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希望退職とは?応募するとき労働者側が検討すべきポイント

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運営元:弁護士法人浅野総合法律事務所

「希望退職」とは、会社が退職を希望する社員を募集する行為に応じて任意に退職することをいいます。

不況時など、会社の経営状況が悪化したとき、会社が社員に対して希望退職を募集することがあります。希望退職に応じることは、その後にひかえた会社の倒産に巻き込まれなくて済む上、将来退職を考えている労働者にとって、有利な条件で退職することができるよい機会となります。

しかし一方で、倒産が間近にせまるほど、希望退職とはいいながら、実際は整理解雇・リストラに近いイメージとなり、労働者側としてただちに応じがたい場合もあります。

そこで今回は、会社が希望退職をおこなっているとき、労働者側としてとるべき適切な対応方法や、「希望退職に応じるべきかどうか」の判断基準などについて、労働問題に強い弁護士が解説します。

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希望退職とは

冒頭で解説しましたとおり、「希望退職」とは会社が退職を希望する社員を募集する行為に応じて任意に退職することをいいます。

希望退職に応じた退職は、自主退職(辞職)となりますから、会社の都合によって一方的におこなわれる「解雇」とはことなります。実際、会社の経営状態が悪く人件費を抑制する必要性が高いときであってもただちに整理解雇がおこなわれるわけではなく、まずは希望退職を募集することがよくあります。

社員に非違行為があったときに会社が一方的に行う「懲戒解雇」や、会社が退職をうながす「退職勧奨」「退職強要」ともことなります。これらの違いをまず区別することが必要です。

繰り返しになりますが、あくまでも「希望」であり「強制」ではないと理解していただくことがとても大切です。

しかし、実際上、希望退職のあとには整理解雇・リストラがひかえており、希望退職はそのための準備という側面もあります。そのため、希望退職に応募して退職した場合には、自己都合退職ではなく会社都合退職となり、それを前提とした失業保険の給付を受けることができます。

希望退職のメリット・デメリット

実際に、勤めている会社が希望退職を募集しはじめたときには、労働者側としては「希望退職に応じるかどうか」を検討することが必要です。この際、適切な判断を下すためには、希望退職することのメリットとデメリットを理解し、比較しなければなりません。

一方で、希望退職は整理解雇・リストラの前段階で行われることが多いですが、他方で、まだ解雇をおこなうほどには会社の経営がひっ迫していないことが多く、希望退職に応じると、一定の優遇措置などのメリットが含まれていることが多くあります。

希望退職に応募することにともなって生じるメリット・デメリットについて弁護士が解説します。

【メリット①】退職金が優遇される

希望退職制度では、退職金についての優遇措置を利用できる場合があります。希望退職に応じて退職した場合に、通常その年齢で退職する場合にはもらえない退職金をもらえるといったケースです。

退職金についてどのような優遇を受けることができるかは、会社の退職金規程、希望退職の募集要項などの確認が必要となりますが、例えば次のような例があります。

  • 本来であれば退職金が支給されない勤続年数の社員に対して、希望退職に応じることを条件として退職金を支給するケース
  • 退職金の支給基準について、「自己都合」の基準ではなく「会社都合」の基準で支給するケース
  • 退職金の受給額について、現在の勤続年数、退職理由などを基準に計算した金額に一定の割増率を乗じて受給することができるケース
  • 会社内に退職金制度自体が存在しない場合であっても、希望退職に応じることを条件として一定の手当が支給されるケース

この場合、希望退職に応じるのと、応じずに将来自己都合退職したり、将来会社が倒産するまで働き続けたりすることとを比較して、生涯に会社からもらえる金額がどちらのほうが多くなるか、比較検討をすることが必要です。

【メリット②】失業保険が有利な取り扱いとなる

希望退職に応募して退職した場合には、自己都合退職ではなく会社都合退職にできることがメリットとなります。そのため、希望退職に応じて退職をすれば、会社都合を前提とした失業保険を受給することができます。

失業保険の給付は、退職理由によって条件がことなっており、会社都合退職の場合には、給付制限期間がなく、受給期間の上限が長いなど、自己都合退職に比べて有利な取り扱いとなっています。

希望退職に応じ、失業保険について会社都合にしてもらって退職するのと、希望退職に応じず、将来自己都合で退職するのと、どちらが得かは、今後どの程度会社に残り続けることができるかによって異なるため、慎重な検討が必要です。

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【メリット③】転職活動がしやすい

希望退職に応募して退職した場合には、再就職活動にあたり、転職理由を会社の責任にできることがメリットとなります。採用面接で退職理由を聞かれても、「会社の経営状況が悪化し、希望退職に応じたため」と伝えれば、不利に扱われることはありません。

つまり、自己都合退職に比べると、新たな就職先に対して退職理由の説明をしやすくなります。

さらに、希望退職募集の条件にもよりますが、あらたな就職先をあっせんしたり、転職活動をサポートしたりといった優遇措置を講じたり、一定期間の給与を保障したりといった措置が用意されていることもあります。

【デメリット①】無職となる

希望退職に応じると、当然ながら、退職して無職となります。

すでに新たな仕事が決定している場合や、独立起業する場合にはとくに気にすることはないですが、そうでない場合には、無職となり無収入となります。失業保険の利用は可能ですが、あくまでも一時的な生活保障にすぎません。

定職がないことは、収入面のデメリットだけでなく、住宅ローンなどを新たに組みづらかったり、ローンなどの借り換えができなかったりといった間接的なデメリットもあります。とくに、転職先が長く決まらず無職の期間が長引くと、予想もしなかった不利益を受ける可能性も高くなります。

【デメリット②】景気変動に左右される

無職、無収入の期間が長引くとことのデメリットとして、景気変動の影響をより強く受けることが挙げられます。不況時には、再就職先がなかなか決まらないことが少なくありません。

とくに、希望退職が会社の業績悪化に応じておこなわれるとき、自分の勤めている会社だけでなく、社会全体、業界全体がうまくいっていないことがあります。

景気変動は定期的に繰り返されており、好景気のときには高収入の就職先がすぐ見つかる、いわゆる「売り手市場」となりますが、不況になるとなかなか職がみつかりません。直近では、新型コロナウイルスを理由とした経済不況が話題となり、過去の世界大恐慌(1929年)と比較して論じる報道も多くなされています。

希望退職に応募するときの注意点【労働者側】

以上のとおり、希望退職にはメリット・デメリットの双方があるため、「希望退職に応じるかどうか」はこれらを比較して慎重に決断しましょう。いったん応募したら、後戻りはできません。

そこで次に、希望退職に応募することを決定した労働者が、注意しておいてほしい点について弁護士が解説します。

必ず退職できるわけではない

希望退職制度では、その対象者が、年齢や勤続年数、部門・職種・役職などによって限定されていることがよくあります。また、会社の承諾が必要とされていたり、応募期間、応募人数などに制限があったりする場合もあります。

これらの制限は、会社が重要と考える人材を希望退職に応じさせないこと、会社が想定する以上の人材を退職させないことなどを目的としておこなわれます。

労働者側の注意点として、労働者側が有利な条件での退職を希望しても実現できない可能性があること、また、応募しても必ず退職できるとは限らないことには注意を要します。

希望退職の応募事項をよく読みこみ、確認するようにしてください。

希望退職に応募するということは、会社に対して「条件次第では、退職をする意思がある」と示すことを意味しています。仮に、確認が不十分で、このような意思を伝えたにもかかわらず希望退職することができなかったとき、会社側から事実上不利益な取り扱いを受けたり、将来的に勤労意欲などの点でマイナスな評価を受けてしまったりするおそれがあります。

退職は強制されていないか

「希望退職」はあくまでも「希望」をつのる制度です。したがって、「希望退職」という名目をかかげているにもかかわらず、実際には退職を強要するようなものであれば違法です。

事実上は強制的な制度によって退職をしてしまった場合には、その退職は違法であり、無効です。労働審判や訴訟などの法的手続きで争うことによって、社員としての地位を核にしてもらうとともに、損害賠償請求をすることができます。

「希望退職」という名目をかかげていても、希望せず退職しない場合には不利益な取り扱いがあったり、退職しない場合には到底我慢することのできない異動や減給があったりといった会社の対応は、結局は事実上退職を強制していることと同じだと評価されます。

とくに、経営状況が悪化して、整理解雇・リストラを検討している会社では、辞めてほしい社員に対してこのように積極的すぎる希望退職がよくおこなわれ、「肩たたき
」といわれて社会問題化しています。

違法な退職強要を受けてしまったときは、毅然とした態度で拒否し、強行された場合には弁護士に依頼して争う姿勢が重要です。「倒産してしまうのであればしかたない」とあきらめる労働者も多いですが、倒産を示唆する会社のうちで実際に倒産に至る会社はそれほど多くはありません。

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転職後の未来が検討できているか

一般論として、転職は、キャリアアップというメリットがありますが、デメリットもあります。

冷静かつ客観的に、自分の価値や能力、現在の社会情勢などを分析して、自身の将来を考えておくことが、希望退職に応じる際には重要です。

とかく人間は自分の評価は甘くなりがちです。転職を積極的に進める転職エージェント、転職サイトにまどわされず、冷静に破断してください。また、再就職にあたり、年齢や資格の有無も重大な影響を及ぼします。自分の身に着けた能力が「その会社でしか生きない能力」ではなく「さまざまな会社で発揮できる能力」かどうか検討してください。

雇用情勢は景気変動に大きく左右され、中高年層の再就職は若年層に比べて難しくなりがちです。

どうしても希望退職に応じざるを得ないときには、会社が再就職支援制度を実施するなどの優遇をしてくれないかどうか、会社と交渉してみるのも手です。

転職活動中の生活保障は十分か

不況時の転職活動には、転職活動は、予想外に長い時間がかかる可能性があります。

そのため、希望退職に応じる前に、転職活動中の生活保障は十分かどうかに注意が必要です。

また、現在の定期収入を前提として住宅ローンを組んでいる場合には、一層注意深く検討することが必要です。住宅ローンの支払が遅れると、金融機関から競売の申立てを受け、自宅不動産の所有権を失うという危険もあります。

希望退職に応じる際には、キャリアアップを前提とするのではなく、最悪のケースにそなえた生活保障を前提として、金銭面の交渉をすることが重要です。最悪のケースを想定しておけば、それ以下の状況におちいって希望退職に応じたことを後悔することはありません。

希望退職に応募しないと解雇されてしまう?

希望退職はあくまでも「希望」であり、応募対象者の枠に入っていたとしても応募しないことも労働者側の自由です。しかし、応募しない場合にはリスクもあります。

会社が希望退職を募集しているということは、経営状況がよくないということを意味します。そのため、今後、経営再建のため整理解雇・リストラなどをおこわなければならない可能性があります。

ただし、整理解雇が有効となるためには、最高裁判例で確立した「整理解雇の4要件」を満たす必要があります。具体的には「人員削減の必要性があること」「解雇を回避するための努力を講じたこと(希望退職者の募集もその一つです。)」「被解雇者選定、人選の合理性があること」「会社が労働者、労働組合に対し、誠実に協議・説明をしたこと」の4つです。

したがって、希望退職に応募しないことを決断するときは、これらの要件に照らして、今後おこなわれる整理解雇が適法になる可能性があるのか、その際に自分が整理解雇の対象者となってしまったら会社と争うのかといった将来の予測を分析し、検討することが必要です。

経営状況悪化を理由とする希望退職では、会社にとって貢献度の低い、価値の低い人材から対象となるよう設計されます。仮に、会社から「不要人材」だと告げられた場合、希望退職に応募するのも一つの選択肢です。

参考

希望退職とよく似ている制度に、「早期退職」の制度があります。一般的に、「早期退職」というときには、希望退職とはことなり、会社の経営状況悪化以外の理由で、会社が早期の退職をもとめているときに利用する制度のことをいいます。

例えば、早期退職がおこなわれる目的は、新規人材を活用して組織を活性化させたい、といったものです。このような早期退職の場合、応じずに会社にのこったとしても、整理解雇・リストラにあうといったデメリットはありません。

なお、2つの用語は、混同して使用されていることもありますので、制度の名称だけではなく、どのような制度内容か、会社がどのような目的で実行しているかを理解して対応することが大切です。

「労働問題」は、弁護士にお任せください!

今回は、希望退職の募集たあったときに、労働者側がとるべき適切な対応方法について弁護士が解説しました。

社会の情勢が暗く、景気が悪化しているときこそ、希望退職が多くおこなわれます。経済情勢の悪影響の程度を冷静に判断して、かつ、希望退職に応じることの意味をよく理解して判断しなければ、のちに希望退職に応じたことについて後悔してしまうおそれもあります。しかし、労働者側では判断材料が十分ではなく、将来の見通しが不透明で不安を感じることもあります。

不景気の際には、経営再建のために整理解雇・リストラが増加し、その前段階として希望退職の募集が増えることが予想されます。

十分な法的知識を入手した上で判断することが必要ですから、希望退職に応じるかどうかご不安の募る労働者の方は、ぜひ一度、労働問題に強い弁護士にご相談ください。

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弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区銀座)は、代表弁護士浅野英之(日本弁護士連合会・第一東京弁護士会所属)をはじめ弁護士5名が在籍する弁護士法人。 不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、近年ニュースでも多く報道される労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。 「労働問題弁護士ガイド」は、弁護士法人浅野総合法律事務所が運営し、弁護士が全解説を作成する公式ホームページです。

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