「試用期間後に給料が下がるのは違法ではないか」という相談例があります。
試用期間を終了し、本採用された場合、「能力や適性がある」と認められたことを意味するはずです。それにもかかわらず、試用期間後になって給与が見直されるケースがあります。会社から、「本来の給料であれば本採用しないが、下げるなら雇ってもよい」と説明されるケースです。
試用期間で能力や適性が不足すると評価したなら、本採用は拒否すべきです。しかし、人件費を抑制したいと考える会社は、試用期間後の給料を引き下げようと不当な圧力をかけてきます。しかし、労働条件は労働者の同意なく変更できないのが原則であり、断固として拒否すべきです。
今回は、試用期間後に給料が下がるケースの違法性と、給与の見直しへの対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 試用期間後も同一の労働契約が続くため、給料は一方的に下げられない
- 本採用されたことは、試用期間中に十分な能力と適性を示したことを意味する
- 試用期間後の給料が下がるなら、差額について未払賃金として請求する
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試用期間後に給料が下がるのは違法?

はじめに、試用期間後に給料が下がるのは違法ではないかという点を解説します。
結論として、試用期間後に給料が下がることは違法の可能性が高いです。というのも、本来、労働条件は労働者の同意なく一方的に下げることはできないのが原則で、特に試用期間後は、本採用されれば、能力や適性について一定の評価を得たと考えられるからです。
一方的な減給は違法となるのが原則
まず、一方的な減給は違法となるのが原則です。
労働契約は、労使の合意に基づいて成立するものであり、労働者の同意なく一方的に労働条件を変更することはできないからです。
試用期間後に給料を下げる会社は、「試用期間中と本採用後は別契約である」と誤解していることがあります。しかし、試用期間といっても既に労働契約を締結しており、本採用後も同一の契約が継続するため、この考えは誤りです。
裁判例でも、試用期間満了時の基本給の減額について、会社側の説明、労働者の同意が認められず、減額を無効と判断した事例があります(美研事件:東京地裁平成20年11月11日判決)。
「求人内容と違う労働条件は違法」の解説

能力を理由に給料を下げることはできない
試用期間後に給料が下がるケースでは、能力の低さが理由に挙げられることが多いです。
典型例としては「当初契約時に想定していた能力が不足しているので、減給することが本採用をする条件である(給料を維持するなら本採用しない)」と伝えるケースです。
しかし、能力不足を理由にしても、直ちに給料を下げられるわけではありません。完璧な能力でなくても、不足する部分は注意指導や教育によって補うのが会社の役割です。少なくとも、入社当初に想定していた能力に達していれば、約束通りの給料を支払うべきです。
さらに、本採用されたという事実は、一定の能力を満たしていることを意味します。そのため、試用期間を通過した後では、能力不足を理由とした減給はさらに難しくなります。
「能力不足を理由とする解雇」の解説

会社に不当な動機があることが多い
試用期間後に給料が下がるケースでは、会社に不当な動機があることが多いです。
試用期間中に、能力や適性が不足していると判断した場合、本採用を拒否できます。しかし、本採用拒否は「解雇」の性質を有し、解雇権濫用法理が適用されるため、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がない場合、不当解雇として違法・無効となります(労働契約法16条)。
この背景の中で、会社としては人手不足であり、本採用を拒否するほどではない、あるいは、本採用拒否を不当解雇として争われるリスクが怖いという場合に、それでも人件費は抑制したいという不当な動機から、「本採用はするが、給料は下げる」という不当な方法が用いられるのです。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

試用期間とは?その前後の給与条件との関係
そもそも試用期間とはどのようなものか、給与条件との関係で解説しておきます。
試用期間とは、長期間勤務する社員(主に正社員)の入社後の一定期間に設定され、その能力や適性を見極めるためのものです。法的には「解約権留保付労働契約」の性質があります。会社は、試用期間中の評価をもとに、本採用を拒否するという「解約権」を行使できますが、前述の通り、「解雇」の性質を有するため、本採用拒否は法的に制限されます。

重要なポイントは、試用期間は「お試し」ではなく、既に本採用後と同一の労働契約を締結済みであるということです。したがって、試用だからと軽視されるべきではなく、一度約束した給与条件を変更するには、試用期間終了時のタイミングだとしても労働者の同意が必要です。
試用期間前後を通じて同一の労働契約が続いているのであり、試用期間中と本採用後で別の契約というわけではないことに、くれぐれも注意してください。
「労働条件の不利益変更」の解説

試用期間後に給料が下がるケース別の違法性

以上の通り、試用期間後に給料が下がるのは違法となる可能性が高いです。
次に、ケース別に、試用期間後に給料が下がることの違法性の判断基準について解説します。自身の処遇が不当かどうか、具体例を参考にしてください。
「減給に応じないなら本採用拒否」と言われた場合
最も典型的なのが「減給に応じないなら本採用拒否」と言われるケースです。
本採用されて正社員になることを目指す労働者にとって、この扱いは「脅し」として十分な圧力となります。本採用を優先し、やむを得ず同意してしまう人も少なくありません。
しかし、前章で解説の通り、本採用拒否は「解雇」の性質を有し、法的に制限されます。このような「脅し」を使う会社は、本採用拒否を不当解雇として争われることを避けたいという不当な動機があることが多いため、屈してはなりません。そもそも本採用拒否をしない時点で、試用期間中の評価は決して低くないと考えるべきです。
「本採用拒否の違法性」の解説

試用期間の評価が厳しすぎる場合
試用期間後の給料が下がるケースの多くは、能力評価が厳しすぎる傾向があります。
試用期間といえど軽視されるべきではありませんが、あくまで入社直後であり、他の正社員と同程度に活躍できるとは限りません。仮に能力が十分であっても、環境に慣れたり、会社ごとのルールを理解したりといった順応には一定の時間を要します。また、労働契約において約束した労務の提供ができていれば、必ずしも会社が求める「完璧」に達している必要はありません。
次のような評価は不当であり、試用期間後の減給の理由として不適切です。
- 最初から、長年働いた正社員と同程度の成績を求める。
- 初月から契約件数などの具体的な成果を求める。
- 労働契約に定められていない高い能力を求める。
- 具体的な注意指導なく成果を出すよう指示する。
- 必要な教育や研修が一切施されない。
成果につながるための指導や教育、環境整備は、企業側の責務でもあります。したがって、これらの理由で試用期間後に給料が下がったら、違法と考えるべきです。
「減給の違法性」の解説

試用期間を有期雇用とする場合
試用期間中と本採用後は同一の契約であると解説しました。
しかし、会社の中には、試用期間を有期雇用とし、本採用する場合にのみ新たな無期雇用として契約を締結するという方法を取るケースがあります。しかし、この場合でも、「試用」の意味合いを有するのであれば、労働条件の一方的な変更は許されません。
裁判例でも、有期契約であっても、能力や適性を評価するなど、実質的には試用期間である場合は、合理的な理由なく本採用拒否することはできないと判断した事例もあります(神戸弘陵学園事件:最高裁平成元年6月5日判決)。
賃金体系を変更する場合
必ずしも減給でなくても、賃金体系を変更することも違法となる場合があります。
典型的には、「試用期間後から歩合給・インセンティブが支給される」というケースです。基本給が下がらなければ労働者にとってプラスですが、中には、試用期間後は成果主義の色彩が強くなり、歩合給・インセンティブが支給されるが基本給は下がるというケースもあります。
成果主義的な賃金体系そのものが違法なわけではありませんが、試用期間の前後で大きく変わる点は問題となります。試用期間を通過したからといってすぐに成果を出せるとは限らず、このような賃金体系の変更によって、結局は試用期間後の給料が下がる可能性があるからです。
「ノルマ未達を理由とする解雇」の解説

例外的に試用期間後の減給が許されるケース

例外的に、試用期間後の給料が下がることが許されるケースがあります。
業績が悪化し、給料を下げなければ整理解雇をせざるを得ないケースや、元から給料を下げることが予定されていたケースなどが該当します。ただし、いずれの場合も、不当な扱いとならないよう、違法性は厳しく検討しなければなりません。
契約時に「見直しあり」とされていた場合
労働契約において見直しが予定されていた場合、給料を変動させることが可能です。
例えば、入社時の評価が未確定で、一旦は試用期間中の給与条件を決め、本採用時に改めて見直すとされていたケースです。この場合、試用期間中の能力や適性への評価が、入社時に想定したより低ければ、試用期間後の給料が下がることも適法・有効である可能性があります。
ただし、不当な扱いをされないためにも、契約書に曖昧な表現がないかを精査する必要があります。どのような能力・適性を前提に試用期間中の給料を決めたのか、どれほど足りなければ減給できるのか、評価制度や減額幅は妥当かといった点に注意してください。
会社の業績悪化を理由とする場合
業績悪化が著しい場合、減給を受け入れざるを得ないケースがあります。
減給しない限り、もはや整理解雇するしかないほど追い込まれた会社では、解雇回避努力として、人件費の削減は必須となります。ただし、不当な扱いをされないためにも、次の点を必ず確認しておいてください。
- 会社の業績が本当に悪化しているか。
- 減給の必要性があるか(他の手段で立て直せないか)。
- 減給対象者の人選が合理的か。
- 役員報酬や経費などの削減が行われているか。
- 減給幅が過大ではないか。
「整理解雇が違法になる基準」の解説

給与体系を全社的に変更する場合
給与体系を全社的に変更するために、就業規則を変更するケースがあります。
例外的に、合理的な変更であれば、労働者の同意なく労働条件を変更することができます(労働契約法10条)。ただし、労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更内容の相当性などを考慮して合理的なものでなければなりません。また、変更後の内容を周知する必要があります。
「就業規則の変更は勝手にできる?」の解説

試用期間後に給料を下げられたときの対処法

最後に、試用期間後の給料を下げられたときの対処法を解説します。
「一方的な減給は違法となるのが原則」と解説した通り、試用期間後のタイミングであっても、減給は拒否するのが基本的な対応となります。
雇用契約書・労働条件通知書を確認する
まず、雇用契約書と労働条件通知書で、給与条件を確認してください。
試用期間後に給料が下がるケースでは、入社時の条件だけでなく、変更の可否やその基準、求められる能力や適性の内容なども合わせて確認しておきましょう。
会社に理由の説明を求める
次に、給料が下がる理由を会社に確認してください。
試用期間後に給料が下がるケースでは、その理由に的確に反論することが、違法性を示す近道となります。よくある「「減給に応じないなら本採用拒否」と言われた場合」という理由しか示されないなら、違法の可能性が高いと考えるべきです。
同意していないことを明確にする
減額された差額を請求する
試用期間後に給料を下げることが違法な場合、差額を請求しましょう。
未払賃金の請求は、まずは内容証明を送って交渉し、決裂する場合には労働審判や訴訟といった法的手続きに進みます。
一人で戦うのが困難な場合、弁護士に相談するのがおすすめです。試用期間後の給料が下がるだけでなく、本採用拒否や不当な異動・降格、ハラスメントといった不当な扱いを受けることもあり、弁護士であれば一括してサポートできます。
なお、本採用されることを優先して同意する場合、減額幅や今後求められる基準、どのようにすれば昇給の可能性があるかも確認してください。
「給料未払いで泣き寝入りしないためには?」の解説

退職や転職も視野に入れる
最後に、試用期間後に給料が下がる場合、退職や転職も検討してください。
入社時に予定していた収入が受け取れないのでは、今後長期にわたって貢献するべき会社ではないと考えることができるからです。
労働基準法15条は、入社時に重要な労働条件を明示することを使用者(会社)に義務付けているところ、示された条件と実態が異なる場合、労働者は即時に労働契約を解約することができます。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

【まとめ】試用期間後に給料が下がることの違法性

今回は、試用期間後に給料が下がることの違法性と対処法を解説しました。
試用期間中に十分な能力と適性を示したからこそ本採用されたはずなのに、その後の給料が下がることは違法です。一方で、「本採用されたければ、給料の引き下げを受け入れてほしい」と圧力をかけられて、本採用されたいがために同意してしまう人も少なくありません。
試用期間といえど、既に労働契約が締結され、本採用後も同一の契約が続きます。一度合意した労働条件を一方的に引き下げるのは、たとえ試用期間満了時のタイミングでも違法となります。
給料は非常に重要な労働条件であり、真意に基づく同意がない限り、引き下げることは許されないのが原則です。試用期間後の給料が下がっていたら、ぜひ弁護士に相談してください。
- 試用期間後も同一の労働契約が続くため、給料は一方的に下げられない
- 本採用されたことは、試用期間中に十分な能力と適性を示したことを意味する
- 試用期間後の給料が下がるなら、差額について未払賃金として請求する
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