労働問題は、労働者として雇用されていると、日常的に起こる問題です。「労働問題」と一言でいっても、不当解雇、未払残業代、サービス残業、セクハラ、パワハラ、労災、雇用保険、失業手当、倒産など、さまざまな種類があります。
労働者の側では、労働問題については「被害者」となることが多く、残念なことにブラック企業に入社してしまった労働者の方は、労働問題を解決するために非常な苦労をすることも少なくありません。
誰しもが直面し得る労働問題について、得意分野としている弁護士は、労働問題の解決方法を何種類も知っており、法律相談をいただいた労働者の方の遭遇した労働問題ごとに、ケースに合わせた解決方法を提案しています。
そこで今回は、労働審判、訴訟をはじめとした、労働問題の解決方法とその選び方、相談のしかたについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
目次
1. 労働問題とは?
「労働問題」というひとくくりにして、会社と労働者との間のすべての問題を取り扱うのは、非常に危険です。労働問題は、労働者であれば誰しもがあう可能性のあるものですが、ケースによって労働問題の解決方法は異なるからです。
この解説で、労働問題とは、労働者の入社(もしくは入社前の求職時)から、就労中の労働環境、退職(もしくは解雇)まで、労働者としてはたらく際のすべてのタイミングでおこる、労働者と会社との間の問題のことをいいます。
労働問題は、例えば次のように大きく分類できます。あくまでも、一般的な分類であって、労働問題の解決方法を選ぶにあたっての、参考程度のものとお考えください。
1.1. 「緊急性」による労働問題のまとめ
労働問題の中には、緊急性の高い、すぐに対処しなければならない問題があります。労働者の生活や、最悪のケースでは「命」にかかわるような労働問題が、これにあたります。
他方で、労働問題の中には、重要ではあるものの、それほど緊急性は高くなく、徐々に改善していくべき問題もあります。職場環境など、労働者の努力によって変えていくことが期待できる労働問題が、これにあたります。
参考までに、「緊急性」によって労働問題を分類して、労働問題の解決方法を選ぶ参考にしてください。
- 緊急性が高い労働問題
:労災事故、安全配慮義務違反、重度のセクハラ・パワハラ、高額の賃金未払、不当解雇(特に懲戒解雇のケース) - 緊急性が中程度の労働問題
:未払残業代、不当な懲戒処分(懲戒解雇以外のケース) - 緊急性が低い労働問題
:軽度のパワハラ、不当な人事評価
緊急性の高い労働問題ほど、その労働問題の解決方法は、労働審判、訴訟などの法的手続を選択するべきであり、緊急性が高度の場合には、「仮処分」など、より早く裁判所の判断を得られる手段を利用する必要があります。
例えば、「未払賃金」の問題や「不当解雇」の問題は、労働者の生活の重要な糧となる「給与(給料)」が失われてしまうため、「賃金仮払い仮処分」などの仮処分を、労働問題の解決方法として選択する場合があります。
緊急性の低い労働問題の中には、軽度のパワハラなど、職場の労働環境の中で、会社、社長、上司と話し合いをしながら、徐々に解決していくべき問題もあります。
ただし、緊急性の低い労働問題を甘くみてはならず、「重要ではない。」という意味ではありませんので、適切な解決方法を選択し、労働問題を解決する必要があります。
1.2. 「起こる時期」による労働問題のまとめ
労働問題にも多種多様な事件、ケースがあることはご理解いただけたことでしょう。労働問題は、労働者が会社に入社する前から起こる可能性があり、労働者が会社を退職した後でも起こる可能性があります。
そこで、労働問題の解決方法をさぐるための、もう1つの労働問題の分類のまとめとして、「労働問題が起こる時期」による分類を、参考にしてみてください。
- 入社前、入社時に起こる労働問題
:採用の労働問題(求人詐欺、内定取消、内定辞退、内々定)、入社時の労働条件についての問題 - 入社後、就労中に起こる労働問題
:労働環境の問題(セクハラ、性差別、パワハラ、マタハラ、労災・通災事故)、労働条件・評価についての労働問題、人事異動・転勤の労働問題、問題社員トラブル(懲戒処分、注意指導など) - 退社時に起こる労働問題
:解雇(懲戒解雇、普通解雇、整理解雇)の労働問題、退職時の問題(雇用保険、社会保険など)、雇止め・派遣切りなどの労働問題 - 退職後に起こる労働問題
:会社から労働者への損害賠償請求、競業避止義務違反、秘密保持についての労働問題
労働問題が起こるタイミングによっても、適切な労働問題の解決方法は異なる場合があります。
例えば、労働問題の解決方法の中でも、よく利用される「労働審判」ですが、これは労働者と使用者との間のトラブルを解決するための手続です。
入社前や退職後、さらには、「雇用」ではなく「請負」のフリーランスなどの場合、「労働審判」よりも「訴訟」という労働問題の解決方法を選択すべきケースもあります。
2. 労働問題の解決方法とは?
ここまでお読みいただき、残念ながらあなた(労働者)の身に降りかかってきた労働問題が、具体的にはどのように分類される労働問題かを理解いただいた上で、次に、その労働問題の解決方法について解説していきます。
労働者側で、特に有効であると考えられる労働問題の解決方法には、次の3つの方法があります。
- 弁護士など、労働問題の専門家に法律相談する
- 労働基準監督署に相談する
- 労働組合に相談する
それぞれの労働問題の解決方法には、メリット、デメリットがありますので、スムーズに労働問題を解決し、かつ、労働者に有利な解決とするためには、適切な方法を選択する必要があります。
そこで次に、労働問題の各解決方法につきまして、1つずつ、その解決方法の特徴と、メリット・デメリット、より有効な活用方法について、弁護士が説明していきます。
なお、今回紹介する以外にも、労働問題を解決できる可能性のある方法は多くありますが、今回の解説では、「より労働者に有利に」「より迅速に」労働問題を解決するという視点で、有効性の高い3つの方法にしぼって解説します。
【労働問題の解決方法①】弁護士に法律相談する
弁護士は法律の専門家です。弁護士の中でも、その得意分野はいろいろあり、離婚や交通事故などの個人の法律相談を得意とする弁護士や、会社側の案件を得意とする弁護士もいます。
労働問題を得意とする弁護士に依頼することで、裁判所を利用した「労働審判」、「訴訟」、「仮処分」といった、強力な労働問題の解決方法を利用することができます。
これらの裁判所における労働問題の解決方法は、個人でももちろん利用することができますが、労働問題を解決した経験、労働法の知識の豊富な弁護士のサポートを受けることによって、より労働者側に有利な解決方法とすることができます。
(1) 弁護士による労働問題の解決方法のメリット
弁護士は、労働問題はもちろんとして、あらゆる法的トラブル、交渉について、労働者本人の代理をして交渉する権限をもっている唯一の専門家です。
弁護士を代理人とすることによって、ブラック企業やワンマン社長からのしつこい連絡、パワハラ的な連絡の窓口をすべて、弁護士に移すことができ、労働問題のストレスから解放されることができます。
また、労働問題を多く解決した実績のある弁護士であれば、労働法についての専門的知識をふまえて、依頼者である労働者の主張したい内容を、適切に会社に伝え、交渉を有利に進めることができます。
労働問題の解決は、個人でも対応可能であるとはいえ、証拠を収集したり、会社、社長、上司と直接交渉をしたり、裁判所への手続を行ったりすることは、不慣れな個人には困難な場合もあります。
(2) 弁護士による労働問題の解決方法のデメリット
弁護士に依頼するときは、労働問題を解決した実績がどの程度あるかを、初回法律相談などで十分に確認する必要があります。
また、一口に労働問題とまとめても、その中には、不当解雇、残業代請求、セクハラ、パワハラ、労災、職場いじめ、団体交渉など、多くの問題ケースがあり、しっかりと労働問題に取り組んでいる法律事務所を選択しなければなりません。
弁護士に依頼するときに注意すべきポイントとして、費用面の問題もあります。これも、予想外の費用がかからないよう、相談時に念入りに確認すべきです。
【労働問題の解決方法②】労働基準監督署に相談する
労働基準監督署とは、ブラック企業をはじめとした会社が、労働基準法、労働安全衛生法など、労働問題についての基本的な法律に違反しないように監督するための行政機関のことです。厚生労働省(厚労省)の管轄です。
これらの労働問題の基本的な法律に違反した会社に対しては、刑事罰をはじめとした厳しい処分をするという労働問題の解決方法につなげることのできる、非常に強い権力をもった機関ですが、他方で、対応範囲が限定的です。
労働基準監督署は、「警察」をイメージしていただければわかりやすいですが、協力してくれるときは労働問題の強力な解決方法となりますが、労働者側にまったく協力してくれず、「話を聞いてくれるだけで何もしてくれない。」「役立たずだ。」というイメージを持つ方もいます。
(1) 労基署による労働問題の解決方法のメリット
労働基準監督署(労基署)を利用するメリットは、労働者側にお金(費用)がまったく掛からない解決方法であるという点です。
そして、「残業代が支払われない。」、「基本給が支払われず生活に困窮している。」、「月100時間の長時間労働により過労自殺してしまった。」、「労災隠しをされている。」など、緊急性の高い重要な労働問題には、刑事罰などの強い解決方法を行ってくれます。
労基署は、警察と同様に、強制捜査(捜索・差押え)をし、会社や社長、役員を逮捕・送検する強い権限をもっています。
そのため、労基法違反の程度が強度であり、緊急性の強い労働問題に対しては、労基署による労働問題の解決方法が、非常に向いています。
(2) 労基署による労働問題の解決方法のデメリット
労基署は、非常に強力な労働問題の解決方法である一方で、まったく対応してくれず、軽くあしらわれてしまったり、あきらめるよう逆に労働者が説教されてしまったりすることがあります。
労働基準監督署(労基署)は、決して、「労働者の味方だ。」と思ってはいけません。労基法違反の企業に対して、刑事罰、罰金など厳しい処分をしてくれますが、あくまでも、労働法を守るために監督しているのです。
したがって、次のような労働問題については、労基署ではあまり十分に解決してもらえないおそれがありますので、その他の手段による労働問題の解決方法を検討したほうがよいでしょう。
- 労働契約法、民法など、労基署の対象外となる法律の違反(刑事罰のついていないもの)に関する労働問題
- 労使いずれにも原因のある労働問題(労働者側にも原因のある解雇など)
- 軽度のセクハラ、パワハラなど、事情の把握が困難なもの
ただ、「どうせ動いてくれないだろう。」「お役所仕事だろう。」とあきらめるのではなく、まずは相談にいくのもよいでしょう。相談準備として、事前に時系列をまとめてメモしておけば、相談もスムーズに進みます。
【労働問題の解決方法③】労働組合に相談する
労働組合とは、「労働組合法」という法律と、憲法によって強い権利を保障されている、労働者同士が団結し、助け合って労働問題を解決するための組織のことをいいます。
労働組合は、会社にも、行政機関にも頼ることなく、支配されることもなく、労働者たちが自主的に運営しており、「団結権」「団体交渉権」「団体行動権(争議権)」という強い権利を認められ、この権利を用いて交渉を進めていきます。
日本の伝統的な労使関係においては、企業内に労働組合が組織されている会社も多かったのですが、現在では、労働問題の解決方法として機能するのは、会社の外部にある「合同労組(ユニオン)」です。
(1) 労働組合による労働問題の解決方法のメリット
労働組合による労働問題の解決方法を選ぶメリットは、冒頭でも解説しましたとおり、労働組合法と憲法で、労働組合には強い権利が認められていることです。
憲法では、団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権)という「労働三権」が認められていることから、労働組合の正当な行為であれば、ストライキ、争議などを行っても民法、刑法などの違反となることはありません。
さらに、労働組合法では、「不誠実団交」、「不利益取り扱い」、「支配介入」という3つの会社の行為を、「不当労働行為」と定めて厳しく禁止しています。
そのため、労働組合から会社に対する「団体交渉」という話し合いの申し入れがされると、会社はこれを正当な理由なく拒否することができず、会社がしっかり話し合いをし、労働問題が解決にいたることが期待できます。
(2) 労働組合による労働問題の解決方法のデメリット
労働組合に相談することによって労働問題を解決する方法には、それほどデメリットはありませんが、いくつか注意しなければならない点があります。
まず、費用面は、労働組合に相談し、交渉を依頼するときに明確にしておくとよいでしょう。
加えて、憲法、労働組合法に認められた労働組合の権利にも、一定の限界があることから、交渉が進みづらくなった場合には、ほかの法的な解決方法を選択することも検討するとよいでしょう。
3. 労働問題を解決するための法律知識
最後に、いずれの労働問題の解決方法を選択するとしても、労働問題の解決に役立つ法律知識について、労働者側でもある程度知っておいたほうがよいでしょう。
例えば「弁護士に相談して、労働審判をする。」という解決方法を選択するにしても、「どの弁護士がよい弁護士か。」、「労働問題にくわしい弁護士かどうか。」を判断するために、当の問題の当事者がまったくの無知ではいけません。
ただし、これらの法律知識は、あくまでも一般論であって、すべてのケースにあてはまるとは限りません。
あなた(労働者)の事情にあわせた、より有利な解決方法をさぐるためには、ケースに応じた、より具体的な事情聴取、調査、相談をしてくれる解決方法を選ばなければなりません。
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4. まとめ
今回は、労働者として会社で働いている方であれば、いつでも遭遇するリスクのある「労働問題」について、適切な解決方法を選び出すための知識と方法を、弁護士が解説しました。
労働問題の解決方法は1つではなく、労働者にとってより有利な解決としたいのであれば、解決方法もまた、ケースに応じた適切なものを選ばなければなりません。
労働問題の解決方法に迷う労働者の方は、労働問題に強い弁護士の法律相談で、適切な労働問題の解決方法についてのアドバイスを受けることをオススメします。