最近、「就活セクハラ」と呼ばれる、新しいタイプのセクハラが増えています。
昔ながらのOB訪問から、焼肉を食べながら面接する「ニクリーチ」など、会社「外」での就活が増えましたが、その反面、会社の目が行き届かないところで就活生をねらう「就活セクハラ」も深刻化しています。
内定がかかった就活生にとって、「就活セクハラ」は抵抗しにくく、非常に悪質です。「就活セクハラ」の被害に合わないために、「就活セクハラ」の実態、どのような対処法があるかを知っておく必要があります。
今回は、「就活セクハラ」にまつわる問題について、労働問題に強い弁護士が解説します。
目次
1. 「就活セクハラ」とは?
「就活セクハラ」とは、文字通り、就活(就職活動)のときに行われるセクハラのことです。
特に、会社側の採用担当者が、就活生に対して、その力関係を利用してセクシュアルハラスメント(性的な嫌がらせ)をすることを指すことが多いです。
面接の際に性的な事柄を質問したり、内定をチラつかせながら性的行為を強要することをいいます。
「就活セクハラ」の典型例としては次のようなものがあります。
- 面接で出産願望や交際相手の有無、スリーサイズなどを聞かれる
- 「応じないと内定は出さない」といって性的行為を強要される
- リクルーターを装ってホテルに連れ込まれる
- 内定を餌に、肉体関係を強要される
就活生としては、内定、採用を決める権限のあるリクルーター、採用担当者からこれらの就活セクハラを受けると、ひとりで抵抗するのは困難です。
2. 就活セクハラの具体例
「就活セクハラ」は、皆さんがご存知のような有名企業でも起きています。具体例を見ていきましょう。
以下の報道記事をご覧いただくと、「就活セクハラ」が決して他人事ではないことがお分かりいただけるでしょう。
「DeNA」では、平成29年、就活中の女子大生に対して、採用担当者が、遅めの時間帯に居酒屋で面接をした上で、東京都内のホテルに連れ込んだことが報道されています。
「トヨタ」の系列企業であるトヨタ自動車系アイシングループでは、平成27年、求職活動中の女性に対して、採用と引換えに性的関係を強要したことが報道されています。
3. 「就活セクハラ」の被害にあったら?
ここまで解説してきたように、非常に悪質な違法行為であることが明らかな「就活セクハラ」ですが、残念ながら、完全になくすことは困難です。
そこで、万が一就活セクハラの被害にあってしまったときに備えて、被害にあったらどのように対応したらよいのかについて、弁護士が解説します。
就活セクハラに泣き寝入りをして内定をもらえたとしても、入社後に苦しむことが多いため、被害者であるのに我慢をし続けることはお勧めできません。
3.1. 慰謝料を請求できる
「就活セクハラ」によって就活生が精神的苦痛を受ければ、採用担当者の「就活セクハラ」は民法上の「不法行為」になります(民法709条)。
「不法行為」に当たる「就活セクハラ」の事実が証明されれば、被害にあった就活生は採用担当者に対して、慰謝料を請求することができます。
就活セクハラは、通常のセクハラと同様、密室で行われることが多いため、被害にあってしまったときは、録音をとるなど、できるだけ証拠収集できる準備をしましょう。
3.2. 犯罪となる就活セクハラ
更に、「抵抗すれば内定を出さない」と脅され、体を触られたり、性行為をさせられたりした場合には、その「就活セクハラ」は「強制わいせつ罪」などの犯罪になります。
「就活セクハラ」が犯罪になれば、加害者の採用担当者は処罰されます。また、明らかな違法行為なので、被害感情に見合った高額な慰謝料の請求も認められやすくなります。
3.3. 会社内での懲戒処分は?
通常、会社では法律のルールにしたがって、就業規則などの社内規則にセクハラ防止のための規定が設けられています。
セクハラは重大問題ですから、懲戒解雇も含め、厳しい処分となることが予想されます。
しかし、就活生は、まだ入社しているわけではありませんから、就活セクハラの加害者である採用担当者、リクルーターなどが、社内でいかに厳しい罰を受けたとしても、根本的な救済にはなりません。
4. 「就活セクハラ」に対する会社の責任は?
「就活」という場において、採用担当者やリクルーターは、企業の名前を背負って、企業の窓口となって求人活動を行います。
そのため、採用担当者やリクルーターによる「就活セクハラ」は、会社に責任を求めることができるのでしょうか。
4.1. 「使用者責任」の慰謝料請求
民法には、会社の従業員(被用者)が不法行為をして第三者に損害を与えた場合、会社(使用者)に対しても損害賠償を請求できるルールがあります。
この会社の賠償責任を「使用者責任」と呼びます。
「就活セクハラ」の場合、さきほど解説したとおり民法上の「不法行為」にあたるため、会社の使用者責任を追及し、慰謝料請求ができるケースが多いです。
4.2. 「事業の執行」といえる?
「就活セクハラ」の慰謝料を請求するために、会社に対して「使用者責任」を問うためには、その就活セクハラが、外から見て、会社の「事業の執行」としてされたことが必要です。
会社の「事業の執行」には、事業活動に直接関わる行為だけではなく、事業活動に密接に関わる行為も含まれます。
4.3. 「就活セクハラ」は「事業の執行」に含む
社内面接や、社外でのリクルーターとの面談は全て会社の採用活動の一環です。
採用活動は、人員を確保するために行われるものであり、会社の事業活動を継続していくためには不可欠な活動です。
そのため、採用活動は会社の事業活動に密接に関わる行為といえ、会社の「事業の執行」に含まれます。
したがって、採用活動の中で行われる「就活セクハラ」については、会社の「使用者責任」を問うことができます。
5.「就活セクハラ」から身を守るためには?
以上が、「就活セクハラ」にあってしまったときの、具体的な対処法でした。特に、慰謝料請求を検討している場合には、証拠の収集が重要となります。
とはいえ、いくら慰謝料請求に成功したとしても、「就活セクハラ」でできた心の傷は癒えません。
「就活セクハラ」をできるだけ回避し、就活セクハラにあわないに越したことはありませんので、最後に就活セクハラの「予防法」について、弁護士が解説します。
5.1. 不安なことは会社に確認!
「就活セクハラ」の被害にあってしまう前にできることもあります。それは、「怪しい!」「就活セクハラではないか?」と思ったら、すぐに会社に確認をすることです。
例えば、「就活セクハラではないか?」と疑わしい事実には、次のようなものがあります。
- 会社の建物外での面談のアポばかりである。
- 面談を指定される時間が、いつも夜遅めである。
- 面談を指定される場所がホテル内のレストランである。
- 採用担当者がやたらとなれなれしい。
- 採用担当者の個人的な連絡先を教えてもらっている。
- 採用担当者から、業務時間外や休日に頻繁に連絡がくる。
もちろん、これらの怪しい事情があればすべて「就活セクハラ」だとはいいませんが、会社に確認を入れることは、責められるようなことではありません。
実際に「おかしい」と感じたら、正式にアポを取る前に、会社に問い合わせて、「御社ではそのような採用活動を行っているのか。」と確認をしてみるのが良いでしょう。
5.2. 「就活セクハラ」の証拠を集める
「就活セクハラ」の被害にあってしまった場合は、慰謝料を請求する道があります。
しかし、実際に「就活セクハラ」があったことを証明できなければ、裁判所に請求を認めてもらうことはできません。
そこで、「就活セクハラ」かもしれない状況に直面する前に、予防として、「就活セクハラ」の証拠を収集する準備が必要となります。
5.3. 録音アプリの活用
「就活セクハラ」があったことを証明するためには、その事実を裏付ける証拠が必要です。
もっとも、「就活セクハラ」が起きるシチュエーションは、他人の目が行き届かない場所であることが多く、目撃証言などの有利な証拠を集めるのは極めて困難です。
もしもの時に備えて、ICレコーダーやスマホの録音アプリを携帯しておき、「おかしい」と感じたら会話内容を録音するのがオススメです。
録音した音声は、裁判で「就活セクハラ」の事実を証明できる「動かぬ証拠」になります。
6. まとめ
今回は、「就活セクハラ」にまつわる問題と、「就活セクハラ」被害への対処法について、弁護士が解説しました。
「従わないと内定がもらえない」、「揉め事になったら採用人事に響くのではないか」という不安から、「就活セクハラ」に屈してしまう方は少なくありませんが、「就活セクハラ」は違法です。
会社の採用活動に疑問や不安を感じられた就活生の方、現に「就活セクハラ」の被害にあってしまった就活生の方は、労働問題に強い弁護士へ、お早目にご相談ください。