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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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試用期間の本採用拒否は違法?本採用拒否されたときの対処法も解説

試用期間は、多くの企業で3〜6ヶ月程度、設けられます。
試用期間が終わり、合理的な理由がなければ、本採用されるのが原則。
しかし、残念ながら、本採用を拒否されることがあります。

試用期間前後のこんなトラブルが「本採用拒否」です。

相談者

本採用を拒否されても「試用」ならあきらめるべき?

弁護士浅野

いいえ、本採用拒否が違法なら、撤回を求めて争うべきです。

一方的な本採用拒否は、「解雇」と同じく労働契約の解約を意味します。
違法な本採用拒否は、不当解雇と同じく、無効であり、戦わなければなりません。

試用期間中ならば、まだ教育、研修と続け、様子を見るべき。
場合によっては試用期間の延長もできます。
なのに、正当な理由なくする本採用拒否を、違法と評価した裁判例もあります。

今回は、本採用拒否されたときの対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 試用期間の評価の結果、能力・適性が不足していると判断されると、本採用拒否される
  • 本採用拒否は、正当な理由がなければ違法であり、無効となる
  • 本採用拒否をするのに必要な理由の程度は、労働契約の内容や経歴により異なる

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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本採用拒否とは

本採用拒否とは、本採用せず、試用期間のうちに会社を退職させることです。

労働契約を結んだはじめのうちは、試用期間が付される企業が多いです。

試用期間は、労働者の職務能力や適格性を判断するための期間であり、評価の結果、正社員とするにふさわしい場合に、本採用されます。能力、適性が十分ではないと判断されると、試用期間中に解雇されたり、期間満了時に本採用拒否されたりすることがありますが、いずれも正当な理由が必要であり、無条件に許されるわけではありません。

試用期間とは

逆に、試用期間の評価が悪く、ふさわしくないと本採用拒否されるおそれがあります。
採用は、履歴書など書面審査から面談を経て入社に至るもの。
この過程で、本当に戦力になるのかはわかりません。
この理由から、「試用期間を設け、業務能力・適性をみる」というのが試用期間の趣旨です。

ただ、本採用拒否は、一度雇い入れた後に、会社側が一方的に雇用契約を終了するもの。
なので、労働者に不利益があり、厳しく規制されます。

試用期間満了後の本採用拒否

本採用拒否は、試用期間の満了をもって行われるのが基本です。

本採用前の試用期間は、解約権留保付労働契約だと理解するのが裁判例です。
(三菱樹脂事件:最高裁昭和48年12月12日)
解約権があるため、試用社員の本採用拒否は、正社員の解雇より裁量が広いです。

とはいえ、本採用拒否も、労働者に多大な不利益があるのは疑いようもありません。
解約権といえど、好き勝手行使できるのではありません。

本採用拒否もまた、解雇権濫用法理の適用があります。
なので、客観的に合理的な理由なく、社会通念上相当でなければ無効です(労働契約法16条)。

解雇権濫用法理とは

試用期間中の本採用拒否

本採用拒否は、試用期間中にされるケースもあります。
試用期間中に本採用拒否するには、そう就業規則に定めてある必要があります。
(例えば、「試用期間の途中でも本採用拒否できる」と規定しているか確認ください)

試用期間は、その期間中に、能力や適性を見極める期間。
会社が設定するのだから、その期間は適正な月数なはずです。
ならば、たとえ能力が足りないと感じても、期間満了まできちんと評価すべきです。

そのため、試用期間中の本採用拒否は、すでに能力、適性がないと明らかなケースに限ります。
例えば、残りの期間、注意指導を重ねても、本採用拒否となるのが当然な場合です。

能力不足による違法な解雇への対処法も参考にしてください。

本採用拒否と解雇の違い

本採用拒否も、会社から一方的に、労働契約を終了させられる点は解雇と同じ。
しかし、両者はまったく同じではなく、違いがあると理解されています。

前章のとおり、採用の過程だけでは社員の能力は測りきれません。
なので、試用期間を設け、その期間内に適性なしと判断すれば辞めさせられます。

このような合理的な理由で、採用当初より解約権が留保されているのです。
したがって、本採用拒否は、通常の解雇より広い範囲で裁量が認められるべき
とされます。

裁判例も、本採用拒否と解雇の違いについて、次のように述べます。
(日本基礎技術事件:大阪高裁平成24年2月10日判決)

解約権の留保は、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解される……(中略)……それゆえ、留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべき……

日本基礎技術事件:大阪高裁平成24年2月10日判決

以上のとおり、本採用拒否は、有効と認められるハードルが低い点が異なります。
代わりに、本採用拒否は、試用期間満了時というタイミングでしかできません。

試用期間中の解雇は、本採用拒否より厳しく判断されます。

詳しくは、次の解説をご覧ください。

本採用拒否に必要となる合理的な理由とは

会社が、本採用を拒否するには、客観的に合理的な理由となります。

このように、本採用の拒否が許される理由とは、具体的にどんなものでしょう。
この点が争われた事案で、裁判所は次のように述べています。
(三菱樹脂事件:最高裁昭和48年12月12日判決)

解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な場合……(中略)……換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態などにより、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、…客観的に相当であると認められる場合にのみ許される。

三菱樹脂事件:最高裁昭和48年12月12日判決

そして、必要な理由は、新卒社員と、中途採用の場合で異なる考えをしなければなりません。
この2つの場合に分け、どんな場合に本採用拒否が合理的だとされるのか、解説します。

新卒社員の本採用拒否の場合

まず、新卒社員の本採用を拒否について。
どんなケースがあれば、合理的な理由があるといえるでしょうか。

新卒社員は、将来性を見込まれて採用されているケースがほとんどです。
つまり、入社してすぐに特定の業務ができるわけではなく、能力も未熟です。
問題があるとしてもすぐ本採用拒否するのではなく、懇切丁寧な指導が求められます。

「指導による改善の余地なし」といえる状態でなければ、合理的な理由にはなりません。
したがって、新卒社員の場合、能力や協調性、勤務態度といった点は、よほどでなければ本採用拒否の理由にはしづらいといえます。

新卒でブラック企業に入社してしまったときの辞め方も、参考にしてください。

中途採用の本採用拒否の場合

次に、中途採用の社員の場合、どうでしょうか。
中途社員の多くは、新卒社員とは違って、即戦力として採用されます。
同業界での経験があったり、特定の能力を備えていることを前提として雇われるのです。

採用の条件とした事情があるとき、期待された程度に満たなければ本採用拒否の理由になります。
改善の余地があるかにかかわらず、試用期間で本採用拒否することも合理的とされやすいのです。

中途社員の本採用拒否は、新卒社員に比べれば、ゆるやかに認められる傾向にあります。

試用期間中に、自ら退職する際の注意点についても参考にしてください。

本採用拒否が違法となるケース

以上のとおり、本採用拒否に理由がなければ、違法であり、無効です。
では、どんな本採用拒否が違法となりやすいのでしょうか。

本採用拒否が、能力不足を理由にされるとき、違法と判断されやすいといえます。
例えば、労働契約では約束していない能力がないことを理由に、本採用拒否されるケースです。

もちろん、当初約束した労働力が提供できなければ本採用拒否する理由があります。

しかし、契約の段階で前提とされていないことを期待するのはおかしいこと。
そのような適性は、備えていなくても非はなく、試用期間に示す必要もない
ものです。

したがって、こんなケースの本採用拒否は、違法です。
あるいは、性格の不一致などの理由もまた、違法の可能性が高いです。
本採用拒否には、「客観的に合理的な理由」が必要だからです。

性格が一致しない、イメージが良くないといった理由は、会社の主観に過ぎません。
また、採用面接時に見極められる事情であり、試用期間で本採用拒否する理由として不適切です。

本採用拒否のトラブルは弁護士に相談できます。

労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説します。

本採用拒否について判断した裁判例

ここまで、本採用拒否が、違法になりうることを解説しました。
その判断は、最終的には、裁判所で行われます。

本採用拒否が許されるのかどうか、ケースに応じて理解する必要があります。
裁判例で、どんな判断がされているか、紹介します。

本採用拒否を適法とした裁判例

本採用拒否を適法だと認めた裁判例が、アクサ生命保険ほか事件(東京地裁平成21年8月31日判決)。
本事案は、経歴詐称による本採用拒否のケースです。

本件で、会社は、金融機関における業務経験など、高度の知識を求めていました。
そのため「どんな経歴があるか」は、重要な事実と評価されます。

にもかかわらず、労働者は、前職をクビになったことなどを意図的に隠していました。
このような事情から、本採用拒否されてもしかたない問題行為があったと評価されました。

なお、すべての経歴詐称が、本採用拒否の理由となるのではないので注意が必要。
本件のような、採用の前提を覆すほどの詐称があってはじめて、本採用拒否が許されるものと考えられます。

本採用拒否を違法とした裁判例

本採用拒否を違法とした裁判例が、オープンタイドジャパン事件(東京地裁平成14年8月9日判決)。

本件で、会社は、労働者を「事業開発部長」として雇いました。
しかし、業務遂行能力の不良、実務英語力の不足といった事情があり、本採用拒否されました。

裁判所は、上記の事実は、根拠に乏しいとして否定。

特に、業務遂行能力の不良について、「仮に業務遂行能力が会社の期待どおりでなかったとしても、2ヶ月弱でそのような職責を果たすことは困難というべきであり、社員の雇用を継続した場合にそのような職責を果たさなかったであろうと認めることはできない」と述べて、本採用拒否を違法だと判断しました。

労働契約で一定の能力が期待されていたなら、その証拠は会社が準備すべきです。
また、本採用拒否するなら、その能力が著しく不足し、本採用しても改善されないことが必要です。

違法な本採用拒否を受けた時の対処法

非が明らかな場合(経歴詐称、度重なる無断欠勤など)を除き、本採用拒否は違法の可能性あり。
突然に本採用拒否されたら、違法な処分でないか、疑うべきです。

そこで次に、違法な本採用拒否をされたら、どう対処すべきか解説します。

本採用拒否の撤回を求める

まず、本採用拒否の撤回を求めてください。
本採用されなかった時点で、すでに出社はできないでしょう。
そのため、本採用拒否への異議は、書面によって伝えるようにします。

会社に送る書面では、本採用拒否が無効だと主張し、撤回を求めてください。
具体的には、次のような通知書を、内容証明で送付し、不服を伝えます。
弁護士からの内容証明なら、「法的措置も辞さない」というプレッシャーを与えられます。

本採用拒否された際に送付する通知書の例は、次のとおり。

通知書

前略 私は、20XX年XX月XX日より貴社に入社し、同年XX月XX日付で本採用を拒否されました。

本書面にて、本採用拒否について異議を述べるとともに、その理由を明らかにするよう求めます。
合理的な理由が明らかにされない限り、この本採用拒否は、権限を濫用した無効なものであり、直ちに撤回するよう強く求めます。

なお、本採用拒否が無効なら、私は現在も貴社の労働者のちいを有します。
就労できない理由が、貴社による違法な本採用拒否による就労拒絶にある以上、20XX年XX月以降も、少なくとも月XX万円の給料を請求する権利を有します。

20XX年XX月XX月日

(以下略)

なお、すでに本採用拒否の理由が明らかになっているなら、反論も書面でします。
その理由が、合理的でなく、少なくとも本採用拒否するほど重大でないと反論してください。

本採用拒否は、解雇と同じ性質を持つので、労働基準法22条に基づいて解雇理由書を請求し、本採用拒否の理由を確認することができます。

解雇の争い方について、次の解説を参考にしてください。

会社都合による退職を求める

本採用拒否に違法性がないなら、残念ながら退職せざるをえません。
ただし、離職票の交付を求めるにあたり、必ず、会社都合にしてもらいましょう。
本採用拒否が違法だが、やむを得ず譲歩し、退職する場合お同じです。

本採用拒否を理由にした退職は、会社都合の退職だといえるからです。
会社都合だと、自己都合に比べ、失業保険について有利な扱いを得ることができます。

本採用拒否なのに自己都合扱いされたなら、ハローワークに異議申し立てもできます。

自己都合と会社都合の違いは、次に解説します。

慰謝料を請求する

最後に、本採用拒否が違法ならば、慰謝料を請求することもできます。
違法な本採用拒否は、不法行為(民法709条)にあたるからです。

本採用拒否は、入社からまもなく起こる不利益な処分。
その分、その会社にしがみつくのでなく、被害を回復した上で転職したほうが、労働者にとっても幸せなケースも少なくありません。

解雇の解決金について、次の解説をご覧ください。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、試用期間における本採用拒否について解説しました。

本採用拒否は、試用期間における評価の結果です。
なので、辞めさせる際にも、本採用した後よりは、ゆるやかに認められます。
それでもなお、正当な理由なく、一方的に本採用を拒否するのは許されません。

本採用拒否は、試用期間が定められていても、解雇と同じ性質があるからです。
注意指導なく能力不足を理由にして本採用を拒否するなど、不当ならば争うべきです。
本採用拒否を争いたい方は、ぜひ一度弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • 試用期間の評価の結果、能力・適性が不足していると判断されると、本採用拒否される
  • 本採用拒否は、正当な理由がなければ違法であり、無効となる
  • 本採用拒否をするのに必要な理由の程度は、労働契約の内容や経歴により異なる

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