就活で履歴書を書くとき、賞罰欄になにを書くか、迷う方がいます。
賞罰には、法律上の定義はないものの、「賞」つまり、自分のアピールになりそうなこと、「罰」つまり、自分にとってマイナスなこと、とイメージするとわかりやすでしょう。
なかでも、犯罪歴や前科、逮捕歴、補導歴、非行歴があると、賞罰をどう書くかがとても重要。
素直に書けば採用の確率が下がりそう、かといって罪を隠して入社すれば、解雇のおそれもあります。

過去の犯罪をごまかしたいが、賞罰になんと書けばよいか

犯罪歴は、履歴書の賞罰に書かなくてもバレるのだろうか
こんなとき、法的に問題ない工夫を知る必要がありますから、法律や裁判例を理解せねばなりません。
労働者にも、自分に不利な事実まで積極的に告知する義務は、法的にはありません。
したがって、「書きたくない」ことは「書かなくてよい」ケースもあります。
今回は、犯罪してしまったなど不利益な事実があるとき、履歴書の賞罰にどう書くべきか(もしくは、書かなくてよいか)を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 履歴書の賞罰のうち「罰」の記載を誤ると、最悪のケースは解雇のリスクあり
- 履歴書の賞罰の「罰」は、「確定した有罪判決」のこととするのが裁判例
- 執行猶予が経過した前科、逮捕歴、補導歴などは書く必要がない
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履歴書の賞罰とは

履歴書にある賞罰には、法律の定義はありません。
履歴書に賞罰を書く欄を、一般に「賞罰欄」と呼びます。
通常は、賞罰とは次のものを指すケースが多いです。
- 賞罰の「賞」とは
入社の可否を判断してもらうにあたり、アピール要素となる功績
(例:全国大会優勝、警視庁長官からの感謝状など) - 賞罰の「罰」とは
刑法に定められた犯罪歴
(例:詐欺罪で懲役1年・執行猶予3年、交通犯罪で罰金10万円など)
賞罰の意味を理解することは、採用選考を有利に進めるのに不可欠です。
賞罰の「賞」については、自分に有利なアピール要素です。
記載漏れがあっても、採用される可能性が下がるだけで、「なぜ賞を記載しなかったのか」と責任追及されはしませんから、あくまで自己責任。
自分の判断で、できるだけ良い功績をアピールすれば足ります。
履歴書の賞罰に書くべき「罰」

以上のとおり、履歴書を書くとき、賞罰の「罰」の書き方は、特に慎重にならなければなりません。
賞罰の「罰」とは、刑事事件において「確定した有罪判決」だとされています。
有罪判決とは、次のものが含まれます。
- 懲役刑
- 禁固刑
- 拘留・科料
- 罰金刑
※ 執行猶予付きの有罪判決を含む
罰金刑だからと軽く見てはなりません。
罰金刑もまた刑罰であり、前科に違いなく、賞罰の「罰」に含まれます。
交通事故など、犯罪しようとしなくても罰金刑になってしまうことがあるため注意を要します。
また、執行猶予付きであっても、刑罰が下れば賞罰に書かなければならない犯罪歴になります。
交通事故で、「罰金」といわれるものには、2種類あります。
いわゆる「青切符」の罰金は行政罰であり、犯罪歴でないため履歴書の賞罰になりません。
一方で、いわゆる「赤切符」の罰金は刑事罰であり、「確定した有罪判決」にあたるため履歴書に書かなければなりません。
運送会社のドライバーなど、業務上、運転が必要となる会社だと、交通事故についての賞罰の詐称が重大な解雇理由になるおそれがあります。
履歴書の賞罰に書かなくてよい事情

賞罰の「罰」は「確定した有罪判決」なので、そうでないものは賞罰の「罰」には含まれません。
この点で、似ていて間違えやすいものについて、解説していきます。
これら賞罰の「罰」にあたらないと判断されるなら、労働者から積極的に不利な事実を明かす必要はなく、履歴書の賞罰に書かなくてもよいです。
また、書かずに採用されても「隠していた」と責任追及されはしませんし、解雇理由にもなりません。
逮捕歴は書かなくてよい
逮捕歴だけなら、「確定した有罪判決」でないため、履歴書の賞罰にはあたりません。
逮捕歴は、法律用語では「前科」に含まれず、「前歴」と呼びます。
犯罪で逮捕されても、勾留されず釈放されたり、軽度な犯罪は微罪処分で終わることがあります。
これらの前歴は、履歴書の賞罰に書かなくてよく、会社にバレることはありません。
不起訴処分なら書かなくてよい
捜査が進んでも、結果的に不起訴処分になったなら、履歴書の賞罰にはあたりません。
起訴するかどうかは、検察が決めますが、このとき犯罪の重さや情状などを考慮して、処分保留や起訴猶予といった処分になることもあります。
このとき、起訴まではされず刑事裁判にはなりません。
これらのケースでは、履歴書の賞罰に書く必要のない事情となります。
現在裁判中なら書かなくてよい
まだ有罪判決が確定していないタイミングで就活しているなら、履歴書の賞罰に書く必要はありません。
つまり、現在裁判中で、まだ刑罰が下っていないといった例です。
起訴されて、保釈中だといった場合にも、履歴書の賞罰にはあたりません。
執行猶予期間の過ぎた前科は書かなくてよい
前科の不利益にいつまでも苦しめられるとしたら、更生に向けて努力する気が起きないでしょう。
履歴書の賞罰にも、いつまでも書き続けなければならないわけではありません。
執行猶予は、時間の経過によって社会内での更生を許す制度。
制度の実効性を損なわないために、執行猶予の期間が経過後は刑の効力が失われる(刑法27条)ので、履歴書の賞罰に書く必要はなくなります。
同じく、刑の執行から10年経過した前科は効力が失われ(刑法34条の2)、履歴書に書かなくてよくなります。
補導歴、非行歴は書かなくてよい
少年時代の補導歴、非行歴もまた、「確定した有罪判決」ではなく、履歴書に書く必要はありません。
少年はまだ幼く、今後の更生が期待できます。
そのため、前科という厳しいものに至らない程度でとどめており、就活でも申告の必要はありません。
賞罰をできるだけバレないように隠す方法

リスクはあるものの、できるだけ有利な判断を受けられるようにする方法もあります。
履歴書の賞罰は、会社の関心がとても高く、採用に大きく影響します。
隠して入社しても、後から責任追及されるリスクがあるものの、できれば、なんとか採用されたいという労働者の気持ちもよく理解できます。
履歴書に賞罰を書かず、空欄にする
まず、履歴書に賞罰を書かず、空欄にする方法が思いつきます。
空欄にしたまま、なにも指摘されず、バレなければよいですが、リスクの大きい方法だといえます。
履歴書の賞罰欄を空欄にすれば「賞罰に書くべき事情はない」と申告したことと同じ意味だからです。
また、採用面接でも賞罰の有無を聞かれ、さらに嘘の上塗りをしなければならないおそれも。
これらの嘘をついたという事情があるとき、入社後にバレると解雇のリスクが高いといえます。
賞罰欄のない履歴書を使用する
次に、賞罰欄のない履歴書を使用する方法です。
会社から履歴書の書式やフォーマットの指定がなければ、賞罰欄のない履歴書を使うのも許されます。
むしろ、賞罰欄のない履歴書でもエントリーを受理し、採用選考を進めてくれるとしたら、それは法的に言えば「賞罰については採用に影響しない」ことを意味し、「入社ができたとき、賞罰があったとしても解雇は不当」と評価される可能性が高いです。
ただし、「前科があるなら入社してほしくない」と強く希望する企業では、所定のエントリーシートに賞罰欄を設け、申告を求めてくることも。
このとき、企業が労働者に、賞罰を申告するよう求めているのですから、この手は使えません。
採用面接では聞かれないことまで答えない
「採用の自由」があり、どの労働者を採用するかは会社の自由です。
その前提として、採用判断の基準について会社は労働者に質問できる「調査の自由」があります。
そのため、労働者は質問に正直に回答すべきだと、裁判例でも示されています。
これを、労働者の「真実告知義務」といいます。
使用者が、雇用契約の締結に先だって、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接かかわる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負う
炭研精工事件(最高裁平成3年9月19日判決)
しかし、真実告知義務があっても、会社から聞かれなかったときにまで、労働者からあえて不利なことを積極的に告知する義務まではないとされています。

会社があえて質問しなければ採用判断の要素とはならず、バレても解雇理由にならないというわけ。
「あえて嘘をついた」というのは許されないが、「聞かれなかったので答えなかった」という反論は通るということです。
同様に、採用面接の答え方にも注意が必要。
「賞罰はありますか?」と質問されたなら、裁判例における「賞罰」の定義を正しく理解し、「ある」、「なし」で簡潔に回答するようにしましょう。
例えば、「前科はないが逮捕されたことはある」といったとき、そのとおりに正直に答えるのではなく、「賞罰はありません」と回答するのが適切な対応となります。
賞罰について経歴詐称がバレたら解雇されるか

精一杯の努力で賞罰を隠しとおせた結果、会社に伝えないまま入社できてしまったとき「賞罰について経歴詐称がバレるのか」、「バレたら解雇されるのか」といった心配が生まれるでしょう。
そこで、最後に、履歴書の賞罰の詐称と、解雇についての法律知識を解説します。
履歴書の賞罰が真実かどうかの調べ方
履歴書の賞罰は「確定した有罪判決」、つまり前科なわけですが、嘘を書いても、特別な調べ方はありません。
徹底的に調べあげてもバレなそうなら、詐称して解雇されるリスクは低いともいえます。
ただ、次の方法でバレてしまう嘘なら、はじめからつかないほうがよいでしょう。
- 氏名をネット検索すると、有罪となったニュース報道が見つかる
- 過去に、新聞で犯罪者として氏名が載ったことがある
- デジタルタトゥーが残っている
履歴書の賞罰の嘘がバレる可能性
ニュース報道などからバレなかったとしても、面接でバレてしまう危険もあります。
履歴書の賞罰になにも書かなくても、面接での質問への回答が不自然で、態度から嘘がバレてしまった例です。
入社後のタイミングでも、次の例で、履歴書の賞罰に嘘があったとバレるケースがあります。
- 同僚に、過去の犯罪自慢をしてしまった
- 上司と地元が同じで、共通の知人がいて犯罪がバレた
- 過去の犯罪について、再び捜査が開始された
履歴書の賞罰の詐称が重大なら解雇される
履歴書の賞罰に、前科などを書かず、隠す行為は、重大な経歴詐称です。
通常、会社としても、「前科があるなら採用しなかった」といえるからです。
解雇は、「解雇権濫用法理」のルールで厳しく制限されて、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ、不当解雇として無効です(労働契約法16条)。
しかし「真実を知れば採用しなかった」といえる重大な嘘なら、十分な解雇理由です。
そのため、次のケースでは、解雇されてもしかたないといえるでしょう。
- 前科があるのに、履歴書の賞罰に書かなかった
- 賞罰欄のない履歴書を提出し、採用面接で聞かれたが「前科はない」と回答した

経歴詐称のリスクについては次に解説します。

解雇を争えるケースもある
これに対して、履歴書の賞罰が不適切だとしてされた解雇でも、争えるケースもあります。
このとき、不当解雇だと主張し、撤回を求めるようにしてください。
会社が、交渉では勤務を認めてくれないときには、労働審判、裁判で争う方法もあります。
履歴書の賞罰を理由にした解雇を争えるケースは、次の例です。
- 履歴書の賞罰に書かなくてもよい事実を理由に解雇された
- 回答する必要のないプライベートをしつこく追及された
- 「その事情があるなら採用しなかった」とはいえない理由で解雇された
(例:逮捕歴、補導歴などが嫌われて、解雇された)
それほど多いケースではないでしょうが、社内に他にもその犯罪をしている社員が採用されているといった場合なら、「その事情があるなら採用しなかった」とはいえず、解雇理由にならないこともあると考えられます。
解雇のなかでも特に厳しい懲戒解雇なら、就業規則に定めた手続きが必要です。
例えば、弁明の機会を与えたり、懲戒委員会を開いたりといったプロセスです。
必要な手続きを踏まずにした懲戒解雇は、労働者のダメージが大きく、それだけで不当解雇の可能性があります。
まとめ

今回は、履歴書の賞罰にどんなことを書くべきか(もしくは、どんな賞罰なら書かなくてよいのか)を、「経歴詐称による解雇」という法律問題の面から解説しました。
賞罰のうち、「罰」の書き方について判断を誤ると、会社に解雇される理由となってしまいます。
一方で、「罰」には書かなくてもよい事情も知らなければなりません。
書かなくてもよいことまで書けば、あなたの採用に不利益な履歴書を出してしまうことになるからです。
- 履歴書の賞罰のうち「罰」の記載を誤ると、最悪のケースは解雇のリスクあり
- 履歴書の賞罰の「罰」は、「確定した有罪判決」のこととするのが裁判例
- 執行猶予が経過した前科、逮捕歴、補導歴などは書く必要がない
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