や裁判で証拠とするために、内容証明郵便によって行うことをオススメしています。
内容証明郵便によって本気度を示し、特に、弁護士に依頼して弁護士名義で書面を送付することによって、会社が労働者(従業員)の本気度を知り、給料を支払ってくれる可能性があるからです。
例えば、給料が払われていない原因が、次のような理由による場合には、労働者(従業員)側が本気度を示して話し合いをすることによって、すぐに給料が支払われる可能性があります。
- 会社の管理がずさんで、給料の計算が間違っていたというケース
- 会社の経理部のミスによって、給料を支払ったつもりでいたというケース
- ワンマン経営者の感情的な理由によって、給料を支払いたくないと考えていたというケース
これに対して、会社の給料未払いが、悪意にもとづくような場合には、話し合いでは解決が困難なケースも多くあります。
2.2. 労働審判で給料を請求する
内容証明郵便を送って話し合いを行っても会社が未払いの給料を支払ってくれないときは、次は、強制的な方法によって給料を請求することとなります。
具体的には、労働審判という、裁判よりも簡易な制度によって、給料を請求しましょう。
労働審判では、証拠が重要となりますので、事前の証拠収集を忘れずに行うようにしてください。
証拠が十分にそろっているケースでは、労働審判の場で、労働審判委員を交えたお話し合いを行うことによって、未払いの給料を、スピーディに支払ってもらえます。
2.3. 裁判で給料を請求する
話し合いや労働審判によっても、未払いの給料を支払ってもらえない場合、裁判を起こすこととなります。
例えば、未払いとなっている金額に争いがあり、会社側と労働者(従業員)側の認識に、大きな差があるといったケースでは、裁判となることが予想されます。
未払いの給料を請求するための証拠が十分に準備してあって、給料を支払ってもらえることが明らかな場合には、「仮差押え」という裁判による回収をすることができる場合があります。
これは、緊急のケースについて、「仮」に権利を実現するための制度です。
会社の不動産や銀行口座を、仮に差し押さえることができる、非常に強い権利ですが、その分、十分な証拠が要求されます。
給料は、労働者(従業員)にとって、生活の糧となる非常に重要な権利ですので、緊急性の高い場合には、仮差押えによる未払い給料の回収を検討してみてください。
裁判による給料の請求は、非常に強い手段ですが、多くの時間と手間、費用がかかることから、未払いの給料額が少額の場合には、採算が合わないことがあります。
少額な給料でもあきらめないために、次章で解説するような裁判制度の活用を検討してみてください。
3. 少額な給料でもあきらめないための3つの裁判制度
請求する給料の未払い金額が少額な場合には、手間と費用の方が多くかかってしまい、裁判にすることをためらってしまう場合もあります。
特に、弁護士に依頼する場合には、弁護士費用として一定の金額がかかることから、「給料の回収に成功しても結局マイナスとなった。」となっては元も子もありません。
しかし、請求する給料の金額が少額であっても、あきらめる必要はありません。給料は、労働者(あなた)が働いたことに対する正当な対価だからです。
少額の未払い給料を請求したいという場合、労働者(あなた)自身でもできる次のような簡易な制度を利用して、給料の請求を行うことを検討してください。
3.1. 支払督促で給料を請求する
支払督促とは、未払の給料を請求する会社の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てをすることによって、支払いの督促をしてもらう制度です。
簡易な手続きによって、未払の給料について、支払いの督促をしてもらうことができる上に、裁判所にいく必要もなく、費用も安く済みます。
一方で、会社が異議を申し立てた場合には、通常の訴訟に移行しますので、裁判によって給料を請求する場合と同様の手間が必要となります。
証拠がしっかりとそろっていて、未払いの給料が払われるべきものであるけれども、会社が感情的な理由などで払ってくれないような場合に、支払督促が有効です。
3.2. 少額訴訟で給料を請求する
少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払いについて、簡易裁判所で行う訴訟をいいます。
60万円以下の少額の給料未払いの場合には、少額訴訟によって、スピーディに解決することが可能です。
少額訴訟では、1回の審理で結論を得ることができるものの、支払督促と同様、会社側が異議申立をする場合には、通常の訴訟に移行し、裁判によって給料を請求する場合と同様となります。
3.3. 民事調停で給料を請求する
民事調停は、裁判のように、判決で白黒はっきりつけるような解決手段ではなく、あくまでも裁判所におけるお話し合いで解決する方法です。
とはいえ、決められた給料が明らかに払ってもらえていないというような場合、労働者(従業員)側には、あまり譲歩の余地は大きくないのが通常でしょう。
民事調停によって話し合いを進めることによって、会社に無視されにくくなり、裁判よりも少ない手続き費用で解決をすることができます。
ただ、未払いとなっている給料の金額が多額であったり、会社と労働者との間に主張の対立があったりする場合には、民事調停によって給料トラブルを解決するのが困難な場合があります。
4. 給料の未払いは犯罪!
給料の未払いは、単なる雇用契約上の約束違反ではありません。
労働基準法では、給料の未払いに対して、「30万円以下の罰金」という刑事罰を定めています。
というのも、給料とは、労働者(従業員)の生活の糧となるものであって、未払いは非常に悪質な行為であり、労働者保護が必須だからです。
したがって、給料の未払いは「刑事罰違反」、つまり、「犯罪」であるということをよく理解し、恐れることなく、会社に対して未払の給料の請求をしましょう。
「給料未払い」という犯罪については、労働基準監督署(労基署)に告発をすると、対応してくれる可能性が高いです。
ただし、労働基準監督署は、弁護士とはちがって、労働者(従業員)の代理となって会社から未払い給料を回収してくれるわけではないことに注意が必要です。
5. 消滅時効に注意!
未払いとなっている給料は、いつでも請求ができるわけではありません。
「給料が未払いとなっているけれど、すぐには言い出しづらい。」「退職したら請求しよう。」と甘く考えていると、時効によって請求できなくなってしまうおそれがあります。
賃金の消滅時効は、労働基準法によって2年と定められています(退職金の消滅時効は、5年と定められています。)。
つまり、給料が支払われていないにもかかわらず、2年間の間なにも給料の請求をしないと、その後に給料の請求をすることができなくなってしまうということです。
給料の未払いが続くようであれば、できる限り早めに、労働問題に強い弁護士へ、お気軽に法律相談ください。