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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。
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懲戒解雇を「不当解雇」であると裁判で争うときの全ポイントまとめ

解説の執筆者

弁護士法人浅野総合法律事務所

代表弁護士

浅野英之

東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。

不当解雇、残業代、セクハラ、パワハラ、労災などの労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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会社が労働者に下す処分のうち、最も厳しい制裁が「懲戒解雇」です。

懲戒解雇は、企業秩序違反へのペナルティを意味しますが、労働者に与える不利益は計り知れません。労使の関係は「夫婦」に例えられることがあり、解雇は「離婚」と似ています。その中でも最も厳しい懲戒解雇は「死刑(極刑)」に例えられることもあるほどです。

懲戒解雇になると、会社にいられないのは当然ですが、それ以上の大きな不利益があります。退職金が不支給・減額となったり、転職や再就職の支障となったりすることもあります。

これらの不利益の大きさを考えれば、懲戒解雇とされたら争うのが基本だと考えるべきです。軽度の処分なら争わずに次の仕事に目を向ける方もいますが、懲戒解雇された場合には、争わずにあきらめると将来後悔が残るおそれがあります。

今回は、懲戒解雇を受け、不当解雇であるとして裁判で争うときのポイントについて、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 懲戒解雇は会社が労働者に下す最も重い制裁であり、様々な不利益がある
  • 懲戒解雇の場合、撤回交渉や証拠収集、裁判での争いが重要となる
  • 懲戒解雇が不当と判断されれば、復職や金銭解決といった対応策がある

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目次(クリックで移動)

懲戒解雇とは

懲戒解雇とは、企業秩序の違反に対する制裁として行われる解雇であり、会社が労働者に対して下す処分の中でも最も重いものです。

労働者が会社を辞める方法には、次の3種類があります。

  • 自主退職(辞職)
    労働者側から一方的に労働契約を解約すること
  • 合意退職
    労使双方の合意によって労働契約を終了させること
  • 解雇
    会社からの一方的な判断によって労働契約を解約すること

会社が一方的に労働契約を解約する「解雇」も、その理由によって様々な種類に分けられます。よく用いられるのは、次の3つです。

  • 普通解雇
    能力不足、勤務状況、傷病による就労困難など、雇用継続が困難となる事情を理由として行われる解雇
  • 整理解雇
    業績悪化や倒産など、会社側の理由による解雇
  • 懲戒解雇
    企業秩序違反という労働者の非を理由とする解雇

懲戒解雇は、企業秩序違反という労働者の責任を理由とする点で、「制裁」としての意味合いがあります。再就職の支障となるなど、普通解雇に比べて大きな不利益が生じるため、その有効性は法的にも厳しく判断されます。

「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

懲戒解雇が「不当解雇」となる基準

懲戒解雇は非常に厳しい処分なので、「不当解雇」となりやすい性質があります。

懲戒解雇には、懲戒権濫用を規制する労働契約法15条と、解雇権濫用を規制する同法16条が適用されます。その結果、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、不当解雇として違法・無効となります。具体的には、懲戒事由に該当する事実が存在しない場合や、事実があっても懲戒解雇という処分が重すぎる場合などは、無効となる可能性があります。

解雇権濫用法理とは

懲戒解雇が労働者に与える不利益が大きいため、裁判所でも特に厳しく審査されます。

「客観的に合理的な理由」について、就業規則に定められた懲戒解雇事由に該当する事情が必要であり、「社会通念上の相当性」についても、懲戒解雇という重大な処分に見合うだけの事情がなければなりません。明確なラインはないものの、懲戒解雇が「不当解雇」かどうかを判断する際、次のような事情が総合的に考慮されます。

  • 会社の規模
  • 業種、業態、業界
  • 労働者の地位・役職、職種
  • 労働者の担当する業務内容
  • 企業秩序違反の内容や程度
  • 会社に及ぼす損害の程度

総合的な判断により、最終的には裁判所が決定するため、自身の事例が不当解雇になるかどうかを知るには、懲戒解雇について争われた裁判例を理解しておくのが有益です。また、社内の基準は公平でなければならず、同程度の行為には同程度の処分が下されると考えられるため、勤務先における過去の処分例も参考にすることができます。

以上の通り、懲戒解雇は法的に厳しく制限され、「問題があったから」といった程度の安易な理由で懲戒解雇とされた場合、不当解雇となる可能性は高いと考えるべきです。

「解雇の意味と法的ルール」の解説

懲戒解雇が「不当解雇」であるときの対応策

次に、実際に懲戒解雇されてしまった場合の対応策について解説します。

解決方法を知れば、過度に恐れることはなくなります。「懲戒解雇が「不当解雇」となる基準」の通り、懲戒解雇は「不当解雇」として無効になる可能性が高く、違法の疑いがあるなら会社と争うべきです。懲戒解雇が労働者の将来に与える影響は非常に大きく、「解雇の中でも懲戒解雇とされれば、争うのが基本」と考えるべきです。

懲戒解雇の撤回を交渉する

懲戒解雇された場合、まずは会社と交渉し、撤回を求めましょう。

交渉で解決できるに越したことはありませんが、あえて懲戒解雇を選択した会社には「制裁を加えたい」という意図があることも多く、円満に撤回されることは期待できません。そのため、懲戒解雇後の交渉は決裂が大いに予想され、裁判手続きに進む覚悟が必要です。

「解雇を撤回させる方法」の解説

懲戒解雇を争うための証拠を集める

懲戒解雇を裁判手続きで争う場合、証拠が非常に重要となります。

労働審判であれ訴訟であれ、裁判所における審理は証拠に基づいて進み、証拠のない事実は認定されないおそれがあるからです。不当解雇の争いでは、「解雇されたこと」の証明ができない場合、会社から「労働者も同意していた」「合意退職であった」などと反論されかねません。

懲戒解雇を争う際は、必ず就業規則上の懲戒解雇事由を確認するとともに、解雇理由証明書を交付するよう会社に求めましょう。懲戒処分を行うには、懲戒の種類・事由をあらかじめ就業規則などに定め、労働者に周知していることが必要です。

「不当解雇の証拠」の解説

裁判手続きで争う

懲戒解雇を撤回するよう交渉しても、会社が聞き入れない場合もあります。

前述の通り、懲戒解雇を選択する時点で、会社としても労働者との紛争を覚悟していると考えられるため、交渉が平行線になった場合には裁判手続きに進む必要があります。

不当解雇を争う場合の流れ
不当解雇を争う場合の流れ

懲戒解雇を「不当解雇」として争う際、労働審判と訴訟の手続きが主に利用されます。

労働審判は簡易な手続きであり、迅速に解決できますが、懲戒解雇は労使の対立が深く、労働審判では最終解決に至らないことがあります。労働審判に対して労使のいずれかが異議を申し立てると自動的に訴訟に移行するため、異議が予想される場合、最初から訴訟を選択する事案もあります。

懲戒解雇を「不当解雇」として争うときの解決に要する期間も理解しておきましょう。労働審判の場合、申立てから解決までの期間の目安は3ヶ月〜4ヶ月程度となります。原則として3回以内の期日で審理が終了するため、迅速な解決を目指す場合によく選ばれます。一方、訴訟へ移行した場合、解決期間は長引く傾向にあります。第一審だけでも半年〜1年半の期間を要することが多く、さらに控訴されて争いを継続すれば2年以上の期間がかかることも珍しくありません。

懲戒解雇が「不当解雇」であると認められたなら、解雇が無効となる上に、慰謝料を請求できる可能性もあります。違法性の強い解雇が不法行為(民法709条)に該当すれば、精神的苦痛に対する慰謝料を請求できます。

「不当解雇の慰謝料の相場」の解説

金銭解決を求める

不当解雇の可能性があっても、懲戒解雇された会社に復職したくないという方もいます。

理由が全くなかったり、軽微な問題行為であったりしても、一旦懲戒解雇とされると、社内では「問題社員」として扱われがちです。戻るのも心理的な負担が大きいでしょう。このようなケースでは、解雇紛争を金銭で解決する方法が選択されることが多いです。

解雇の金銭解決とは、「解雇を撤回して合意退職とする代わりに、一定の解決金を受け取る」という解決策です。特に労働審判では話し合いが重視され、このような方法がよく選ばれます。

不当解雇の解決金の相場

「解雇の解決金の相場」の解説

懲戒解雇とその他の解雇の違い

懲戒解雇について理解するには、その他の解雇との違いを知ることが有効です。以下では、懲戒解雇と、それ以外の解雇との区別について解説します。

懲戒解雇と普通解雇の違い

懲戒解雇と普通解雇の違いは、解雇の理由にあります。

いずれも「解雇」という性質は共通しますが、懲戒解雇が企業秩序違反に対する制裁(ペナルティ)であるのに対し、普通解雇は能力不足や勤務態度の不良などの契約違反を理由とします。労働者に問題がある場合、懲戒解雇と普通解雇のいずれもあり得ますが、普通解雇が労働者自身の性質を総合評価したものであるのに対し、懲戒解雇は特定の問題行為に対する処分を意味します。

解雇権濫用法理が適用され、不当解雇が許されないのはいずれの解雇も共通ですが、懲戒解雇の方が厳しく審査され、不当解雇になりやすい傾向があります。

「普通解雇と懲戒解雇の違い」の解説

懲戒解雇と諭旨解雇の違い

諭旨解雇は、労働者に対する制裁(ペナルティ)の意味を持つ点で懲戒解雇に似ています。

就業規則で懲戒処分を定める会社では、懲戒解雇と諭旨解雇(諭旨退職)のいずれも定める例が多いです。ただし、諭旨解雇は「自主退職を促し、拒否した場合に懲戒解雇とする」という段階的な処分内容とされるのが通例で、懲戒解雇よりも軽い処分として位置づけられます。

「諭旨解雇」の解説

懲戒解雇と整理解雇の違い

懲戒解雇が労働者に対する制裁(ペナルティ)であるのに対し、整理解雇に労働者の責任はありません。整理解雇は、業績悪化などの会社側の事情を理由とした解雇だからです。経営状況が悪化し、倒産のおそれがある場合が典型例で、「リストラ」と呼ばれることもあります。労働者に非がないため、整理解雇の4要件(4要素)という厳しい基準が考慮されます。

「整理解雇が違法になる基準」の解説

懲戒解雇と懲戒免職の違い

懲戒免職とは、公務員に対する最も厳しい処分です。懲戒解雇と懲戒免職は、対象が民間企業の社員か公務員かという違いがあります。つまり、公務員に対する懲戒解雇に相当するのが、懲戒免職です。懲戒免職も、懲戒解雇と同じく組織の秩序を乱したことを理由としますが、「行政処分」の性質を有するため、争い方に特殊性があります(例:労働審判を利用できないなど)。

「懲戒免職」の解説

懲戒解雇かどうかを確認する方法

懲戒解雇かどうかを確認する方法についても理解しておきましょう。

懲戒解雇のデメリットは大きく、不当解雇として違法・無効になりやすく、そのことを理解する企業の中には「懲戒解雇であること」を隠そうとする場合があります。争いにならなければ、解雇が無効とされるリスクが軽減できるからです。口頭で「懲戒解雇」と伝えながら書面に残さず、トラブルになった後で「労働者の同意を得ていた」「合意退職であった」と反論するケースが典型です。

こうした事態に陥らないよう、「懲戒解雇かどうか」の確認が必要です。会社の「前言撤回」を許さないために、懲戒解雇されたと感じたらすぐに確認すべきことは、次の通りです。

  • 意に反して辞めさせられそうになったら速やかに異議を述べる。
  • 「懲戒解雇にする」と言われたら、解雇理由証明書を求める。
  • 解雇理由証明書に「懲戒解雇」であることを明記させ、懲戒解雇事由に該当する具体的な事情まで記載するよう求める。
  • 「懲戒解雇か普通解雇か」が不明なら、会社に具体的に質問する。
  • 書面による証拠化を拒否されたら、面談を録音する。

不当解雇であると主張して争う場合、懲戒解雇か、その他の解雇かは非常に重要な意味があります。前述の通り、懲戒解雇の方が厳しく審査され、不当解雇であると判断されやすいからです。そのリスクをよく理解する会社ほど極力記録が残らないように進めようとするため、労働者側でも、録音などの証拠収集を行うべきです。

「パワハラの録音」の解説

懲戒解雇されたときの労働者への影響

懲戒解雇を「不当解雇」として争うべき最大の理由は、その影響が甚大であるからです。労働者にとって様々な不利益があるので、安易に懲戒解雇とする会社を許してはなりません。

有給消化ができない可能性がある

懲戒解雇の場合、除外認定を受けることで解雇予告が不要となる可能性があります。

即日解雇を言い渡された時点で労働者の地位が失われるため、有給休暇の残日数があっても取得できなくなります。この場合、有給休暇を買い取るかどうかも会社の判断ですが、懲戒解雇されるほど労使の信頼関係が破壊された場面では、買取りを拒否されることも多いと考えるべきです。

「退職前の有給消化」の解説

退職金が不支給となるリスクがある

懲戒解雇をされると、退職金が不支給または減額となることがあります。

実際、就業規則や退職金規程に、「懲戒解雇事由に該当する場合、退職金を不支給または減額する」などと定める会社は多くあります。

しかし、懲戒解雇が有効でも、退職金が必ず受け取れないわけではありません。退職金にはこれまでの勤続の功労に対する報奨という意味があり、功労を全て抹消するほどの背信行為でなければ、たとえ懲戒解雇でも一部は支払うべきとした裁判例も存在します。

「懲戒解雇でも退職金不支給が違法となるケース」の解説

再就職・転職で不利になる

懲戒解雇をされた事実は、再就職や転職で不利になる可能性があります。「問題社員」のレッテルが貼られ、偏見の目でみられるなど、懲戒解雇された後の転職はハードルが高くなるからです。将来の足かせとなる点こそ、納得のいかない懲戒解雇を争う大きな理由となります。「どうせ辞める会社だから」とあきらめず、撤回を強く求めるべきです。

「懲戒解雇のその後の人生」の解説

損害賠償請求されることがある

懲戒解雇に値する非が労働者側にある場合、損害賠償を請求されることもあります。

労働者の行為により会社に損害が生じているなら、賠償に応じざるを得ない場合もあります。しかし、会社の請求額が過大であることも多く、損害が生じたのが事実だとしてもその全てが労働者の責任とは言い切れません(会社にも監督して損害を防止する責任があります)。実際の裁判例でも、会社が利益を得ている以上、労働者に損失を全て負わせるのは酷であるとして、生じた損害の2割〜3割程度の支払いにとどめるべきと判断された事案が多いです。

したがって、たとえ懲戒解雇が有効であっても、損害賠償請求については別途争うことが可能です。

「会社から損害賠償請求された時の対応」の解説

懲戒解雇はどこからバレるのか

「懲戒解雇されたときの労働者への影響」の大きさを考えると、「懲戒解雇された事実がバレるのか」も気になるところでしょう。実際、懲戒解雇はあくまで社内の処分であり、第三者に知られることは多くないですが、どこから発覚するかを理解すれば、対策を講じることができます。

離職票

離職票は、失業保険を受けるための大切な書類です。

この書類には、会社都合退職か自己都合退職かといった離職理由が記載されます。離職票の「重責解雇」の欄にチェックがあると、懲戒解雇をされたことが明らかになってしまいます。ただし、離職票は通常、転職先などの第三者に見せることは予定されていません。また、離職票の交付前に退職者に確認する必要があるため、会社の記載した事項に問題がある場合は「異議有り」という欄にチェックを入れて争うことが可能です。

「離職票のもらい方」の解説

履歴書・職務経歴書

履歴書や職務経歴書に、懲戒解雇をはじめとした懲戒歴を記載する必要はありません。

賞罰欄のある履歴書もありますが、ここで言う「罰」とは刑事罰を指すと考えられており、懲戒解雇は含まれません。ただし、虚偽の記載をすると、入社後に発覚した場合に「経歴詐称」として新たな解雇理由となるおそれがあるので、嘘のないようにしておきましょう。

「履歴書の賞罰」の解説

転職・再就職の面接

転職、再就職の面接において、前職の退職理由を聞かれることがあります。

正直に「懲戒解雇されたため」とだけ回答すると、発覚する上に、「問題社員」のレッテルを貼られ、就職は困難でしょう。前章の通り、嘘をついて隠すのはおすすめしませんが、聞かれない場合まで、あえて積極的に告知する必要はありません。

どうしても伝えざるを得ないときは「懲戒解雇されたが、不当解雇と考えている」「現在、弁護士に依頼して争うことを検討中である」などと説明すれば不利益が少ないです。

「懲戒解雇されたら転職でバレる?」の解説

インターネット上の情報

インターネット上の書き込みなどから、懲戒解雇となった事実がバレることがあります。

ニュースで報道されるような大きな不祥事を起こした場合が典型例で、氏名で検索して当時の記事を見ることができれば、転職先にもバレてしまいます。公務員の懲戒免職については、国や自治体のサイト上に公表されることもあります。

なお、インターネット上に個人情報を書き込むことは、名誉毀損などの問題になるおそれがあるため、弁護士に依頼して削除請求を行うことも検討してください。

「名誉毀損を理由とした解雇」の解説

「懲戒解雇するぞ!」と脅されて退職強要された時の対応

労働者に「会社を辞めてほしい」などと退職を勧めるのは違法ではありません。

しかし、退職勧奨が適法なのは、あくまで労働者の自由な意思を尊重している場合に限られます。したがって、「自主的な退職を促す」という程度を超えて、退職を強要する行為は違法です。退職勧奨と退職強要の違いは、労働者に拒否する余地があるかどうかが基準となります。

懲戒解雇が労働者に与える不利益が非常に大きいことを考えれば、「拒否すれば懲戒解雇する」という脅しは非常に強く、退職を強要しているに等しいと考えることができます。労働者としても、事実上、拒否することは困難になってしまうでしょう。

本解説の通り、たとえ懲戒解雇されても「不当解雇」として争う余地は十分にあるため、「懲戒解雇する」という脅しに屈してはなりません。退職届を出したり、退職合意書にサインしたりした後では、撤回を求めて争うハードルは高くなってしまいます。少しでも違和感や疑問を感じたら、署名せず、持ち帰って弁護士に相談してください。

「退職強要の対処法」の解説

懲戒解雇で問題になりやすい解雇理由

次に、懲戒解雇となりやすい解雇理由について、具体例で解説します。

懲戒解雇は、処分の重さに相当する重大な理由が必要です。普通解雇は、能力不足や勤怠不良、協調性の欠如などが理由とされますが、この程度では懲戒解雇は違法となる可能性があります。

飲酒運転・交通ルール違反

飲酒運転や交通ルール違反の場合、懲戒解雇になるケースが多くあります。ただし、「交通ルール違反」にも軽度から重度まであり、懲戒解雇となるのは重度のものです。例えば、飲酒運転や死亡事故などは、懲戒解雇の可能性があります。特に、車両の運転が業務上必要となる運転手などの職種では、厳しく判断される傾向にあります。

「交通事故を理由とする解雇」の解説

重度のハラスメント(セクハラ・パワハラなど)

セクハラやパワハラなどのハラスメントも、重度のものは懲戒解雇となるケースがあります。例えば、性交渉や性的行為を伴う重度のセクハラや、度重なるパワハラにより被害者がうつ病や適応障害などの精神疾患を発症してしまったケースなどは、懲戒解雇が有効とされる余地があります。特に、社内での役職や地位が高いほど、厳しく判断されます。

横領・着服・不正受給

横領や着服、不正受給は、非常に重く受け止められます。会社の利益を損なうのは当然ですが、業務上横領罪や詐欺罪、背任罪などの犯罪として、刑事罰の対象になり得ます。したがって、これらの行為に該当する場合、懲戒解雇になりやすいです。特に、経理担当者など、日常的に会社の金銭に触れる職種では、再発防止のために厳しく処分されます。

「横領を理由とする懲戒解雇」の解説

犯罪による逮捕

犯罪を犯して逮捕されると、身柄拘束によって働くことができなくなります。前述のような業務上の犯罪だけでなく、私生活で起こしたものでも、企業の信用に影響する場合には懲戒解雇となるおそれがあります。例えば、逮捕されて企業名が報道された場合などが典型例です。

「逮捕を理由とした解雇」の解説

不当解雇とされやすい懲戒解雇の具体例

会社が「懲戒解雇」として処分しても、当然に有効になるわけではありません。

前述の通り、懲戒解雇は労働者に対する最も重い制裁であり、就業規則上の懲戒解雇事由に該当するだけでなく、行為の内容や程度に照らして処分が重すぎないかも厳しく判断されます。

不当解雇となる典型例が、能力不足や成績不良だけを理由とする懲戒解雇です。営業成績が悪い、仕事の習得が遅い、期待された成果が出ていないといった事情は、企業秩序違反とは性質が異なり、直ちに懲戒解雇の理由になるわけではありません。

能力不足を理由に雇用を終了させる場合、通常は普通解雇が検討されます。その場合でも、会社が十分な注意や指導、教育を行い、改善の機会を与えたか、配置転換などによる雇用の継続を検討したかといった事情が考慮されます。まして、多少のミスや成績不良だけで、十分な改善機会も与えず突然懲戒解雇した場合、不当解雇となる可能性が高いと考えるべきです。

会社から「仕事ができないから懲戒解雇だ」と告げられても、そのまま受け入れず、就業規則上の根拠や具体的な問題行為、これまでの指導内容などを確認し、有効性を検討することが重要です。

懲戒解雇のトラブルを弁護士に相談・依頼するメリット

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

懲戒解雇は、労働者にとって最も重い処分であり、大きな不利益があります。

そのため、不当な懲戒解雇ではないかと感じた場合、早い段階で弁護士に相談することが重要です。弁護士に相談すれば、懲戒解雇の理由や就業規則、会社の調査や手続きなどを確認し、処分が有効かどうかの見通しを立てることができます。懲戒事由が存在しない場合や、処分が重すぎる場合、弁明の機会が十分でない場合などは、不当解雇として争える可能性があります。

また、弁護士に依頼すれば、会社との交渉を代理してもらえる点も大きなメリットです。懲戒解雇されたという深刻なトラブルほど、労働者本人が会社と直接やり取りするのは精神的な負担が大きいでしょうが、弁護士が窓口となることで直接の連絡を避け、冷静に交渉できます。交渉で解決できない場合の労働審判や訴訟の対応も、一貫して任せることができます。

当事務所では、懲戒解雇をはじめとする不当解雇の相談を取り扱っており、解雇理由の精査から会社との交渉、労働審判・訴訟まで一貫して対応しています。会社から懲戒解雇を告げられた場合や、退職を迫られている場合、今後の選択肢を整理するためにも、ぜひ早めにご相談ください。

懲戒解雇を「不当解雇」であると争うときのよくある質問

最後に、懲戒解雇を「不当解雇」であるとして争いたい方から、よく寄せられる質問に回答しておきます。

懲戒解雇されても解雇日までの賃金は受け取れる?

労働者に問題があって懲戒解雇が有効でも、解雇日までの賃金は受け取れます。

不当解雇の場合はもちろん、有効な解雇でも、解雇日までの労働の対価は受け取るべきです。懲戒解雇だと、会社から「問題のある働き方だったので給料は支払わない」「会社の損害を天引きする」と主張されることがありますが、違法と言わざるを得ません。

発生した賃金を全額支払わないことは、労働基準法24条の定める「賃金全額払いの原則」に違反します。「ミスをしたから無償で働くべき」という考えは誤りです。

「給料未払いで泣き寝入りしないためには?」の解説

懲戒解雇されそうな段階ですべきことは?

「懲戒解雇になるくらいなら自ら辞めたい」と思う人も多いでしょう。

懲戒解雇は即日行われることが多いため、通告と同時に労働者としての地位を失い、その後の退職はできません。ただ、懲戒解雇になる前であれば、自主退職が可能です。この場合、自身の非を認め、反省の態度を示し、「退職しても構わない」という姿勢を示すことで温情を求める「依願退職」の方法を試すことが可能です。

会社が退職を認めなくても、期間の定めのない雇用契約は、退職の意思表示をして2週間を経過すれば終了するのが法律上のルールとなっています(民法627条1項)。

「退職届の書き方と出し方」の解説

懲戒解雇は「いきなり」言われる?

心の準備ができていても、懲戒解雇は非常につらい処分でしょう。まして、いきなり懲戒解雇と言われれば、動揺して冷静な判断ができないのも当然です。

一方で、いきなり下される懲戒解雇は、不当解雇として争える可能性が高まります。労働者に懲戒解雇事由に該当するような問題があったとしても、注意や指導を受けたり、警告されたりといったプロセスを踏んでいなければ、犯罪などのよほど重大な非違行為がない限り不当解雇となりやすいからです。

「会社をクビになる前兆」の解説

懲戒解雇でも解雇理由証明書はもらえる?

解雇トラブルを争う際の重要な書類が、解雇理由証明書です。

労働基準法22条は、労働者が請求した場合、会社は解雇理由を書面で交付しなければならないことを定めています。懲戒解雇の場合も、解雇理由が正当かどうかを確認する必要があり、解雇理由証明書の重要性は他の解雇と変わりません。したがって、懲戒解雇と言われたら、会社に対して解雇理由証明書を請求しましょう。

また、「就業規則◯条違反」といった記載しかない場合、その理由が事実に反しないかを精査するため、該当する具体的な事実の記載を求めてください。

「解雇理由証明書の請求方法」の解説

懲戒解雇でも解雇予告手当はもらえる?

解雇の不利益を軽減するため、労働基準法は予告のルールを定めています。

労働基準法20条では、解雇の少なくとも30日前までに予告するか、予告期間が不足する日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払うべき義務を会社に課しています。

解雇予告のルール

懲戒解雇の場合、再発防止などの観点から即日解雇とする例も多いですが、この場合、労働基準監督署長の除外認定を得ない限り、30日分の解雇予告手当が必要です。

「解雇予告の除外認定」の解説

【まとめ】懲戒解雇を「不当解雇」であると争う場合

今回は、懲戒解雇について争いとなる労働問題を、詳しく解説しました。

懲戒解雇になってしまった場合はもちろん、会社から「自主的に退職しないなら懲戒解雇にする」と言われた場合も、冷静な判断は難しいことでしょう。しかし、「不当解雇ではないか」といった不安や疑問が生じる場合、懲戒解雇を争うことを検討してください。

懲戒解雇は、会社が労働者に下す処分の中でも最も重いものなので、少なくともその重さに見合った問題行為が必要とされます。全くの事実無根のケースはもちろん、企業秩序違反の事実はあっても、懲戒解雇とするほど重大ではない場合、不当解雇として争える余地があります。

「不当解雇を無効にしたい」「撤回させて自主退職にしたい」と考えるなら、あきらめてはいけません。懲戒解雇されたら、速やかに弁護士へご相談ください。

この解説のポイント
  • 懲戒解雇は会社が労働者に下す最も重い制裁であり、様々な不利益がある
  • 懲戒解雇の場合、撤回交渉や証拠収集、裁判での争いが重要となる
  • 懲戒解雇が不当と判断されれば、復職や金銭解決といった対応策がある

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