セクハラで強いストレスを受けた方から「労災ではないか」と相談されることがあります。
実際のところ、セクハラは被害者に大きな精神的苦痛を与えるため、一定の要件を満たせば労災として認定される可能性があります。重要なのは、セクハラでよく生じる精神障害の労災認定基準を理解し、どのようなセクハラが、心理的負荷が強いと判断されるかを知ることです。
セクハラ被害の中でも、労災認定を受けることができるのは悪質なケースに限られるため、認定される要件や基準、注意点を知らないと、適切な補償を受けられないおそれがあります。
今回は、セクハラ被害を受けた労働者が、労災認定を得るために知っておくべき基準や手続き、注意点について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- セクハラで強い精神的ストレスを受けた場合、労災認定されることがある
- 重度の性的強要や身体接触、繰り返される性的言動などは労災となる
- セクハラで労災認定を受けるには、直後の診断書取得と証拠収集がポイント
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セクハラで労災認定を受けられる?

セクハラの中でも悪質なものは、業務に起因する災害として労災認定の対象となります。
労災認定を受けるには「業務遂行性」「業務起因性」の要件を満たす必要があり、これは、セクハラによる精神疾患でも同じく、仕事を原因とするかを判断する要件となります。例えば、次のセクハラは、業務との関連性があると判断され、労災認定を受けられる可能性があります。
- セクハラが職場内で行われた場合
- 職場外でも、業務に関連する場面で行われた場合
- セクハラ加害者が社長や上司など職務上の関係のある人物である場合
- 業務上の地位や関係性を背景として行われた場合
例えば、上司が職務上の地位を利用して、部下に性的言動を繰り返した場合、業務に関連したセクハラと評価されます。一方、交際関係にあったなど、私的な関係が原因である場合は、業務起因性が否定されやすくなります。
セクハラによる労災申請で問題となるのは、主に、うつ病や適応障害といった精神障害の発症です。強い心理的ストレスが引き金となっていた場合、労災認定を受けられますが、因果関係が見えにくいため、心理的負荷の強さについて指針による基準が定められています(厚生労働省「精神障害の労災認定基準」)。
「労災について弁護士に相談すべき理由」の解説

セクハラによる労災認定の基準

次に、セクハラによる労災認定の基準について解説します。
セクハラが原因で精神障害を発症した場合、労災認定されるかどうかは客観的に判断されます。単に「つらい」「不快だ」といった主観では足りません。この客観的な基準を明確にするために、精神障害の労災認定基準が定められています。
具体的には、以下の基準を満たすセクハラが、労災として認定されます。
認定の対象となる精神障害の発症
労災認定は、国際疾病分類(ICD-10)に分類される精神障害が対象となります。セクハラに関連して発症する代表的なものは、「うつ病」「適応障害」「急性ストレス反応」などがあります。これらの症状を証明するために、セクハラ被害の直後に医師の診断書を取得することが重要です。
「会社に診断書を出せと言われたら」の解説

業務による強い心理的負荷
業務に関連する出来事によって、強いストレスが生じていたことが必要です。
業務上の出来事は、精神障害の発症と時間的に近接している必要があるため、発病前6ヶ月以内のストレス要因が重視されます。セクハラの場合にも、内容や程度、回数、頻度、継続期間、加害者との関係などを踏まえ、強いストレス要因であると判断されることがあります。特に、意に反する性交渉、逃げ場のない状況での継続的な言動などは、労災認定されやすい傾向にあります。
なお、セクハラに加えて、パワハラなどの他のハラスメントや長時間労働といった問題があるケースでは、それらも総合的に評価されます。
「長時間労働の問題点と対策」の解説

業務以外の要因が主な原因ではないこと
最後に、セクハラ以外の要因がある場合は、労災認定されないおそれがあります。
私生活上の問題(家庭問題や個人的トラブルなど)が主な原因と判断される場合には、労災認定は難しくなるため、業務による影響が主要な原因であることが必要です。
「労災の条件と手続き」の解説

セクハラによる心理的負荷が強いと判断されるケース

次に、セクハラによる心理的負荷が強いと判断されるケースを、具体例で解説します。
仕事上の出来事によるストレスの強さは、客観的に判断するために「心理的負荷評価表」を用い、心理的負荷の強さを「弱」「中」「強」の3段階で評価します。職場におけるセクハラもまた、この表に当てはめ、心理的負荷の程度を判断します。
セクハラによる心理的負荷が「強」と評価されるかどうかは、内容や状況によって変わりますが、例えば次のようなケースは、「強」と判断される可能性があります。
性的要求や身体接触
重度のセクハラは「特別な出来事」として、単発でも心理的負荷が「強」と判断されます。
強姦(いわゆるレイプ)や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などの重度のセクハラは、直ちに心理的負荷が「強」と評価される典型例です。性的要求や身体接触があれば、重大な被害であることが明らかです。職場での地位を背景に強要すれば、さらに悪質性は高まります。
これらのセクハラは、労災認定されるだけでなく、不同意わいせつ罪(刑法176条)、不同意性交等罪(刑法177条)といった犯罪として処罰される非常に悪質な行為です。
「犯罪となるセクハラ行為」の解説

反復継続した性的言動
反復継続した性的言動も、心理的負荷が「強」と判断される傾向にあります。
一度きりで「特別な出来事」と評価されるほど重度のものでなくても、長期間にわたって性的言動や嫌がらせが繰り返されれば、被害者に深刻な精神的苦痛を与えます。例えば、次のような行為は、心理的負荷が「強」とされ、労災認定される可能性があります。
- 胸や腰などへの身体接触を含むセクハラが継続して行われた場合
- 身体接触のない性的な発言のみであっても、人格を否定する内容を含み継続した場合
肩や尻などを触る行為や、身体接触のないセクハラ発言などは軽視されがちですが、一度きりでなく繰り返し行われれば、精神的苦痛は積み重なっていきます。さらに、会社が適切な対応をせず、加害者も自覚する機会がないと、いつまで経っても改善されません。
「セクハラ発言になる言葉の一覧」の解説

事後の適切な対処がなされない場合
セクハラが軽度なうちに改善されれば、被害を食い止めることができます。
しかし、会社に相談しても調査が行われず、加害者への注意指導や再発防止の措置も不十分だと、さらに被害が拡大してしまいます。したがって、会社に相談したにもかかわらず適切な対応がなく、改善されなかった場合、心理的負荷が「強」と判断され、労災認定される可能性があります。
会社には、労働者の健康と安全に配慮する義務(安全配慮義務)があり、セクハラを防止するのもその一環であるため、相談を受けたら速やかに対処しなければなりません。
適切な対応がないだけでなく、相談後に職場の人間関係が悪化したり、セクハラの拒否を理由に、降格や配置転換、評価の低下といった不利益を受けたりした場合、心理的負荷は一層強くなります。いわゆる「対価型セクハラ」の典型例です。
一方で、身体的接触があっても行為が継続せず、会社が迅速に対応して解決した場合は「中」、水着ポスターの掲示や「ちゃん付け」といったものは「弱」と評価されます。ただし、長時間労働など、他の要因が重なると、総合評価として「強」とされることもあります。
「セクハラはどこに相談すべき?」の解説

セクハラで労災申請をする方法と手続きの流れ

次に、セクハラ被害を受けた場合に、労災申請する方法を解説します。
被害直後に医師の診断書を取得する
セクハラで労災認定を受けるには、被害直後の診断が非常に重要です。
精神障害の事例は、症状や因果関係が目に見えにくいため、被害を受けた直後に医師の診断を受けることで、因果関係を医学的に証明する必要があるからです。
会社に労災申請への協力を依頼する
労災申請に会社が協力的である場合、会社に申請を代行してもらうことが可能です。
安全配慮義務との関係から、上司などがセクハラを行った場合、会社はその被害を回復したり、再発を防止したりしなければならず、労災申請への協力もその一環です。ただし、誠実に調査をしない場合や加害者の肩を持つ場合、さらには社長からのセクハラの場合などは協力が見込めないため、自身で手続きを進める必要があります。
「労災を会社が認めない時の対応」の解説

労働基準監督署で労災申請を行う
労災申請に必要な書類を整えたら、労働基準監督署に提出して申請を行います。
会社が非協力的で、事業主証明欄への署名が得られない場合でも申請書は受理され、会社に証明拒否理由書の提出を求めるのが実務の運用です。その後、労働基準監督署による審査の結果、要件を満たすと判断されれば、労災認定を受けることができます。

セクハラを理由として労災の認定を得たいケースは、セクハラ行為や因果関係を立証する難易度が高いため、労働問題に精通した弁護士に相談するのがおすすめです。
「労働問題に強い弁護士」の解説

セクハラの労災認定に関する注意点

セクハラ事案は、密室で起こるために証拠が乏しいことが多く、事実関係の把握は難しいケースが少なくありません。そのため、労災認定も困難になりがちですが、形式的な事情だけで判断せず、被害者の心理や置かれた状況への配慮が求められます。
以下では、セクハラの労災認定で特に注意すべきポイントを解説します。
迎合的な言動は被害を否定する理由にならない
セクハラの被害者が、加害者に対し、好意的・協力的に見える態度を取ることがあります。例えば、誘いに応じたり、穏便に見えるメールやLINEを送ったりするケースです。
しかし、これは決してセクハラを受け入れたことを意味するわけではありません。次のような心理が背景にある場合、被害を否定する理由にはなりません。
- 断ったら解雇されるのではないかという不安(社長が加害者の場合)
- 評価や配置への不利な影響は避けたいという懸念(上司や管理職が加害者の場合)
- これ以上自分が傷つきたくないという防衛本能
セクハラでは、職場で起こるという特殊性から、こうした不安や懸念から、本意ではない「迎合的な態度」を取ることがあります。そのため、それだけで被害を否定したり、心理的負荷が弱いと判断したりすべきではありません。
「同意があってもセクハラ?」の解説

相談や申告が遅れても不利とは限らない
セクハラの被害者がすぐには相談できないケースも多く見られます。医師の診断でも、恥ずかしさや恐怖から、セクハラが原因であるとは打ち明けないケースもあります。この場合も、相談や申告が遅れたからといって、直ちに心理的負荷が弱いと判断されるわけではありません。
加害者の立場は心理的負荷を強める要素になる
セクハラの労災認定では、加害者と被害者の関係性が重要な判断要素となります。
加害者が被害者の直属の上司であるなど、指揮命令関係にある場合や、優越的な立場にある場合、影響は大きくなり、被害者は拒否しにくい状況に置かれます。したがって、セクハラの労災では、言動の内容だけでなく、誰が(どのような立場の人が)行ったかも重要な意味を持ちます。
セクハラが労災なら慰謝料などの損害賠償請求も可能
最後に、セクハラが労災なら、加害者や会社への責任追及も検討しましょう。
セクハラの被害に遭ったことで精神障害を発症し、仕事をすることが困難となった場合、労災保険からの給付は、生活のための最低限の補償です。これに加え、労災ではカバーされない精神的苦痛に対する慰謝料などは、加害者や会社に請求することが可能です。
加害者が不法行為として直接の責任を負うのはもちろん、セクハラを防止しなかった会社には安全配慮義務違反の責任があります。また、業務上で起こるセクハラは通常、「事業の執行」について行われたものと考えられるため、不法行為の使用者責任も生じます。

「労災の慰謝料の相場」の解説

【まとめ】セクハラで労災認定を受けられるか

今回は、セクハラで労災認定を受けられるのかについて解説しました。
セクハラが原因で心身に不調をきたした場合でも、業務に起因するものであれば労災として認定されます。セクハラによる労災の場合、精神障害が中心となるため、認定されるには、心理的負荷の強さを証明することが重要なポイントとなります。
一方で、精神障害は被害の程度や因果関係が目に見えにくいため、労災認定を受けるには、セクハラをされた証拠や、被害状況に関する一貫した説明が不可欠です。セクハラで労災認定を得たいケースほど、証拠収集と医師への相談を速やかに進めることが結果を左右します。
労災保険制度の仕組みや判断基準を理解し、セクハラ被害について適切な補償を受けるためにも、弁護士に相談するのがおすすめです。
- セクハラで強い精神的ストレスを受けた場合、労災認定されることがある
- 重度の性的強要や身体接触、繰り返される性的言動などは労災となる
- セクハラで労災認定を受けるには、直後の診断書取得と証拠収集がポイント
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