「懲戒解雇」と突如通告された労働者には、デメリットが数多くあります。
こんなとき、冷静な判断は難しいもの。
デメリットをなくすには会社と戦うのが一番ですが、どんな影響があるかよく理解し、正しい判断をしましょう。
労働者にとって、懲戒解雇は、相当厳しい処分。
解雇のなかでも「制裁」を意味し、誰から見ても「問題社員」のレッテルを貼られます。
そのため「再就職しづらい」など、金銭的なデメリット以外にも不利益があります。
懲戒解雇される理由に心当たりがないなら、不当解雇かもしれません。
懲戒解雇となってしまったデメリットの大きさを考慮すれば、争うべきケースが多いでしょう。
なお、多少の心当たりがあるケースも、デメリットの大きさと釣り合わない些細な理由しかないなら、やはり争うべきケースも少なくありません。
今回は、不当解雇の犠牲になった方の不安である、懲戒解雇のデメリットについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 懲戒解雇は、解雇のなかでも特に厳しい処分で、労働者のデメリットが大きい
- 懲戒解雇のデメリットは、給料・退職金・解雇予告手当など金銭面だけでなく、転職にも影響する
- 懲戒解雇のデメリットをなくすため、撤回してもらい合意退職する
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懲戒解雇のデメリットは大きい

解雇のうち、企業秩序違反行為という労働者の責任を理由のが、懲戒解雇です。
そのデメリットは、とても大きいです。
解雇は、会社からの一方的な労働契約の解約ですから、それ自体がデメリットです。
しかし、解雇のなかでも、懲戒解雇こそ最もデメリットが大きい処分です。
解雇には、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類がありますが、このうち、懲戒解雇だけが、労働者に対する「制裁」という意味合いを持っているからです。
なお、デメリットがある分、労働者が保護されている面もあります。
解雇は、解雇権濫用法理のルールで制限されており、客観的に合理的な理由、社会通念上の相当性がなければ、「不当解雇」として違法、無効となります(労働契約法16条)が、解雇のなかでも重度の懲戒解雇では、このルールによる制限が、最も厳しく適用されるからです。
懲戒解雇が「不当解雇」だと争いたいとき、次の解説をご覧ください。

懲戒解雇の労働者側のデメリット

では早速、懲戒解雇の労働者側のデメリットについて解説します。
懲戒解雇後の給料がもらえない
懲戒解雇されると、労働契約が解約されます。
そのため、懲戒解雇された日以降は、給料が払われないというデメリットがあります。
懲戒解雇は、自主退職や、その他の解雇と違って、即日されるケースが多いもの。
そのため予想できず、突然に収入を絶たれてしまい、デメリットはとても大きいです。
懲戒解雇されて給料がもらえないときの対応は、次に解説しています。
再就職で不利になる
まず、懲戒解雇されると、再就職で不利になるというデメリットがあります。
懲戒解雇は、社内で下す処分で最も重く、「労働者に重大な責任があった」という意味合いを含みます。
例えば、業務上横領、強度のセクハラといった問題行為が、懲戒解雇される典型例です。
そのため、懲戒解雇されたと分かれば、その労働者を積極的に採用したい会社はまずありません。
面接で「退職理由が懲戒解雇だ」とバレれば、不採用でしょう。
履歴書にも離職理由を正直には書けず、聞かれても嘘をつくこととなります。
将来、解雇されやすくなる
懲戒解雇されると、その仕事だけでなく、将来の仕事も失いやすくなってしまいます。
将来も解雇されやすくなるというデメリットがあるからです。
懲戒解雇されたとバレずに転職できても、「バレたら解雇」という重いデメリットがつきまといます。
採用面接や履歴書などで嘘をついて入社したかもしれません。
しかし、採用時の重大な嘘がバレることは、新たな解雇理由となるおそれがあるからです。
「(懲戒解雇されたと)言えば採用されない、隠せばあとで解雇される」という板ばさみの二重苦。
労働者にとって、難しい判断を迫られることとなります。
失業保険の扱いが不利になる
懲戒解雇をされると、失業保険でも不利な扱いを受けるデメリットがあります。
失業保険は、再就職までの期間の生活保障であり、この点の影響はとても大きいものです。
問題行為を起こして懲戒解雇された労働者には、失業保険すら制限されてしまうわけです。
具体的には、懲戒解雇だと、失業保険が「自己都合」扱いとなります。
その結果、失業保険の受給は、給付制限期間(2ヶ月)と待機期間(7日)の経過後となります。

突然給料がもらえなくなり、失業保険ももらえなくなるため、生活への悪影響があります。
また、離職票上も、懲戒解雇であるとわかる記載が残り、再就職先にバレやすくなるデメリットもあります。
失業保険をもらう手続きについて、次に解説しています。
退職金をもらえない
さらには、懲戒解雇には、退職金についても大きな金銭的なデメリットがあります。
懲戒解雇だと、退職金を不支給または減額とすると定めている会社が多いからです。
退職金の法的性質には「功労報奨的性格」があります。
つまり、在職中の功労に報いるために退職時にまとまった金銭を渡すという意味。
この点からして、懲戒解雇される問題社員は、その責任からして、功労を報いるに足らず、退職金が払われなかったり、減額されてしまったりするデメリットがあるわけです。
懲戒解雇のときの退職金の扱いは、退職金規程であらかじめ確認しましょう。
また、どの程度の責任で払われないか、どれくらい減額されるかは、過去の退職者の例を参考にできます。
なお、懲戒解雇なら必ず退職金をもらえないとは限りません。
裁判例では、懲戒解雇の理由となった問題行為が、これまでの功績を台無しにするほど重大でなければ、少なくとも退職金の一部を払うよう命じたケースが多くあります。
懲戒解雇と退職金の不支給について、次に解説しています。
解雇予告手当がもらえない
解雇は、労働者へのデメリットが大きいため、事前に予告しておくのがルールです。
労働基準法20条により、解雇は30日前に予告するか、不足する日数分の解雇予告手当を払う必要があります。

しかし、懲戒解雇だと、解雇予告手当がもらえないデメリットがあります。
労働基準監督署に申請し、「解雇予告除外認定」が得られれば、解雇予告が不要となります。
そして、懲戒解雇こそ、この除外認定がされる典型例だからです。
したがって、懲戒解雇だと、(労働基準監督署の認定が得られれば)即日解雇され、解雇予告手当ももらえない大きな金銭的デメリットがあるわけです。
なお、解雇予告除外認定には、厳しい基準があります。
最終的には労働基準監督署の判断となり、認定が得られていないなら、解雇予告手当を請求できます。
解雇予告手当と即日解雇について、対応は次に解説しています。
懲戒解雇のデメリットをなくす方法

次に、懲戒解雇のデメリットをなくす方法について解説します。
ここまでお読みいただき、懲戒解雇には、労働者にとって多くのデメリットがあると理解できたでしょう。
懲戒解雇はデメリットの多い厳しい処分なので、労働者としてはできれば避けるのが一番。
しかし、労働者がどれほど努力しても、正当な理由なく懲戒解雇するブラック企業は後を絶ちません。
また、人は誰しもあやまちはつきもので、残念ながら横領やセクハラなどの問題行為を疑われ、懲戒解雇を回避するのが難しいシーンもあります。
懲戒解雇される前に退職勧奨に応じる
懲戒解雇のデメリットをなくすために、退職勧奨に応じて会社を辞める方法があります。
この方法なら「懲戒解雇される前に」退職でき、懲戒解雇のデメリットは受けずに済みます。
次章のとおり、懲戒解雇には、会社側もデメリットが少なからずあります。
会社側も「退職勧奨に応じて退職するなら、懲戒解雇までしたくない」という考えのことも。
退職勧奨の面談で、「自主的に退職してくれないなら、懲戒解雇とする」と言われる例があります。
会社のこんな発言は、脅しなのか真実なのか、よく吟味しなければなりません。
脅しに屈する必要はないものの、有効に懲戒解雇される可能性があるなら、退職するのも1つの手です。
退職届を出すタイミングを誤らないよう注意してください。
「退職届を出したのに解雇された」というケースもあるからです。
懲戒解雇を撤回させ、合意退職にしてもらう
懲戒解雇のデメリットをなくすには、「懲戒解雇された」という事実をなくすのが大切。
このとき、「会社を辞めることに争いはない」という方も多いでしょう。
懲戒解雇されたような会社で働き続けるのは、苦痛でしかありません。
こんなケースでは、懲戒解雇を撤回させ、合意退職にしてもらえば、デメリットをなくせます。
会社との交渉で、懲戒解雇を撤回してもらいやすくするには、「解雇に問題があり、不当解雇の可能性がある」ことについて、法律知識によって説得的に説明する必要があります。
交渉では懲戒解雇を撤回してもらえないなら、労働審判、裁判など法的手続きを利用します。
なお、解雇を撤回して合意退職するとき、必ず退職合意書を作っておいてください。
退職合意書のテンプレートは、例えば次の書式です。
退職合意書
- 乙(会社)は、甲(労働者)に対して20XX年XX月XX日付でした懲戒解雇を撤回する。
- 甲及び乙は、甲が乙を前項と同日付で合意により退職したことを相互に確認する。
- 甲及び乙は、本合意書に定めるほか、一切の債権債務関係のないことを相互に確認する。
以上
再就職時に懲戒解雇がバレないようにする
懲戒解雇そのものはしかたないケースも、再就職時の対応次第ではデメリットをなくせます。
転職先にバレなければ、懲戒解雇はあくまで1つの社内の出来事にすぎず、悪い影響はありません。
再就職時にバレないようにするため、履歴書の賞罰欄に、懲戒解雇について書く必要はありません。
「賞罰」の「罰」は、刑罰を指し、懲戒解雇の事実は、書くべき内容ではないからです。
履歴書の賞罰について、次に解説しています。
最もバレやすいタイミングが採用面接です。
退職理由は、転職先にとって大きな関心事で、聞かれることが多いでしょう。
採用面接で、前職の退職理由を聞かれたとき、懲戒解雇がバレないよう回答を準備してください。
このとき、離職票の記載と、矛盾しないように説明する必要があります。
失業保険における「自己都合」、「会社都合」の違いと内容を、事前に理解しなければなりません。
離職票における記載の違いについて、次に解説しています。
弁護士に相談する
懲戒解雇について、多くのデメリットを解説しました。
そのため、懲戒解雇になる前後では、多くの労働トラブルが発生すると予想されます。
労働者としても、懲戒解雇になってしまえば、デメリットを消すために戦うしかありません。
自分のした問題行為が理由で懲戒解雇され、あきらめている方もいるでしょう。
後ろめたい気持ちや負い目があれど、「懲戒解雇のデメリットは重すぎる」という例も多いもの。
このとき、「懲戒解雇の理由はあるが、相当な処分ではない」と反論して争えます。
「懲戒解雇されるほどの問題ではなかった」なら、弁護士に相談するのがお勧めです。
懲戒解雇のデメリットと比較し、自分のした問題行為、企業秩序違反の責任がどれほどか、判断がつかないなら、専門家のアドバイスが役立ちます。
懲戒解雇され、違法なのではないか疑問なら、弁護士への相談が有効。
労働トラブルを任せるなら、労働問題に強い弁護士を選ぶようにしてください。

懲戒解雇は会社側にもデメリットがある

なお、今回の解説は、懲戒解雇が、「労働者側」に与えるデメリットと影響、その対応策について。
しかし、懲戒解雇することには、「会社側」にとってもデメリットがあります。
懲戒解雇は、会社が労働者にする処分のなかで最も厳しいものです。
そのため、労働審判や訴訟で、労働者から争われた場合に、会社が負ける可能性は高いといえます。
つまり、懲戒解雇は、他の解雇に比べて、無効となるリスクが高いといえるのです。
安易に懲戒解雇をしてしまい、裁判所で無効と判断されると、会社には次のデメリットがあります。
このような懲戒解雇の会社側のデメリットを理解するのは、労働者にとっても有効です。
会社側のデメリットの内容、その大きさを知れば、交渉のカードとして利用でき、懲戒解雇についての労働問題を有利に進めることができるからです。
労働問題を解決するには多くの方法があります。
解決方法について詳しくは、次に解説します。

まとめ

今回は、会社から突然「懲戒解雇」といわれ、デメリットの大きさに不安な方に向けて、懲戒解雇のデメリットと、それを減らすための対応策を解説しました。
懲戒解雇のデメリットは、非常に大きいといわざるをえません。
だからこそ、厳しく制限されており、不当解雇となる可能性が高いのです。
懲戒解雇のデメリットに不安な気持ちを逆手にとり、「退職届を出さないなら懲戒解雇する」と脅す会社もありますが、すべてのデメリットを知り、冷静な判断を要します。
懲戒解雇されるのではないかと不安なら、ぜひ早めに弁護士に相談ください。
- 懲戒解雇は、解雇のなかでも特に厳しい処分で、労働者のデメリットが大きい
- 懲戒解雇のデメリットは、給料・退職金・解雇予告手当など金銭面だけでなく、転職にも影響する
- 懲戒解雇のデメリットをなくすため、撤回してもらい合意退職する
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