残業代や解雇、ハラスメントなど、労働問題を争う手段のなかで最も有効なのが「労働審判」。
簡易、迅速かつ柔軟な解決を目指す制度なので、労働者保護のためにうまく活用すべきです。労働者が有利に進めるために理解しておくべきなのが労働審判の流れです。全体の流れのなかでも特に重要なのが、労働審判の当日(第1回期日)の対応です。
労働審判はスピーディな解決のために、第1回期日において証拠調べと事実認定のほとんどを終えてしまうのが通常です。期日における流れを理解し、1回目の期日からうまく立ち回らなければ、有利な判断を下してもらうことは期待できません。
今回は、労働審判の流れと有利に進めるための注意点を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 労働審判の流れは、申立てから審理、調停、そして審判という流れ
- 労働審判当日の流れでは、不利な発言はせず、裁判所の質問に端的に回答する
- 労働審判当日に、弁護士を同席させることで、法的なサポートを受けるべき
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労働審判の流れと手順
まず、労働審判の流れについて解説します。
労働審判は、労使の紛争を迅速かつ公正に解決するための手続きであり、個別労使紛争を広く対象としています。有効活用するには、全体の流れを把握するのが大切です。スケジュールをしっかりと組んで遅れないよう対応しましょう。
労働審判の申立て
労働審判の手続きは、裁判所への申立てによって開始されます。
具体的には、労働審判申立書を管轄の裁判所に提出する方法で行います。労働審判の管轄は、原則として地方裁判所(地裁)の本庁となっています(例外的に一部の支部に管轄あり)。労働審判は、労動者保護を主な目的としますが、労動者だけでなく使用者の申立ても可能です。
労働審判の申し立てには、以下の書類が必要です。
- 労働審判申立書
- 関連する証拠資料(雇用契約書、就業規則、給与明細など)
- 印紙代(手数料額早見表)
- 連絡用の郵便切手(予納郵券)
労働審判の申立書のひな形は、「労働審判手続申立書(裁判所HP)」を参考にしてください。また、申立後も、必要に応じて、補充書面という書類を提出して、主張を補足できます。
労働審判委員会の設置と当事者の呼び出し
労働審判の申立てが受理されると、裁判所は労働審判委員会を設置します。労働審判委員会は、労働審判官(裁判官)1名と、労働審判員2名(労動者側と使用者側からそれぞれ1名)で構成されます。
申立後は40日以内に第1回期日が指定され、労使双方の当事者に呼出状が送付されます。使用者側に対しては、この際に労動者から提出された申立書が同封され、第1回期日の1週間前を目安として答弁書を提出して反論するよう指示されます。
労働審判はスピーディな解決のために第1回期日のやり取りを重要視します。
労動者側としては、申立てのタイミングを自由に選べるわけなので、十分な準備をしてから申立てに臨むべきです。使用者側としては、紛争の開始するタイミングを選ぶことはできず、裁判所からの連絡が来たら大至急準備を進めることとなります(欠席すれば不利な審判が下るおそれがあるため、無視されることは少ないです)。
労働審判の期日の流れ
労働審判の期日の流れについて解説します。
労働審判では、迅速な解決のために、通常訴訟のように書面のやり取りを繰り返すことは想定されず、期日当日に対面で行う審問によって事実関係を確認し、意見を聴取するのが主な流れです。労働審判の審理は、訴訟とは異なり「非公開」で進むため、関係者以外に労働審判で争っていると知られることはありません。
事前評議
まず、労働審判委員会が、申立書、答弁書及び証拠を読み、事前評議を行います。証拠については、労働審判官のみ事前に見ることができ、労働審判委員は当日になって初めて目を通します。事前評議では、労働審判官(裁判官)を中心に、当日の流れや当事者への質問事項、法的争点などを確認します。
事前評議は、当事者が入廷する前に行われるため、内容を知ることはできません。
労働審判の制度説明
期日の開始時刻になると、書記官の案内に従って労働審判廷に当事者が入廷します。
初めに、労働審判の制度について、労使双方が対席の場で説明を受けます。労働審判が、労働者保護のために迅速性が重視される制度であること、話し合いを重視するために労使いずれも譲歩を要することといった留意点が説明されるのが通例です。
事実認定と証拠調べ
第1回期日の前半(1時間〜1時間半程度)が事実認定と証拠調べに充てられます。まずは申立人の主張を確認し、相手方の反論を確認し、必要に応じて、争いのある部分について証拠を調べる、という流れで進みます。
事情の聴取は、労使が同席の場で、労働審判官から両当事者への質問と、それに対する回答の形で行われます。同席してはいるものの、その場で当事者同士が議論を戦わせることは予定されず、あくまで裁判官の指揮に従って、質問に回答しながら事実関係を明らかにしていきます。
証拠調べについて、書証は第1回期日までに全て提出しておくのが原則的な運用となっており、後出しだと考慮されないおそれがあります。証人についても、第1回期日に同席できる人に限られます(陳述書を出す方法で、出席しない人の証言を結果に反映させることはできるものの、同席の証人より軽視されがちです)。
中間評議
事情の聴取を終えたら両当事者を退席させ、労働審判委員会の評議を行います。労使それぞれに聞き取った事情をもとに心証形成をします。この際は、事前評議で定めた争点について、労使のいずれが有利か(不利か)といった話し合いをします。
この評議は、その後に続く調停の手続きにおいて、合意を調整するにあたりいずれの当事者にどのような見解を伝えるか、といった点に反映されます。
調停手続き
評議で決まった心証をもとに、調停の手続きを行います。調停は、労働審判委員会が仲介しながら行う労使の合意形成のための調整です。労働審判委員会は、可能な限り調停による解決を目指すために、心証を少しずつ開示しながら、話し合いを促進します。
2回目、3回目の期日は、事実の確認や証拠調べにあまり多くの時間は割かれないのが一般的で、調停手続きが中心となります。
調停では、労使が個別に、それぞれ交互に労働審判廷に入室し、労働審判委員会の考えを聞きながら譲歩できるかどうかを検討します。3回目の期日までに合意できるなら、調停成立となり手続きは終了します。調停が成立しない場合には、審判に移行します。
次回期日の調整
当該期日では調停成立に至らず、話し合いの見込みが残っている場合には、次回期日が指定されます。労働審判は、迅速な解決のために原則として3回までの期日で終了します。
労働審判では期日の回数が限られている点が、審理が熟するまで何回でも期日を繰り返す訴訟との違いです。
調停成立または調停不成立
話し合いによって合意に達すると、調停成立となります。調停調書を作成し、労働審判手続きは終了します。調停の多くは、労使双方の譲歩によってなされるため、和解金や解決金といった金銭を会社が労動者に支払うことによる「金銭解決」が主となります。
労働審判は、原則として3回までの期日で審理します。3回の期日を重ねてもなお労使の調整ができないときは調停不成立となり、審判に移行します。また、第1回期日であっても、労使の隔たりが大きく、譲歩が到底難しいと考える場合も、調停不成立と判断される可能性があります。
調停が成立しない場合には、労働審判委員会は、労動者や使用者から追加で聴取を行うなどして事実認定を行い、委員会としての解決の見通しを立てます。
審判の決定
調停が不成立となった場合には、労働審判委員会が最終的な審判を下します。
ここまでの審理にかかる期間などを考慮すると、労働審判が申し立てられてから、審判に至るまでにはおよそ3ヶ月程度となるのが一般的です。審判の決定は、労働審判が柔軟な解決を目指す制度であることから、必ずしも法律をそのまま適用した内容ばかりでなく、労働審判委員会の提示する折衷案となることもあります。
調停の手続きでは合意に至らなくても、その後に審判による最終決定を得られるのが、民事調停との違いであり、労働審判のメリット(民事調停だと、調停が不成立であれば終了し、問題が解決しないません。労働審判の方が解決力の高い制度です)。
異議申立てと審判の確定
審判の決定について不服があるときは、当事者は、決定の告知から2週間以内に異議申立てをすることができます。異議申立ては、労動者側からも、会社側からも可能です。期間内に、審判を下した裁判所に対して異議申立書を提出するのが、異議申立ての具体的な方法です。異議申立てがされると審判は確定せず、訴訟移行して争いが続きます。
2週間の期間内に異議申立てがない場合には、審判の決定が確定し、法的な拘束力を持ちます。この場合には、会社が命じられた解決に応じないなら、強制執行の手続きによって財産を差し押さえることができます。
「労働審判の異議申立ての方法」の解説
労働審判の期日に労働者はどのようなやり取りをすべきか
では、労働審判の期日の当日に、労働者がどのように立ち回るべきか、対応のポイントについて解説します。
労働者にとって有利な事実を指摘する
労働審判の期日では、労働者側としては、自分にとって有利な事実を指摘するようにします。このとき、「そもそも、何が有利な事情なのか」を知るには、事前に法律知識を得ておく必要があります。
労働審判の場で嘘を付くのはお勧めできず、虚偽だと発覚すれば不利な心証を抱かれます。ただ、不利な事実は、聞かれない限り伝える必要はなく、有利なことだけ発言すれば足ります。
気負わず、普通の会話を心がける
労働審判は、訴訟のような法廷で行われるのではなく、「労働審判廷」という部屋で開催されます。労働審判廷は、裁判所内の普通の部屋に、少し大きめの円卓の置かれた場所です。労働審判委員会3名、会社側と弁護士、労働者と弁護士が、円卓を囲み、労働審判の審理をします。
緊張して、有利な事情を伝え忘れうのが、最悪です。そのため、まずは普通の会話だと心がけ、気負わずに臨みましょう。意識しすぎず、自然体で聞かれたことに答える、という対応が適切です。
不利な発言はしない
裁判所から、緊張をほぐすために雑談を振られることもあります。自然体で答えるべきと説明しましたが、しかし、労働審判での会話は、全て証拠になります。
あなたにとって雑談だと思っても、裁判所はその事情を重視するかもしれません。全ての会話が聞かれ、判断を下すための材料にされていることを忘れてはなりません。不利な発言はしないよう、十分に注意してください。ふと思いついたように審判委員が質問し、不用意な回答をし、不利に評価されるケースもあります。
裁判所の質問には端的に答える
労働審判の当日を仕切り、最終的な判断をするのが労働審判委員会。労働審判委員会は、裁判官である労働審判官と、労使の専門的知識ある労働審判委員との3名からなります。このうち、議事を進行は、労働審判官の役割です。
参加者が好き勝手話すのではなく、労働審判官の進行にしたがい、聞かれた点を回答します。労働審判の時間には限りがあり、あなたに有利な事情を伝える時間は、さほど多くはありません。
裁判所は書面を事前に読み、気になった部分を質問します。質問はいずれも裁判所が心証形成するのに聞きたいポイント。そのポイントについて端的に回答するのが有利に進めるために重要です。
理解してほしいからと前提事実から延々と議論するのはお勧めしません。不要なだけでなく、肝心のポイントが伝わりづらくなり、有利に扱われないおそれもあります。訴訟に比べて、労働審判はスピーディに解決する分だけ使える時間が短いことを忘れてはなりません。
「労働問題の種類と解決策」の解説
労働者がしてはならない不利な対応
労働審判では、迅速な判断のために「当日その場」でのやり取りを非常に重視します。つまり、労働審判官(裁判官)との質疑応答やヒアリングが最重要です。
争いとなった労働問題について、事実関係を最もよく知るのは労動者自身に他なりません。弁護士を頼むにせよ一人で対応するにせよ、労働審判の期日には必ず出席する必要があります。欠席したり、出席しても有利な発言ができなかったりすると、不利な扱いを受ける危険があります。
労働審判の流れのなかでも最も重要な期日当日、本人の対応には課題が山積みです。労働審判は一生に何度も経験することではなく、慣れないのは当然。ミスなく進めるには「しない方がよい言動」も理解しておきましょう。労働審判ですべきではない労動者の態度は、例えば次の通りです。
- 労働審判の独特な雰囲気に飲まれてしまった
- 話しづらくて黙ってしまった
- 逆に、口数多く主張しようとして不利なことを口走る
- 会社への文句ばかりで印象が悪くなった
- 感情にまかせて怒鳴ってしまい問題社員のイメージが付いてしまった
労働審判は、労働者保護の制度ではあるものの、準備なくして臨むのはお勧めできません。裁判所は、「態度の悪い労動者」「問題社員」まで救済してはくれません。労働者の態度が悪かったり、証言が不適切だったりすると、正当な権利を実現できず、被害回復ができなくなります。不利な心証を抱かれぬよう細心の注意を払い、慎重に進めなければなりません。
「不当解雇を争う際の禁止事項」の解説
労働審判を弁護士に相談するメリット
最後に、労働審判を弁護士に任せるメリットについて解説します。
労働審判は、労働者だけでも申立てをすることができます。しかし、今回解説した労働審判の流れの通り、その進め方は複雑であり、特に、当日のやり取りのことを考えるなら、有利に進めるには弁護士に依頼するのが賢明です。
短期で終わる可能性が高い分、弁護士に任せる際の報酬も、通常の訴訟より安く抑えられる傾向にあります。
申立書を前提に期日対応を準備できる
弁護士に依頼すれば、申立てや準備段階から、書面作成や証拠集めまで、弁護士にサポートしてもらえます。申立書に記載して、期日前に裁判所に主張をしっかり理解させることができます。
したがって、労働審判の当日は、裁判所に全ての主張が伝わった状態でスタートできます。この場合、裁判所(労働審判委員会)においては、申立書を事前に検討し、判断のために必要となる事情について質問するという進行になります。つまり、有利な主張を理解してもらった上で進められると共に、期日当日の質問もある程度想定して、回答を準備していくことができます。
労働審判は、裁判手続きのなかでも、比較的新しくできた、特殊な制度です。実際に体験した人の話や、経験を豊富に有する弁護士のアドバイスを聞き、事前にシミュレーションしておくことが、当日冷静に対応するのに非常に役立ちます。
有利な事実の指摘を忘れない
弁護士を依頼すれば、労働審判の当日に同席してもらうことができます。
そのため、裁判所(労働審判委員会)の質問に対して、労動者の回答が不十分なときや、有利な事実の指摘を忘れてしまったときにも、弁護士に補足してもらうことができます。弁護士は、事前のヒアリングであなたの主張を全て理解しており、伝え漏れを防ぐことができるのです。
労働審判期日のやり取りのなかで、弁護士がカットインして説明すべきなのは、例えば次のタイミングです。
- 裁判所の関心事が明らかになったが、その点の法的な主張が不足していた場合
- 会社の反論で新たな事実が明らかになり、再反論を要する場合
- 事前のヒアリングで聞いていなかった有利な主張に気づいた場合
不利な流れをストップできる
裁判所の質問にただ答えているだけだと、「不利な流れになっているのではないか」と不安を感じる方も多いのではないでしょうか。実際、労働審判の流れの最中に、有利・不利の心証を聞かせてもらえないケースもあります。
このとき、労働問題を解決した経験の豊富な弁護士ならば、不利な流れに気付くことができます。そして、裁判所の隠された意図を理解し、労動者に質問するなどして反論の機会を与え、不利な流れを食い止めることができます。
法的な意見を補足できる
更に、弁護士に依頼すれば、法的な意見を補足してもらうこともできます。労働審判の当日に、労動者が一人で法的な意見を裁判所に伝えるのは難しいでしょう。法律上の難しい論点があるケースほど、弁護士に依頼するメリットが大きいといえます。
法律知識にしたがった有利な方針を知るには、まずは無料相談の活用がお勧めです。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
当日のストレスを軽減できる
労働審判は、当日その場の対応が重視される分、労使ともに本人が参加します。あなたが参加するのはもちろん、会社側も、社長や上司が直接参加してきます。労働に関するトラブルの起こったのに、ワンマン社長やブラック上司と同じ場で発言しなければならないのは苦痛でしょう。
労働審判の当日に、弁護士に同席してもらえば、会社関係者との直接のやり取りを避け、防波堤となってもらい、当日のストレスを軽減できるメリットもあります。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
まとめ
今回は、労働審判の流れを、労動者の目線での注意点とともに解説しました。
労働審判は、労働者だけでも申し立てることができます。このとき、申し立てから審理、調停、そして審判に至るまで、労動者が一人で対応しなければなりません。しっかりと全体の流れを把握しておかなければ、スピーディな解決を目指す制度だからこそ「気付いたら不利な流れで終わっていた」ということになりかねません。
弁護士に依頼すれば、法律知識に基づいたアドバイスを得られるだけでなく、当日に同席して説明や発言を分担してもらったり、不利な流れになるのを食い止めたりといった働きをしてもらえるので、メリットは非常に大きいです。
労働審判の申し立てを検討しているなら、事前に弁護士に相談するのが有益です。
- 労働審判の流れは、申立てから審理、調停、そして審判という流れ
- 労働審判当日の流れでは、不利な発言はせず、裁判所の質問に端的に回答する
- 労働審判当日に、弁護士を同席させることで、法的なサポートを受けるべき
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