セクハラの加害者になったら、大至急、被害者と示談するのがよいでしょう。示談に成功すれば、責任が軽減されるからです。重度なセクハラでも、示談できれば、犯罪になって逮捕されるなど深刻な事態を避けることができます。
このとき、示談の方法や、示談書の書き方には、法律上注意すべきポイントがあります。セクハラが違法だと理解しながら、冷静に行動しなければなりません。示談の流れを間違えると、問題を悪化させてしまう例もあります。
示談したいと言ったら、被害者の怒りを買ってしまった
会って話そうと伝えたら二次被害だといわれてしまった
また、セクハラ加害者といえど不当な要求をされないよう、示談金の相場を知る必要があります。示談金の相場は、セクハラの内容や回数、期間、被害者との関係などによりケースバイケース。決まったルールがあるわけではありません。
今回は、加害者側の立場で、セクハラの示談をうまく進めるための法律知識を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 刑事事件になりそうな重度のセクハラほど、被害者との示談するのが重要
- セクハラの示談をスムーズにするには、時系列と謝罪文を作り、弁護士に相談する
- 示談が成立したら、必ず示談書を作り、清算条項を定める
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セクハラの示談とは
セクハラの示談とは、刑事事件になる危険のあるケースで、被害者との間で合意し、一定の示談金を払う代わりに、これ以上の処罰を望まないという約束をとりつけることを指します。
セクハラ(セクシュアル・ハラスメント)は、職場における性的な嫌がらせのことで、性的言動により労働条件に不利益を与える「対価型セクハラ」と、性的言動により労働環境を悪化させる「環境型セクハラ」があります。
「おばさん」「女がお茶出しすべき」など、性差別的なセクハラ発言が問題なのは当然。外見を指摘して不快な思いをさせたり、尻や胸をさわったり、しつこくデートに誘い、プライベートの連絡を強要したりするのも全てセクハラです。
しかし、数多くあるセクハラの責任のなかでも、重度のものは刑事責任を負います。このとき、セクハラは不同意わいせつ罪、不同意性交等罪、暴行罪といった犯罪にあたります。刑事罰を科されるセクハラでは、逮捕されてしまうリスクがあります。逮捕され、刑事事件とならないためには、セクハラの示談がとても重要な弁護活動です。
なお、セクハラで示談すべきなのは、あくまで疑われている内容が事実の場合です。やっていないことについて示談をする必要はなく、セクハラ冤罪なら、示談しないべきです。
「セクハラ加害者の対応」の解説
セクハラで示談するメリット
悪質なセクハラはしないのが一番ですが、出来心で加害者になってしまうことがあります。万が一、セクハラの加害者になってしまっても、示談にはメリットが数多くあります。
懲戒処分、解雇を回避できる
重いセクハラ行為では、社内の処分も厳しくなりがちです。再発を防止するため、懲戒処分や、ケースによっては解雇して追い出さざるを得なくなります。示談が成立し、当事者間で解決していれば、会社も処分内容を軽くしてくれる可能性があります。
「セクハラを理由とする懲戒解雇」の解説
慰謝料請求を回避できる
セクハラを起こすと、被害者から慰謝料請求されるケースが多いです。示談の際に支払う示談金は、慰謝料としての意味合いがあります。セクハラの示談書に「清算条項」を約束していれば、将来これ以上の慰謝料請求を回避することができます。
「セクハラの慰謝料の相場」の解説
刑事処罰を免れる
悪質なセクハラの加害者は、刑事責任を負わされるおそれがあります。示談が成立していれば、刑事処罰を免れられる可能性が高まります。
示談は、重度のセクハラによる刑事事件で、加害者に有利な情状として考慮されるからです。処罰を免れるのはもちろん、示談していれば、証拠隠滅の可能性が小さく、身柄拘束の必要性がないとして、逮捕・勾留といった身柄拘束を回避できる効果もあります。
犯罪となるセクハラで、警察から連絡が来たり逮捕されたりしたときの緊急の対応は、スピードが重要です。速やかに、弁護士にご相談ください。
「犯罪となるセクハラ」の解説
セクハラの示談の流れと、示談する方法
次に、セクハラの示談の流れと、方法について解説します。
セクハラの示談を軽く考えてはいけません。上司・部下の上下関係や、職場の同僚といった人間関係があると、「人事はセクハラだといっていても、直接連絡して謝れば許してくれるのでは」と甘く考える方もいます。
しかし、セクハラの被害者の考えはそうではありません。被害者の精神的苦痛はとても大きく、「二度と顔を合わせたくない」と考えている方も多いです。このとき、無理に会うよう強要すれば、ますます示談が困難になってしまいます。
セクハラの時系列を作成する
はじめに、セクハラ問題について、時系列を作成してください。時系列でまとめることによって、自分がしたセクハラの事実について、よく記憶を喚起できます。セクハラについて被害者と交渉するとき、言い分が食い違うことがあります。詳細な事実をしっかり思い出しておかなければ、被害者の言うとおりになってしまいます。
弁護士に示談を依頼するときにも、できるだけ詳しい事情を事前に伝えておく必要があります。セクハラ被害者と言い分が食い違うケースの対応は、特に注意が必要です。
「被害者の証言と食い違っているとき」の解説
セクハラの謝罪文を作成する
次に、セクハラの謝罪文を作成してください。セクハラの謝罪をするとき、重度のセクハラほど、直接会って謝罪することは難しいでしょう。なにより、被害者が、謝罪するためといっても直接会いたくないといってくるケースが多いです。
このとき、直接の謝罪のかわりに、謝罪文を渡して、誠意を示す必要があります。言葉だけの謝罪に頼ろうとすると、十分に被害者に伝わらないおそれがあります。作成した謝罪文は、会社や弁護士を通じて渡してもらうようにします。
「セクハラの謝罪文」の解説
弁護士に相談する
直接の示談交渉は、重度なセクハラほど難しいもの。弁護士に間に入ってもらって、弁護士を通じて謝罪の意思を伝えてもらう方法が有効です。弁護士は、依頼者の味方に立って、示談交渉を進められます。示談交渉を弁護士に相談し、依頼するのには、次のメリットがあります。
- 示談金の相場を知り、減額交渉できる
示談金の相場を、事情に応じて詳しく算出し、被害者に示せます。被害者の要求が高すぎるなら、減額交渉し、相場に近い金額で示談できるメリットがあります。 - 直接連絡を避け、処罰感情を和らげられる
セクハラ事案の経験豊富な弁護士なら、被害者の心情もよく理解して進めてくれます。
会社が示談を仲介してくれるケースもありますが、会社に任せるのはリスクがあります。
まず、社長や人事は、あなたの味方ではありません。セクハラが重度だと、懲戒解雇するなど、むしろ加害者と敵対してしまいます。
また、あまりに加害者をかばいすぎると、会社がむしろ被害者から責められ標的にされる危険もあります。処罰感情が強い場合、会社だと、示談を申し出るのすら困難な場合もあります。セクハラの示談交渉を任せるのは、労働問題に強い弁護士がおすすめです。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
示談の交渉をする
示談交渉を依頼したら、弁護士はすぐに動きます。具体的には、まずは書面を送ってあいさつをし、次に、電話で被害者にコンタクトをとります。
被害者の承諾が得られたら、示談交渉のための面談を設定します。示談交渉では、まずは謝罪からはじまり、加害者の作成した謝罪文を手渡し、誠意を伝えます。被害者に理解してもらえたところで、示談金の提案に移ります。このとき、事前に弁護士と打ち合わせ、示談金の提案額や、予想される支払額を、十分相談できます。最後に、示談が成立したら、示談書を作成し、終了します。
「セクハラ問題に強い弁護士に相談すべき理由」の解説
セクハラの示談書の書き方【テンプレート付】
セクハラの示談交渉が終わり、示談が成立したら、示談書を必ず作ってください。示談書には、被害者と示談したことを証拠に残すという重要な役割があります。
法的に穴のない示談書を弁護士が作れば、リスクを軽減することができます。被害者からの追加の請求を防ぐことができますし、刑事罰を科されて前科がつくのも避けられます。民事責任、刑事責任、雇用責任など、セクハラの責任を軽減するための情状の証拠になるのです。
まず、セクハラの示談書のテンプレートとして、次の文例を参考にしてください。
示談書
被害者○○○○(以下「甲」という)と、○○○○(以下「乙」という)は、20XX年X月X日、株式会社○○○内で発生したセクハラ(以下「本件」という)について、次のとおり示談した。
第1条(謝罪)※
乙は、甲に対して、~~~という行為をし、多大なる精神的苦痛を与えたことを認め、深く謝罪する。
第2条(示談金とその支払方法)※
1 乙は、甲に対して、本件の示談金として金○○円を支払うものとする。
2 乙は、甲に対して、前項の金員を、XXXX年XX月XX日限り、甲の指定する金融機関口座へ振込送金する方法により支払う。なお、振込手数料は、乙の負担とする。
第3条(接触禁止)※
乙は、甲及び甲の家族に対して、対面、電話、メール、LINE、その他いかなる方法によっても、業務上の必要性のある場合を除いては接触しないことを確約する。
第4条(宥恕文言)※
甲は、本件について乙の謝罪を受け入れ、本件を許し、乙に対する刑事処罰を望まない。
第5条(守秘義務)※
甲及び乙は、本件の経緯、本示談書作成の経緯及び内容について、正当な理由なく、第三者に漏洩、口外しないことを確約する。
第6条(清算条項)※
甲及び乙の間には、本示談書に定めるものを除いて、何らの債権債務も存在しないことを相互に確認する。 以上
20XX年XX月XX日
(甲) ○○○○ ㊞
(乙) ○○○○ ㊞
セクハラの示談で、実際に用いられる示談書のイメージをつかんでください。次に、各条項について、その内容や注意点を解説します。
謝罪文言
示談交渉の第一目的は「謝罪」にあります。そのため謝罪を最優先にして進め、示談書でも、第1条に謝罪文言を書きます。示談書の謝罪文言では、してしまったセクハラ行為の内容を認め、謝罪すると定めます。
示談交渉で、「早く示談書を作って責任を軽くしよう」など、下心が見えるとうまくいきません。焦る気持ちはわかりますが、被害者の気持ちを理解して、冷静に進めるべきです。セクハラなどの性的被害だと、特に被害者の処罰感情は強いものです。
示談金に関する条項
示談書には、示談金に関する条項を定めます。示談金について定めるべき約束は、次のとおりです。
- 示談金の金額
- 示談金の支払方法(現金交付・振込など)
- 振込手数料の負担(加害者負担)
- 支払期限
後に争いにならないよう明確に定めておいてください。示談金の支払期限は、常識的な範囲で、できるだけ早く定めておきましょう(1週間以内がおすすめです)。
接触禁止条項
セクハラのトラブルでは、示談後でも、被害者と加害者が接触するのは望ましくありません。そのため、示談書には接触禁止条項を定め、接触しないようにします。
加害者に自覚がなくても、被害者は「絶対に会いたくない」と思っているケースは多いもの。街中で見かけても近づいたり話しかけたりしてはいけません。うっかり遭遇しないよう、生活圏や通勤経路を変えるなど、注意して生活しましょう。
今後も同じ会社に勤務を続けるときにも、できるだけ接触しないよう努力してください。業務上、どうしても顔を合わせたり連絡したりせざるをえないとき、上記ように「業務上必要のある場合を除き」とか、「業務で必要なときは、必要最小限の範囲に留める」などと定める例もあります。
宥恕文言
宥恕文言とは、「被害者が加害者を許す」という内容の規定です。
示談書に宥恕文言があると、刑事事件では特に有利な情状として扱われます。そのため、実刑などの厳しい処罰が予想されるときは、示談交渉を積極的に進め、宥恕文言付の示談書をもらうようにしてください。
示談書に宥恕文言を入れてもらうほか、「嘆願書」という書面を書いてもらう方法も有効です。嘆願書は、セクハラ被害について許すという意思表示を明確にした書面です。
守秘義務条項
セクハラが示談で終われば、その後に禍根を残さないのが一番です。
お互いの名誉、信用のためにも、過去のセクハラの事実を言いふらすことはあってはなりません。性的被害を生々しく語ったり、社内で噂になったりすれば、せっかく示談しても二次被害。加害者にとっても、セクハラの事実はできるだけバレたくなくことでしょう。そのため、守秘義務条項を交わし、被害者・加害者いずれも、秘密を守ると約束しておきます。
「セクハラの二次被害を防ぐ対策」の解説
清算条項
示談書の最後に、清算条項を定めておきます。清算条項とは、「これで全て終わり、清算する」という意味の条項です。つまり、清算条項があれば、これ以上の請求は回避できます。
具体的には、「被害者、加害者の間に、お互いに債権債務がない」と確認し、今後請求したり、請求されたりすることがないことを約束します。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
セクハラの示談金の相場
セクハラと一言でいっても、その内容、程度、悪質性は様々です。セクハラの違法性や、悪質性の程度によって、示談交渉を進めるときの「示談金の相場」も異なります。
相場を知らなければ、加害者として、良い示談金の提案ができず、交渉が難航してしまいます。提案した示談金が高すぎれば、加害者といえど損しますし、低すぎれば、被害者が「軽視されている」と感じるおそれがあり、示談がまとまらないだけでなく、更に責任追及を受けてしまいます。
セクハラの示談金の相場は、10万円〜200万円程度が目安となります。ケースによって異なるため、よくあるセクハラの事例ごとに、示談金の相場を解説します。
軽微なセクハラの示談金の相場
極めて軽微なセクハラなら、示談金も少額で解決できます。被害が軽微だと、示談金の相場は、10万円〜30万円程度でおさまるケースも珍しくありません。
軽微なセクハラでは、被害者もそれほど処罰感情が強まっていません。「お金をもらえるなら許す」「早く示談して解決したい」という被害者もいます。軽微なセクハラなら、その後も被害者・加害者が会社に残り、働き続けるケースもあります。
「セクハラ発言になる言葉の一覧」の解説
被害者が退職した時のセクハラの示談金の相場
しかし、意に反して性交渉してしまったなど、重度のセクハラでは、示談は難航します。その分だけ、示談金も高額になります。重度のセクハラでは、示談金の相場は100万円〜200万円程度が目安と考えることができます。
なかでも、うつ病や適応障害となって退職せざるをえなくなったケースは深刻です。このとき、示談金には、精神的苦痛に対する慰謝料の意味があるとともに、会社を退職することで得られなくなった収入の保障(いわゆる「逸失利益」)の意味も含まれるため、高額になるのです。
逮捕された時のセクハラの示談金の相場
セクハラで逮捕されてしまうと、示談金はおのずと高額になります。というのも、身柄拘束は、お金に代えられる問題ではなく、解放されて外に出られるならば、示談を成立するためにある程度の金銭負担は覚悟すべきだからです。
そのため、逮捕されたケースでのセクハラの示談金は、200万円を越える額が支払われることもあります。逮捕、勾留されたとき、示談金を払うデメリットと、外に出られるメリットを比較し、慎重に決めなければなりません。
「逮捕を理由とする解雇」の解説
セクハラの示談を弁護士に依頼するときかかる弁護士費用
最後に、セクハラの示談を弁護士に依頼するとき、かかる弁護士費用について解説します。
示談交渉は、弁護士に依頼するほうがスムーズです。むしろ被害者が会いたくないといっていると、弁護士を入れなければ示談することができません。しかし、唯一のデメリットとして気になるのが弁護士費用でしょう。
弁護士費用としてかかるのは、相談料、着手金、報酬金が通例で、その相場は次のとおりです。
- 相談料
30分5,000円〜1時間1万円 - 着手金
示談交渉につき、30万円程度 - 報酬金
示談成立につき、30万円程度
セクハラ問題の解決でかかる費用は、示談金と弁護士費用を加算した総額で考える必要があります。弁護士を入れることで円滑に示談でき、示談金を減額できるメリットもあわせ総合的に検討してください。
「労働問題の弁護士費用」の解説
まとめ
今回は、セクハラの加害者となったら検討すべき、示談についての法律知識を解説しました。
セクハラの示談は、早期に成立させるべきです。スピーディに動くほど、被害者の処罰感情が高まらず、社内の処分も進みづらくなります。被害者がうつ病になって退職するなど、損害が大きくなれば、示談金も高額化してしまいます。最悪のケースでも、示談すれば刑事事件となるのを避けることができます。
セクハラの加害者といえども、弁護士に相談することで、将来予想される責任追及を少しでも減らし、有利な解決を得るよう努めなければなりません。
- 刑事事件になりそうな重度のセクハラほど、被害者との示談するのが重要
- セクハラの示談をスムーズにするには、時系列と謝罪文を作り、弁護士に相談する
- 示談が成立したら、必ず示談書を作り、清算条項を定める
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【セクハラの基本】
【セクハラ被害者の相談】
【セクハラ加害者の相談】
- セクハラ加害者の注意点
- セクハラ冤罪を疑われたら
- 同意があってもセクハラ?
- セクハラ加害者の責任
- セクハラの始末書の書き方
- セクハラの謝罪文の書き方
- セクハラ加害者の自宅待機命令
- 身に覚えのないセクハラで懲戒処分
- セクハラ加害者の退職勧奨
- セクハラで不当解雇されたときの対応
- セクハラで懲戒解雇されたときの対応
- セクハラの示談
【さまざまなセクハラのケース】