セクハラしたら、加害者は当然ながら、社内で責任追及を受けます。
セクハラ加害者の責任は、雇用契約上の責任、民事上の責任、刑事上の責任の3つ。社内で追及される雇用契約上の責任のうち最も重いのが「懲戒解雇」です。懲戒解雇は、企業秩序違反に対する制裁(ペナルティ)であり、セクハラだけでなく、労働者に下される懲戒処分でも特に重大な処分です。
重度のセクハラで、会社の秩序を乱せば、懲戒解雇になってしまうケースがあります。しかし、悪質性、違法性に比べ、処分が重すぎるときは、不当解雇として争うべきです。「セクハラしたら懲戒解雇されてもしかたない」とあきらめるのはまだ早いです。
セクハラを理由とした解雇への対応策について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 犯罪になったり、執拗に繰り返されたりするセクハラは、懲戒解雇のおそれあり
- 懲戒解雇の重大性から見て、バランスを損なう懲戒解雇は、不当解雇
- セクハラしても、懲戒解雇されてしまわないために、事後対応が重要
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重度のセクハラは懲戒解雇されてしまう
「セクハラ」と一言でいっても、その態様はさまざまです。
「女性社員の前で下ネタ発言をした」「男女差別で不快な思いをさせた」「社内でアダルト雑誌を広げた」「性的なメールをした」などは、いずれも軽度のセクハラで、まずは社内での注意指導で解決されるべき問題です。労働審判や裁判などに発展するようなトラブルではありません。
軽度のセクハラでは、まず懲戒解雇にはなりません。まして、不同意わいせつ罪、不同意性交等罪といった犯罪となり刑罰を負うこともありません。そこで、まず、懲戒解雇にされてもしかたない「重度のセクハラ」の例について解説します。
犯罪に該当するセクハラ
重度のセクハラは、犯罪行為に該当する可能性があります。セクハラ加害者の責任のうち、刑法上の責任は、最も重大です。その責任は、刑罰という形で、労働者に下されます。
セクハラが当たりうる犯罪には、次のものがあります。
罪名 | 条文 | 法定刑 |
---|---|---|
不同意わいせつ罪 | 刑法176条 | 6月以上10年以下の懲役 |
不同意性交等罪 | 刑法177条 | 5年以上の有期懲役 |
脅迫罪 | 刑法222条 | 2年以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
強要罪 | 刑法223条 | 3年以下の懲役 |
暴行罪 | 刑法208条 | 2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金 又は拘留若しくは科料 |
傷害罪 | 刑法204条 | 15年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
名誉棄損罪 | 刑法230条 | 3年以下の懲役若しくは禁錮 又は50万円以下の罰金 |
侮辱罪 | 刑法231条 | 1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金 又は拘留若しくは科料 |
逮捕・監禁罪 | 刑法220条 | 3月以上7年以下の懲役 |
犯罪行為にあたるということは、そのセクハラが刑事罰の対象となるということ。下手をすれば、逮捕され、送検され、前科がついてしまいます。セクハラだからといって甘くみないことです。
犯罪行為にあたる重度のセクハラは、悪質性、違法性が高いのは当然です。なので、社内でも重く処分されるのが当然で、懲戒解雇となる可能性が高いです。そして、実際に有罪だったときは、懲戒解雇を争うのも難しいでしょう。
「セクハラが犯罪となる場合」の解説
しつこく続くセクハラ
軽度なセクハラなら懲戒解雇されないかというと、必ずしも言い切れません。1つずつの言動は軽度でも、日常的に繰り返されれば被害者に大きなダメージを与えます。
加害者は何気ない気持ちでも、上司と部下という職場の人間関係から、被害者側では断れずストレスになっていることもあります。セクハラということに無自覚な加害者もいます。「自分は恋愛だと思っていた」「相手の同意があると思っていた」というケースです。しつこく続くセクハラは、放置すればストーカー犯罪になる可能性もあるもの。
したがって、日常的に続けば、企業秩序を大きく乱すので、懲戒解雇になってしまいます。
「正当な解雇理由の判断方法」の解説
注意指導しても改善されないセクハラ
セクハラだと、まずは注意指導がされます。さらに、戒告や譴責など軽度の懲戒処分を下され、セクハラを止めるよう指導されます。ここで止まれば、社内で解決できる軽度なセクハラといえるでしょう。
再三の注意指導があってもなお、改善されないとき、もはや懲戒解雇するしかありません。再発防止の措置を、会社はとらなければならない責任があるからです。
懲戒解雇という重大な処分に至るには、プロセスも重要となります。注意指導して改善の機会を与え、処分前にはヒアリングをし、弁明の機会を付与する必要があります。正しい手続きをとらない解雇は、違法な不当解雇となる可能性があります。
「懲戒解雇の手続きの流れ」の解説
セクハラによる懲戒解雇が「不当解雇」となるケースとは
セクハラを軽くみてはなりません。セクハラすれば、懲戒解雇を含め、重い処分のおそれがあると、よく理解できたでしょう。
一方で、懲戒解雇は、たとえセクハラをした労働者に対するものでもとても厳しい処分です。それは、懲戒解雇になると、会社にいられないのは当然、次のデメリットがあるからです。
- 退職金が不支給・減額となる
- 失業保険が、受給期間、給付制限、金額の点で不利になる。
- 懲戒解雇となると再就職が難しくなる。
- 懲戒解雇となると、再就職先・転職先で再度解雇とされるおそれがある。
(参考:懲戒解雇のデメリット)
以上のように、懲戒解雇は労働者の人生を大きく左右する重大な処分です。なので、一定の条件を満たさねば、違法な「不当解雇」として無効です。
解雇権濫用法理により、客観的に合理的な理由なく、社会通念上も相当でないなら不当解雇(労働契約法16条)。懲戒解雇の場合、普通解雇にもまして厳しく判断されます。
なので、セクハラで懲戒解雇されても「不当解雇なのでは」と疑問が残るでしょう。そこで、セクハラを理由とした懲戒解雇が、不当解雇となるケースを解説します。
会社のセクハラ対策が不十分な場合
わざとセクハラするなど、故意の違法行為なら、許されるわけもありません。しかし、なかには、セクハラとの自覚なく、過失でしてしまったケースもあります。このようなケースの多くは、現在は反省していることでしょう。
セクハラの被害をなくすため、加害者側の努力は当然ですが、会社もまた、対策を要します。会社のセクハラ対策が不十分なのに、生じた被害に懲戒解雇をするのは、重すぎる場合があります。会社は、セクハラのない安全な環境で働かせるよう配慮する義務を負います(安全配慮義務)。常日頃からセクハラ防止の対策が徹底されていたか、懲戒解雇されたらチェックしましょう。
会社のセクハラ教育が不十分な場合
会社は、労働者に「何がセクハラにあたるか」をよく教育しなければなりません。このような指導もまた、セクハラ防止義務の一環です。厚生労働省の「セクハラ指針」にも、周知徹底、指導、教育の重要性が説かれています。
セクハラにあたるかどうか、微妙なケースもあります。労働者が無知だと、自覚なくセクハラしてしまっていることも。このとき、会社が教育していなかったことにも、責任があると評価されます。
セクハラ教育が万全でないのに、懲戒解雇されてしまったら、不当解雇の可能性があります。
就業規則に「セクハラは懲戒解雇」という規定がない場合
懲戒解雇するには、その理由と処分が、就業規則に定めていなければなりません。懲戒権は、労働契約から当然に生じるものではありません。
セクハラで懲戒解雇するなら「セクハラは懲戒解雇」という規定がなければできません。就業規則をチェックし、セクハラの場合に懲戒解雇にできる権限が会社にあるか、確認してください。
なお、「その他、企業の秩序を乱したとき」といった一般規定を根拠とするケースがあります。このときにも、それ以外の根拠と同様の重要性のあるセクハラでなければ、解雇できません。
「就業規則と雇用契約書の違い」の解説
弁明の機会がなかった場合
セクハラで懲戒解雇するということは、会社は「セクハラがあった」と事実認定したということ。この重要な事実の認定を、セクハラ被害者とされる女性の言い分だけを信じてしてはいけません。セクハラで懲戒解雇とする前に、加害者とされる者の弁明も聞く必要があります。
セクハラのみならず、懲戒解雇は重い処分のため、対象者に弁明の機会を与えなければなりません。裁判例には、弁明の機会がなかったのを理由に、不当解雇とした例もあるほどです。
セクハラを理由に懲戒解雇されても、その前に弁明の機会が十分になければ、会社と争えます。実際に、セクハラ冤罪の疑いをかけられるケースもあるでしょう。
「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説
軽度のセクハラなのに懲戒解雇するのは違法
懲戒処分のなかには、とても厳しい処分から軽い処分までさまざまあります。
最も重いのが、懲戒解雇なのは明らかです。これに対し、軽度の懲戒処分は、注意や警告といった意味合いがあります。あくまで、会社に残るのを前提に、今後の改善をうながすということです。
懲戒処分のよくある例は、軽い順に、次のとおりです。
懲戒処分は、就業規則に定める必要があります。なので、どんな理由に対し、どれほどの処分が準備されるかは、会社の就業規則で確認できます。
セクハラに対し、どのレベルの懲戒処分が許されるかは、起こしたセクハラの程度によります。
重要なのはセクハラと、懲戒処分のレベルにバランスがとれていなければならないという点。バランスを損ない、重すぎる懲戒処分は、不当処分として無効になります。
最も重い懲戒解雇だと、セクハラの程度もまた、重度でなければなりません。軽度のセクハラに対し、懲戒解雇されるなら、不当解雇の可能性が高く、争ったほうがよいでしょう。不当解雇ではないかと不安なときは、すぐに弁護士に相談ください。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
懲戒解雇にならないためにセクハラの事後対応が重要
懲戒解雇にならないためには、セクハラの事後対応が肝心です。
セクハラで、懲戒解雇になりそうだと、会社から脅される方がいます。このような発言を受けると、冷静な対応は困難でしょう。
これまで積み上げてきた功績は、セクハラによって崩れ去ってしまいます。しかし、危機的な状況だからこそ、焦って行動せず、まずは弁護士に相談ください。
すぐに被害者と話し合い、自分1人でもみ消そうとしても、うまくはいきません。むしろ被害者との接触を強いれば、被害を拡大させたといわれ懲戒解雇の可能性が高まってしまいます。
反省するならば、謝罪のしかたは、まず間接的に伝える努力をすること。その上で、被害者側の出方を見ながら、示談できないか試みるのが大切です。事後対応をきちんと行えば、セクハラで懲戒解雇されてしまうリスクを、格段に減らすことができます。
「セクハラで示談する流れ」の解説
まとめ
今回は、セクハラで懲戒解雇されるケースについて、加害者側の立場で解説しました。
セクハラはあってはならない重大な問題です。そのため、セクハラしてしまえば、損害賠償はもちろん、社内でも厳しい制裁を受けます。最たる例が解雇。そのなかでも最も重いのが懲戒解雇です。
しかし、「セクハラしたら必ず懲戒解雇となる」わけではありません。懲戒解雇になるのは、あくまで重度のセクハラのケースに限られます。セクハラによる懲戒解雇が安易にされれば、不当解雇の疑われる場合もあります。
セクハラ被害者の言い分を一方的に信じた懲戒解雇は、不当解雇として無効な可能性は十分あります。
- 犯罪になったり、執拗に繰り返されたりするセクハラは、懲戒解雇のおそれあり
- 懲戒解雇の重大性から見て、バランスを損なう懲戒解雇は、不当解雇
- セクハラしても、懲戒解雇されてしまわないために、事後対応が重要
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