求人内容に書かれた労働条件と、入社後の実態が異なっていたという相談例があります。
「残業なし」「月給30万円以上」「完全週休2日制」といった求人票の記載が、実際には全く違ったというトラブルは後を絶ちません。求人内容は入社を決める動機になるからこそ、虚偽や誇張によって好条件を期待させようとする企業は少なくありません。
給与、勤務時間、休日、雇用形態といった重要な労働条件が異なると、「違法なのでは」という疑問が生じるのは当然です。企業には、入社時に労働条件を明示する義務があるため、大幅にかけ離れた内容である場合、違法となる可能性があります。
今回は、求人内容と実際の労働条件が異なることの違法性と、求人票との違いへの対処法、相談先について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 求人票の労働条件と実際の待遇が異なるというトラブルはよく起こっている
- 職業安定法や労働基準法に違反した場合には、刑事罰の対象となる
- 求人内容と実態を示す証拠を確保し、変更された理由を会社に説明を求める
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求人内容と実際の労働条件が違うのは違法?

「求人内容と実際の労働条件が違う」というトラブルは、決して珍しくありません。
この問題は、新卒・中途を問わず、正社員だけでなくアルバイトやパート、契約社員や派遣などの様々な雇用形態で発生します。特に、給与・残業・休日・雇用形態といった重要な労働条件は、入社の決め手にもなるため、実態と異なるとトラブルになりがちです。
一方、求人と実際の条件が全く同一でないと違法かというと、そうではありません。法的には、どの段階で、どの程度異なる説明をされたかという点が、違法性を分ける基準となります。
労働条件の明示は法律上の義務
会社は、労働者に対し、入社時に労働条件を明示する義務があります。
労働基準法15条では、労働契約の締結時に、賃金や労働時間、休日・休暇といった重要な条件を明示しなければならないことが定められています。また、職業安定法5条の3では、求人募集を行う際に、求職者に対して正確な労働条件を明示する義務が課されています。
したがって、入社時に労働条件を曖昧にしたり、実態と異なる表示をしたりするのは違法です。近年は、「求人詐欺」や「ブラック求人」への社会的関心が高まり、ハローワークや労働局による指導が行われるケースも増えています。
求人内容と違うだけで直ちに違法とは限らない
ただし、求人内容と実際の労働条件に違いがあることが、直ちに違法とは限りません。
求人票や求人広告は「募集時点における労働条件の予定」と考えられており、採用過程で事情が変化したり、労働者の経験や能力が明らかになったりといった理由で、一定の条件変更があり得ます。そして、求人内容とは異なる合意がされた場合、合意内容の方が優先されます。例えば、幅を持った条件を提示した上で、面接で判明した経験やスキルにより給与額を調整したり、配属の都合で業務内容が一部変更されたりといったケースも、直ちに違法とは言い切れません。
したがって、違法になるのは、求職者に十分な説明がなく、重要な労働条件が大幅に変更されるケースに限られます。労働者としては、求人内容だけを鵜呑みにするのではなく、面接時の説明や質問、労働条件通知書、雇用契約書を含め、総合的に確認する必要があります。
求人内容と違う労働条件が違法になるケース

求人内容と実際の労働条件が全く同一でなくても許されますが、正当な理由なく大幅に条件変更するのは違法です。求人内容と違う労働条件は、次の2つの法令に違反します。
職業安定法違反になる場合
職業安定法5条の3は、求人者が求人の申込みにあたり、従事すべき業務内容、賃金、労働時間その他の労働条件を明示する義務を負うことを定めています。そして、虚偽の広告や条件を提示して募集を行った者には「6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金」という罰則があります。
「虚偽」とは、真実または真正でないことを指し、故意に嘘をつく場合のほか、誇大な広告によって労働者を騙そうとする行為も含まれます。
また、職業安定法5条の4は、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず、情報を正確かつ最新の内容に保つための措置を講じる義務を定めています(2022年の法改正により、努力義務から義務へと強化されました)。「誤解を生じさせる表示」として留意すべき点には、以下の事項が含まれます。
- 実際に雇用する企業とは別の企業名(グループ企業など)を表示して混同させること
- 雇用する労働者の募集と、フリーランスなどの請負契約の募集を混同させること
- 賃金が実際よりも高額であるかのように表示すること
- 職種や業種について、実際の業務内容と著しく乖離する名称を用いること
したがって、求人内容と同一の労働条件が必ず保証されるわけではないものの、最初から騙すつもりで虚偽や誇大表示をしたり、説明なく大幅に異なる条件に変更したりといったケースは、職業安定法違反となります。
- 2025年6月1日より、懲役刑・禁錮刑は廃止され、拘禁刑に一本化されました。
「労働条件の不利益変更」の解説

労働基準法違反になる場合
労働基準法15条は、使用者が労働契約の締結に際し、賃金や労働時間、就業場所、従事すべき業務などの労働条件を明示することを義務づけています。そして、明示された労働条件が事実と異なっていた場合、労働者は即時に労働契約を解除することが可能です。
この労働条件の明示義務に違反した場合、「30万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります(労働基準法120条)。
「労働問題の解決方法」の解説

求人内容と違う労働条件を示されてトラブルになる具体例

次に、求人内容と労働条件が異なり、トラブルに発展する具体例を解説します。
労働者にとっては大きな不利益となるため、よくあるケースを知り、被害に遭わないよう慎重に吟味しなければなりません。企業にとっても、違法なのはもちろん、採用・転職市場における信用を損ない、今後の人材確保の支障となるおそれがあります。
給与額が求人票より低い
最もよくあるトラブルが、給与額が求人票記載よりも低いケースです。
給与額は、入社の決め手となることが多く、少しでも高く見せようと虚偽や誇張が起こりやすい項目です。入社時に明示された給与が、求人票の記載を大幅に下回り、納得のいく説明もない場合、当初から低い給与で働かせる意図を隠して応募を集めるという職業安定法違反が疑われます。
また、残業代について「固定残業代(みなし残業)として基本給に含まれる」といった説明が後出しでされる場合も、事前の明示義務の違反となります。固定残業代は、実際の給与よりも高く見せる手段として悪用されることが少なくないものの、通常の賃金と区別されていない場合は無効となるため、特に注意が必要です。
「固定残業代」の解説

「残業なし」と書かれていたのに長時間労働が常態化している
求人票に「残業なし」と明記されても、実際は長時間労働が常態化している職場は少なくありません。育児や介護など、定時帰りしたい理由のある方にとって、非常に深刻な問題です。
この点も、当初から一定の残業をさせる意図があるのを隠し、応募者を増やすために「残業なし」と偽って記載していたのであれば、職業安定法違反となります。また、入社時に残業の有無について適切な労働条件の明示がないまま業務を強制することは、労働基準法違反となります。
正社員募集なのに契約社員・業務委託だった
正社員として応募したのに、実際は契約社員や業務委託を打診されるケースもあります。
非正規雇用は、地位が不安定になりがちなので、今後の人生を左右しかねません。正社員の条件を提示しながら、最初から他の形態で契約させるつもりであると、職業安定法に違反します。また、「正社員登用を前提として、試用期間は契約社員として入社させる」と説明しながら、実際には正社員登用に高いハードルを課すという手口も見られます。
「本採用拒否」の解説

勤務地や業務内容が大きく異なる
求人票に記載された勤務地や業務内容が、実態と乖離しているケースもあります。
例えば、自宅から通える範囲の支店を希望していたにもかかわらず、入社直前や入社後に遠方の事業所への配属を命じられたり、事務職として採用されたはずが、「適性がない」「人手が足りない」といった理由で入社後に営業活動を命じられたりするケースが見られます。
このような変更は私生活にも影響を与え、労働者にとって不利益が大きいため、安易に受け入れず、会社に説明を求めるべきです。
「不当な人事異動」の解説

試用期間や条件変更の説明がなかった
試用期間の有無やその間の労働条件、さらには本採用後の条件変更について適切な説明がないケースもトラブルの元となります。試用期間中は本採用時より給与が低く設定されたり、逆に、本採用した際に給与を減額したりといった企業がありますが、これらの条件も本来、契約締結時に必ず明示されなければならず、職業安定法や労働基準法の違反となるおそれがあります。
特に、「試用期間」という名目で求人内容とかけ離れた低賃金での労働を強いることは、非常に悪質です。
求人内容と違う違法な労働条件に直面したときの対処法

次に、実際に求人内容と違う違法な労働条件に直面したときの対処法を解説します。
求人票や契約書などを保存する
まず、違法ではないかと疑われるときは、証拠収集が重要です。
求人内容と実際の労働条件に食い違いがあるときは、募集時の情報と、入社後の実態をそれぞれ証明するため、次のような証拠を確保しましょう。
【募集時の情報】
- 求人票や求人広告のコピー
- 採用面接時の録音やメモ、資料など
- 採用過程における担当者とのメールのやり取り
【入社後の実態】
- 雇用契約書や労働条件通知書
- 就業規則
- 入社後の資料(給与明細、タイムカードなど)
少なくとも、入社時の労働条件の明示は法律上の義務であるため、書面がない場合には会社に交付を求めておく必要があります。
退職や内定辞退を検討する
求人内容と実態が違うことに早めに気付けたら、会社を辞めることを検討しましょう。
気付いた時期により、内定承諾前や入社前であれば「内定辞退」、入社後であれば「退職」を検討します。当初から騙すつもりで実態と異なる条件を提示することは職業安定法、労働基準法に違反するため、不誠実な会社とは速やかに距離を置き、被害の拡大を防ぐべきです。
我慢して働き続けることは大きなストレスになり、心身に不調を来すおそれがあります。給与額が期待通りでない場合、経済的な損失を負ってしまいます。また、「騙された」と感じながら不本意に働いてもモチベーションは上がらず、成果も上げられないでしょう。
「試用期間中の退職」の解説

労働条件変更の説明を求める
求人内容と違う条件を提示されたら、変更の理由を説明するよう求めるのが適切です。
前述の通り、当初から騙すつもりであれば違法ですが、採用過程で求人内容が変更されることは許されます。このような変更は、入社時の労働条件明示の段階で明らかになります。納得のいく理由が示されたなら、その労働条件で入社してもよいでしょう。一方、説明に納得がいかなかったり、曖昧にして誤魔化されたりするとき、当初から騙すつもりであった可能性を疑うべきです。
労働審判や訴訟で法的に争う
ここまでの対応で納得がいかない場合、法的に争う方法を検討します。
求人内容と違う労働条件について法的に争うには、労働審判、訴訟といった方法があります。いずれも裁判所における手続きなので、円滑に進めるには弁護士のサポートが有益です。労働者の被害を回復するために、裁判例をもとに、次のような主張が検討できます。
求人票記載の労働条件が契約内容となると主張する
求人票や求人広告は雇用契約の「申込みの誘引」であり、直ちに契約内容とはならないと解されますが、例外的に、求人票の記載がそのまま契約内容となると判断される場合があります。
裁判例でも、求人票に雇用期間の定めと定年制の記載がなく、入社後に初めて知った事案で、裁判所は「求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り、雇用契約の内容となると解するのが相当である」とし、期間の定めのない契約の成立を認めたケースがあります(福祉事業者A苑事件:京都地裁平成29年3月30日判決)
損害賠償を請求する
求人内容と実際の労働条件が異なり、違法性が強い場合は、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償を請求することも可能です。
裁判例でも、中途採用者の初任給について新卒者の下限に位置づけるという内規があったのに、求人では「同年次新卒者の給与からスタート」と記載し、新卒者の平均給与を受け取れるかのように誤信させた事案で、裁判所は慰謝料100万円の支払いを命じました(日新火災海上保険事件:東京高裁平成12年4月19日判決)
この事例から分かる通り、企業が求職者に対し、実際とは異なる労働条件を提示し、実態を隠していた場合、「信義誠実に反する」とされ、損害賠償請求の対象となり得ます。なお、あくまで「見込み」であることが明示された場合は違法とはならず、嘘をつく、後から変更するといった悪質な意図のあるケースに限られる点は注意してください。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

求人内容と違う違法な労働条件に直面したときの相談先

では、実際に求人内容とは異なる労働条件に直面したとき、どこに相談したらよいのでしょうか。不当な処遇が疑われるケースにおける適切な相談先を解説します。
ハローワークに相談する
採用時の労働問題は、ハローワーク(公共職業安定所)に相談することができます。
求人票と労働条件が違う問題は、「求人詐欺」として社会問題となっています。ハローワークは、求人票に不正がないよう監督し、事実を調査し、悪質な企業に対しては注意や指導をしたり、今後の求人を差し止めたりすることが可能です。
労働基準監督署に相談する
入社時に労働条件明示義務に違反がある場合、労働基準監督署に相談しましょう。
労働条件明示義務違反は、労働基準法違反であり、労働基準監督署の取り締まりの対象に含まれます。違法な行為が疑われる場合は、調査や是正勧告が行われ、悪質なケースでは送検や刑事罰といった刑事処分に進む可能性もあります。
「労働基準監督署への通報」の解説

弁護士に相談する
最後に、求人内容と違う労働条件について法的に争うなら、弁護士に相談しましょう。
「労働審判や訴訟で法的に争う」の通り、求人票通りの労働条件とするよう求めたり、損害賠償を請求したりといった方針により、裁判で法的に争うことが可能です。弁護士に依頼すれば、労働者一人では会社に無視されていても、交渉に応じるよう働きかけることができます。また、裁判手続きを進める場合にも、代理人として任せることが可能です。
不本意な労働条件であるものの、違法かどうか分からないという段階でも、無料相談を活用してアドバイスを得るのも有益です。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

求人内容と違う労働条件を理由に仕事を辞める際の注意点

次に、求人内容と違う労働条件に直面して仕事を辞める際の注意点を解説します。
「退職や内定辞退を検討する」の通り、我慢して働き続けるよりも、速やかに気付いて距離を置き、気持ちを切り替えることも有意義な選択肢の一つです。求人内容で騙された上に、さらに被害を拡大させないよう、注意深く進めてください。
退職前に慎重に転職先を探す
求人内容と実態の違いを理由に退職を決意しても、次の転職先は慎重に探しましょう。
当面の生活に苦慮するケースなど、焦りがあると、再び条件の悪い企業を選ぶリスクがあります。在職中であれば精神的な余裕を持って選考に臨めるため、職場環境があまりに劣悪な場合を除き、まずは働きながら転職活動を進めるのが賢明です。
適切な退職手続きの進め方を確認する
労働者には、退職の自由があり、会社の同意や承諾がなくても辞めることが可能です。無期雇用契約の場合、退職の意思表示から2週間が経過すれば、労働契約が終了します(民法627条)。

あえて実態と異なる求人内容で応募を増やそうとして違法行為をする会社にとって、騙されて入社してきた労働者を強く引き止めたいと考えるケースが少なくありません。不当な引き止めに遭う場合には、弁護士に依頼し、退職の意思表示を代わりに行ってもらう手が有効です。
また、前述の通り、入社時に明示された労働条件と実態が異なっていた場合は、労働者は即時に労働契約を解除することができます。
「会社の辞め方」の解説

失業保険は会社都合扱いとする
求人内容と実際の労働条件が異なる場合、失業保険は会社都合扱いとするのが適切です。
具体的には「労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより離職した者」については、「特定受給資格者」として会社都合退職となります。入社時に明示された労働条件と異なることによって退職する場合、労働者を保護する必要があるためです。
自己都合退職の場合、原則として1ヶ月の給付制限がありますが、会社都合退職の場合には適用されず、7日間の待機期間が経過した後に即座に受給することができます。
「自己都合と会社都合の違い」の解説

求人内容と違う違法な労働条件に直面しないための予防策

最後に、求人内容と違う違法な労働条件に直面しないよう、事前の予防策を解説します。
求人票と異なるトラブルを防ぐには、入社前の確認を徹底することが大切です。労働基準法上の労働条件の明示義務があるため、給与・残業・休日・雇用形態といった重要な労働条件は、遅くとも入社時には明らかにされます。そして、納得がいかない場合、そのまま入社してはいけません。
また、書面上明らかでなくても、次の点は必ず面接時に確認しておきましょう。
- 基本給と各種手当の内訳
- 固定残業代の有無
- 実際の平均的な残業時間
- 試用期間中の待遇や本採用後との違い
- 将来の転勤や配置転換の可能性
求人票や求人広告だけでなく、労働条件通知書や雇用契約書の内容も必ず確認しましょう。特に、入社前の労働条件通知書は重要な証拠となります。さらに、求人票のスクリーンショットやメールのやり取りを保存しておくと、「説明と違う」と主張する際の裏付けとなります。
加えて、採用プロセス以外で得られる情報も重要で、転職口コミサイトやSNSでの企業の評判、同級生やOB・OGの意見、離職率など、事前に調査することが大切です。極端な好条件を強調する求人や、説明が曖昧な求人には注意すべきです。
「本採用後に給料を下げられた場合」の解説

【まとめ】求人内容と違う違法な労働条件について

今回は、求人内容と違う労働条件の違法性と対処法について解説しました。
求人票や求人広告などの内容が実際の労働条件と異なる場合、違法の可能性があります。特に、給与・残業・休日・雇用形態といった重要な条件が大幅に違っているケースでは、職業安定法や労働基準法といった法令への違反があり、違法となります。
ただ、求人票の内容が、必ずしも入社後の労働条件として保証されるとは限りません。そのため、面接時の説明や質問、労働条件通知書で慎重に確認する必要があります。求人内容との違いに気づいたときは、求人票や契約書を証拠として保存し、会社に変更の理由を説明するよう求めましょう。労働基準監督署や弁護士に相談し、納得いかない場合は退職や内定辞退も検討すべきです。
「求人内容と違うけれど我慢するしかない」と悩まず、早めに対応して不利益の拡大を防ぐために、ぜひ早めに弁護士に相談してください。
- 求人票の労働条件と実際の待遇が異なるというトラブルはよく起こっている
- 職業安定法や労働基準法に違反した場合には、刑事罰の対象となる
- 求人内容と実態を示す証拠を確保し、変更された理由を会社に説明を求める
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