多様な働き方の広がる近年、定年まで勤めず、退職を決意する方も多いです。
職場の人間関係や将来の不安など、辞めたい理由は十人十色。
その一方、円滑退職するには、退職予告期間を含め、退職のルールを知る必要があります。
退職予告期間は「退職をいつまでに言い出せばよいか」に関するルール。
つまり、退職届をいつまでに出せば退職できるのか、には法的な決まりがあるのです。
結論としては、退職予告期間は2週間が原則です。

上司に退職を伝えても、引き止めがしつこい……

就業規則に退職3ヶ月前に伝えるよう書いてある
労働者はどんな理由でも退職することができます。
民法の定める2週間の退職予告期間を経過してもやめられないのは違法の可能性あり。
会社が一方的に延長する退職予告期間なら、盲目に従う必要はありません。
今回は、退職予告期間のルールについて労働問題に強い弁護士が解説します。
【退職とは】
【退職時の注意点】
【退職できないとき】
【退職金について】
退職予告期間は2週間!

退職予告期間とは、退職の意思表示をしてから、労働契約が実際に終了するまでの期間を意味します。
民法の定める退職予告期間は、2週間が原則です。
民法627条は、次のように定めます。
民法627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
1. 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
2. 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3. 6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、3箇月前にしなければならない。
民法(e-Gov法令検索)
つまり、退職の希望日があるなら、その2週間前に意思表示しなければなりません。
この「2週間」はカレンダー上の日数であり、休日や祝日を含みます。
また、民法の日数算定のルールにしたがい、退職を申し入れた日の翌日から起算します。
労働者の退職は自由ですが、「すぐに退職できるか」は、法律上、別の問題です。
つまり、退職は可能でも「いつでも退職できる」わけではありません。
重大プロジェクト中に責任者が退職するなどの事態は、会社にとって迷惑でしょう。
他の社員への支障や、ひいては会社に損失あるような退職は、ある程度制限されます。
不測の不利益を甘受せねばならないのは、会社にあまりに酷だからです。
このような考えから、民法は退職予告期間を定めます。
退職の意思表示をしても、その直後に労働契約が終了するわけではありません。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説します。

例外的な退職予告期間
次の場合は例外的に、原則の2年ではない退職予告期間となることがあります。
- 期間の定めのない雇用であり、期間によって報酬を定めた場合で、使用者からの解約の申入れ
当期前半に申入れた場合、当期の満了時に契約が終了する
(当期後半の申入れだと、次期の満了時に契約が終了する) - 期間の定めのない雇用であり、6ヶ月以上の期間によって報酬を定めた場合
退職予告期間は3ヶ月となる - 期間の定めのある雇用の退職予告期間
期間の満了まで退職できないのが原則だが、やむを得ない理由があるときは退職できる - 就業規則などでより長く退職予告期間を定めた場合
期間の定めのある雇用の退職予告期間
以上の退職予告期間は、期間の定めのない労働契約(つまり無期雇用)に関するルール。
これに対し、契約社員など、期間の定めのある雇用の場合、考え方が異なります。
期間の定めのある雇用では、その期間の満了まで退職できないのが原則です。
ただし、やむを得ない理由があるときは退職することができ、この場合は退職予告期間なく「直ちに」労働契約を解除できます。
労働基準法628条(やむを得ない事由による雇用の解除)
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
民法(e-Gov法令検索)
なお、このように退職の自由が制限されるため、契約で長すぎる期間を定めるのは許されません。
不当な人身拘束が許されないのは、有期雇用でも同じこと。
そのため、労働基準法14条により、労働契約期間の上限は、原則3年とされます(専門的知識等を有する労働者、満60歳以上の労働者については例外的に5年)。
契約社員の雇止めについての知識も参考にしてください。
退職予告期間と解雇予告期間の違い
退職予告期間と区別しておくべき用語に、解雇予告期間があります。
解雇予告期間は、解雇するときに要する予告期間であり、主に使用者が注意すべきものです。
労働者に課されるルールではありません。
このように、解雇予告期間は30日と、退職予告期間よりも長く設定されています。
これは、労働者に不利益となる解雇について、会社を厳格に規制するためです。
不当解雇に強い弁護士への相談は、次に解説しています。

2週間を超える退職予告期間を定めるのは違法?

退職を告げてから2週間で契約が終了するのが法律上のルールでした。
しかし実際は、「申出は退職日より1ヶ月前とする」「退職の3ヶ月前までに届け出る必要がある」など、法律上のルールを超える退職予告期間を、就業規則などに定める会社もあります。
引き止めを目的に、退職予告期間を延長するという誓約書にサインさせるケースもあります。
会社として「2週間で退職されるのは都合が悪い」事情が背景にあります。
会社の本音は、次の点にあります。
- 期間内では業務の引継ぎが終わらない
- 代替の人員を採用できない
- 顧客への対応の手間が増える
- ブラック企業でも文句言わずに働く社員を手放したくない
そして、法律のルールが定まっている以上、これらの会社の都合はごく一方的なものです。
こうした2週間を超える退職予告期間を定める合意が有効なのか、解説します。
不当に長い退職予告期間は無効
2週間を超える退職予告期間が無効かどうかは、法律上のルールである民法627条1項が、任意規定か、強行規定かによって判断されます。
(任意規定は、それに違反するとしても当事者の合意を優先すべき法律の規定、強行規定は、当事者の合意によっても覆せない重要な規定のことです)
民法627条1項が強行規定なら、2週間を超える退職予告期間は、たとえ労働者が合意しても無効です。
しかしこの点について、最高裁の判例はなく、決着はついていません。
ただし、不当に長い期間の拘束は許されず、無効であると主張して争うべきです。
これに対して、2週間を多少超える退職予告期間が定められていても、それによる労働者の不利益がそこまで大きくなく、その期間分(もしくはそれを超える)対価を得ることができるなどの事情がある場合は、会社の定める退職のルールに従うのが無難なケースもあります。
退職予告期間の有効性について判断した裁判例
下級審の裁判例では、2週間の退職予告期間は強行規定であると明らかにした例があります。
1つ目が、東京地裁昭和51年10月29日判決(高野メリヤス事件)です。
本事案で裁判所は「民法627条の予告期間は、使用者のためにはこれを延長できないものと解するのが相当である」と判断し、その理由として「法は、労働者が労働契約から脱することを欲する場合にこれを制限する手段となりうるものを極力排斥して労働者の解約の自由を保障しようとしている」ことを挙げています。
そして具体的には、「退職日の6ヶ月前に解約申入れをしなければならない」という規定につき、2週間を超えない範囲で有効となるに過ぎないことを示しました。
なお、裁判所は、そのほか退職許可制の規定についても「労働者の解約の自由を制約する」として効力を有しないと判断しました。
2つ目が、福岡高裁平成28年10月14日判決です。
本事案で、退職予告期間との関係では、就業規則において「従業員が自己都合により退職するときは少なくとも30日前までに所属長に文書により退職を申し出をしなければならない」と定める規定の有効性が争点となりました。
裁判所は「労働者からする退職の申出は、退職まで2週間の期間を要するのみであり、同規定は強行規定と解される」と判断し、「これに反するX社の就業規則ないし本件誓約書の効力には疑義がある」として、否定的な評価を下しました。
なお、退職までに、2週間以上の引継ぎ期間を確保しようとし、「引継ぎを完了すること」を退職金を満額支払う条件として定める企業もあります。
この場合、退職そのものは妨げられないものの、退職金が減額されたり不支給になったりすることは労働者にとって不利益が大きく、その程度によっては、退職の自由を侵害すると評価される可能性があります。
一方で、裁判例には、就業規則における退職予告期間を守らず退職した社員の退職金を不支給とした会社の判断を認めるもの(大阪高裁昭和58年4月12日判決)があります。
労働者が裁判で勝つ方法についても参考にしてください。

労働者には退職の自由が認められる

会社で働いていると、退職には会社の許可が必要だと思い込んでしまう人もいます。
しかし、労働者には退職の自由が認められています。
その根拠もまた、前述した民法627条です。
同条は「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」と定めており、いつ退職するかのルールは措くとして、つまりは「理由を問わず、退職することができる」ということを示しています。
要するに、どんな理由であれ、労働者が自分だけの判断で、退職するかどうかを決定できるということ。
「後任が不在だから」「忙しい時期に辞めるのは自分勝手だから」といった理由で、退職を阻むことはできません。
自分の望まない契約に、長期間拘束される理由などなく、我慢する必要はありません。
会社を辞めたいとき、辞め方についての解説をご覧ください。

退職予告をするときの注意点

最後に、退職予告をするときに注意すべきポイントを解説します。
退職の事案は、解雇に比べれば紛争は激化しづらいもの。
とはいえ、油断していると足元をすくわれます。
一刻も早く退職したいなら弁護士に相談する
ここまでの解説は、あくまで、会社に非がなく、労働者の意図で辞める場合です。
これに対し、会社の責任で辞めざるを得ないなら、結論は全く異なります。
例えば、ハラスメントがあってこれ以上働けないといったケースは、退職予告期間を気にしていては被害が拡大するおそれがあります。
この場合、速やかに出社をストップし、退職予告期間の間は会社に行かないようにし、自分の身を守るしかありません(この場合に「会社の責任で就労できない」といえるなら、その期間中の給料も請求すべきです)。
ただし、このような方法は会社との「戦い」に移行することを意味します。
そのため、安易に行うと、損害賠償請求されるなど、手痛い反撃を食らう危険もあります。
それでも会社を辞めたいときは、弁護士に相談してください。
弁護士ならば、あなたが辞めたい理由に応じて、適切なアドバイスをすることが可能です。
また、会社の違法のある点について弁護士から警告を送ることで、話し合いによって合意退職に成功するケースもあります。
会社から損害賠償請求された時の対応は、次に解説します。
適切なタイミングで予告する
退職による負担を抑えつつ、円満退職を目指すには、退職するタイミングに気をつける必要があります。
まず、就業規則などで、退職予告期間を確認してください。
転職先の入社日にも、可能な限り余裕を持たせておきましょう。
保険の切り替えの手間を省くには、退職の翌日が入社日となるのがベストです。
また、退職を希望する日がボーナス支給日の前後でないかを確認するのも重要です。
「支給日在籍要件」がついている会社では、退職するとボーナスが不支給となってしまいます。
会社に不満を言われづらくするために、繁忙期よりも閑散期を狙うのもポイントです。
業務の引継ぎを早めに終わらせる
会社の退職ルールを遵守しても、業務の引継ぎが不完全では意味がありません。
引継ぎは、退職日までに終わらせておきましょう。
もちろん、引継ぎが終了しないのを理由に退職を拒否するのは違法ですが、業務に大きな支障が出る事態ともなれば、会社としても退職を止めるために手を尽くすことでしょう。
応じないと損害賠償されるリスクがあるなど、争いごとはできるだけ避けるほうがよいです。
退職時の引き継ぎが間に合わないときの対応も参考にしてください。
退職届が受理されないなら内容証明で送る
退職予告期間に配慮して退職届を出しても、上司に受け取ってもらえない例もあります。
退職は労働者の自由なので、退職届を受理しないのは許されません。
後から争いになるのを避けるには、退職の意思表示をした事実を証拠化するため、内容証明で退職届を送付する方法も検討してください。
退職届を内容証明で出すべきケースについて解説しています。
未消化の有給休暇を取得する
退職予告をする際、未消化の有給休暇があるなら、取得してください。
有給休暇が残ったまま退職すると権利は消滅してしまいます。
退職予告期間すべてを有給休暇とし、退職まで出社しなくてもなんら違法ではありません。
有給休暇は労働者に与えられた権利であり、確実に行使すべきです。
有給休暇を取得する方法は、次に解説しています。

まとめ

会社で働くのが嫌になったなら、退職するのは労働者の自由。
ブラック企業、ワンマン社長に我慢して従い続ける必要はありません。
退職には、労働者ごとの理由や都合があるでしょう。
自主退職するのに、希望するタイミングで辞められないと、予定が狂ってしまいます。
そのために、法律は退職予告期間のルールを定め、退職の意思表示から2週間の経過で退職できると定める(民法627条1項)のです。
会社としては可能な限り働いてもらうため、退職予告期間を長く変更したいと考えるでしょう。
円満退職を目指すなら、譲歩できる条件は、許容してもよいかもしれません。
円滑に退職するには、退職予告期間に注意するだけでなく、業務の引き継ぎを適切に行うなど、最後まで手抜かりのないよう心がけてください。
不当な期間延長による不利益が生じた場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。
【退職とは】
【退職時の注意点】
【退職できないとき】
【退職金について】