就職活動中の学生や転職活動をしている労働者の方は、「内定」をとるために全力で就職活動に励んでいかと思います。
就職活動の中で、「不採用」の通知を受けることは、まるで就活生の人格を否定されたかのように感じ、辛く悲しい気持ちになる方も多いのではないでしょうか。
不採用の理由が、「会社にあわなかったから」「求める能力が異なったから」といった、本人の努力次第で改善できるものであれば納得もできるでしょう。
しかし、自分の力ではどうにもできない「出身地」を理由に不採用とされた場合、不採用を受けた就活生としては、到底納得することができないのではないでしょうか。
今回は、就職希望者を「出身地」で差別することが認められるか、また「出身地」で差別をうけた就活生の対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
1. 出身地を採否の基準にできる?
結論から申し上げると、「出身地」によって採否を決める行為は、いわゆる「就職差別」の一つとして認められていません。冒頭でも解説したとおり、「出身地」だけを理由に不採用とされることは納得いかないでしょう。
特に、「出身地」による差別は、「被差別部落」、「在日韓国人」など、本人の能力とは関係ない、不当な理由によって、社会的なマイノリティーとなった人を不当に排除する行為につながる、危険な行為だからです。
さらに、そもそも書類選考や面接で「出身地」を尋ねることも禁じられています。
「出身地」を会社側が知ってしまえば、会社側にそのことを採用の基準とするつもりがなくとも、無意識のうちに考慮してしまうおそれがあるからです。
2. 就職差別とは?
就職活動において、会社側(使用者側)には、「採用の自由」があります。そのため、会社は、就活生のうち誰を採用してもよいし、採用するための条件もまた、自由に定めることが出来るのが原則です。
しかし、例えば、会社が社会的なマイノリティーを排除するような採用基準を作るのを認めたらどうなるでしょう。その場合、社会的マイノリティーに属する就職希望者の基本的な人権は不当に侵害されてしまいます。
このように、就職希望者の能力や適性と関係のない事情によって採否を決めることを「就職差別」といいます。「就職差別」にあたる事項を採用条件とする場合は、会社の「採用の自由」は制限されます。
つまり「採用の自由」があるとはいえ、不当な差別は許されないということです。
3. 不当な「就職差別」の具体例
では、「採用の自由」の例外に対して不当な「就職差別」は許されないとしても、どのような会社の行為が、「就職差別」にあたるのでしょうか。具体的に解説していきます。
厚生労働省は、会社の採用選考基準として、応募者の基本的人権を尊重するために、「応募者の適性・能力」のみを基準として採用選考を行わなくてはならない、という基準を定めています。
また、職業安定法は、就職希望者の個人情報保護の観点から、業務の目的の達成に必要のない個人情報の収集を禁止しています。
そのため、業務の目的の達成に必要のない情報、つまり本人の適性や能力とは関係ない情報を収集し、採用の判断基準とすることは「就職差別」にあたります。「出身地」はまさに、本人の能力や業務に関係ない情報の典型例といえます。
4. 「適性・能力」と関係ない事情とは?
それでは、本人の適性や能力とは関係のない情報には何が含まれるでしょうか。不当な「就職差別」に合わないためにも、求職活動をする労働者の方は、きちんと理解しておいてください。
まず、先ほど解説しました「出身地」は、どの地域を出身していても、その人の能力や会社の適性に影響を与えるものではないため、本人の適性や能力とは関係のない情報に当たります。
他にも、次のような事項はいずれも、就職希望者の能力や適性に影響を与えるものではないため、本人の適性や能力とは関係のない情報に当たります。
- 「家族や財産に関する情報」
:先祖の家柄、先祖の出身地、実家が資産家であるかどうか、等 - 「思想・信条・宗教に関する情報」
:どのような宗教を信仰しているか、尊敬する人物、等 - 「必要以上の健康診断情報」
:特に、AIDS(HIV)、B型肝炎、C型肝炎にり患しているか、うつ病、メンタルヘルスにり患したことがあるか、等
5. 出身地で差別を受けてしまったら?(対策)
「出身地」で差別されたことが分かった場合、就職希望者の中にはその会社への「内定」や「採用」を認めてもらいたいと考える方もいらっしゃると思います。
しかし、差別的な採用基準を定めた制裁として、会社に対して、ハローワークから指導が入ることはありますが、就職希望者の「内定」や「採用」を強制することは出来ません。
なぜなら、最終的に雇用するかどうかは、会社の「採用の自由」の最も根幹をなす重要な権利であると考えられており、「採用すること」の強制はできないからです。
もっとも、就職差別を受けた就職希望者は、会社に対して何もできないわけではありません。会社の行為は、出身地を理由に採用を拒絶してはいけないというルールを破る行為ですから、「不法行為」として、慰謝料などの損害賠償請求をすることができます。
6. まとめ
今回は、「出身地」を理由に、採用をするか否かを差別することは法律上認められないことと、採用差別を受けたときの対処法について、弁護士がまとめました。
「出身地」を理由に採用を拒絶された場合、採用の強制はできませんが、差別を受けたことに対する慰謝料などの損害賠償請求が可能なケースがあります。
会社がどのような採用基準を設けて、どういう理由で採用・不採用を決めたかを、外部から判断することは難しいため、「出身地」を理由に「就職差別」を受けたこと労働者自身で証明することは、非常に困難です。
「出身地による差別ではないか?」と不安、疑問を感じる労働者の方は、労働問題に強い弁護士に、お早目に法律相談ください。