最近就活生の間で問題になっているのが、オワハラ問題です。オワハラとは、「就活終われハラスメント」のことです。
会社は、優秀な就活生に内定を出し、自社に囲い込みたい。しかし、内定を出してから入社まで期間があるため、他の会社からも内定をもらって、自社の内定を辞退されることは避けたいわけです。
そのため、他社の就職活動をしないよう、オワハラが横行します。オワハラには、様々なパターンがあり、就活生を多種多様な手口で追い詰めていきます。
しかし、会社が労働者を選ぶ権利があるように、労働者もまた入社する会社を選択する権利があることは当然であって、内定を人質にして一方的にオワハラを行うことは違法です。
今回は、よくあるオワハラの具体例と、オワハラ被害を受けた場合の就活生の対策を、労働問題に強い弁護士が解説します。
目次
1. なぜオワハラが社会問題となっているのか
最近、オワハラが社会問題化しており、就活をする学生たちに恐怖を与えています。
まず最初に、なぜ最近になって、オワハラが社会問題化しているのかについて、解説します。
1.1. ブラック企業の典型的な行為
なぜオワハラが社会問題となるのか、それは、オワハラが、ブラック企業に典型的な採用行為であるからです。
ブラック企業では、新卒採用者を多く入社させ、限界まで酷使してはたらかせ、心身を故障するなど、はたらけなくなった労働者から次々に休職、解雇といった取り扱いをするという「使い捨て」が行われています。
そして、この労働者の「使い捨て」こそが経営の根幹であったブラック企業にとって、採用数が減ることはどうしても避けなければなりません。
そこで、ブラック企業は、違法なオワハラを行うことによって、一度内定を出した就活生を囲い込もうとします。
1.2. 大企業の採用が後ろ倒しに
次に、経団連に所属する大企業の採用活動が、2016年から後ろ倒しとなったことも、オワハラの社会問題化に影響しています。
すなわち、2016年以前は、4月1日からスタートしていた面接時期が、経団連の指揮により、2016年より、8月1日以降となったのです。
この面接開始時期の変更は、経団連に加盟している大企業のことですが、これによって、従来の時期と同様に内定を出していた中小企業にとって、「せっかく内定を出した就活生を大企業に横取りされてしまう。」というリスクが発生しました。
そこで、このリスクを回避するために中小企業が行うようになった違法行為が、オワハラというわけです。
2. よくあるオワハラの具体例と対処法
オワハラの目的は、なるべく自社に対して就活生を拘束すること、他の会社への就職活動をさせないことにありますが、その具体的な方法は様々です。
周囲から堀を埋めていくやり方もあれば、直接的なパワハラ行動を行うブラック企業まであります。よくあるオワハラの具体例を挙げて、「なぜオワハラが許されないのか?」を解説していきます。
内定をもらったからといって、その会社だけに決定しなければならないわけではなく、必ず入社しなければならないわけでもありません。新卒として就職活動をできるチャンスは一度しかありませんので、慎重に検討しましょう。
違法行為を受けているかも、と疑問、不安に思った場合には、労働問題に強い弁護士へ法律相談ください。
2.1. 直接的に他社の内定辞退を強要するケース
一番直接的であり最もわかりやすいのが、その場で他社の内定を辞退するよう強要するケースです。
直接的なオワハラのケースは、例えば次のようなものです。
- 面接の場で、他社の内定を辞退するように強く要求される。
- 採用選考が進んでいる会社をすべて教えるよう強要される。
- 現在内定を取得している会社を拒否すれば、内定を与えると取引を持ちかけられる。
- 取得した内定を断ろうとすると、人事担当者がキレてくる。
このオワハラの被害を受けた就活生であれば、自分がオワハラを受けていることに気付くのは容易でしょう。
直接的なオワハラを行う会社は、非常に悪質性が高く、ブラック企業であることがほぼ間違いないといってもよいでしょう。
直接的なオワハラ行為を行う会社に入社することは、全くオススメできません。また、他社の選考を辞退したからといって、必ず内定を出してもらえるかも確実であるとはいえません。
就活生にとっては危険なリスクを冒さないよう、直接的なオワハラに対して、次のような対策を適切に講じてください。
他社の選考を辞退することを内定の条件とする会社への入社はあきらめたほうがよいでしょう。
どうしてもその会社の内定を頂きたいと考えるほどの良い企業なのだとすれば、他社の内定辞退を指示通り進めざるを得ません。
志望優先度の低い会社の採用選考へ辞退をしてその場を逃れるか、または、採用選考の状況を確認された際に、すべての情報を明かさないという対策が考えられます。
2.2. 間接的に他社の内定辞退を強要するケース
直接的に内定辞退を指示するわけではないけれども、他社の内定を辞退するよう、間接的に要求してくるケースもあります。
遠まわしな言い方であったとしても、会社が他社の内定辞退を要求していることは間違いありません。辞退しなければ内定を出してもらえないのであれば、結局、実質的に強要されていることと同じことです。
- 人事担当者と頻繁に食事にいかせ、内定を断りにくくさせる。
- 他社に内定を取得しないことを、内定を出す条件とする。
- 他社の選考活動に応募しないという内容の誓約書を書かせる。
本来、どの会社に入社するか、どの会社からいくつ内定をもらうかは、就活生の自由であって、内定をもらうことと、他社の内定を辞退することは直接的に関係するわけではありません。
ただ、内定を出すか出さないかは会社の自由に委ねられていることから、いざ内定をもらえなかったとしても、それが「他社の内定を辞退しなかったから。」なのか、それともその他の選考に問題があったのか、明らかにはなりません。
間接的なオワハラに対して、次のような対処法を適切に講じてください。
まずは、指示に従って内定を辞退する旨の約束をしておくのがよい対策であると考えられます。その後就職活動を続けたとしても、結果的に発覚しなければそれでよいですし、その会社に結局入社しない場合には問題になりません。
2.3. イベント・研修など拘束が厳しいケース
直接、間接に内定辞退を求める方法ではなくても、事実上、他の会社への就職活動ができない状態に追い込むケースもあります。
例えば、事実上他社の選考活動を進められなくするオワハラの例として、次のようなものがあります。
- 内定者に対して研修へ参加することを強要する。
- 内定者に対して研修・課題をたくさん与え、他社の就職活動をできなくする。
- 面談の間隔をわざと長くし、他社の内定を受諾しにくくする。
- 他社の選考が集中しやすい時期に、内定者向けのイベントを行う。
この事実上のオワハラ行為の場合、オワハラとしての問題以外にも、次の問題点が発生します。
- 内定者をはたらかせる期間中、労働基準法上の「労働者」であるかどうか。
- 研修に、賃金・残業代が支払われるかどうか。
- 研修期間中に負ったケガ・病気が、労災となるかどうか。
内定は、始期付解約権留保付き労働契約といわれており、まだ指揮命令下に入ることを予定していないものですから、特に賃金が支給されない場合には、研修への参加などが義務付けられるわけではありません。
したがって、入社に先立って親交を深めたいという意思があなたにある場合には積極的にイベントに参加するべきですが、そうでなければ、拒否することもできるのが原則であると心がけ、断固たる態度をとりましょう。
3. オワハラの具体的な対処法
オワハラの具体例に対する対処法について解説しました。
ここでは、実際に就活生がオワハラを受けてしまった場合に備えてしっておいてほしい、オワハラの具体的な対処法について、順番に説明します。
3.1. 採用内定の法的な意味を理解する
まず、就活生として、就職活動の最終目標である「内定」の法的な意味をきちんと理解しておきましょう。
そもそも採用内定とは、法的には「始期付解約権留保付労働契約」であると、裁判例上示されています。
つまり、内定とは、「入社を予定している。」という意味ではなく、もう既に内定者と会社との間で労働契約が成立していることを意味するのです。
ただし、この内定によって成立した労働契約は、通常の労働契約と全く同じではなく、「始期付解約権留保付」というところに特殊性があります。
内定者と会社とが内定関係にある場合、「始期付」の労働契約であるというのは、労働契約を締結しているのだけれども、実際に就労を開始するのは卒業後であるということです。
このように、労働を開始する時期に「始期」があるという意味です。
内定者と会社とが内定関係にある場合、労働契約を締結しているけれども、まだ就労の始期が来ていないということで、そのため、卒業ができなかった場合や、入社までに重大な支障が発覚した場合には、内定を取り消すこととなります。
このように、一定の場合に「解約権」が「留保」されているという意味です。
「内定」について法的な意味を理解することによって、どの時点、どの段階から、会社のオワハラ行為が違法となるかが明確に理解できます。
3.2. 1人で悩まず、弁護士に法律相談する
就活生が選考活動に応募する際、内定を出すかどうかは会社の自由であることから、どうしても会社側が優位な立ち位置にあります。
そのため、オワハラを強く行われると、就活生は自分が悪いような気持ちになってしまいます。
一人で選考活動に臨む就活生にとって、オワハラ行為は非常に大きなストレスとなり、将来への不安ともあいまって、心身の健康を崩してしまいかねません。
「オワハラを受けたのではないか?」と感じたときは、迷わず、労働問題に強い弁護士へ法律相談してアドバイスをもらいましょう。
弁護士は、100%あなたの味方となります。
3.3. 断固たる意思でオワハラを拒否する
オワハラの最も有効な対策は、就活生が、自信の意思をはっきりと表明することです。
違法なオワハラ行為を繰り返し行うような会社は、ブラック企業である可能性が非常に高く、精神的に追い詰められた状態で入社しても、うまくいくとは到底思えません。
この先、職業人生は非常に長いことをよく考え、「何がやりたいのか。」「本当にどうしても入社したいほどの会社か。」と再度、自問してみてください。
ただし、オワハラに対して断固たる意思を示す場合であっても、社会人としての礼儀を忘れてはいけません。
4. オワハラは違法なのか?
会社から内定を受諾した時点で、会社との間で労働契約を締結したことになるわけですし、会社としても、一旦内定を出した従業員に辞めてほしくないと思う気持ちは理解できます。
そのため、オワハラ行為がすべて違法となるわけではありません。
内定者に対して強い働きかけを行うことによって意思に反する行為をさせるとなれば、やはり違法行為の疑いが強いといわざるを得ないでしょう。少なくとも、刑法上の犯罪になるような行為(例えば、暴行罪、脅迫罪、強要罪など)は、明らかに違法です。
また、必ずしも違法といいきれない行為であったとしても、労働者の意思を奪おうとするような会社がまともな会社であるとは思えず、入社したとしてもブラック企業であって長続きしない可能性が高いと考えられます。
刑法上の違法行為でなかったとしても、民法上の不法行為となる可能性もあります。
5. まとめ
オワハラは非常に恐ろしい行為であり、卑劣な行為です。
「内定を断ったら他に入社できる会社はないかもしれない。」という就活生の不安をあおることによって、労働者の意思を無視した行為を強要するブラック企業もあります。
今回は、オワハラのよくある具体例とともに、就活生が知っておくべきオワハラの対処法について解説しました。
オワハラをはじめとした入社前後のトラブルに巻き込まれた場合には、労働問題に強い弁護士へ法律相談ください。