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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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交通事故で仕事をクビになる?飲酒運転で解雇された時の対処法を解説

交通事故を起こすと、仕事をクビになってしまうケースがあります。
業務で社用車を運転し、不注意で事故を起こす例は、厳しく評価されるでしょう。
最悪の場合、交通事故をきっかけに、懲戒解雇されてしまいます。

運転手やドライバーなど、運転が仕事の職業では、交通事故はとても深刻。
プライベートの交通事故でも、結果的に、解雇につながってしまうこともあります。
なかでも厳しく見られるのが、飲酒運転です。

飲酒運転やあおり運転など、悪質な交通違反は、社会的にも問題視されます。
悪質な違反だと、たとえ私生活のできごとも、解雇理由となりえます。
まして、被害者を死なせてしまう重度の人身事故は、避けなければなりません。

今回は、交通事故を理由とした解雇が、不当解雇でないか、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 勤務中の交通事故のうち、重度の事故ならば、解雇の理由となる
  • 私生活上の交通事故でも、職業運転手などの場合は解雇になるケースもある
  • 過失による軽微な交通事故のみで解雇にする場合、不当解雇のおそれあり

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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交通事故で解雇されてしまう場合とは

交通事故を起こすと、解雇など重い処分となることがあります。
交通事故で、解雇になりやすいケースについて、はじめに解説します。

勤務中の事故は解雇になりやすい反面、プライベートの事故は解雇理由にならないのが原則。
勤務中に起こった事故かどうかで、その重大さが異なるからです。

勤務中の交通事故で解雇になるケース

勤務中、会社は労働者に、業務命令を下せます。
交通事故を起こさないよう、慎重に運転するのは、社員にとって当然の義務。
もちろんのこと、信号無視やスピード違反など、交通ルール違反も許されません。

これら義務に違反し、わざと起こした業務中の交通事故なら、解雇の理由として十分です。
勤務中の交通事故で解雇になるのは、例えば次のケース。

  • スマホを見て脇見運転し、交通事故にあった
  • 社用車を運転中、自損事故をしてしまった
  • トラックドライバーが飲酒運転した

一方で、運転を職業にする方にとって、交通事故はつきものです。
わざと起こすのでなくても、過失やミスでの事故なら、誰しもあります。

そのため、過失による軽微な事故ならば、解雇の理由とはなりません。
ミスの程度に応じ、注意指導や懲戒処分とするのが正しい対応です。

始末書の拒否と、強要への対応は、次に解説しています。

私生活の交通事故で解雇になるケース

私生活における行為は、解雇の理由にはならないのが基本です。
交通事故による懲戒解雇も同じこと。
なので、プライベートの事故で、解雇されるのは通常ありません。

ただし、プライベートといえど、労働者は一定の制約を受けます。
私生活上の行為でも、例外的に、解雇の対象となる場合もあります。
それが、業務に支障を与えるケース
です。

業務に大きな支障を与え、解雇となるプライベートの事故は、次の例があります。

  • タクシー運転手が、プライベートといえど飲酒運転してしまった
  • あおり運転で交通事故を起こし、ニュース報道された
  • 会社の交通安全キャンペーン中に大事故を起こした
  • 免許停止となり、運転業務ができなくなった

上記の例からもわかるとおり、運転を業務とする職種だと、厳しい評価が下ります。
運転のプロである以上、私生活でも慎重に運転せねばなりません。

いざ交通事故を起こせば、たとえプライベートでも業務に支障ありといわざるをえません。
念のため、交通事故を会社に報告するほうが、評価が下がらなくて済みます。

次章のとおり交通事故は犯罪になりえます。

逮捕を理由とする解雇についての解説も、参考にしてください。

交通事故による解雇が違法となるケース

交通事故による解雇は、事故という問題行為をきっかけにするので、懲戒解雇となります。
懲戒解雇は、企業秩序違反の問題行為を理由とした解雇だからです。

懲戒解雇は、その不利益の大きさからして、厳しく制限されます。
解雇は、正当な理由がなければ不当解雇として無効。
そのなかでも特に、懲戒解雇は、相応の重大な理由を求められます。

解雇権濫用法理により、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でなければ、違法な「不当解雇」であり、無効となります(労働契約法16条)。

(参考:不当解雇に強い弁護士への相談

交通事故による解雇も、あきらめてはなりません。
裁判例で要求される懲戒解雇のハードルはとても高いもの。
会社が、甘い考えで、交通事故の責任を追及してくるなら、対抗しなければなりません。

ここでは、交通事故による解雇が、違法となるケースについて解説します。

交通事故の責任が会社にある場合

業務におけるミスは、すべて労働者の責任というわけではありません。
交通事故の責任は、まずは加害者にあるのは当然。
しかし、ミスを起こさないよう防止する責任は、会社にもあります。

会社は、労働者が安全に働けるよう、配慮する義務があるからです(安全配慮義務)。
交通事故の責任が、会社にもあるケースは、例えば次のもの。

  • ペーパードライバーなのを知りながら、運転業務につかせる
  • 社用車を使った運転講習をしない
  • 特殊な車両の運転を、入社すぐに任せる
  • 長時間労働で疲弊させたまま運転させる
  • 睡眠不足であるのを知りながら運転させる
  • 運転業務に従事させる前にアルコールチェックをしない

会社に責任があるにもかかわらず、交通事故で解雇するのは違法です。
労働審判や訴訟で、不当解雇だと争うべき事案といえるでしょう。

懲戒解雇の理由が定められていない場合

懲戒解雇とするには、その理由と処分内容が、就業規則に記載されなければなりません。
したがって、交通事故が懲戒解雇理由になっていなければ違法です。
まずは、就業規則を確認するようにしてください。

その他、懲戒処分についても、下すには、就業規則上の根拠を要します。
就業規則もなく、雇用契約書にも定めがなければ、懲戒解雇、懲戒処分はできません。

就業規則は、労働者に周知されなければなりません。
確認しようとしても見ることができないなら、その点でも違法があります。

就業規則と雇用契約書が違うときの対応は、次に解説します。

軽微な交通事故の場合

懲戒解雇とするには、それ相応の重大性を要します。
たとえ、就業規則に「交通事故をしたら懲戒解雇」と定めていても同じこと。
どんな交通事故も一律に懲戒解雇とするなら、就業規則そのものが無効のおそれもあります。

懲戒解雇にされてもしかたない、重度の交通事故でなければ、解雇は違法。
過失による軽微な交通事故にすぎないなら、解雇の違法性を争うべきです。
事故の重大さは、次の事情が考慮されます。

  • 故意か、過失か
  • 人身事故か、物損事故か
  • 被害者のケガの程度
  • 悪質な動機があるか
  • 反省の程度
  • 飲酒、無免許、ひき逃げなど重大な違反があるか
  • 被害者との示談が成立したか

また、会社における過去の処分例とも比較し、同程度かも検討してください。

懲戒解雇は、非常に厳しい処分です。
懲戒解雇とするなら、それに適した相当な違反行為が必要です。
交通事故のなかでも、重大かつ悪質なもの、交通違反をともなうものである必要があります。

交通事故以外の理由がある場合

交通事故を理由とした解雇のなかには、実は他に理由があるケースもあります。
事故の責任追及という形をとれば、労働者もあきらめがち。
これに乗じて、問題社員扱いしていた人を辞めさせようとする会社もあります。

しかし、解雇理由ごとに、解雇の違法性は検討されなければなりません。

相当期間前の交通事故を、他の理由の報復として解雇理由にするのは違法です。
過失にすぎないのに、ことさら厳しく責任追及すれば、パワハラの疑いもあります。

行き過ぎた業務指導はパワハラです。

パワハラと指導の違いは、次に解説します。

弁明の聴取が不十分な場合

交通事故の態様には、さまざまなものがあります。
会社が、懲戒解雇という重い処分を下すなら、事実関係の調査は必須です。
交通事故の加害者となってしまった労働者の、言い分をよく聞かねばなりません。

弁明の機会の付与など、適正な手続きを踏まずにした懲戒解雇は、違法となります。
まして、その結果、事実と異なる解雇理由となってはなりません。

例えば、酒酔い運転と酒気帯び運転の違いなど、処分の重さに影響する事情もあります。
どのようにぶつかったのか、その原因などによっても、責任は変わります。

弁明の機会など、懲戒解雇の手続きは、次に解説しています。

交通事故で解雇された時の対処法

交通事故を理由に、解雇されても、不当解雇ならば争う必要があります。
会社と戦って、不当解雇と認められれば、無効となるからです。

懲戒解雇のデメリットはとても大きく、そのまま放置しては将来が台無しに……。
交通事故が、解雇の理由として相当でないと考えるなら、争うべきです。

解雇に異議を述べる

交通事故を理由とした解雇に異議があるなら、即座にいうのが基本です。
放置しておけば、解雇を認めたかのように思われるでしょう。

解雇への異議は、証拠化するため、内容証明で伝えましょう。

解雇通知書を受け取ったらすぐすべき対応は、次に解説します。

解雇理由を明らかにする

まず、解雇されたら、解雇理由証明書を要求しましょう。
交通事故による解雇だということを、明らかにするためです。

後から、別の理由を追加されないためにも、必須の対策となります。
解雇理由書の記載をよく検討し、納得いなかないなら、労働審判や訴訟で争いましょう。

有利な情状を主張する

懲戒解雇には高いハードルが設定されます。
ただ、飲酒運転など、重度な違反だと、そのハードルも超えかねません。
さらには、無免許やひき逃げなど、犯罪として逮捕されてしまうケースもあります。

このようなケースでも、少しでも解雇を避けるには、有利な情状を主張すべきです。
懲戒解雇を回避するため、労働者が主張すべき情状は、例えば次のもの。

  • 違反の程度が軽微である
    例:飲酒の量は少量、超過したスピードは少しだけなど
  • 反省の態度を示している
    例:交通事故被害団体への寄付など
  • 被害者に謝罪している
  • 被害者との示談が成立した
  • やむをえない事情があった
    例:会社の取引先に接待で酒を勧められたなど
  • ある程度の対策はしていた
    例:睡眠、休息をとったなど

これらの情状は、刑事弁護で主張すべき内容と重なります。

ただし、有利な情状がいくらあれど、飲酒運転は犯罪。
交通法規への違反は、反社会的な行為には変わりありません。
「懲戒解雇までするのは不当でないか」と主張するだけで、決して開き直ってはいけません。

不当解雇はすぐ弁護士に相談すべきです。

不当解雇に強い弁護士への相談は、次に解説します。

交通事故による解雇について判断した裁判例

次に、交通事故による解雇について、判断した裁判例を解説していきます。

相互タクシー事件

1つ目が、相互タクシー事件(最高裁昭和61年9月11日判決)です。

本事案は、タクシー運転手が勤務外で起こした物損事故を理由にした懲戒解雇が争われたもの。
裁判所は、解雇された運転手が「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがあった」と認定しながら、次の事情を考慮し、懲戒解雇を無効と判断しました。

  • 過去に同種の前科、前歴、懲戒歴がないこと
  • 解雇予告の除外認定が得られなかったこと
  • 同業他社の懲戒権行使に比べて厳しいこと
  • 運転手の自傷のほかは、損害が軽微であること

なお、本判決は、1回の違反で直ちに適格性なしとは判断できないとし、普通解雇も無効としました。

国際自動車ほか事件

次に、国際自動車ほか事件(東京地裁平成30年6月14日判決)です。

この事案は、複数のタクシー運転手が、乗務中の交通事故を理由に雇い止めされたもの。
裁判所は、雇い止めに合理的な理由はないとして、無効と判断しました。
裁判所が考慮した要素は、次のとおりです。

  • 事故について行政処分を受けていないこと
  • 態様が悪質とはいえないこと
  • 事故の後に契約を更新されていたこと
  • 雇い止めの主要な動機は、会社への訴訟提起にあること

その後、控訴審でも、一審の判断が維持されています。

ヤマト運輸事件

3つ目が、ヤマト運輸事件(東京地裁平成19年8月27日判決)です。

セールスドライバーの飲酒運転を理由にした解雇が争いとなったケースです。
この事案では、業務終了後の飲酒運転によって検挙されました。
しかし、検挙の事実をすぐ報告せず、行政処分、罰金刑を受けたのを隠していました。

裁判所は、セールスドライバーは交通事故の防止の努力をし、飲酒運転に厳正な対処をすべき立場だとして、たとえ業務外の事情でも、懲戒解雇の理由としてやむを得ないと判断しました。

懲戒解雇を不当解雇だと争うときのポイントは、次に解説します。

交通事故で解雇されるケースの注意点

最後に、交通事故の加害者となり、解雇されてしまったときの注意点について解説します。

交通事故への社会の目は、年々厳しくなっています。
以前は、甘くみられ、黙認されていた飲酒運転も、今では大問題。
あおり運転なども、社会問題化して久しいものです。

注意点をよく理解しておかないと、思わぬ不利益に直面しかねません。

重大な交通事故は犯罪行為になる

飲酒運転やあおり運転、死亡事故など、重大な交通事故は犯罪行為にもなります。
悪質性が高く、社内でも、懲戒解雇という厳しい処分が下されがちです。
故意のある飲酒運転は、特に深刻です。

交通事故により該当する犯罪と、科される刑罰は、主に次のものです。

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罪名法令法定刑
過失運転致死傷罪自動車運転処罰法5条7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金
危険運転致死傷罪自動車運転処罰法2条・被害者を負傷させた場合、15年以下の懲役
・被害者を死亡させた場合、1年以上の有期懲役(最長20年)
ひき逃げ
(救護義務違反)
道路交通法72条1項10年以下の懲役または100万円以下の罰金
酒気帯び運転道路交通法65条1項3年以下の懲役または50万円以下の罰金
酒酔い運転道路交通法65条1項5年以下の懲役または100万円以下の罰金

その他、あおり運転やスピード違反、無免許、信号無視などにも、刑罰が定められています。

公務員の交通事故は、処分の基準がある

公務員は、公共の福祉のために働く仕事。
なので、交通事故をはじめ、交通法規違反に、厳しい制裁が下るおそれがあります。
交通事故を理由とした解雇も、民間企業より厳しい傾向があります。

公務員の処分には、就業規則ではなく、行政の処分基準が適用されます。
「懲戒処分の指針」(人事院)には、交通法規違反の懲戒処分は、次のように定められます。

4 飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係

(1) 飲酒運転

ア 酒酔い運転をした職員は、免職又は停職とする。この場合において人を死亡させ、又は人に傷害を負わせた職員は、免職とする。

イ 酒気帯び運転をした職員は、免職、停職又は減給とする。この場合において人を死亡させ、又は人に傷害を負わせた職員は、免職又は停職(事故後の救護を怠る等の措置義務違反をした職員は、免職)とする。

ウ 飲酒運転をした職員に対し、車両若しくは酒類を提供し、若しくは飲酒をすすめた職員又は職員の飲酒を知りながら当該職員が運転する車両に同乗した職員は、飲酒運転をした職員に対する処分量定、当該飲酒運転への関与の程度等を考慮して、免職、停職、減給又は戒告とする。

(2) 飲酒運転以外での交通事故(人身事故を伴うもの)

ア 人を死亡させ、又は重篤な傷害を負わせた職員は、免職、停職又は減給とする。この場合において措置義務違反をした職員は、免職又は停職とする。

イ 人に傷害を負わせた職員は、減給又は戒告とする。この場合において措置義務違反をした職員は、停職又は減給とする。

(3) 飲酒運転以外の交通法規違反
著しい速度超過等の悪質な交通法規違反をした職員は、停職、減給又は戒告とする。この場合において物の損壊に係る交通事故を起こして措置義務違反をした職員は、停職又は減給とする。

懲戒処分の指針(人事院)

公務員の交通事故がどんな処分となるかは、「公務員としてふさわしいか」という観点からの判断。
したがって、民間企業の懲戒処分や解雇とは、異なることもあります。

懲戒処分の種類と対処法は、次の解説をご覧ください。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

交通事故は、犯罪となりうるだけでなく、社会的にも問題視されます。
そのような重大な行為なため、会社としても解雇理由にしがちです。

ただ、解雇は、労働者保護のため制限されています。
たとえ労働者にミスがあっても、ただちにクビにできるのではありません。
むしろ、軽微な過失による交通事故で、すぐに解雇するなどの対応は不適切。
違法な「不当解雇」として無効な可能性があります。

交通事故を理由とした解雇に納得いかないとき、弁護士に相談ください。

一方、飲酒運転や死亡事故など、悪質なケースは、解雇のやむをえないケースもあります。
このとき、交通事故トラブルとしても迅速に対応せねば、解雇以上の不利益を被ります。

この解説のポイント
  • 勤務中の交通事故のうち、重度の事故ならば、解雇の理由となる
  • 私生活上の交通事故でも、職業運転手などの場合は解雇になるケースもある
  • 過失による軽微な交通事故のみで解雇にする場合、不当解雇のおそれあり

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