会社勤めをしている労働者の方が、仕事の中で、特に頭を悩ませるのがセクハラ問題です。「セクハラでは?」と疑問、不安に思うことは多々あれど、なかなか相談できない方が多いのではないでしょうか。
手っ取り早く上司に相談して解決できれば良いですが、加害者が上司であり人事評価に関わるケースなど、会社での立場上セクハラ被害を訴えられないことや、どんなに説得してもセクハラをやめてくれないことも少なくありません。
こうしたセクハラの実態があるために、なかなか解決できないのがセクハラ問題の難しいところです。悪質なセクハラ被害にあったとき、早く解決したいけれどもどこに相談すればいいのか、ということは意外と知られていないようです。
「セクハラ問題の相談先を知らない。」ということでセクハラ被害者となった労働者が泣き寝入りをしなければならない、というのは、セクハラ被害を受けた労働者の方にとって非常に酷なことです。
そこで、今回は、企業におけるセクハラに関する基本知識と違法なセクハラへの対処法、利用可能な相談窓口について、労働問題に強い弁護士が解説します。
1. セクハラとは?
セクハラの相談窓口について解説する前に、まずは、どのような行為、発言が「セクハラ」にあたるのかについて、弁護士が解説していきます。
セクハラとは、大まかにいえば、職場での性的な言動による嫌がらせのことをいいます。
単純に性的な言動を浴びせるだけではなく、性的な言動に抗議したことを理由に、解雇や異動、降格、減給などの不利益を被害者に与える嫌がらせ行為は、広く「セクハラ」に含まれます。
1.1. 「対価型」と「環境型」
セクハラには、大きく分けて「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」の2つのタイプがあります。
- 「対価型」セクハラ
例えば、上司からキスや性的行為を要求され、断ると報復に異動や解雇、減給などの不利益を受ける、といったケースがこれに当たります。 - 「環境型」セクハラ
オフィス内に卑猥なポスターを貼られたり、悪意のある性的な噂を流されたりして、快適な職場環境を害されるケースがこれに当たります。
「対価型」、「環境型」のいずれのセクハラであっても、違法なセクハラ行為であることに変わりはなく、「慰謝料請求が可能」という点も変わりませんが、タイプ分類をすることで、「セクハラかどうか」をより判断しやすくなります。
1.2. 被害者は女性に限らない
「セクハラ」というと、男性が女性に対して行うもの、というイメージが根強いですが、被害者は女性に限られません。
男性が被害者になるセクハラや、同性同士のセクハラも増えてきています。また、近年注目されているLGBTへ差別発言がセクハラにつながることもあります。
2. セクハラへの対処法
セクハラは、被害者となってしまった労働者に、精神的・肉体的な苦痛を与えるものであり、民法上の「不法行為」に当たります。
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セクハラを受けてしまった被害者に対して、解雇や異動は不当処分であり、当然違法です。セクハラは明確な違法行為であり、被害者が泣き寝入りをする必要はどこにもありません。
2.1. 社内での解決が困難なケース
セクハラの被害にあってしまったとしても、被害者となってしまった労働者自身が、会社の上司や人事に相談して、セクハラをやめさせたり、配置換えで加害者と引き離してもらうといった適切な対応をしてもらうことは、非常に難しいことです。
加害者が社長や上司だった場合は、セクハラそのものをやめさせる、というのは難しいのが現実です。いくら上司に指導されてもセクハラをやめられない加害者もいれば、そもそもセクハラと認めないブラック企業も残念ながら存在します。
セクハラをやめてもらえず、どうしてもセクハラに耐えられない場合には、会社内での解決ではなく、労働審判、訴訟などの会社外での解決、という選択を検討すべきです。
2.2. 慰謝料請求できる
セクハラをやめてもらうことが非常に困難であるケースであっても、セクハラが違法だという事実は変わりません。
セクハラ被害によって、うつ病やPTSD、その他の精神的ダメージを受けた場合には、加害者の「不法行為」に対する慰謝料や治療費の請求をすることができます。
また、セクハラに耐えられず、会社をやめざるを得なくなってしまった場合には、本来働き続けていれば得られたはずの給料分の逸失利益を請求することを検討してもよいでしょう。
セクハラに抗議したことで解雇や異動などの不当処分を受けたときは、労働審判を通じて元の地位を取り戻すこともできます。
セクハラの程度が酷く、悪質なケースでは、次のような刑法違反にあたり、セクハラ加害者を刑事告発できるケースもあります。
- 名誉毀損罪・侮辱罪
- 強制わいせつ罪
- 強姦罪
- 暴行罪・脅迫罪
2.3. 会社に対する責任追及
会社には、従業員の業務を監督する義務があります。会社の監督が不十分だった場合には、従業員の「不法行為」について、会社も被害者に賠償する責任を負うことがあります。この責任を「使用者責任」といいます。
被害額が大きく加害者に請求しても十分な賠償を受けられないときには使用者責任の追及が可能です。
また、会社は、従業員の健康常態を保つ雇用契約上の安全配慮義務を負っています。
男女雇用機会均等法は、会社に社内のセクハラ対策を義務づけているので、会社が従業員に対して負う安全配慮義務の中には、セクハラからの保護も当然含まれます。
男女雇用機会均等法11条1項事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
したがって、会社にセクハラ被害を相談したのに十分な対応をしてもらえず、被害が大きくなったときには、「使用者責任」や「安全配慮義務違反」を理由として、会社に直接、セクハラの責任を問うこともできます。
3. セクハラの相談窓口まとめ
ここまで、セクハラが違法であること、違法なセクハラへの対処法を解説してきました。
しかし、いざセクハラと戦おう、と決意しても、「いったいどこに相談すれば良いのかが分からない。」「そもそも自分が受けているのはセクハラなのか。」という疑問や不安をお持ちの方は多いと思います。
そこで、以下では、セクハラの被害を受けた際の相談窓口と、各窓口の特徴について、弁護士が詳しくご紹介していきます。
3.1. 同僚や上司、友人への相談
セクハラ被害者にとって、もっとも身近な相談窓口が、周囲にいる同僚や上司、友人への相談です。
信頼できる同僚や上司、友人に相談することで、抱え込んでいたストレスや苦痛を和らげることができます。
ただし、上司に働きかけてもらうことでセクハラ問題を解決できるケースはそれほど多くなく、違法性の大きい悪質なセクハラの問題の場合には、解決につながらないケースも少なくありません。
3.2. 会社の相談窓口
男女雇用機会均等法上の義務に基づくセクハラ対策の一環として、社内にセクハラ相談窓口を設置している会社は増えています。
セクハラ相談の専用窓口がなければ、人事局や労働組合に相談することもできます。相談の結果、会社から加害者に働きかけてもらうこともできますし、同僚や友人に相談するよりは強力な手段です。
ただし、きちんとした証拠資料や事実関係が明らかにならないと本格的に動いてもらうことはできませんし、セクハラ問題が軽微な場合には、最終的な解決に至らないことも少なくありません。
3.3. 労働基準監督署
会社内の相談窓口が不十分な場合は、各都道府県地域に設置されている労働基準監督署に相談することもできます。
労働基準監督署とは、労働問題に関する通報を受けて、会社に改善を促すために設置されている公的機関です。違法な事実が発覚すれば、会社に対する立入検査や指導などの強力な措置をとってもらうことができます。
ただし、労働基準監督署は、十分な証拠資料に基づいて違法な事実があることが確認できなければ動いてくれない場合も少なくありません。
3.4. 地域労働局相談コーナー
労働基準監督署の他にも、各都道府県地域には労働局が設置されています。労働局では幅広い分野の労働問題を取り扱っており、セクハラだけでなく、パワハラやマタハラの被害に関する総合窓口が用意されています。
地域の労働局には、連日多数のハラスメント被害の相談が寄せられているため、労働局の窓口に相談すれば、解決方法について、より適確なアドバイスを受けることができるでしょう。
ただし、会社や加害者に対する指導や強制的な措置を行うわけではないので、セクハラ問題を直接解決できるわけではありません。
3.5. 弁護士への法律相談
各相談窓口の中でも、セクハラ問題の解決に最も有効なのは弁護士に相談することです。
会社や加害者との交渉を始めとして、セクハラ問題解決に向けた様々なサポートを受けることができます。そこで次に、弁護士に法律相談してセクハラ問題を解決するメリットを解説していきます。
4.弁護士に相談するメリット
ここまでお読み頂ければ、違法なセクハラに対して、どのような相談窓口が用意されているか、ご理解頂けたのではないでしょうか。不幸にもセクハラの被害者となってしまっても、泣き寝入りを避けることができます。
数あるセクハラの相談窓口の中でも、特に、セクハラ被害を弁護士に相談することには、他の相談窓口にはない大きなメリットがあります。
そこで、最後に、セクハラ相談窓口の中でも、弁護士に法律相談すべきである理由、メリットについて解説します。
4.1. 被害救済ができるのは弁護士だけ
相談窓口をご紹介する前に、損害賠償などの、セクハラ被害救済についての手段を解説しましたが、セクハラ被害についての事後救済のほとんどは、法的手続が関わってきます。
弁護士以外の相談窓口では、被害状況の相談とセクハラをやめるように働きかけてもらうことしかできず、基本的に事後救済の協力はしてくれません。
法律知識や手続に精通した弁護士だけが、慰謝料請求、損害賠償請求などを含めた、セクハラ被害の事後救済による問題解決に向けて活動できます。
「慰謝料を請求したい。」「辞めさせられた会社に復帰したい。」という要望をお持ちならば、数ある相談窓口の中でも、弁護士に法律相談するのが一番の近道です。
4.2. セクハラ以外の労働問題も相談できる
弁護士は、日々様々な案件に携わっています。労働問題に強い弁護士であれば、類似の事件の知識や経験も豊富ですし、事件解決のテクニックも沢山持っています。
喫緊の問題であるセクハラ被害に限らず、普段会社で感じている待遇上の不満を相談することもできますし、十分な証拠が揃っていない段階でも親身になって話を聞いてもらうことが可能です。
セクハラの被害者となってしまった労働者が、会社内でのセクハラ問題の解決ができないようなケースでは、そのような会社の中には、セクハラの他にも多くの労働問題が隠れていることが少なくありません。
4.3. 事実関係を整理できる
弁護士以外の窓口に相談する場合には、セクハラの被害状況や事実関係を自分で整理しなければなりません。
しかし、専門知識を持たない労働者の方にとって、自身が受けたセクハラの被害状況や事実関係を正確に把握し、整理することは非常に困難な作業だと思います。
一方、労働問題に強い弁護士に相談すれば、バラバラになっている事実関係を1つひとつ確認しながら時系列ごとに適確に整理してもらうことができます。
労働問題に強い弁護士であれば、被害者の方がうまく状況を説明できないときであっても、過去の類似の案件から状況を予測し、アシストしてくれます。
4.4. プライバシーが守られる
同僚や友人に相談する場合には、セクハラ被害に関する情報がうわさを通じて拡散しやすく、被害者のプライバシーが十分に守られないことも多々あります。
その点、弁護士は依頼者との間に守秘義務を負っているため、相談をしても被害者のプライバシーに関わる情報を口外することはまずありません。弁護士は、「弁護士法」という法律で、守秘義務を負っているからです。
会社との交渉や裁判活動をする際にも、可能な限り被害者のプライバシーが守られるように配慮してもらうことができます。
4.5. 法的アドバイスとサポートを受けられる
事件の解決方法や会社・加害者との交渉に関するアドバイスは労働局などの相談窓口でも受けることができます。
しかし、その後の実際の交渉や裁判手続をサポートしてくれることはありません。
弁護士に相談すれば、被害者から聞き出した事実関係をもとに、必要な証拠の種類や集め方をアドバイスしてもらうことができます。
加えて、会社や被害者との交渉、労働審判や裁判の手続に及ぶまで、トータルサポートしてもらうこともできます。
5. まとめ
今回は、会社内におけるセクハラについて、その基本知識と違法なセクハラへの対処法、利用可能な相談窓口について、弁護士が解説しました。
「セクハラ」が社会的に大きな問題となったのはまだ最近のことですから、セクハラ被害を訴えるための相談窓口も、普及し始めたばかりです。
会社によっては、独自の「ハラスメント防止委員会」を組織しているところもありますが、古い考えの会社やブラック企業では、まだまだ違法なセクハラを防止しようという意識が低いのが現状です。
セクハラ被害に声をあげようと思っていても、どこに相談すれば分からず、泣き寝入りをしてしまっていた方は少なくないのではないでしょうか。
今回の解説をお読みに頂き、セクハラ被害をご相談されたい労働者の方は、労働問題に強い弁護士まで、お早目に法律相談ください。