「外資系企業には退職金がない」といわれることがあります。就職サイトなどでもネガティブな口コミを見た方もいるのではないでしょうか。
実際、外資系企業で、退職金のない会社があります。しかし、すべての外資系で、退職金が出ないわけではありません。確かに、外資系の社風は、退職金の考えに合わない部分があります。それでもなお、受け取る退職金を増やす努力をすべきは、外資系でも同じこと。
外資系は、実力主義、成果報酬の会社が多いです。能力を認められないと、退職勧奨をされる危険もあります。このような場合に、退職後の生活を守るため、受け取れる金銭がないか考えるべきです。
今回は、外資系企業の退職金の相場と、増額する方法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 制度のない会社も多いが「外資系」というだけで退職金が出ないのはおかしい
- 外資系では、通常の退職金制度のほか、特別退職金(パッケージ)が重要
- 外資系の退職金で損しないよう特別退職金(パッケージ)の増額交渉をする
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
外資系でも退職金をもらえる
外資系に勤務していると不安なのが、退職金の有無でしょう。外資系の働き方は、高収入と引き換えに、転職が多いのが特徴。しかし、たとえ収入が高くても、毎月の給料だけでは心もとないでしょう。
「外資系企業だから」というだけでは、退職金がもらえない理由にはなりません。まず、外資系でもらえる可能性ある退職金に、どんなものがあるか解説します。
通常の退職金
外資系でも、日系企業と同様の退職金制度を用意する会社は少なくありません。
そもそも、退職金の支給は、法律上の義務ではありません。労働契約で、退職金を払うと決まっていなければ受け取れないもの。このことは、外資系でも日系でもあてはまります。
また、退職金のルールが定められているとき、支給条件を満たす必要があります。
通常の退職金がいくらなのかは、退職金規程を確認してください。転職する際に、期待していた退職金が出なくて困ることのないよう注意したいところです。なお、退職金のない外資系企業は、その分、月々の給料が高い傾向にあります。
特別退職金(パッケージ)
通常の退職金が、制度として用意されていなくても、あきらめるのは早いです。外資系企業では、特別退職金がもらえるケースも多いからです。
特別退職金は、労働者が退職を勧められた際にもらえる金銭。外資系では「パッケージ」と呼びます。「特別」とあるとおり、会社に法的な支給義務はありません。
外資系で特別退職金が払われる例が多いのは、内外の法律の差に理由があります。
外資系だろうと、日本の法律が適用されると、解雇が強く規制されます。正当な理由のない解雇は、不当解雇として違法になります。これに対し、海外では、解雇が日本よりゆるやかに認められる傾向にあります。
このギャップを埋めるため、外資系企業は、日本では認められづらい解雇を正当化するため、パッケージを提案して退職勧奨して、自主退職を受け入れてもらおうとするのです。
「退職金を請求する方法」の解説
外資系企業の退職金の相場
外資系において、退職金で損しないために、相場を知る必要があります。実際どれくらい受け取れるか知り、少ない場合には戦うべきケースもあります。
退職金規程や、支給の慣行に基づいて検討してください。また、退職時にパッケージ交渉するときにも、相場の目安を知っておかねばなりません。
通常の退職金の相場
通常の退職金には相場がなく、企業ごとに異なります。
退職金は、大企業だと数千万円規模になることも。多額な会社ばかり目に付きますが、莫大な退職金のある会社は少ないです。自社に退職金制度があるなら、まずは退職金規程を確認してください。
退職金規程に示されたルールに基づいた金額が、退職金の相場となります。退職理由によって、受け取れる金額が違う例が多いため、よく確認しておいてください。
「自己都合と会社都合の違い」の解説
特別退職金(パッケージ)の相場
一方、退職勧奨にともないパッケージをもらう場合、確実な相場はありません。一般的に、会社から提案されるパッケージは、3ヶ月〜1年分が目安となります(ただし、会社に非があるケースで、2年分など高額の提案を得られるケースもあります)。
しかし、パッケージの相場は、会社ごとに異なります。解雇の解決金と同じく、次のような事情が参考にされます。
- 解雇する正当な理由があるかどうか
会社を辞めるにあたっての労働者と会社、それぞれの責任の大きさが特別退職金(パッケージ)の額に影響します。解雇される理由がないのに辞めざるを得ないとき、パッケージを増額するよう交渉できるからです。 - 退職せざるをえない理由
労働者側に退職せざるを得ない理由や、その時期などの制約がある場合、交渉で不利な要素となってしまいます。 - 勤続年数、退職時の年収
通常の退職金と同じく、会社への貢献や成果を示す意味で、計算に反映されます。 - 外資系企業の本国の文化、本社の意向
外資系の場合には、本国の文化や本社の意向など、日本とは異なる風習が影響することはよくあります。
企業内における、過去の先例も参考にされ、特に外資系では本国との待遇の比較もされます。自分と同じ条件の退職者が、どれほどの金額を受け取ったか、調査しておいてください。
「退職勧奨の手口」の解説
外資系に退職金制度がない会社が多い理由
退職金制度がない外資系企業が多いのには、理由があります。
雇用慣行の違い
まず、雇用慣行の違いです。外資系では日本のように「終身雇用」の思想が普及していません。そもそも、日本の退職金制度は、終身雇用が前提です。同じ企業で、長年働いた「報奨」という性質が、退職金にはあるからです。
一方で、海外は実力主義、成果主義の考え方が強いもの。優秀な労働者ほど、高い収入やポジションを求めて転職するのが当たり前で、退職金が前提とする、長い勤続をするケースはまれです。
「退職金の法的性質」の解説
成果主義で給料が高い
勤続年数の短い人が多く、転職が当たり前の状況だと、貢献の対価は、月々に還元されることが求められます。この考え方から、インセンティブ報酬の割合などが高いのが、外資系の特徴です。
老後資金の考え方の違い
最後に、日本とは、老後資金のとらえ方が違う点です。日本では、老後の生活は、退職金や年金で暮らすのが一般的でした。しかし、海外では、労働者は給料を元手にして、老後資金を蓄えていくという考えの人が多いです。
外資系の退職金の問題は、特に労働問題を多く扱っている弁護士に相談すべきです。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
外資系企業の退職金を増額する方法
次に、可能な限り退職金を増額する方法を解説します。
外資系の退職金で損しないために重要なのが、退職時のパッケージ交渉。外資系企業で働く労働者なら、パッケージの増額交渉をした経験があるでしょう。退職後の生活保障のためにも、少しでも金額を増やしたいところです。
有利な金額を提案して交渉する
外資系は、「情」より「理」を優先する社風の企業が多く、「遠慮」や「謙虚」は逆効果となるおそれがあります。ドライに交渉する必要があるため、まずは労働者側が、自分にとって最大限に有利な金額を提案することを心がけなければなりません。
これは、退職時のパッケージ交渉だけでなく、転職時の初めの給与設定にも言えることです。
良い評価を得て昇給を求める
外資系といえど、通常の退職金は、月額の基本給をベースに計算される会社が多いです。そのため、一旦は前職と同程度の給与を設定したとしても、その後に良い評価を得たり、成果を出したりしたなら、昇給を求めることが、退職金の増額に繋がります。
実力主義で成果を重視する外資系ほど、有能な人材には対価を惜しまない傾向にあります。
自主退職は拒否して会社都合の退職を求める
次に、自主的な退職は、拒否してください。自主退職に素直に応じれば、そもそも、パッケージの提案すらされない可能性があります。自発的に辞めていく人に、お金を払う必要はないと考えるからです。会社から辞めるよう言われても、納得できないという意思を示すようにしましょう。
退職金の金額は、自己都合より会社都合のほうが上乗せされることが多いです。労働者に責任なく収入を失うのは酷だからです。このことは、外資系の退職金でもあてはまります。解雇や退職勧奨は、会社都合による退職の典型例。なので、まずは、労働者にとって有利な退職金の額を提案し、交渉を開始しましょう。
外資系でよく争いになるのが、能力不足を理由にした解雇のケース。外資系は実力主義ですから、求められる能力もシビアに評価されます。
能力不足を指摘するとき、特に外資系企業だと、PIPや業務改善プログラムなど、厳しい退職勧奨を継続し、強いプレッシャーをかけてくる例が多く見られます。
「退職勧奨の拒否」の解説
違法な面談を録音する
退職勧奨は、あくまで説得活動であり、退職するかどうかは自由に決められます。面談時に、不当な圧力をかけ、自由な選択を妨げるのは許されません。違法な退職勧奨があれば、退職金だけでなく慰謝料も請求できます。万が一に備え、面談を録音して証拠を残しておいてください。
また、面談時には、退職を迫る理由が説明されるでしょう。後になって、理由が追加され、会社に都合よく変更されないためにも、録音は有効です。
「パワハラの録音」の解説
パッケージの増額交渉をする
最後に、提示されたパッケージの増額を交渉する方法があります。退職する理由がないなら、「増額しないなら退職しない」とはっきり伝えましょう。同じ立場で退職した社員のパッケージがわかるなら、この点も強く主張してください。
外資系企業では、人員の入れ替わりが多く、辞める社員も多いもの。他の労働者のパッケージを知ることは、増額交渉でとても有効です。「辞めざるをえない」なら解雇と評価されるケースもあります。このとき、不当解雇の可能性があるなら、会社と争う姿勢を見せ、徹底的に増額交渉をすべきです。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
退職金の代わりになる制度
多くの外資系が退職金制度を採用しなくても、代わりになる制度を導入しています。外資系とはいえ、日本で活動する以上、日本の労働者を雇用しているでしょう。退職金が出なくても、次の制度があれば、退職時に金銭を受け取れる可能性があります。
確定拠出年金
1つ目が、確定拠出年金制度。確定拠出年金は、拠出した掛金と運用収益をもとに、将来の給付額を決める年金です。
日系でも採用例が増えましたが、特に外資系で、確定拠出年金制度のある会社が多いです。運用失敗のリスクもありますが、うまく運用すれば退職時に高額を受け取れる可能性があるだけでなく、将来の資産形成にも役立ちます。
インセンティブ
外資系の多くの会社には、インセンティブ制度があります。日本風にいえば「歩合給」です。インセンティブは、業績や成果に応じて、給料を増減させます。
退職金は、長期に渡る貢献を参考に、労働者に還元するもの。しかし、長く勤めることの少ない外資系企業では、短期的な還元が必要です。退職金制度がなくても、インセンティブをもとに退職後の生活の蓄えができます。
もっとも、インセンティブを退職金の代わりにするのにはデメリットもあります。退職金は、在職期間によって決まるので予測が立てやすいもの。一方でインセンティブは、業績に連動しており、労働者の見通しが立ちづらいリスクがあります。
「ヘッドハンティングによる転職の注意点」の解説
ケース別の外資系における退職金の注意点
最後に、外資系の退職金で、注意したい点をケース別に解説します。
退職金は、条件を満たさなければ得られないことがあります。更に、退職金の支給をはばむ、外資系企業に特有の事情もあり、注意せねばなりません。
外資系が撤退しても退職金をもらえるか
外資系企業に特有の事情として、日本からの撤退があります。本国ではうまくいっても、日本の風土に合わないビジネスもあります。業績不振など、外資系企業そのものが撤退し、法人がなくなれば、退職せざるをえません。
この場合、労働者にはまったく非はないので、退職金の交渉をすべきです。特に、本国の法人から、一定のパッケージが出るなら、交渉しやすいでしょう。
ただし、外資系の撤退時におけるパッケージ交渉は、リスクもあります。法人が倒産したら解雇されてもしかたないのが基本だからです。少なくとも、業績を理由とした、いわゆる整理解雇の要件を満たすか、検討を要します。
「整理解雇の違法性」の解説
外資系の役員は退職金を受け取れるか
外資系の役員は、従業員にもまして高い地位と収入を与えられます。一方で、外資系企業の日本人役員には、退職金制度がない例も多いもの。それでもなお、退職時のパッケージ交渉はすべきです。
外資系企業だと、日本法人の社長すら大きな権限はないことも。このとき、本国の指示なくして、退職金を自分に払うこともできません。
役員の退職金は、定款もしくは株主総会の決議で支給額を決める必要があります。本国の株主との間で退職金の約束ができていないと、まったく払われない危険もあります。
日本法人社長など責任ある地位の方の退職金は、請求が高額となり大きな争いになります。お悩みのときは、退任する前に、弁護士に相談ください。
「取締役の退職金請求」の解説
まとめ
今回は、外資系企業の退職金制度について、解説しました。
退職金は、そもそも世界ではあまり見られない制度です。日本では一般的な退職金も、世界的には、ない会社のほうが多いかもしれません。しかし、日本法人である限り、たとえ外資系でも退職金のある会社は少なくありません。
制度がなくても、退職勧奨では特別退職金が提示されることもあります。退職金は、退職後の生活費として大いに役立ちます。もらえるものは、損にはならず有利な条件で得られるよう交渉すべきです。本当に妥当な金額か、不安なら、弁護士に相談ください。
- 制度のない会社も多いが「外資系」というだけで退職金が出ないのはおかしい
- 外資系では、通常の退職金制度のほか、特別退職金(パッケージ)が重要
- 外資系の退職金で損しないよう特別退職金(パッケージ)の増額交渉をする
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
【退職とは】
【退職時の注意点】
【退職できないとき】
【退職金について】