経営状態が悪化すると、希望退職制度が活用されます。
業績悪化した会社において、人件費などコストカットのため希望退職が募集されるシーンです。
労働者にとって希望退職は、企業の業績悪化、ひいては破産に巻き込まれないメリットがあります。
いずれにせよ将来の転職を考えるなら、有利な条件で退職できる良い機会。
しかし、希望退職制度がはじまっても、すぐに会社がつぶれるわけではありません。
希望退職制度の対象だが、今は辞めたくない
希望退職の割増の条件は、妥当なのだろうか
「希望」退職とは名ばかりで、実際は整理解雇ないしリストラに近い例もあります。
こんなとき、退職すれば収入を失うためすぐには応じがたいものの、拒否したらどうなるか不安でしょう。
また、「条件次第で応じてもよい」という方は、希望退職の条件の相場も知っておきたいところ。
今回は、希望退職制度がはじまった会社で、対象となる労働者が知っておきたい対応方法、注意点などを、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 希望退職制度では、退職金の割増、その他の条件面における優遇が受けられる
- 希望退職した場合、しなかった場合のメリット・デメリットを比較し、検討する
- 希望退職制度といいながら、実際には退職を強要されるなら、違法となる
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希望退職制度とは
希望退職制度とは、会社が、自発的に退職してくれる労働者を募集する制度です。
そして、この募集に応じた自主退職を、希望退職といいます。
希望退職制度では、すぐに退職に応じる人には「退職金の割増」などの有利な条件があると提案して、自発的に辞めたい人がいないかどうか、募集をします。
その他、希望退職制度でよくある条件は、次のような優遇です。
- 退職金の割増
- 会社都合基準の退職金
- 有給休暇の買い取り
- 退職日までの出社免除
- 一定期間の給料の保障
- 再就職支援サービスの費用負担
はじめに、希望退職制度について、基本的な法律知識をまとめて解説します。
希望退職制度の目的
会社が、希望退職制度を活用する最大の目的は、人件費の削減です。
その背景には、業績悪化や、業務効率化による余剰人員が生じたことなどがあります。
一方で、もう1つの目的として、解雇リスクの回避という理由があります。
人件費の抑制が必要でも、すぐ整理解雇、つまり、リストラするのはリスクあり。
解雇は、労働者の不利益が大きく、厳しく制限され、不当解雇になる危険があるからです。
このときすぐ解雇に走るより、まずは希望者にやめてもらうのが合理的なため、希望退職制度が活用されます。
希望退職制度と、解雇の違い
希望退職は、自主退職となります。
そのため、会社側の理由で一方的にされる「解雇」とは性質が違います。
希望退職は、労働者側の責任を追及するものでもありません。
そのため、社員の背信行為を理由にした懲戒解雇や、退職勧奨とも異なります。
労働者側には理由がなくても、会社にとって余剰人員であったり、報酬に見合わないおそれのある社員は、希望退職制度の対象となる可能性があります。
希望退職制度と、早期退職の違い
希望退職制度とよく似たものに、早期退職があります。
いずれも、会社のはたらきかけに応じ、労働者の意思によって退職する点は変わりありません。
2つの違いは、希望退職制度が、経営状況の悪化などを理由とした人件費カットの側面があるのに対して、早期退職はそのような目的はなく、単に早期の退職を求める制度だという点にあります。
早期退職には、人件費抑制以外に、新規人材の活用、組織の活性化などの目的があります。
このような早期退職であれば、応募せず会社に残っても、整理解雇の危険はありません。
希望退職の強制は違法
希望退職制度は、あくまで「希望」であり、「強制」されれば違法です。
「希望」退職といいながら、実際は退職を強要されてしまえば、それは解雇と同じこと。
正当な理由のない解雇であれば、解雇権濫用法理により、不当解雇として違法、無効だからです。
なお、希望退職制度に応じた退職は、会社側の理由なので、失業保険では会社都合扱いです。
そのため、失業保険の点でも、有利な扱いを受けられます。
失業保険をもらう条件、手続きは、次の解説をご覧ください。
希望退職によって割増される退職金の相場
希望退職によって割増される退職金の相場を知らなければなりません。
割増退職金の意味は、「労働者の意思によらない時期に退職せざるをえなくなることによって、労働者が受ける不利益(主に生活費負担など)の保障」という点にあります。
不況時だと、転職活動には予想外に長期間がかかるおそれがあります。
あなたの会社が希望退職を募集する一方、社会全体の景気も悪いと、ますます苦戦します。
希望退職に応じる前に、「就活中の生活保障が十分か」をよく注意してください。
特に、現在、定期収入を前提に住宅ローンを組んでいるとき、さらなる慎重さが必要。
希望退職によって割増される退職金は、主に、生活費を目安にされるのが通例です。
また、長く貢献した社員ほど優遇されることが多いため、勤続年数なども考慮されます。
希望退職に応じる場合、応じない場合を比較し、金銭的な損得を計算しましょう。
この比較では、希望退職に応じず解雇されたり倒産したりするリスクも忘れず考慮してください。
このとき、希望退職に応じるなら、キャリアアップよりもまず、生活保障を前提に据えてください。
最悪のケースを念頭に置いて、不足するのであれば金銭面の交渉は欠かせません。
どうしても退職してほしいと会社が願っているならば、多少の退職金増額が期待できることもあります。
退職金が払われないとき、次の解説もご覧ください。
希望退職制度のメリット・デメリット
次に、希望退職に応募するかどうか迷う労働者側での、メリット・デメリットを解説します。
希望退職制度のメリットとデメリットを知るのは、応じて辞めるかどうか、比較検討するのにとても重要。
希望退職制度の募集がはじまったなら、経営状況は悪いに違いありません。
他方、すぐに解雇を断行するほど切羽詰まっているわけではないという意味でもあります。
このとき、希望退職したときの優遇措置と、拒否して残った場合の給料面などを比較検討して、慎重に判断するようにしてください。
退職金が割増される
希望退職制度では、退職金についての優遇措置というメリットがあります。
つまり、希望退職したら、通常より多くの退職金がもらえる制度となっている例が多いです。
退職金についてどんな優遇が受けられるかは、制度の設計によって異なります。
そのため、希望退職に応じる前に、募集要項、退職金規程などでよく確認しましょう。
希望退職によって受けられる退職金の優遇には、次の例があります。
- 本来なら退職金がもらえない勤続年数の社員でも、退職金をもらえるケース
- 退職金の支給基準を、自己都合ではなく会社都合としてもらえるケース
- 通常の勤続年数、退職理由とは異なる割増率で計算してもらえるケース
また、社内に退職金制度がなくても、希望退職に応じることを条件に、特別な手当が支給される例もあります。
会社都合の失業保険がもらえる
希望退職に応じて会社を辞めたら、自己都合ではなく会社都合となるというメリットがあります。
そのため、会社都合退職として、有利な扱いを受けられます。
具体的には、会社都合の退職であれば、失業保険について給付制限期間(原則2ヶ月)がなく、待機期間(7日間)が経過すればすぐに失業保険をもらうことができます。
希望退職に応じるかどうかの比較では、失業保険についても忘れず考慮要素としてください。
★失業保険の法律解説まとめ
【失業保険の基本】
【離職理由について】
【失業保険をもらう手続き】
【失業保険に関する責任】
転職活動しやすい
希望退職に応募して退職するメリットとして、転職理由について会社のせいにできる点があります。
つまり、採用面接で、なぜ退職したのか聞かれても、「希望退職制度を利用した」と伝えれば、それ以上追及されたり不利に扱われたりすることはありません。
さらに、希望退職制度の内容によっては、転職先をあっせんしたり、転職活動をサポートするサービスを受けられたり、一定期間の給料を保障してもらえたりといった、転職活動に有利な措置が用意されていることもあります。
当面の収入が途絶える
希望退職に応じると、当然ながら、退職して無職となります。
当面の収入が途絶えてしまうことは、希望退職制度のデメリットとなります。
失業保険の利用は可能ですが、あくまでも一時的な生活保障にすぎません。
無職になると、収入面のデメリットだけでなく、住宅ローンを新たに組みづらいなどの影響も。
ローンの借り換えも難しくなってしまい、行動が制限されるおそれもあるなど、予想しなかった不利益があることもあります。
退職日を変更できない
希望退職では、退職日を変更できないことがあるデメリットもあります。
会社の制度によって退職するため、決められた時期に退職しなければならないからです。
すでに転職先が決まっている方、独立起業する方は気にならないでしょう。
しかし、まだ転職活動中のとき、希望しない時期に退職させられるのは大きなリスクです。
結果、思うように転職できず、無職、無収入の期間が長引くおそれがあるからです。
退職のタイミングについて、次の解説をご覧ください。
景気動向に左右される
希望退職のデメリットとして、景気動向に左右されてしまう点が挙げられます。
あなたの会社が希望退職を募集しているということは、世の中的にも不景気かも知れません。
このとき、希望退職に応じても、再就職先がなかなか決まらないことも少なくありません。
会社の業績悪化が、自分の勤める会社だけの問題ではなく、社会全体、業界全体の流れではないのか、注意するようにしてください。
希望退職制度に応募する時の注意点
次に、希望退職制度に応募し、退職するときの注意点を解説します。
いったん応募し、退職してしまったら後戻りはできません。
希望退職してから後悔しないよう、注意点をよく理解してください。
必ず退職できるとは限らない
希望退職制度では、その対象者が限定されているケースがあります。
例えば、年齢や勤続年数、部門・職種・役職などで、対象者とされていなければ希望退職はできません。
さらに、退職してほしくない社員がいると、希望退職には会社の承諾を要するケースもあります。
応募期間、応募人数などによる制限があることもあります。
これらの制限は、会社が重要と考える人材を希望退職させないためのもの。
そのため、あなたが退職してほしくないと評価されているとき、希望退職制度がはじまっても、必ず退職できるとは限らない点に注意が必要です。
希望退職制度の応募要項を、よく読み込んで確認してください。
せっかく応募しても、承諾が得られないなどで退職できないと、社内での居心地が悪くなったり、最悪の場合にはパワハラの被害を受けてしまったりするリスクがあるからです。
退職は強制されたときの争い方
希望退職制度は、あくまで「希望」をつのる制度。
したがって、希望退職とは名目で、実際は退職を強要しているなら、違法です。
経営状況が悪化した会社において、辞めてほしい社員に対して積極的に希望退職を勧めることは、「肩たたき」として社会問題化しました。
強制的に退職させられてしまったら、強く撤回を求めましょう。
脅して退職させられたなら強迫、だまして退職させられたなら詐欺により、退職の取り消しを主張できます(民法96条)。
会社がそれでも違法性を認めないなら、労働審判や裁判など、法的手続きで争います。
このとき、社員としての地位を確認してもらうとともに、損害賠償を請求できます。
退職を強要されていると感じたら、次の解説を参考にしてください。
転職後の未来を、事前に検討する
転職は、一般論としてキャリアアップというメリットがありますが、デメリットも大きいです。
自分の評価は甘くなりがちですが、冷静かつ客観的に分析しましょう。
自分の価値や能力、年齢、それに対する会社の評価などの分析も、希望退職するかの指針となります。
転職を積極的に勧めてくるエージェント、転職サイトにまどわされてはいけません。
雇用情勢は景気変動に大きく左右され、中高年層の再就職は若年層に比べて難しくなりがちです。
希望退職に応じる前に、転職後の未来を再設計してください。
希望退職を拒否すると、その後に解雇されてしまう?
ここまでは、希望退職に応じる方を想定した解説でした。
最後に、希望退職を拒否したとき、どんな扱いになるかを解説します。
希望退職に応募しなかったり拒否したりするとき、将来の流れを知らなければ、思ってもみなかった不利益を受けるおそれがあります。
希望退職は拒否できる
希望退職はあくまでも「希望」にすぎません。
そのため、制度の対象になっていても、応募しないのは労働者の自由です。
なかには、希望退職に応募するよう勧められる例もありますが、拒否することが可能です。
むしろ、退職するよう強要されたり、希望退職に応募するよう強くプレッシャーをかけられたりするのは、解雇と同じこととなってしまいますから、違法です。
希望退職しないと解雇されるリスクあり
ただし、希望退職制度に応募しないとリスクもあります。
というのも、会社が希望退職を募集するのは、経営状況が良くないことを意味します。
今後、経営再建のため、解雇が行われる可能性も高いです。
会社の業績を理由とした解雇を、法律用語で「整理解雇」といいます。
一般には、リストラ、肩たたきなどともいいます。
希望退職制度の対象は、会社にとって貢献度の低い、価値の低い人材とみられている危険があります。
そのため、いざ、整理解雇となると、解雇者の選定において真っ先に対象となることが予想されます。
整理解雇の対象となるおそれのあるとき、今のうちに希望退職に応募するのも1つの選択肢です。
不当解雇を争うとき、次の解説を参考にしてください。
解雇が違法となるケース
希望退職制度に応募しないと整理解雇されるリスクがあると解説しました。
しかし、解雇は、解雇権濫用法理により、客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性が必要(労働契約法16条)。
特に、整理解雇が有効となるには、裁判例で確立された「整理解雇の4要件」を満たさねばなりません。
具体的には、次の4つです。
- 人員削減の必要
- 解雇回避の努力義務
- 合理的な人選基準
- 手続の妥当性
したがって、「希望退職には応募しない」と決断するとき、上記4要件に照らして、今後整理解雇がされる可能性があるのか、また、その解雇は適法なのかどうか、といった点を検討する必要があります。
もし、希望退職制度がはじまっても、「まだ人員削減の必要性は、解雇をするほどではないか」、「解雇者の選定は、希望退職制度の対象者より狭くなるべきではないか」と思うなら、希望退職には応じないという選択もありえます。
整理解雇を争うなら、次の解説もご覧ください。
まとめ
今回は、希望退職制度について、対象となった労働者が知りたいポイントを解説しました。
応じる場合は、条件の目安などが参考となるでしょう。
一方、希望退職を拒否するなら、違法な解雇の犠牲にならないよう適切に対処せねばなりません。
世間の雰囲気が暗く、景気が悪化しているときこそ、希望退職制度が多くの会社で活用されます。
希望退職に応じるかどうか、世間の動向、あなた自身の転職可能性を考え、冷静に判断すべきです。
希望退職に応じて、将来後悔してしまうことのないよう、よく検討してください。
労働者側では、判断材料が少ないこともあります。
将来の見通しが不透明で不安なとき、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
- 希望退職制度では、退職金の割増、その他の条件面における優遇が受けられる
- 希望退職した場合、しなかった場合のメリット・デメリットを比較し、検討する
- 希望退職制度といいながら、実際には退職を強要されるなら、違法となる
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