MENU
浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

→労働問題弁護士ガイドとは
★ 労働問題を弁護士に相談する流れは?

懲戒解雇を「不当解雇」であると争うときの全ポイントまとめ

会社が、労働者にする処分のなかで、もっとも厳しい制裁が「懲戒解雇」。
懲戒解雇は、企業秩序違反へのペナルティですが、労働者の不利益は計り知れません。

労使の関係は「結婚する夫婦」に例えられることがあります。
すると、解雇は「離婚」ですが、なかでも厳しい懲戒解雇は「死刑(極刑)」にも例えられます。
それほど厳しいのが、懲戒解雇というわけです。

懲戒解雇だと、会社にいられないのは当然ですが、それ以上の不利益があります。
退職金は不支給となるのが通常ですし、転職・再就職にも大きな影響を及ぼします。

懲戒解雇の厳しさを考えると、不幸にも犠牲になったら、撤回を求めて争うのが通例です。
軽度の処分なら争いをあきらめる方もいます。
しかし、懲戒解雇されても争わず、あきらめてしまえば将来後悔するでしょう。

今回は、懲戒解雇をされ「不当解雇」だと争うケースのポイントを、労働問題に強い弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

\相談ご予約受付中です/

労働問題に関する相談は、弁護士が詳しくお聞きします。
ご相談の予約は、お気軽にお問い合わせください。

懲戒解雇とは

懲戒解雇とは、会社のなかでされる処分のなかで、最も重いもの。

まず、労働者が会社を辞める方法には、次の3種類があります。

  • 自主退職(辞職)
    労働者の判断によって、労働契約を解約すること
  • 解雇
    会社の一方的な処分によって、労働契約を解約すること
  • 合意退職
    労使の合意によって、労働契約を終了させること

(参考:解雇とは?

そして、会社が一方的に労働契約を解約する「解雇」のなかにも、さまざまな種類があります。

  • 普通解雇
    労働者の契約違反など、信頼関係の破壊を理由とする解雇
  • 整理解雇
    業績悪化や倒産など、会社側の理由による解雇
  • 懲戒解雇
    企業秩序違反という労働者の非を理由とする解雇

懲戒解雇は、企業秩序違反という労働者の責任を理由とする点で、一番強い制裁として機能します。

いずれにせよ、解雇されたらすぐ弁護士に相談するのが有益です。

懲戒解雇と、その他の解雇の違いは?

懲戒解雇をよく理解するには、その他の解雇との違いを知るのが有効です。
懲戒解雇以外の解雇、処分と、懲戒解雇との違いについて、まず解説します。

懲戒解雇と普通解雇の違い

「懲戒解雇」と「普通解雇」の違いは、ズバリ「解雇理由の違い」にあります。

懲戒解雇と普通解雇では、同じ「解雇」でも性質が大きく異なります。
懲戒解雇は、会社の秩序に違反したことに対しての「制裁(ペナルティ)」。
一方で、普通解雇は、能力不足や態度が悪いことなど、雇用契約に対する違反を意味します。

労働者に問題があるという理由なら、懲戒解雇、普通解雇のどちらにもなりえます。
ただ、懲戒解雇のほうが、問題行為1つに着目した厳しい処分。
また、正当な理由がなければ「不当解雇」として許されないのは、いずれの解雇でも同じです。
(ただし、その厳しさからして、懲戒解雇のほうが不当解雇になりやすいとされます。)

普通解雇と懲戒解雇の違いは、次に詳しく解説しています。

懲戒解雇と諭旨解雇の違い

「懲戒解雇」と似た処分に、「諭旨解雇」があります。
懲戒解雇も諭旨解雇も、労働者に対しての「制裁(ペナルティ)」の意味を持つ点は共通しています。

就業規則において懲戒処分を定めている会社の多くは、懲戒解雇、諭旨解雇のいずれをも定めています。
ただし、諭旨解雇はあくまで「自主退職するよううながし、拒否した場合に解雇する」と定めるのが通例。

つまり、諭旨解雇のほうが、懲戒解雇よりも軽い処分であると位置付けられています。

懲戒解雇と整理解雇の違い

「懲戒解雇」が企業秩序違反へのペナルティ(制裁)なのに対し、「整理解雇」は労働者に非はありません。
整理解雇は、解雇のなかでも、会社側の事情を解雇理由とする解雇だからです。

典型的には、業績が悪化したことを理由とするのが、整理解雇によくあるケース。
このような場合、一般に「リストラ」と呼ぶこともあります。

労働者に非がないために、整理解雇の4要件を満たさなければ「不当解雇」として無効です。

懲戒解雇と懲戒免職の違い

「懲戒免職」とは、公務員に対する「懲戒解雇」と類似の処分のことです。
したがって、対象者が公務員であることを除いては、その性質は懲戒解雇と変わりません。

つまり、公務員に対する「懲戒解雇」相当の処分を、「懲戒免職」と呼ぶのです。
懲戒免職もまた、懲戒解雇と同じく、組織の秩序を乱したのを理由にされる処分。
公務員だと、解雇は「行政処分」を意味するので、労働問題の争い方に特殊性があり、注意を要します。

懲戒解雇は、弁護士に相談できる労働問題。

労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説しています。

懲戒解雇の手続き

次に、懲戒解雇するときの手続きについて解説します。

懲戒解雇は、最も重くて厳しい処分なので、その手続きについてもかなり厳しく見られます。
プロセスが正しくなければ、不当解雇として無効になる可能性があるのです。

言い換えると、ルーズな手続きしかしない会社による懲戒解雇は、不当解雇として争うべきです。
そのためには、踏むべき手続きとはどのようなものかを知る必要があります。

懲戒解雇の手続きについて、もっと詳しい解説は次のとおり。

懲戒解雇は「いきなり」いわれる?

懲戒解雇は、心の準備ができている方にすら、とても辛い処分です。
まして、いきなり懲戒解雇といわれれば、動揺が大きすぎるでしょう。
しかし、いきなり懲戒解雇されるケースは「不当解雇」として違法、無効な可能性があります。

最終的には懲戒解雇となるにせよ、以前から注意されたり、指導されたりといったプロセスを踏んでいなければ、いきなり懲戒解雇にするのは許されないケースが多いからです。
重大な犯罪を起こしたなどの例外を除き、懲戒解雇前のプロセスが必要で、前振りは必ずあります。

懲戒委員会とは

懲戒解雇となる場合に、「懲戒委員会を開催する」と定める会社もあります。
「懲戒委員会」「懲罰委員会」など、名称はさまざまです。

懲戒委員会などの組織があるかは、就業規則(または付随する懲罰規程など)に記載されます。
勤務する会社における、懲戒解雇までのプロセスを確認しておきましょう。

開催を要する懲戒委員会などを飛ばしてしまうと、労働者の弁明を聞く機会が不足してしまいます。
このとき、懲戒解雇が「不当解雇」となる可能性がますます高まります。

懲戒解雇の理由を、就業規則で確認する

懲戒解雇となる理由は、就業規則にすべて書いてあります。
逆にいうと、就業規則に書いていない理由で、懲戒解雇にすることは許されていません。
これは「懲戒権」が法律で与えられるものではなく、労働契約で与えられるものだからです。

そして、就業規則に書いていない理由で懲戒解雇にすると、労働者にとって「不意打ち」。
それだけでも不当解雇となります。

懲戒解雇となったら、解雇理由を確認し、その理由が就業規則にあてはまる内容か確認してください。

懲戒解雇では、解雇理由証明書はもらえる?

解雇トラブルを争うときに、最重要の書類が、解雇理由証明書です。
懲戒解雇でも、その重要性は変わりありません。

会社から懲戒解雇といわれてしまったら、真っ先に解雇理由証明書を入手しましょう。
会社が自発的に出してくれないなら、労働者から強く求めなければなりません。

解雇理由証明書の入手について、より詳しい解説は次のとおり。

懲戒解雇では、解雇予告手当はもらえる?

会社が労働者を解雇する場合には、労働者に非常に大きなダメージを与えるため、事前に予告をするか、予告期間と同じだけの手当てを支払わなければならないとされています。

労働基準法20条に、解雇予告手当ないし解雇予告期間の定めがあります。
これによれば、原則として30日以上の解雇予告期間を置くか、不足する日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当を払う必要があります。

解雇予告のルール

懲戒解雇の場合には、会社にとって再発の危険があり、即日解雇にされてしまうケースもあります。
即日解雇の場合、上記のルールからすれば、30日分の解雇予告手当を要します。
ただし、労働基準監督署の除外認定を得た場合には、例外的に、手当は不要となります。

解雇予告のルールは、次の解説を参考にしてください。

懲戒解雇かどうか、確認する方法

懲戒解雇となった場合には、そのデメリット、労働者の受けるダメージは、非常に大きなもの。
一方、懲戒解雇は、そんな厳しい処分だからこそ、違法な「不当解雇」として無効になりやすいのです。

「懲戒解雇が無効になりやすい」という性質を知っているブラック企業は、それを隠してきます。
悪質な会社ほど、懲戒解雇を悪用し、争われないように工夫するのです。

例えば、一旦は懲戒解雇といいながら、トラブルになった後には「合意退職であった」「労働者の同意を得ていた」「労働者から文句が出てこなかったから辞めてもらった」などと反論されるケースです。

このような反論を受けないためにも、「懲戒解雇なのかどうか」の確認が必要。
後から「前言撤回」されてしまわないため、懲戒解雇と感じたらすぐに確認すべきことです。
即座の対応については、次のように進めてください。

  • 辞めさせられそうに感じたら、すぐに懲戒解雇への不服を申し立てる
  • 「懲戒解雇にする」と言われたら、すぐに解雇理由証明書を求める
  • 解雇理由証明書に「懲戒解雇」と明記させ、解雇理由を具体的に聞く
  • 「懲戒解雇」か「普通解雇」か不明なら、会社に確認する
  • 会社が書面で証拠化しないなら、ボイスレコーダーで面談を録音する

不当解雇だと主張して、解雇を争うなら、懲戒解雇か、普通解雇などその他の解雇かはとても重要。
懲戒解雇のほうが、無効にできる可能性が高いからです。

会社がそのリスクを知り、極力証拠に残さぬよう進めるとき、録音は欠かせません。

パワハラについての秘密録音の方法を参考にしてください。

懲戒解雇のデメリット

懲戒解雇が、会社のする処分のなかで最も許しがたいのは、労働者へのデメリットが大きいからです。

懲戒解雇されれば、労働者はさまざまな不利益を受けます。
安易に不当解雇を進めてくるような会社を、許してはなりません。

懲戒解雇のデメリットについて、より詳しい解説は次のとおり。

懲戒解雇だと、有給が消化できない?

懲戒解雇の場合、すでに解説のとおり、一定の要件を満たせば、解雇予告が不要となります。
つまり、懲戒解雇だと、即日解雇を言い渡されてしまうケースがあるのです。

すると、突然に懲戒解雇となると、せっかく残っていた有給休暇を消化できなくなります。
退職前の有給消化はできないですし、このとき、有給休暇を買い取ってもらえるかどうかも会社の判断。
懲戒解雇するほど労使の信頼が壊れていると、有給休暇の買い取りも拒否されるおそれがあります。

退職前の有給休暇と、買い取りについて次に解説しています。

懲戒解雇だと、退職金が受け取れない?

懲戒解雇をされてしまうと、退職金が不支給、もしくは、一部減額されるということがよくあります。
就業規則や退職金規程に、「懲戒解雇なら退職金は払わない」というルールを定める会社が多いからです。

しかし、懲戒解雇となった場合でも、退職金が必ず受け取れないわけではありません。
退職金には、これまでの功労に対する報奨という意味があり、功労をすべて抹消してしまうほどの背信行為でなければ、たとえ懲戒解雇でも、少なくとも一部は払うべきとした裁判例があるからです。

懲戒解雇と退職金の問題は、次に解説しています。

懲戒解雇は、再就職・転職に不利

懲戒解雇をされてしまうと、非常に問題のある人物であるというレッテルが貼られてしまいます。
懲戒解雇となると、現在の仕事だけでなく、再就職や転職でも、不利にはたらくのは明らかです。

だからこそ、納得いかなければ懲戒解雇を争うのが原則なのです。
「どうせ辞める会社だから」とあきらめてはいけません。
労働者の将来のためにも、「不当解雇」ならば撤回を強く求めなければなりません。

懲戒解雇されると、損害賠償請求される?

懲戒解雇をされるということは、労働者の側にそれだけの大きな非があったということでしょう。
このとき、懲戒解雇とあわせて、会社が労働者に、損害賠償請求するケースは少なくありません。

しかし、労働者側からすれば、たとえ大きなミスをして懲戒解雇となっても、それによって会社が負った損失のすべてを払うのは、あまりに責任が重すぎると感じるのではないでしょうか。
裁判例でも、利益を会社が受け取っている以上、労働者の責任は限定的だと判断されています。
ケースによりますが、仮に大きな責任が認められても、賠償額は2,3割に留まる例が多いです。

たとえ懲戒解雇され「不当解雇」でなくても、損害賠償請求については否定して争うこともできます。

会社に損害賠償しろと脅されたら、次の対応を参考にしてください。

懲戒解雇はバレる?

「懲戒解雇されたことはバレてしまうのか」という点は気になるでしょう。
懲戒解雇となった事実を隠し通せるのか、それとも簡単にバレてしまうのかを解説します。
本解説を参考に、できるだけバレないよう努力をするのが、労働者として大切です。

懲戒解雇が重大で、労働者のデメリットが大きいなら、なんとしても隠したいでしょう。
転職や再就職の際には特に、懲戒解雇になったのを隠さなければならないのは当然です。

懲戒解雇がバレて不利にならない対策は、次に解説しています。

離職票から「懲戒解雇」がバレるか

離職票には、会社都合の退職か、自己都合の退職かが、記載されます。
離職票は、失業保険をもらうための大切な資料ですから、懲戒解雇といえど、必ず入手すべきです。

しかし、解雇されたとき、離職票を見ればそのことが明らかになるため、書き方に注意を要します。

離職票を作る流れでは、労働者も関与することができます。
会社の記載した離職票を確認し、そこに書かれた退職理由について同意・不同意を示せるからです。
そのため、離職票に書かれた退職理由に異議があるなら、そのことを記載して争えます。

「解雇されたのに、離職票は自主退職になっていた」という相談例もよくあります。

離職票を受けとる流れについて、次に解説しています。

履歴書に「懲戒解雇」と書かなければいけないか

履歴書の多くは、「賞罰」という欄があります。
懲戒解雇をされた場合は、懲戒歴を書くような書式もあります。

しかし、履歴書に「懲戒解雇」と正直に記載すれば、転職先にバレ、雇ってはもらえません。

履歴書に嘘を書き、懲戒解雇の事実を隠そうとする方もいます。
しかし、入社後に発覚した場合には、「経歴詐称」として新たな解雇理由となるおそれがあります。

履歴書の賞罰について、次に解説しています。

転職、再就職の面接で「懲戒解雇」がバレるか

転職、再就職の面接のときには、「前職の退職理由」について、質問をされるケースもあります。
このときも、正直に「懲戒解雇となったから退職した」と回答すれば、問題ある労働者だというレッテルを貼られ、就職はできないかもしれません。

しかし、採用面接で嘘をついて、懲戒解雇となったことを隠そうとしても、嘘をついたことが新たな解雇理由となり、結果として次の仕事をも失いかねません。

ネット上の情報で「懲戒解雇」がバレるか

ネット上に個人情報が書き込まれることなどが、最近社会問題化しています。
「懲戒解雇」となった事実も、ネット上の情報でバレてしまうのでしょうか。
検索すると、懲戒解雇となっていると知られてしまうでしょうか。

懲戒解雇の特殊性からして、とても重要な個人情報なのは明らかです。
ネット上に第三者が勝手に書き込めば、名誉毀損となる可能性が高く、通常はそのようなことは起こりません。

公務員の懲戒免職だと、サイトに公表されるケースもあるので注意を要します。

退職後でも、会社の悪口を書くと、責任追及されるリスクあり。

懲戒解雇になってもできること

冒頭では、「懲戒解雇は死刑に等しい」と説明しました。
あまりのデメリットの多さに、懲戒解雇に絶望的なイメージを抱く労働者は多いです。

しかし、死刑は手の施しようもないですが、懲戒解雇なら、まだ未来があります。
ここでは、懲戒解雇になってもできる多くのことについて解説します。

懲戒解雇でも給料はもらえる

懲戒解雇にされてしまうのは、労働者の業務に、大きな問題があったからでしょう。
完全なる不当解雇ならもちろんですが、多少の非があったとしても、給料がもらえるのは当然です。
「質」に問題があれど、働いた「時間」分のお金はもらうべきだからです。

しかし、ブラック企業が懲戒解雇にするシーンでは、次のような反論がされることも。

社長

労働者に問題があるから、給料や残業代は一切払わない

社長

ミスで被った損害は、給料から天引きして相殺しておく

たとえ懲戒解雇が有効でも、働いた分の給料を払うのは当然の義務です。
決められた時間を超えて働けば、残業代が出るのも当たり前です。

「自分のしたミスの尻拭いは、無償で働け」という考えは誤りであり、違法なのが明らかです。

給料に未払いがあるとき、次の請求方法を参考にしてください。

懲戒解雇と脅されても依願退職できる

懲戒解雇となる前後では、「懲戒解雇されるくらいなら、自分から辞めたい」と思う労働者が多いです。
しかし、実際に懲戒解雇となってしまった後では、自主退職はできません。
解雇になった時点で、すでに労働者としての地位は失われているからです。

これに対し、「懲戒解雇にする」と脅されている段階なら、まだ依願退職できます。
すぐさま退職届を出すなど、退職の意思表示をしておくべきです。

退職届の受領を拒否されても、民法627条のルールにより2週間を経過すれば会社を退職できます。

退職届の書き方、出し方は、次の解説をご覧ください。

懲戒解雇が「不当解雇」であるときの対応策

次に、不当解雇されてしまったときの対応策について解説します。

懲戒解雇されたとしても、それが「不当解雇」ならば、会社と争うべきです。
正当な理由なき「不当解雇」ならば、違法であり、無効となるからです。

懲戒解雇は、会社の下す処分でも最も重いもので、労働者の将来に大きな影響を与えます。
そのことを考えれば、「懲戒解雇されれば、争うのが基本だ」とすらいえます。

どのような懲戒解雇が無効になる?

懲戒解雇でも、他の解雇と同じく、解雇権濫用法理が適用されます。
そのため、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上の相当性がなければ、違法な「不当解雇」として無効です(労働気英訳法16条)。

解雇権濫用法理とは

懲戒解雇が非常に厳しい処分なので、このルールは、他の解雇にも増して厳しく適用されます。
懲戒解雇の有効性を判断する際、他の解雇より厳しいのは、次の点にあります。

  • 「理由」について
    就業規則にあらかじめ記載された理由にあてはまる必要がある
  • 「相当性」について
    懲戒解雇の重さに見合うだけの重大な事情が必要となる

以上のとおり、懲戒解雇は、法的には非常に厳しく審査されます。
ブラック企業が安易に懲戒解雇すれば、「不当解雇」となる可能性が高いといえるのです。

懲戒解雇が「不当解雇」となる基準・相場

懲戒解雇の基準(ハードル)はとても高いもの。
このことを理解の上で、次に、懲戒解雇の基準や相場について解説します。
とはいえ、「この程度を超える問題行為なら、懲戒解雇が有効」といった決まった相場はありません。

懲戒解雇が「不当解雇」かどうかを判断で、考慮すべき事情は次のようなもの。

  • 会社の規模
  • 業種、業態、業界
  • 労働者の地位・役職
  • 労働者の職種
  • 労働者の担当する業務内容
  • 起こした企業秩序違反の程度
  • 会社に及ぼす損害の程度

総合的な判断によって、最終的には裁判所が決定します。
そのため、実際の事例に即した判断をしたいなら、懲戒解雇を争った裁判例を知る必要があります。

会社が過去に、どのような問題行為に対して懲戒解雇にしたか、過去の処分例も調べておきましょう。
というのも、会社内の基準は公平でなければならず、同程度の行為には、同じ処罰をすべきだからです。

懲戒解雇を撤回させ、復職するには?

残念ながら懲戒解雇となってしまった場合、まずは、その撤回を交渉します。

とはいえ、懲戒解雇にした会社が、話し合いで円満に撤回してくれることは、あまり期待できません。
そのため、懲戒解雇の撤回は、交渉が決裂すると予想され、裁判手続きの準備も必要です。

まずは内容証明を送付して警告し、その後、労働審判、訴訟といった裁判所の手続きを活用します。

解雇を撤回させる方法は、次に解説しています。

懲戒解雇を争うための手続

不当解雇を争う場合の流れ
不当解雇を争う場合の流れ

懲戒解雇を撤回するよう交渉しても、会社が聞き入れないとき、さらに対立が深まります。
交渉が平行線になると、裁判で戦う方法となります。

不当解雇を争うための裁判手続きは、大きくわけて「労働審判」と「訴訟」の2つがあります。
簡単に言うと、労働審判の方が、簡単な手続きで、時間的にも短期間で終わります。

どちらの手続きで争うのが適切であるかはケースバイケースの判断を要します。
専門知識をもった弁護士に、事案ごとにアドバイスをもらうのがよいでしょう。

労働問題の解決方法は、次の解説をご覧ください。

懲戒解雇を争うとき必要な証拠

懲戒解雇を裁判手続によって争う場合、裁判では、証拠が非常に重要です。
「労働審判」であれ「訴訟」であれ、裁判の審理では、証拠のない事実は、なかったものとされるからです。

不当解雇の争いでは、「解雇をしたこと」の証明ができない場合には、下手をすると「合意退職だった」「解雇に同意していた」など、ブラック企業の理不尽な反論を許すこととなってしまいます。

不当解雇の証拠」の解説

懲戒解雇トラブルを金銭解決するには?

懲戒解雇となると、「不当解雇」として争うにせよ「もはや復職は望まない」という方もいます。

懲戒解雇の理由がまったくなく、または、それほどの問題行為ではないにしても、一旦は懲戒解雇となってしまったということは「問題社員」「不要な社員」と思われているということ。
戻るのは、なかなか心理的負担が大きいでしょう。

無理をすれば、うつ病、適応障害など精神疾患にかかる危険もあります。

このようなケースで、不当解雇トラブルを金銭解決する方法がとられます。
「懲戒解雇を撤回して合意退職とする変わりに、解決金をもらう」という解決策です。
労働審判では、話し合いの末に、このような方法が特によく選ばれます。

不当解雇の解決金の相場
不当解雇の解決金の相場

解雇の金銭解決について、次に解説します。

懲戒解雇が違法なら慰謝料がもらえる

懲戒解雇を争った結果、「不当解雇」と認める判決が出たら、慰謝料がもらえる可能性もあります。

「不当解雇」となるような違法な懲戒解雇は、不法行為(民法709条)に該当するからです。
精神的苦痛を受けた分について、被害回復を求められます。

ただし、解雇トラブルで慰謝料がもらえるためには、相当の違法性が必要となります。
解雇について無効となり、会社に戻って給料がもらえるなら、それ以上の精神的苦痛については認められづらいのが裁判の基本とされているからです。

「懲戒解雇するぞ!」と脅されて退職強要されたら?

会社が、労働者に「会社を辞めてほしい」といって退職を勧めるだけなら、違法ではありません。
このようなやり方を、法律用語で「退職勧奨」と呼びます。

しかし、退職勧奨が適法なのは、あくまで労働者の自由な意思を尊重しているから。
つまり、「退職をお勧めする」という程度に留まるかぎりにおいて適法なのです。

これを超えて、退職を強要する行為は、違法な「退職強要」です。
「退職勧奨」と「退職強要」の違いは、労働者が拒否する余地があるかどうか、という点です。

「懲戒解雇する」と脅して退職を迫れば、強要に等しいといえるでしょう。
懲戒解雇の大きなプレッシャーからして、労働者は事実上、拒否するのが困難になってしまうからです。

ブラック企業からの退職強要を受けている場合、屈してはなりません。
退職合意書を書けば、後から撤回して争うハードルは高くなります。

疑問を感じたら、出された書面にサインしてしまう前に、持ち帰って弁護士に相談ください。

違法な退職勧奨の対応について、次に解説します。

懲戒解雇で問題になりやすい解雇理由

懲戒解雇は、その処分の重さに相当するほどの、重大な理由が必要です。
次に、懲戒解雇となりやすい、よくある解雇理由を、例をあげて解説します。

普通解雇だと「能力不足」「無断欠勤」「勤務態度が悪い」「協調性がない」といった理由があがります。

しかし、この程度で懲戒解雇すると、違法な「不当解雇」として無効になる場合も十分にあります。

懲戒解雇と突然に言われれば、心配の大きいことでしょう。
「懲戒解雇か不当解雇かわからない」など、疑問があるなら、まず弁護士に相談ください。

飲酒運転・交通ルール違反

飲酒運転や交通ルール違反の場合、懲戒解雇になるケースが多くあります。
ただし、「交通ルール違反」と一言でいっても軽いものから重いものまでさまざまです。

したがって、交通ルール違反ならすべて懲戒解雇というわけではなく、あくまで重度のものに限られます。
なお、業務上、自動車の運転を要するドライバー、運転手などの職種は、厳しめに判断されます。

交通事故、交通違反による解雇と戦う方法は、次に解説します。

不倫・浮気

不倫・浮気はプライベートの問題で、懲戒解雇の理由とはならないのが原則。

とはいえ、私生活上の問題でも、業務に与える支障が大きいケースでは処分の対象です。
会社への迷惑の程度が大きいと、懲戒解雇となってしまう場合もあります。

特に、異性との接点、ふれあいの多い職場は、浮気、不倫、社内恋愛に厳しい傾向にあります。

社内不倫による解雇と戦う方法は、次に解説します。

横領・着服・不正受給

横領や着服、不正受給は、とても重く受け止められます。
社内ではもちろんのこと、業務上横領罪や背任罪など、犯罪として刑罰が科されることもあります。

そのため、会社のお金を横領してしまったケースは、懲戒解雇になりやすいです。
特に、経理、レジなど、会社のお金を日常的に扱う職業では、再発防止のため、懲戒解雇とされるのが原則です。

横領を理由とする解雇と戦う方法は、次に解説します。

犯罪による逮捕

犯罪行為を起こして逮捕されてしまうと、会社に居続けられないケースが多いです。

私生活で起こした犯罪でも、会社の名誉に大きな影響を与えれば、懲戒解雇となることがあります。
そして、犯罪を起こして逮捕されてしまう場合は、まさにこの懲戒解雇となる場合の典型例です。

逮捕を理由とした解雇と戦う方法は、次に解説します。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、懲戒解雇について争いとなる労働問題を、すべて解説しました。
懲戒解雇になったり、脅しとして「懲戒解雇にする」と伝えられると、冷静な判断はできないでしょう。
「不当解雇なのではないか?」と疑問のある方は、ぜひ本解説を参考にしてください。

懲戒解雇は、会社が労働者にする最も重大な処分なので、それに見合うほどの問題行為が必要。
自らの企業秩序違反が理由だと、後ろめたい気持ちでしょうが、裁判で勝訴できるケースも多いです。

「不当解雇は無効にしたい」「撤回させ、自主退職したい」と考えるなら、あきらめてはいけません。
懲戒解雇されたらすぐに、弁護士に相談ください。

目次(クリックで移動)