試用期間の後、本採用されるならば、能力や適性があると認められたことを意味するはず。
しかし、本採用にもかかわらず、給料が見直し、変更される場合があります。
トラブルになるのは、試用期間中の問題を指摘され、給料を下げられたケースです。
試用期間で、能力不足、勤務態度の不良がわかったなら、本採用しなければよいのです。
とはいえ、人手不足のブラック企業は、労働者を手放しません。
できるだけ低コストで働かせようと、試用期間後の条件変更をくわだてるのです。
試用期間を突破できるほどの適性があれば、給料の引き下げはおかしいです。
採用時にした約束に違反しているからです。
「本採用したら給料が上がる」というならわかりますが、下げるのは不適切。
今回は、試用期間の後に給料を下げられたケースの対応を、労働問題に強い弁護士が解説します。
どんなとき違法になるか、よく理解してください。
- 試用期間の前後を通じて同一の労働契約だから、給料の引き下げは一方的にはできない
- 本採用されたなら、試用期間に十分な能力を示したということ
- 試用期間の後、給料を引き下げられたら、未払いの給料を請求して争う
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試用期間の条件変更は、同意が必要
試用期間は、長いこと働く労働者の能力や適性を見極めるための期間。
その法的性質は、「解約権留保付き労働契約」と呼ばれます。
大切なことは、試用期間はただの「お試し期間」ではないということ。
すでに、労働契約を締結している点は、本採用後の労働者と変わりはありません。
(したがって、正当な理由なき解雇、本採用拒否は、「不当解雇」と同じく違法です)
![試用期間とは](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2024/04/shiyoukikantoha.jpg)
試用期間中といえど、軽視されるべきではありません。
一旦約束した労働条件を変更するには、労使の合意が必要(つまり、労働者の同意を要します)。
このことは、試用期間中の給料の減額にもあてはまります。
そして、試用期間がすでに労働契約の締結なことから、試用期間終了後の変更も許されません。
試用期間の前後を通じて、「同一の労働契約が続いている」からです。
決して、試用期間と、本採用後の契約は、「新たなる別の契約」ではないのです。
したがって、労働条件は、試用期間の前後を通じて、変更できないのは当然です。
採用時に、会社は労働者に、労働条件を明示せねばなりません(労働基準法15条)。
重要な労働条件である給料は、書面で示す義務があります。
一度示した給料は、労働者の保護のため、勝手には下げられません。
採用時に「どんな能力に、いくらの給料を払うか」はすでに決められます。
試用期間を突破したなら、その能力は備わっていたということ。
なので、本採用後に減給する理由がありません。
労働条件の不利益変更について、次に解説しています。
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2017/12/gurafu-geraku-300x169.jpg)
試用期間の後、本採用されたが給料を下げられるケース
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2017/09/down.jpg)
次に、試用期間の後に、本採用されたが給料を下げられたケースにどんな例があるか、説明します。
具体例を知ることで、自分の処遇が不当かどうかが判断できます。
試用期間終了後に給料を下げられたという法律相談の例と、その問題点を解説します。
「減給に応じないなら本採用拒否」と脅すケース
悪質な会社が、試用期間の終わった時点で減給を実現しようとすると、脅しが使われます。
つまり、「減給に応じないなら、本採用拒否する」と脅すケース。
採用時に定めた給料は、人件費として折り込み済みのはず。
しかし、少しでも給料が安くなるなら、ブラック企業は脅しもいといません。
前章でも解説のとおり、本採用拒否のハードルが高いことも影響します。
リスクを考えて本採用拒否はしないが、試用期間の評価が低いと、給料を下げようとします。
試用期間の評価が厳しすぎるケース
試用期間の後に給料の下げられるケースの多くは、能力評価が厳しすぎる傾向あり。
次の指摘を受けたら、不当な評価でないか、検討すべきです。
- 試用期間中の働きぶりでは、本来なら本採用できない
- 採用時に伝えた給料では、働かせることができない
- 会社に残りたいなら、見合った給料で我慢すべき
- 採用時に約束した仕事を、本採用後にはさせない
いずれも、「人を見る目がない」と自白するに等しい発言。
恥ずかしげもない会社ほど、平然と、試用期間の後に給料が下げます。
給料を不当に下げることで、自主的な退職に追い込み、人件費を削減するのです。
違法な減給への対応の解説も、参考にしてください。
試用期間を有期雇用とするケース
試用期間が、本採用後の契約とは、別の契約と扱われている会社があります。
試用は有期契約であり、本採用するなら新たに契約を結ぶケースです。
しかし、このような場合も「試用」の意味を持つなら、完全に別の契約とは扱われません。
能力や適性を見る期間について、たとえ会社が有期契約としても、本採用後の契約と同一であると認めた裁判例もあります(神戸弘陵学園事件:最高裁平成元年6月5日判決)。
成果主義を強調するケース
労働契約で約束した給料を、強引に下げようとする会社は、成果主義を理由にしてくることも。
「約束したほどの成果が出せていないから給料を下げる」というわけ。
成果が出せない責任は、労働者のみが負うのは不当。
経験がない、慣れない仕事などで、成果を出す態勢を整えない会社にも問題あります。
「試用期間中は固定給、本採用後は歩合給」といった扱いをする会社もあります。
完全に違法とまではいえませんが、不適切であり、そもそも入社すべきではありません。
成果重視の考えで、違法なノルマを強要されるケースも。
ノルマ未達で解雇されるケースの対応も参考にしてください。
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2018/02/businessman-gurafu-300x169.jpg)
試用期間の後、給料を下げるのは違法
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次に、試用期間経過後に、一方的に給料を下げるのが違法な理由について解説します。
「頑張って試用期間を働いてきた」という思いなら、あきらめてはいけません。
試用期間に至らぬ点があるのは、誰しも同じ。
反省を、本採用後に活かせるならば、給料を下げられるいわれはありません。
試用期間の後、給料を引き下げるなら労働者の同意が必要
前章のとおり、労働条件を変更するには、労働者の同意を要します。
たとえ試用期間の終了時でも同じこと。
労働契約は、試用期間の前後を通じて、同一のものが継続しているからです。
このことは、労働契約法にも次のように定められています。
試用期間経過後、本採用時であっても、同意を得ず変更すれば、労働契約法違反です。
労働契約法3条1項
労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
労働契約法8条
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
労働契約法(e-Gov法令検索)
「求人内容と違う労働条件は違法」の解説
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2024/05/josei-nayamu-300x169.jpg)
能力が低いだけでは給料は下げられない
本採用後に給料を下げるとき、試用期間における能力の低さが理由にされるケースは多いもの。
しかし「能力が低い」というだけで、給料が下げられるわけではありません。
労働者は、労働時間や成果など、さまざまな観点から評価されているのです。
能力面においても、本採用されるということは一定のものがあるということ。
完璧でないにせよ、給料を下げるほど低いわけではないのです。
仮に、能力を理由に給料を下げるにしても、プロセスを踏むことも重要です。
就業規則に定められた手続きにしたがい、労働者に説明するなどといった流れを踏むべきです。
「能力不足を理由とする解雇」の解説
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2022/08/blue-money-300x169.jpg)
本採用拒否できるケースですら、給料の減額は違法
試用期間中に、不適格だと判明すれば、本採用拒否されます。
解雇に準じて、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当なケースです。
本採用拒否が適法にできるとしても、なお、給料の引き下げには同意が必要。
むしろ、本採用拒否されて争うほうが、労働者にメリットある場合もあります。
厳しい制限のもとに解約できるだけで、給料を一方的に下げる権利は認められていません。
本採用後の給料の引き下げを強行されると、立ち向かうのは辛いでしょう。
お悩みのときは、弁護士のサポートが役立ちます。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説します。
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2016/08/bengoshi-point-300x169.jpg)
試用期間の後、給料を引き下げられた時の対処法
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2017/09/hashiru.jpg)
本採用されているのであれば、十分な能力を示したということ。
約束どおりの給料をもらうのに、なにもためらう必要はありません。
本採用したにもかかわらず、給料を引き下げてくる違法な会社への対処法を解説します。
本解説のとおり、試用期間の経過後、給料を下げようとするのは違法です。
決して同意せず、断固拒否して、争いましょう。
労働条件の変更に同意しない
たとえ違法な給料の引き下げも、労働者の同意があれば有効になってしまいます。
重要な労働条件への同意は、慎重に対応しなければなりません。
試用期間が終了したのに、本採用時の給料を下げられるなど、到底納得できないでしょう。
なので、不当な扱いに同意する必要はありません。
徹底して、同意は拒否してください。
(減給への同意は、裁判所も慎重に判断し、原則として書面による同意を要します)
脅して、同意をとろうと強要する会社もありますが、屈してはなりません。
「給料の引き下げに同意しないなら、本採用拒否する」と脅されて同意しても、真意でないでしょう。
錯誤(民法95条)ないし強迫(民法96条)により、同意を取り消すことができます。
減額された給料を請求する
試用期間の後、違法に給料を引き下げられると、もらえたはずの給料が払われません。
つまり、給料の未払いトラブルが起こります。
したがって、労働者側の争い方は、減額された給料の請求をすること。
違法な減給は無効ですから、減額前の給料を請求できます。
試用期間中にもらえていた給料との差額を、すぐに請求すべきです。
請求方法は、まず請求書を内容証明で送り、応じないなら労働審判、訴訟で請求します。
文句をいわず、本採用されて働き続ければ、給料の引き下げに同意したと見られるおそれあり。
すぐに異議を述べ、争うようにしてください。
「給料未払いの相談先」「未払いの給料を請求する方法」の解説
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2024/07/money-300x169.jpg)
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2017/02/businessman-nayamu-300x169.jpg)
不当な扱いを受けたら争う
給料を不当に下げようとするブラック企業は、「給料が高いなら、価値はない」と考えます。
その結果、給料の下がらない労働者に、本採用拒否してくることも。
本採用拒否までいかなくても、不当な異動や降格、パワハラの標的にされるケースもあります。
しかし、これらの強要行為は、いずれも違法なのが明らかです。
試用期間経過後の給料の引き下げを争うのは、労働者にとって当然のこと。
争い、同意しないことをもって不当な扱いをされたら、さらなる違法行為も必ず争ってください。
特に、本採用拒否はすなわち「解雇」であり、正当な理由がなければ不当解雇として無効です。
本採用拒否をはじめ、不当解雇は弁護士に相談できます。
不当解雇に強い弁護士への相談は、次の解説をご覧ください。
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2022/07/jump-300x169.jpg)
まとめ
![弁護士法人浅野総合法律事務所](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2022/03/asanosougou-zentai.jpg)
今回は、試用期間後に、給料が減額された方に向けた解説でした。
試用期間中、問題なく働ければ、本採用されるでしょう。
しかし、「本採用する代わりに給料を減らす」と脅してくる悪質な会社もあります。
脅しを受けると、本採用してもらいたいがため、減給を受け入れる労働者もいます。
本採用時に、すでに労働契約は締結されています。
一旦約束された労働条件は、労使の合意なしには変更できません。
同意なく、一方的に給料を下げるのは、試用期間終了のタイミングでも違法です。
給料は、重要な労働条件であり、同意の強要も許されません。
試用期間の経過後に、給料を引き下げられたとき、ぜひ弁護士に相談ください。
- 試用期間の前後を通じて同一の労働契約だから、給料の引き下げは一方的にはできない
- 本採用されたなら、試用期間に十分な能力を示したということ
- 試用期間の後、給料を引き下げられたら、未払いの給料を請求して争う
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