離職者が出たのに、いつまで経っても新しい人を採用してくれない企業があります。このような会社では、人手不足が原因で多忙となり、長時間労働に悩む労働者も多いでしょう。

業務量が多過ぎて毎日長時間労働が辛い…

退職した人の代わりを雇ってもらえない…
人手不足だと社員一人当たりの負担は増えます。業務量が多すぎるストレスは、心身に深刻なダメージを与えるでしょう。企業にとっても生産性の低下や事業縮小といったデメリットがあるはずなのに、なかなか代わりの人を雇わないのには理由があります。人手不足は最終的には企業が「採用」で解決すべき課題です。しかし「採用」による解決にも限界があり、労働者側でも対策が必要です。
今回は、人手不足にもかかわらず新規の雇用をしてもらえないという労働者の悩みについて、人手不足なのになぜ雇わないのか、企業側の原因と理由、労働者側のできる対策を解説します。
人手不足の現状と採用の課題

人口減少の続く日本は、国全体が「人手不足」状態です。業務量が増えて多忙になったとき、その分だけ新しい人材を雇うべきですが、人が足りないのは決してあなたの会社だけではありません。社会全体が人手不足だと、求人を出しても十分な応募が来ず、採用は難航します。
「人手不足なのになぜ雇わないのか」、企業が採用しない(もしくは「採用できない」)理由は、現在の日本の現状や、企業の抱える課題を知れば理解できるでしょう。
人手不足の課題を抱える企業は多い
日本の労働市場における人手不足の主な原因は、少子高齢化による労働力人口の減少です。つまりは単純に働き手の数が減っているため、国全体が人手不足の状況なのです。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の発表した「2023 年度版 労働力需給の推計」によれば、日本の労働力人口は2022年は6,902万人でしたが、2030年に6,556万人、2040年頃は6,002万人へ縮小すると見込まれます。10年単位で約400~500万人ずつ減少する計算です。

人手不足の現状は、特定の業界において顕著です。
「一般職業紹介状況(令和6年4月分)について」(厚生労働省)によると、令和6年4月の有効求人倍率からして、「建設・採掘従事者(4.77倍)」「サービス職業従事者(2.81倍)」「輸送・機械運転従事者(2.04倍)」などの業界は深刻な人手不足傾向があります(有効求人倍率は数字が1を超えて高くなるほど人手の不足を表す)。採用で避けられやすい建設業、サービス業、運送業といった職種で人手不足が深刻化していると考えられます。
以上のように、労働市場や業界の全体が労働力不足、採用難の状況を抱えるわけで、対策を講じない企業において問題が自然に解消することなどあり得ません。人手不足は、現場の労働力が足りないだけでなく、企業全体の生産性の低下や事業縮小といった深刻な経営課題にも発展します。
なぜ雇わないのか?企業側が採用を控える理由
以上の現状を踏まえ、「人手不足なのになぜ雇わないのか」という冒頭の疑問を考えましょう。働き手が足りない状態なのに採用を控える企業(もしくは、採用できない企業)が多いのはなぜか。派生する問題として、利益追求のため「人手不足でも人は雇わないのに仕事を増やす」、そして「給料は上がらない」という会社すらあります。
そこには、労働市場全体の影響だけでなく、経済的な要因や雇用リスクの回避といった、雇用する会社側の理由があります。いずれにせよ労働者を酷使し、極端に利益を追及しようとする姿勢は、行き過ぎれば悪質と言わざるを得ません。
人件費を抑制したい
人件費増大への懸念が、人手不足なのに雇わない理由の1つ目です。
人件費は、基本給以外に、通勤手当や家族手当などの福利厚生、社会保険や労働保険の保険料負担も含みます。採用コスト、教育コストまで想定すると更に増大します。
現在は好調でも、将来の売上低下や急な市場変動といったリスクを考えると、採用に慎重になる企業は多いです。昨今は、バイトや派遣、契約社員などの非正規の活用、自動化ツールによる業務効率化といった、正社員採用せずとも業務を回す仕組みもあり、これらの手段は費用の調整が容易で、リスクも低いです。
なお、人件費を節約し続けるのは、長期的な視点では、主体性ある優秀な人材が育たず、企業の成長を止めるおそれがあります。
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適した人材からの応募がない
応募者とのマッチングの失敗が、人手不足なのに新たに雇用しない2つ目の理由です。
求めるスキルを満たす応募がないと採用は進みません。現在の労働市場は少ない労働力の奪い合いであり、経験者、即戦力など優秀な人材はなかなか現れません。条件が合わないのに無理に雇用しても、ミスマッチから労使トラブルが生じ、求人コストが無駄になります。
他社に負けないブランディングの強化、採用ターゲットの見直しといった採用戦略が大切になるほか、スキルアップや定着率の向上といった育成の重要性が増しています。
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離職率が上昇している
新たに雇用しても定着せず離職されてしまう状況が、人手不足なのに採用を控える3つ目の理由です。
終身雇用慣行は薄れ、自分にあった働き方を求めて転職する人が増えました。職場環境を改善しないままでは社員の満足度も下がり、更に離職率が上がります。最悪は、ワークライフバランスを損ない、メンタル不調に陥って退職してしまうなどの悪循環が生じます。劣悪な環境では、どれだけ雇おうとも働き手は増えず、既存の社員は苦しむばかりです。
雇用リスクを回避したい
雇用リスクを回避したい企業の思惑が、人手不足でも雇わない理由の4つ目です。
日本の労働法は、労働者保護が強く、企業に厳しい側面があります。特に解雇のハードルは非常に高く、一度雇うと辞めさせるのが難しいです。人手不足が深刻な企業ほど、未経験者の採用が増える傾向にあり、うまく育たなくても解雇は難しいもの。雇用リスクを分散させようとして労働法の適用されないフリーランスへの業務委託などで解決を図ります。
しかし、この流れもまた、既存の社員の忙しさが緩和されず、なぜ新規に雇入れてくれないのか、という不満に繋がります。
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人手不足なのに雇用を控えることによる労働者のダメージは深刻

次に、人手不足なのに企業が雇用を控えることによる労働者のダメージについて解説します。
ここまで、多忙でもなお企業が人材を雇用しない理由を解説しました。企業側も多くの経営課題を抱えているでしょうが「人」の悩みは特に深刻で、対策を講じないことで苦しむのは現場で働く労働者です。
長時間労働により過大な負荷がかかる
人手不足の職場では、労働者1人あたりの負荷が大きくなり、夜遅くまでの残業や休日出勤を強いられるなど、長時間労働が常態化します。労働の長い状態が続くと、疲労を十分に回復できず、結果的に生産性が低下し、ミスも起こりやすくなります。
最悪の場合、長時間労働はうつ病などの精神疾患の発症させるおそれがあります。「精神障害の労災認定」(厚生労働省)の基準によれば、精神障害について「発病直前の1ヶ月におおむね160時間以上の時間外労働があった」場合や「発病直前の2ヶ月連続して1ヶ月あたりおおむね120時間以上の時間外労働があった」場合は心理的負荷が「強」と評価され、労災認定を受けることができます。また、この程度に至らずとも、月80時間以上の残業は「過労死ライン」と呼ばれ、その後に死亡した場合は業務が原因であったと評価されやすくなります。
健康を害すると今まで通り仕事ができなくなり、家族やプライベートにも悪影響が及びます。このように長時間労働が与える負担は非常に大きく、企業は、安全配慮義務にしたがって過重労働にならない対策を講じなければなりません。
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企業の成長機会が失われる
人手不足は企業の成長にも悪影響があり、ひいては働く人の成長機会を奪います。
目前の仕事をこなすのに手一杯で、新しい受注ができなければ事業拡大のチャンスを失います。売上が低下すると、既存顧客にも今まで通りのサービス提供が難しくなり、顧客離れにも繋がります。労働力が足りないと、経営陣や管理職が現場の仕事に従事せざるを得ず、組織全体の課題は放置されがちです。人手不足を組織として根本から対策しなければ、成長がストップしてしまいます。
定着率が低下する
人手不足によって多忙のしわ寄せが来る一方で、成長機会がなく正当な評価を受けられない会社では、社員は次々と離職します。
人手不足によって引き起こされる劣悪な労働環境は、社員のモチベーションを下げる要因となります。そこで働くメリットは薄れ、将来のキャリアが見通せないと、優秀な人ほど辞めてしまうでしょう。定着率が低く社員が短期で入れ替わると、企業文化やノウハウが継承されず、競争力は更に低下します。定着率が低いままで新規の採用を繰り返せば、労務管理や教育研修にかかる時間と費用がかさみ、これらのコスト増も会社経営を圧迫します。
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企業側が本来講じるべき対策とは?

次に、企業が講じるべき対策を解説します。
人手不足による労働者の弊害は大きく、解決する責任は使用者側にあります。時代の変化に適合した取り組みが重要となります。労働者の立場でも、深刻な事態になる前にしっかりと対策を理解し、企業に要求するときの助けとしてください。
採用の強化に関する解決策
まず、採用面での解決策です。人材の乏しいなかでも、ミスマッチを減らせば必要な雇用を確保できます。例えば、現場の求める人材を知り、人手の不足する部署を見極めることで採用ターゲットを明確にすることです。部署ごとのアンケートなどで求める人材の条件を見直すのも有益です。応募者にとって魅力となる労働条件(例えば、高年収だけでなくリモートワークを含む柔軟な働き方など)を分析すれば、自社への入社を積極的にアピールできます。
他にも、採用面における人手不足の解消策には次のものがあります。
- 従来の手段以外の採用方法
ハローワークや求人広告だけでなく、社員や知人からの紹介による「リファラル採用」は、定着率の高い人材を確保する手段として注目を集めています。 - インターンの導入
インターンで就業体験をさせ、企業の雰囲気や仕事のイメージをつかんでもらうことでミスマッチを減少させることができます。 - 研修プログラムの導入
入社後の充実した研修プログラムを作成することは、特に新卒社員の不安を解消し、定着率の向上を図れます。 - 求人者とのコミュニケーションの強化
採用面接だけでなく、説明会、OB・OG訪問などコミュニケーションの場を多く設けることが採用のミスマッチを減らします。 - 多様な人材の活用
典型的な正社員だけでなく、女性や高齢者、外国人、非正規社員、フリーランスといった多様な人材を活用できないかを検討する必要があります。
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業務効率・生産性に関する解決策
本解説は、「人手不足なのになぜ雇わないのか」という不満への回答ですが、採用、雇用による解消が難しい場合は、業務効率や生産性の向上で補う方法もあります。
業務のプロセスを見直し、無駄な作業を減らす、自動化するといった方法を検討します。社内のコミュニケーションを密にし、風通しの悪さが生産性を下げてはいないか、社員に不満が生じていないかを見直す必要があります。あわせて、裁量労働制やフレックスタイム制、リモートワークといったワークライフバランスに配慮した柔軟な制度を導入したり、効率化のための機械や設備に投資したりといったことも、働きやすい職場づくりに寄与します。
いずれも労働者のみでは実現できず、企業の協力を要します。なお、こうした解決策が残業代を未払いとするといった違法なコストカットに陥らないよう注意が必要です。
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評価に関する解決策
努力を適切に評価することが働くモチベーションに繋がり、労働者の満足度を上げます。努力や成果が正当に評価されない状態では「頑張っても意味がない」と感じ、不公平感を醸成します。このとき、成果主義に移行し、業績に連動した報酬を定めることで「頑張るほどに評価される」といったポジティブな見通しを与えるのが大切です。
人事制度の見直しでは、評価基準を明確にするのが重要です。上司の主観で決まるような曖昧な基準は、成果や業績と関係しない要素が絡み、正当な評価とは言えません。どのような観点で評価したのか、フィードバックも含めて透明性を向上させれば、従業員も安心して意欲的に取り組めます。将来のキャリアアップも期待でき、定着率が向上して離職を抑えることができます。
「不当な人事評価によるパワハラ」の解説

人手不足なのに雇わない会社に勤務する労働者の解決策は?

人手不足は、本来は企業が「採用」によって解決すべき課題であり、労働者に非はありません。しかし、本解説の通り、「人手不足」の問題を「雇うこと」のみで解決するのは難しく、労働者としても少しでも現状を良くするための対処法を知っておく必要があります。
経営陣に現場の人手不足を把握させる
まず、経営陣に現場の人手不足の状況を伝え、把握させることから始めましょう。
人手不足なのに追加の人員が補充されない会社では、そもそも経営陣が現場の窮状に気付いていないおそれがあります。大きな企業ほど、たとえ退職者がいても、ミスや遅延、クレームのない限り「問題ない」「人が減っても仕事は回る」と判断される危険があります。
とはいえ、口頭で「忙しいから人を雇ってほしい」と伝えるだけでは効果が薄いです。「自分が楽したいだけではないか」「人件費の無駄遣いだ」などと敵視されるおそれもあるため、例えば次のように、客観的なデータや証拠、資料などを示して説明するのが大切です。
- 労働時間が長くなっていることを示すデータ
部署や労働者単位の資料を作り、離職者が出た前後や繁閑期の差を示すのが効果的です。 - 業務量や作業時間を示すデータ
受電数やメールやチャットの件数、パソコンのログの分析レポートなど。 - 労働者のアンケート
具体的にどのような作業に時間を取られているか、人手不足が原因で起きたトラブルやクレームなどをまとめて報告書にするのがお勧めです。
また、負担の多い業務量をこなしていることを伝え、努力や成果に見合った評価をするよう訴えるのも重要です。口頭やメールで伝えるだけでなく、会議の議題として取り上げたり、複数の労働者でまとまって要求したりといった方法で、会社に本気度を伝えるべきです。会社が無視し、問題に向き合おうとしないなら、主張や証拠をまとめて弁護士に相談し、弁護士名義で警告書を送付してもらう方法が効果的です。
「残業の証拠」の解説

採用活動に協力する
一方で、労働者の立場でも、企業の採用活動には積極的に協力するのが肝要です。リファラルプログラムを提案し、友人や知人、SNS上などで積極的に声掛けをすることは、ひいては人手不足からくる自身へのしわ寄せの解消となります。現場の社員の顔が見える採用イベントは、応募者にとっても企業の雰囲気や魅力を感じる良い機会です。
「忙しいのに会社が人を雇ってくれない」と愚痴をいうのではなく、実際に雇用した人材を大切にし、研修や教育に積極的に取り組むべきです。新たに入社した社員が安心して仕事でき、定着率を上げられる働きやすい職場環境を作るのは、社員一人ひとりの協力も必要です。間違ってもパワハラやセクハラなどのハラスメントの加害者になってはいけません。


雇用以外の方法による人手不足の解消を考える
最後に、人を雇用せずに人手不足を解消する方法は、労働者のレベルでも数多くあります。
例えば、業務の見直しを提案し、不要であったり非効率であったりする業務の削減や代替案を考えましょう。効率化や自動化のための設備投資の提案も、「楽したいからだ」と受け取られないよう、競合他社の導入事例などを調べて進めるのが重要なポイントです。
最終的な決定権が社長にあるとしても、現場を知る労働者ほど、無駄や非効率を見つけやすい立場にあります。このような建設的な提案を無視したり、口うるさく言われるのを嫌がって報復人事をしてきたりするような会社ならば、これ以上貢献すべきでないと早く知ることができます。
「労働者を外注化して解雇することの違法性」の解説

侵害された権利の回復を要求する
最後に、人手不足なのに雇わない企業では、既存の社員は様々な不利益を被っており、当然に守られるべき法的な権利を侵害されている可能性が高いです。
例えば、働く人を軽視する会社では、人件費削減のために、人手不足の現状を放置します。その反面で、正当な残業代が支払われていない可能性が非常に高いです。残業代請求は労働者の当然の権利であり、泣き寝入りせずに支払いを求めるべきです。
また、長過ぎる労働時間によって健康を害したら、それは労災であり、かつ、企業の安全配慮義務違反の責任を問うことができます。精神疾患は原因や症状が目に見えづらく、使用者側も落ち度を否定して反論してくる可能性がありますが、本解説のような対策が講じられなかったなら、会社の責任が認められる余地は十分にあります。
人手不足という、企業が解決すべき経営課題のしわ寄せで、不利益を被ることを許してはいけません。黙っていては都合よく酷使され、会社の思うツボ。職場への不平や不満は我慢しがちですが、小さな疑問や不安が生じた時点で、速やかに解決に努めなければなりません。残業代や労災といった法律トラブルは、労働問題に精通した弁護士に相談するのがおすすめです。
「長時間労働の問題」「長時間労働の相談窓口」の解説


まとめ

今回は、会社が人手不足となってしまう原因と、企業側、労働者側それぞれの対策を解説しました。人手不足の状態を放置すると、労働者の心身へのダメージが大きく、決して無視できません。
本来は、業務が増えれば人を雇って解決すべき。しかし、採用・雇用の決断は会社の裁量であり、社員の一存では決まりません。その結果、人手不足でも新たな採用をしない企業側にも採用難や人件費カットといった理由があり、限られた人材で無理をせざるを得ない状況が続いて「人手不足なのになぜ雇わないのか」という不満に繋がります。
人手不足だけが悪いわけではありません。しかし、新たな人員を雇用しないと既存の社員にしわ寄せがきて、違法な長時間労働、残業代の未払いといった労働問題に発展します。このとき労働者としても手遅れになる前に正当な権利を主張すべきです。
【残業代とは】
【労働時間とは】
【残業の証拠】
【残業代の相談窓口】
【残業代請求の方法】