女性活躍推進法が、平成27年8月28日に国会で成立し、女性の活躍が叫ばれていますが、まだまだ男女差別(男女格差)の根強く残るブラック企業も少なくありません。
ある調べでは、女性の9割以上が、「職場には男女格差がある。」と回答しているともいわれています。男尊女卑の問題は深刻です。
男女差別(男女格差)問題は、国や、男性側が、解消しようとどれほど動いたとしても、最終的には、差別を受けている女性の側がどのように感じているか、が重要となります。
女性の側から、いまだに男女差別、男女格差が消えないという意見が強く残っている以上、職場に男女差別、男女格差のある会社は、まだまだ多いといえるでしょう。
今回は、職場でよくある男女差別のケースをまず解説します。昭和の「男尊女卑」の考え方は、いまだに根強く残ります。
同様の行為のある女性従業員(女性労働者)の方は、「私ががまんすれば円満に終わる。」と考えず、「男女差別なのだ。」という共感をしていただけたら幸いです。
ブラック企業によくある男女差別、男女格差への対応方法を、弁護士が解説します。
目次
1. よくある男女差別のケースとは?
まず、ブラック企業によくある男女差別、男女格差のケースを見ていきましょう。
いずれも、昭和の時代の名残である「男尊女卑」の考え方に根付いた、男性側を中心とした会社の行為によるものです。
現在では、次のような例でもわかるとおり、男女差別、女性差別の解消が叫ばれています。
- 女性管理職、女性役員の増加が課題とされている。
- 育児介護休業法の改正により、育児を行う女性の保護が拡大されている。
- 女性活躍推進法の制定により、女性の社会進出が課題とされている。
しかし、女性差別、男女差別は、根強く残っています。その拝啓には、古くからつづく男尊女卑、女性蔑視の考え方があります。
女性活躍が推進されている現代において、女性であるというだけで、女性労働者だけが差別される筋合いはありません。「女性は・・・で当たり前」という考え方、会社の常識を疑ってください。
2. 「女性だから」という理由で仕事を押し付けられる
男女差別の典型的なケースは、「女性だから」というだけの理由で、男性社員は行わない仕事を押し付けられるケースです。
「女性だからこのような仕事をしなければならない。」というのは、男女平等の考え方に反する差別であるといわざるをえません。
しかし、次のような、特に補助的な、雑用的な業務について、「女性なら当然すべきである。」という固定観念に毒されている会社は、未だに多いといえます。
男尊女卑の考え方にもとづき、特に女性に強要されている仕事について、その男女差別の問題点とともに、弁護士が解説していきます。
2.1. お茶くみ
会社にお客様が来社されると、お茶やコーヒーを出します。
このお茶くみ業務を、すべて女性労働者(女性社員)に任せきりにしているケースがあります。
来客対応、お茶くみ、お茶出しは、いずれも、女性社員だけがやらなければいけない仕事ではないはずです。
来客へのお茶出しだけでなく、社員(従業員)全員分のお茶を用意しなければいけないという業務が、女性社員に与えられている場合もあります。
毎日のお茶出しの業務をこなすために、女性社員だけ早出させることは、男尊女卑の考え方に基づく、不当な男女差別(男女格差)といわざるをえません。
2.2. 電話番
「女性は電話番」という考え方が根強い会社もあります。
電話に出るのが遅いと怒鳴られる、怒られるといったパワハラとセットになっていることもあります。
電話番に指名されると、電話から離れることがなかなかできず、トイレやタバコ休憩すら困難な場合もあります。
電話に出るのは、社員全員の仕事であって、女性社員(女性労働者)だけがやらなければいけない仕事ではないはずです。
電話番を女性社員(女性労働者)にだけ任せ、自由な休憩をとらせないことは、不当な男女差別(男女格差)といわざるをえません。
2.3. 掃除
職場の掃除を行うのが、女性社員の仕事とされている会社があります。
職場を掃除することは、「女性であるから行わなければならない。」というわけではありません。むしろ、男性社員であったとしても、会社のフロアを掃除すべきでしょう。
掃除業者へ外注(アウトソーシング)している会社も増加していますが、ゴミ出し、水回りの整理など、掃除を女性社員に行わせているケースは後を絶ちません。
また、女性従業員の側でも、無理に空気を読んでしまい、さきほど解説した「お茶出し」業務のついでに、キッチン周りを清掃したりしていることも多いようです。
掃除業務を、女性社員(女性労働者)にだけ任せたことにより、始業時間前、終業時間後に、女性社員にだけ追加の仕事があるといった労働問題も起こっています。
残業代が支払われない場合、掃除を行っていた時間も労働時間ですから、残業代請求が可能です。
2.4. 受付・事務
女性社員だからという理由で、受付や事務作業を任されることがあります。
受付業務、事務業務を行う職種として会社に採用されたのであれば、男女の性差に合わせた適切な役割分担であるといえます。
しかし、同じ職種として採用されている場合であっても男女で役割に差がある場合、これは不当な男女差別であると言わざるを得ません。
同じ正社員であり、同じ部署に配属されているにもかかわらず、女性にだけ受付業務、事務作業などを任せることは、男尊女卑の考え方にもとづく女性差別です。
3. 女性社員の評価に関する差別
会社で業務を行う際には、社員は会社から評価され、その評価に基づいて給料をもらいます。
しかし、男女差別の行われている会社では、この評価や賃金の点で、男性社員と女性社員を異なって取り扱うことがあります。
3.1. 賃金差別
男性社員と女性社員とで、賃金額に差があるという会社も多いです。
明確に、「男性だから」「女性だから」というだけで賃金差別をするほどのブラック企業はさすがに少なくなりましたが、実際には男女格差があるケースも多いものです。
社内で統計をとってみると、同年代の同僚との間で、男女で明らかに差があるという場合、性別を理由に明確に差別していなかったとしても、結果的には男女差別となります。
月の基本給に男女格差が生じれば、退職金にも大きな男女差別が生じます。
評価は会社の裁量による部分が大きく、「評価の結果である。」といわれると、男女差別の意思を明らかにすることが難しい場合があります。
3.2. 出世競争における差別
出世競争や評価の点で、男性社員を優遇する会社があります。
男性社員の場合には、全然仕事ができなくても、上司のお酒やタバコに付き合うだけでかわいがられ、重要な仕事を任さるというわけです。これに対し、女性社員はどれだけ仕事ができても冷遇される、これがブラック企業の男女差別の典型例です。
日頃の仕事の与え方は、評価につながり、やがて、出世のスピードにあらわれてきます。
ゴルフ、お酒、キャバクラといった、女性社員が男性上司と一緒に付き合うことが難しい趣味の存在が、大きな壁として立ちはだかります。
4. 職場環境における差別
男女差別を行う会社では、職場環境にも、男性社員と女性社員とで、違いがある場合があります。
職場環境が悪化すれば、「男女差別はしていない。」と会社がいったところで、事実上非常にはたらきづらくなり、女性社員(女性従業員)はやめざるを得なくなることもあります。
4.1. 自分の意見をいえない
強く自分の意見を主張する女性社員は、「女性らしくない」「身の程をしらない」といった理不尽な理由でしいたげられることも多いようです。
このような偏見によって、女性社員(女性労働者)は、意見をいうと職場いじめやパワハラにあうことから、自分の意見をいえなくなります。
そして、自分の意見を主張する女性社員を嫌うのは、男尊女卑の考え方をもつ男性社員だけではありません。
むしろ、仲間である女性社員であっても、同じ女性社員に対して、「私は意見を言わずに我慢しているのに。」といった考えから、強く意見をいう女性社員を疎ましく思います。
4.2. 女性差別発言
男性社員が、女性差別的な発言をすれば、女性社員はいづらくなります。つまり、職場環境が悪化するわけです。
例えば、次のような発言は、女性差別発言となります。
- 「女性なのだからもっと優しくしないとダメだ。」
- 「女性なのに気が使えない。」
- 「もっと女らしくしてほしい。」
- 「これだから女は使えない。」
- 「無駄な仕事を増やすのはいつも女だ。」
- 「女のくせに生意気だ。」
- 「女のくせに料理もできないのか。
女性差別発言が問題となるのは、なにも男性社員が女性社員に行った場合に限られるわけではありません。
女性管理職など、女性の中でも優遇されている社員が行う場合もあれば、「誰に対して」というわけではなくなにげなく行った発言による女性差別が、女性社員の労働環境を悪化させている場合もあります。
4.3. 性の対象として見られる
女性差別、男女差別というと、「男性社員が女性社員を嫌っている」という場合に起こるものと思いがちです。
しかし、男性従業員が、女性従業員に対して、好意的な眼差しで見ている場合にも、女性差別の問題はおこります。
それは、男性社員が、女性社員を性の対象と見ている場合の問題です。
男性同士で仕事をする場合に、異性愛者であれば、同僚を「性の対象」などと意識することはありません。
しかし、男女で仕事をすると、同僚を、「性の対象」として見て、好意的な視線で見てしまうがために、これが男女差別につながることがあるのです。
5. 女性が管理職になれても、問題は山積み
最近では、以前に比べれば、女性社員であっても職場で出世する機会が与えられることが多くなっています。
そして、女性管理職の割合も、まだまだ少ないとはいえ、増加している会社が多いといえます。
しかし、女性管理職がいるからといって、それだけで「男尊女卑の考え方はなくなった。」と安心することはできません。女性管理職であっても、男女差別、男女格差に苦しんでいる方が大勢います。
残念ながらいまだに、男性、女性という「性別」だけで、職場で不当な扱いを受け、お悩みの労働者の方が大勢いるのです。
5.1. 女性管理職に対する偏見の目
女性管理職は、常に「女性なのに部長。」などといった偏見にさらされています。
さらには、女性管理職に対する偏見の目は、女性管理職の下ではたらく部下に対する偏見にもつながります。
女性管理職がついたことによって、その部署に対する偏見の目が広がることすらあります。
5.2. 「女性らしくない」と思われる
女性管理職として、部下をひっぱり、リーダーシップを発揮して活躍すればするほど、社内の他の男性社員から、「女性らしくない。」と言われます。
「女性らしい」という定義をつくってしまうこと自体が男女差別のもとなわけですが、根強い男尊女卑の考え方は、そう簡単にはなくなりません。
確かに、昭和的な、古い男尊女卑の考え方に従えば、そもそも「女性管理職」自体が、「女性らしくない」とさえいえます。
しかし、「女性らしくないから女性管理職は減らそう。」とはなりません。むしろ、「女性らしい」という価値観自体を転換し、女性管理職を増やしていくというのが、最近の傾向です。
5.3. 女性が担当すべきと思われている部署がある
女性管理職を増やすという場合に、どのような部署を女性管理職にまかせるか、という点でも、男尊女卑の考え方や男女差別が問題となります。
ブラック企業の中には、「男性管理職がやるべき仕事だ。」というメインの部署があり、これに対して、「女性管理職にまかせるべき部署だ。」という補助的な部署がある場合があります。
実際にも、男性、女性という性別に対応した適切な業務分担である場合にはよいですが、この男尊女卑の考え方を反映した扱いは、「男性よりも女性の部署の方が下だ。」という意味が含まれている場合も少なくありません。
あえて不採算の部門を、「誰がやっても変わらないから。」という理由で、女性管理職に押し付ける例すらあります。
6. 「女性はすぐ退職するから・・・」にNO!
女性労働者(女性社員)に対する不当な男女差別の背景には、「女性はすぐ退職するから・・・」というブラック企業的な発想にあります。
女性社員の場合、結婚、出産、育児などを理由に、退職する場合があります。いわゆる「寿退社」です。
すると、重要な仕事を任せたり、高度なノウハウを身につけさせたりしても、どうせ短期間で退社してしまうのであれば、すべて無駄になるという考え方が生まれます。
この考え方から、女性社員に対しては、お茶くみ、電話番、コピー取りといった、誰にでもできる簡易な作業だけを押し付けるブラック企業が出てくるわけです。
しかし、現在では、「女性社員だから、早期に退職する。」というのは、必ずしもあてはまりません。
育児休暇(育休)、産前産後休暇(産休)などを活用して、復帰後もキャリアウーマンとして精力的にはたらき続けることも可能だからです。