ブラック企業は、大量採用した労働者を酷使し、使い捨てます。このような「使い捨てのサイクル」を活用する会社にとって内定辞退は致命的です。というのも、社員が継続的に入社しなければ、使い捨てることができず、この方法は崩壊するからです。
悪質な会社ほど、使い捨ての「駒」を確保すべく、内定辞退を断念させようとします。なかでも強い脅しになるのが「内定辞退した労働者の呼び出し」。呼び出され、脅迫されたり怒られたりすると、プレッシャーや恐怖から内定辞退をあきらめてしまう人もいます。「内定辞退は不誠実だ」「損害賠償を請求する」などとしつこい引き止めを受けるケースもあります。
しかし、退職が自由なのと同じく、内定辞退は法的に許されており、後ろめたさを感じる必要はありません。会社の脅しに屈してはならず、しつこい引き止めの断り方を知ってください。
今回は、内定辞退して呼び出しを受けた時の対応と断り方を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 内定辞退して呼び出しを受けるケースには、適法・違法のいずれもありうる
- 内定辞退して呼び出され、違法な脅しを受けるなら応じる必要はなく、拒否すべき
- 身の危険がなければ呼び出しに応じて説明してもよいが、強い意思を持つ
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内定辞退で呼び出しを受けるケースとその理由
内定辞退とは、採用活動において取得した内定を、労働者側から断ることです。
本来、内定辞退は労働者の自由であり、入社を強要されることはありません。内定辞退の自由を定める法律はありませんが、憲法22条1項は「職業選択の自由」を定め、労働基準法5条でも強制労働は禁止されています。
憲法22条1項(抜粋)
1. 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
憲法(e-Gov法令検索)
労働基準法5条
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない
労働基準法(e-Gov法令検索)
入社後ですら自由に退職できるわけですから、まだ内定段階に留まるとき、労働者側から関係を解消できるのは当然のことです。したがって、労働者の意思に反して、内定辞退を認めず、入社を強要する行為は許されません。しかし、冒頭で解説した通り、悪質な会社ほど「駒」としての労働者の人数を確保しなければならず、人の気持ちを無視して働かせようとします。
内定辞退をして呼び出しを受ける可能性があるのは、例えば次の場合です。
内定者の評価が高いから
内定者の評価が高い場合、内定辞退をすると呼び出しを受ける可能性があります。会社としても、高く評価している内定者ほど説得して引き止めたいと考えるからです。
正当な評価を受けていることで呼び出されたなら、不誠実な対応はしないようにしましょう。本解説の通り、強要を受けそうな呼び出しに応じる必要は全くないものの、危険がなければ例外的に呼び出しに応じてもよいケースと考えられます。
とはいえ、会社の呼び出しには様々な裏の意図があるでしょう。初めから決め付けるのは良くないですが、まさに内定辞退をしたタイミングで呼び出されたなら悪意のあるケースも多いもの。会社の真意を読み取り、慎重に対応する必要があります。
「会社から呼び出しを受ける理由と対策」の解説
採用コストが高いから
働き手がいなければ十分な経営ができませんから、採用活動に力を入れる会社は多いです。内定辞退をされると、採用に費やした時間と費用が無駄になってしまいます。そのため、採用コストが高いほど、内定辞退した際に呼び出しを受けやすいです。
会社としても採用コストをあきらめなければならないので、今回は仕方ないにしても将来の内定辞退は回避したいと考えます。「原因を究明して、再発を防止しよう」という意図の呼び出しならば、応じてもよいかもしれません。
ただ、原因を知るだけなら電話で聞くこともできるはず。直接対面での話し合いを求めてくるのは、内定辞退をしづらい環境を作り出す意図があることが多いでしょう。
違法な労働を強制しようとしているから
違法な労働を強制する会社、つまり、ブラック企業もまた、呼び出しをよく行います。悪質な会社ほど、労働者を「駒」だと考え、その意思を無視してきます。
このような企業体質の表れとして、採用内定の段階においても、強要や脅迫を手段として、内定辞退を撤回させようと圧力をかけてくるわけです。内定辞退をして呼び出しを受けるケースのなかでも、明らかに違法な場合であって、絶対に応じてはいけません。
脅しに屈したり、もっともらしい言い分に説得されたりして内定辞退を覆してしまえば、その先の未来に希望はありません。内定辞退を無理やり撤回させて働かせるのは、労働者の意思に反して、違法に労働を強制しているに等しく、非常に悪質なやり方です。
内定辞退して呼び出しを受けた時に拒否する方法
会社から呼び出しを受けると恐怖を感じる人も多いでしょう。内定辞退をして呼び出しを受けたときにどのように対応すればよいか、拒否するときの断り方を解説します。
脅したり騙したりして内定辞退を回避する会社は、ブラック企業だと言わざるを得ません。内定辞退した人を呼び出すのは「脅し」の最たる例であり、呼び出しに応じる必要はありません。そもそも、まだ入社日を迎える前ならば、会社には命令をする権限もありません。
電話で呼び出しを拒否する
採用内定の段階は、まだ労働者ではありません。そのため、就労を前提とした業務命令に従う義務はなく、法的にも、会社からの呼び出しに応じる必要は全くありません。
内定辞退をしたタイミングで会社から電話で呼び出しを受けたら、まずはその場できちんと拒絶の意思を伝えてください。曖昧な返事だと、会社から「説得することができそうだ」と甘く見られてしまいます。意思を明確に示さなければ、内定辞退をさせないようにしようとする会社の圧力が強くなってしまうリスクがあります。
電話を受けたときに、会社の発言に誠意がなかったり、暴言や罵声を浴びせられたりした場合には、必ず録音して証拠に残しておきましょう。暴力や脅迫は、職場で行われたならパワハラで当然ですが、入社前でもなお、採用する側とされる側という力関係を利用して圧力をかけるのは違法なパワハラになるからです。
「パワハラの録音」の解説
メールや書面で内定辞退を強く伝える
内定辞退後も、会社がしつこく呼び出しをするなら、意思表示は書面でするのがよいでしょう。内容証明の方法で、内定辞退をする意思を伝えれば、後に争いになった際の証拠として活用できます。内定辞退には会社の同意や承諾は不要なので、一方的に送付するので足ります。
使用者が納得してくれなくても、内定辞退の意思を一方的に伝え続けてください。万が一、会社から訴えられたとしても、早期の段階で辞退の意思を示していた証拠を残すのが大切です。
書面を送るのはハードルが高いと感じるなら、メールやLINE、チャットといった連絡手段でも、送付日と内容を証拠に残すことができます。面接や内定の知らせがメールで来ているなら、お断りもメールでするのは自然であり、失礼ではありません。
「会社の辞め方」の解説
会社の脅しには屈しない
内定辞退をする労働者の後ろめたい気持ちを、会社はよく理解しています。巧妙に足元を見て、「不誠実だ」「しっかり説明しろ」「内定辞退するなら会って謝罪すべき」などと脅します。
しかし、常識や道徳、倫理を理由にされても、来社要請に応じなくてよいことを理解しましょう。というのも、常識や価値観は人によって違うので、正しい行動はあくまで法律に従って判断すべきだからです。内定辞退が適法にされているなら、後ろめたく思う必要はありません。会社からの悪質な脅しに屈したり、ストレスを感じたりしては、人生の大切な時間を無駄にしてしまいます。
「在職強要の違法性と訴える方法」の解説
内定辞退後の呼び出しに応じる時の注意点
内定辞退して呼び出しを受けても、拒否できると解説しました。
とはいえ、できれば争いを激化させずに円満に終わらせたいでしょう。悪質なブラック企業だと、脅しや連絡がいつまでも続いたり、損害賠償請求を強行したりする例もあります。やむを得ず呼び出しに応じる場合にも、注意すべきポイントを理解しておいてください。
会社に誠意があるか確認する
内定辞退後の呼び出しに応じて、円満に終わらせるには、会社側にも誠意が必要です。労働者だけが誠実に対応して謝罪する姿勢を見せても、会社側が不適切な対応ならば争いは収まりません。
呼び出しに応じる前に、会社に誠意があるかどうか、慎重に確認しなければなりません。呼び出しに応じてもよいか判断するために、次のチェックリストを活用してください。
- 評価が高いため、内定者を尊重しながら説得しようとしている
- 無理な説得はせず、拒否すればあきらめる意思がある
- 内定辞退を撤回してもらうために有利な労働条件を提案してくれた
- 公の場での面談、複数名での面談など、身の危険がない
呼び出しに応じるのは、円満に話し合えるかを慎重に確認してからにしましょう。内定辞退の腹いせに、暴言を浴びせたり、暴力的な行動をとる会社もあります。脅しのおそれが強いなら、やはり電話やメールの説明にとどめ、呼び出しは拒否すべきです。
採用の現場における力関係は、採用する側が強く、文句を言われないからといって勘違いして、違法なプレッシャーをかける会社も少なくありません。
「オワハラの対策と答え方」「圧迫面接の違法性」の解説
内定への感謝を伝える
呼び出しに応じるなら、会う前にしておくべきなのが、内定への感謝を伝えることです。採用活動を通じてあなたの能力を評価して内定を出してくれたのは、疑いようのない事実です。時間と労力を費やしてくれた会社の関係者には、感謝を伝えましょう。
内定辞退は、法的には可能ですが、社会人としてのマナーを失ってはいけません。感謝や謝罪の気持ちがまったくないと、誠意がないと評価されるリスクがあります。同じ大学の後輩への悪影響、辞退した会社が将来の取引先になって気まずくなるといった懸念もあります。
理由を丁寧に説明する
内定辞退せざるを得ない理由を、丁寧に説明するのも重要です。
自分では内定辞退の意思が揺るぎなくても、会社にも納得してもらわねばなりません。説明が雑だと呼び出しに応じた意味がなくなってしまいます。少なくとも、「理由が不明確だ」と思われれば、円満解決は遠のきます。
あなたの心の中では、内定辞退の理由ははっきりしているでしょう。きちんと言語化し、相手に伝わりやすいよう、理由を丁寧に説明する姿勢が大切です。なお、自身の内定辞退の理由が正当かどうか疑問のある方は、労働問題を得意とする弁護士のアドバイスを求めるのが有益です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
内定辞退で損害賠償請求されても拒否できる
最後に、内定辞退した際、呼び出しのみならず、更に大きな危険があるケースもあります。そのなかでもよくあるのが、「内定辞退するなら損害賠償を請求する」と脅される事案です。
しかし、内定辞退は、憲法、労働法で保障された「退職の自由」の一環だと解説しました。つまり、労働者の正当な権利であり、侵害されてはなりません。「内定辞退したら損害賠償が必要」なのでは、この自由は実質的に奪われてしまいます。正当な権利行使ならば、会社に損があっても、その賠償をする必要はありません。
また、労働基準法16条は、賠償予定の禁止を定めます。これにより、退職前から、あらかじめ賠償額を決めておくのは違法です。
労働基準法16条(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
労働基準法(e-Gov法令検索)
このことは内定辞退にもあてはまり、損害賠償することを内定辞退を認める条件とするのは違法です。新卒社会人などは特に、まだ就労経験がなく、資金の余力もありません。なので、金銭の支払いを強いられると、やむを得ず強制的に入社させられかねません。
なお、次のケースは、例外的に、損害賠償請求が認められるおそれがあります。内定辞退が権利だからといって、全く責任を負わなくてもよいわけではないので、慎重に対応してください。
- 明らかに会社に不利な時期の内定辞退
- 会社に損害を与える目的での内定辞退
- 労働者側に、損害を軽減する努力がない内定辞退
いずれにせよ、会社から脅されたら、対応には注意を要します。今後、内定辞退をめぐる労働トラブルになるおそれが高く、弁護士へ相談すべきです。
「入社辞退のリスクと損害賠償請求」の解説
まとめ
今回は、内定辞退者に対する会社からの脅しのなかでも、特に呼び出しをされたときの対応について解説しました。
内定辞退は労働者の自由であり、会社の承諾は不要です。現実に損害を及ぼしたケースを除いて、損害賠償に応じる必要も全くありません。したがって、会社の脅しに屈してはならず、呼び出しを受けても断固として拒否すべきです。
内定辞退を認めてもらえず会社が高圧的なときは、弁護士名義で警告書を送付する手も有効です。弁護士から法律について説明をすることで、違法な呼び出しを止めることができます。ブラック企業だと気付いて内定を辞退しても時すでに遅し。悪質な会社は、それでも呼び出してプレッシャーをかけ、無理やりでも入社させようと食い下がります。
本解説の断り方を駆使してもなお、違法な呼び出しがなくならないときは、手遅れにならないうちに弁護士に相談ください。
- 内定辞退して呼び出しを受けるケースには、適法・違法のいずれもありうる
- 内定辞退して呼び出され、違法な脅しを受けるなら応じる必要はなく、拒否すべき
- 身の危険がなければ呼び出しに応じて説明してもよいが、強い意思を持つ
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