退職時に必要な証拠のうち、特に重要なのが退職証明書です。
退職証明書は、その名の通り「退職したこと」の証明書。
行政の手続きに必要となったり、転職先に提出を求められたりする重要な役割があります。
退職の機会は、人生で何度も訪れるものではなく、慣れない方も多いでしょう。
退職証明書がなぜ必要なのか、もらうための方法など、必要なことを理解してください。
また、会社から退職証明書をもらえないときの対処法も知っておく必要があります。
今回は、退職証明書の基本的な法律知識を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 退職証明書は労働者にとって重大な資料であり、請求したら会社には発行義務がある
- 退職証明書を直接請求しづらいなら、メールで伝えたり弁護士に代理してもらったりできる
- 退職証明書をもらえないときは理由を確認し、請求した事実を証拠に残しながら対応する
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退職証明書とは

退職証明書とは、退職した事実と、在籍時の業務内容などを証明する書類のこと。
退職した会社から交付される重要な書類です。
退職証明書の発行は、労働基準法22条1項で会社の義務とされます。
労働基準法22条(退職時等の証明)
1. 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
2. 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。
3. 前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。
4. 使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項及び第二項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。
労働基準法(e-Gov法令検索)
退職証明書の交付は会社の義務であり、労働者が自分で作成することはできません。
そして、いかなる事情があれど、請求された退職証明書を発行しない会社は違法です。
(ただ交付すればよいのではなく、「遅滞なく」交付する義務があります)
退職証明書を請求されても発行しない場合、「30万円以下の罰金」の刑罰が下されます(労働基準法120条1項)。
雇用の形態によって区別はなく、「労働者」(労働基準法9条)なら退職請求書をもらえます。
正社員だけでなく、バイトやパート、派遣社員でも退職証明書を請求してください。
退職証明書に記載する内容は?
退職証明書に記載する内容は、次の5項目が労働基準法22条1項に定められています。
- 使用期間
退職まで、その会社に在籍した期間を記載し、証明する
(記載例:「平成20年4月1日から令和3年9月30日まで」) - 業務の種類
在職中に従事していた業務を記載し、証明する
(記載例:「営業職」) - その事業における地位
在職中に就任していた役職について記載し、証明する
(記載例:「営業部第2課係長」) - 賃金
退職までに得ていた賃金額を記載し、証明する
(記載例:「基本給300,000円、手当50,000円」 - 退職の事由(解雇の場合にはその理由)
退職理由、自己都合か会社都合かなどを記載する
(記載例:「職務命令に対する重大な違反を理由とする解雇(就業規則XX条)」)
その他に、「労働者が会社を退職した」という事実を証明する機能を果たすため、退職者の氏名、会社名、退職日などは必須となります。
なお、退職証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはなりません(労働基準法22条3項)。
言い換えれば、記載内容について労働者が決めることができます。
例えば、転職先に知られたくない退職理由などを省略することが可能です。
求めてもいない項目を会社が勝手に記載した場合、直ちに修正を求めておきましょう。
退職証明書はどこでもらえる?
退職証明書は会社が発行するものです。
具体的には、自身が労働契約を結ぶ使用者に請求します。
多くの会社では、退職証明書の作成は、人事部、総務部などの部署が担当します。
派遣社員の場合は、派遣元企業に雇用され、派遣先に派遣されています。
そのため、退職証明書は、派遣元企業に請求するようにしてください。
退職証明書はいつもらえる?
退職証明書は、退職した事実の証明です。
そのため、退職証明書がいつもらえるかというと「退職時」となります。
ただし、会社に交付義務が生じるのは、労働者が請求をした時点です。
退職証明書をもらうには、黙って待つのでなく会社に請求しなければなりません。
交付が遅いときは、「遅滞なく」交付していないといえるため催促しましょう。
多くの会社では、退職日より前でも、労働者の求めに応じて柔軟に発行してくれます。
なお、法律上、「請求から○日以内」などと明確には定められていません。
「遅滞なく」ではるものの、結局はいつもらえるかは、会社や発行する部署の働き次第です。
少しでも早く入手したいなら、返信用封筒を同封する、自分で会社に取りに行くなど工夫も必要です。
例外的に、退職前でも交付が義務付けられるのが、解雇による退職の場面です。
この場合、労働基準法22条2項により、解雇理由証明書を請求できます。
(解雇理由証明書は、解雇予告をされた後であれば、請求によって遅滞なく交付されます)
解雇理由証明書については次の解説をご覧ください。

退職証明書の使い道は?

退職証明書は、退職したという事実を証明しますが、利用される場面は主に2つ。
1つは公的サービスの加入手続き、もう1つは転職活動で会社から求められたときです。
それぞれの場面ごとに、証明すべき事情が異なります。
以下では各シーンに応じて、どのような使い方をされるか解説します。
国民健康保険・国民年金保険の加入手続き
国民健康保険、国民年金の加入手続きでも、退職証明書が活用されます。
行政が、職場の健康保険や厚生年金の資格を喪失していることを確認する必要があるからです。
このことを証明するため、資格喪失証明書、離職票と並んで退職証明書が用いられます。
国民健康保険、国民年金の加入手続きでは、資格喪失証明書を用いるのがより一般的です。
ただ、会社の手続きが遅れ、すぐには発行されないとき、退職証明書で代替できます。
保険や年金の切り替えが遅れると、労働者にとって不利益が生じるおそれがあります。
転職活動で提出するケース
転職活動の画面では、前職に関する多くの事実の証明が求められます。
企業にとって、求職者の経歴、前職での処遇が、採否や今後の待遇に影響するからです。
採用面接や履歴書、職務経歴書など労働者の作成する資料では、判断材料として不十分でしょう。
自分のことを良く言う労働者の発言のみでは信じられないこともあります。
そのため、客観的に把握するために退職証明書を活用できます。
前職の会社が作る退職証明書なら、前職における労働者の状況を客観的に知ることができます。
判断の資料として信用性が高く、入社後のトラブル防止に役立つため、採用の場面で重宝されます。
また、副業、兼業を禁止する会社では、前職を完全に退職したことが入社の当然の前提となります。
この点を証明するにも、退職証明書は役立ちます。
転職活動で退職証明書を求める企業は、労働トラブルに慎重な、良い企業だと評価してよいでしょう。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説しています。

退職を証明する他の書類との違い

退職を証明する書類には、退職証明書以外に、離職票、離職証明書があります。
退職証明書と離職票の大きな違いは、使うタイミングや発行元にあります。
退職証明書は、主に、転職活動や国民健康保険・国民年金の加入時に利用する書類です。
一方で、離職票は、失業保険の給付に必要な書類です。
退職証明書は会社が発行するのに対し、離職票は公的機関であるハローワークが発行します。
また、離職証明書は、正式名称を、雇用保険被保険者離職証明書といいます。
離職証明書は、会社が発行しますが、離職票を得るためにハローワークに提出するものです。
労働者が早く離職票を得られるよう、退職日から10日以内に提出しなければなりません。
退職証明書 | 離職票 | 離職証明書 | |
---|---|---|---|
記載内容 | ・使用期間 ・業務の種類 ・その事業における地位 ・賃金 ・退職の事由 | ・被保険者番号 ・資格取得年月日 ・離職年月日 ・離職理由 ・資格喪失原因など | ・被保険者番号 ・離職年月日 ・離職理由 ・賃金額など |
発行元 | 会社 | ハローワーク | 会社 |
発行先 | 退職者 | 会社 (会社経由で離職者へ) | ハローワーク |
利用されるシーン | ・国民健康保険の加入手続き ・国民年金保険の加入手続き ・転職先に提出を求められたとき | ・失業保険の受給 | ・離職票を入手するとき |
離職票をもらう方法は、次に詳しく解説しています。

退職証明書のもらい方

次に、退職証明書のもらい方について順に解説します。
退職を決める
退職証明書は、退職後にもらえるものなので、まずは退職を決断する必要があります。
会社を退職する方法は、自主退職(辞職)、合意退職と、そして解雇があります。
労働者の一存で決められる自主退職なら良いですが、退職勧奨を受けて辞めざるを得なかったり、解雇されたりするケースでは、退職証明書をスムーズにもらいづらいことがあります。
会社に退職証明書を請求する
退職証明書を入手するために、労働者が会社に請求するのが出発点となります。
労働基準法上の権利ですが、請求しない限り発行する義務は生じません。
請求方法に法律上の制限はありませんが、例えば次の方法が選べます。
- 対面で請求する
引き継ぎ業務などでまだ就労中なら、対面で請求することが可能です。 - 電話で請求する
既に最終出社日を過ぎているなら、電話で請求することが可能です。
(ただし、揉めている事案では、証拠に残しづらいデメリットがあります) - メールやチャットで請求する
ハラスメントがあるといった直接話しづらい場面ではメールを活用できます。 - 内容証明で請求する
内容証明なら、請求した内容を証拠に残すことができます。
退職証明書の記載内容にこだわりがあるなど、行き違いの不利益の大きいとき活用できます。 - 弁護士に代わりに請求してもらう
解雇されたケースなどトラブルが予想されるなら弁護士に請求を任せることができます。
会社に連絡をとって退職証明書をもらうにあたり、退職で揉めている方は注意を要します。
連絡を取る方法を工夫して、スムーズに退職証明書をもらえるようにしましょう。
退職証明書を依頼するときに、必ず、記載してほしい事項、記載してほしくない事項、退職証明書が必要な理由、期限を明記するとスムーズに取得できます。
不当解雇に強い弁護士への相談方法は、次に解説しています。

退職証明書をもらえないときの対処法

退職証明書の交付は会社の義務ですが、誠意のない会社では発行してもらえないことがあります。
会社が作成に応じないときでも、退職証明書をもらうための対処法を理解してください。
退職証明書をもらえない理由を確認する
まず、退職証明書を入手できないとき、その理由を確認してください。
理由によって、その後の対処法が異なるからです。
よくある理由ごとの対処法は次の3つです。
会社に法律知識がなく、退職証明書の発行が義務だと知らない場合
特に理由なく交付を拒絶されたなら、単に法律を知らない会社の可能性があります。
労働基準法の条文を示し、義務であることを伝えれば解決できる可能性があります。
退職証明書について定める労働基準法22条1項、違反に対する制裁(30万円以下の罰金)を定める労働基準法120条1項を示して交渉するようにしてください。
円満退職でないため嫌がらせをされた場合
ブラック企業のなかには、円満に退社しないと嫌がらせをしてくる会社もあります。
退職を強要されたり不当に解雇されたりといったケースはもちろん、会社がしつこく引き止めをしてくるのを振り切って退職を進める場合にも、嫌がらせ的に、退職証明書を発行しないようにしてくる場合があります。
悪質な場合には、労働基準監督署や弁護士に相談する必要があります。
会社に不利な事情を証拠化したくない場合
最後に、解雇されたケースでは、特に退職証明書の入手が困難になることがあります。
会社は、解雇の理由について労働者に告げて説明する必要がありますが、大した理由もなく解雇に踏み切る会社のなかには、自社にとって不利な事情を、書面によって証拠化されることを避ける傾向があります。
胸を張って理由を伝えられない解雇は、不当解雇の可能性が高いもの。
解雇に正当な理由がないと判断し、会社と争う必要があります。
不当解雇の争い方は、次の解説をご覧ください。
他の資料で代替する
どうしても退職証明書を入手できないときには、代替の資料を用意しましょう。
代わりになる資料は、退職証明書の使い道に応じて、次の通りです。
- 国民健康保険・国民年金の加入手続き
健康保険資格喪失証明書、厚生年金保険資格喪失証明書、離職票 - 転職活動の場面
在籍証明書、退職予定証明書、離職票
いずれの場合も、退職証明書を発行しない会社が悪いわけで、労働者が損するべきではありません。
特に、転職先から退職証明書を求めらた場面は、労働者にとって提出は急務でしょう。
退職証明書を出せないと次の仕事を失うおそれもあります。
しかし、謝罪し、誠意ある対応をし、他の代替資料を提出すれば、理解を示す会社も多いはずです。
場合によっては、悪い印象を抱かれないよう、前職とトラブルとなっている旨を伝えるのも検討してください。
労働基準監督署へ通報する
説得しても会社が対応しないなら、労働基準法上の義務への違反となります。
したがって、管轄の労働基準監督署に通報し、アドバイスをもらいましょう。
労働基準監督署が違法性ありと判断すれば、調査や是正勧告するなどプレッシャーが期待できます。
他にも労働法に違反する過酷な労働環境があるなら、あわせて申告しておきましょう。
労働基準監督署への相談のポイントは、次に解説しています。

退職証明書をもらえたときの注意点

最後に、退職証明書を受け取った後の注意点についても解説しておきます。
提出前に、入手した退職証明書によく目を通し、不利な内容でないかを確認しておきましょう。
社印なしの退職証明書の場合は?
退職証明書は、離職票と異なり公文書ではなく、書き方や様式に決まりはありません。
印字されたビジネス文書が基本ですが、手書きであっても無効ではありません。
とはいえ、退職の事実を証明する重要な書類であり、行政の手続きに利用する場合、社印が押されている必要があります。
社印なしの退職証明書は、自分で作成した、偽造したなどと疑われる危険があります。
したがって、退職証明書を受領したら、社印が確かに押されているか、確認しましょう。
また、退職証明書の社印が角印でも丸印でも使うことができます。
紛失した場合の再発行は?
退職証明書の請求回数に制限はないと解説しました(平成11年3月31日基発第169号)。
したがって、紛失した場合には、再発行を求めることができます。
ただし、退職後2年が経過すると請求できなくなるため注意を要します(労働基準法115条)。
また、無料で発行する義務まではなく、何度も紛失して再発行を請求すると、費用負担を求められる可能性があります。
退職証明書の記載内容が希望と違う場合は?
退職証明書に書かれた事項が求めたものと違うとき、対応には慎重を期します。
退職者の再就職に不利なものとなるよう、意図的に書いてくる悪質なケースもあります。
また、解雇時に言われた解雇理由の詳細を求めたのに、全く違う解雇理由が記載されることもあります。
解雇の理由に一貫性がないのは適切でなく、いい加減な理由をつけて強行した不当解雇の可能性があります。
再度解雇理由をチェックして、解雇の不当性を疑ってください。
まとめ

今回は、退職証明書について、法的な観点から解説しました。
退職証明書は、転職活動や公的サービスの加入手続きなど、様々な場面で必要となります。
基本は、退職する会社の人事部や総務部などが発行してくれます。
会社が発行してくれないとき、労働者にとっては重要な書面なので、必ず請求しましょう。
退職日から2年を過ぎると、法的にも請求することはできなくなってしまいます。
退職時に揉めると、退職証明書をもらえなかったり、記載が希望と違ったりすることも。
解雇や退職勧奨など、退職時にはトラブルも多いものです。
違法な対応なのではないかと感じたら、早急に弁護士へご相談ください。
- 退職証明書は労働者にとって重大な資料であり、請求したら会社には発行義務がある
- 退職証明書を直接請求しづらいなら、メールで伝えたり弁護士に代理してもらったりできる
- 退職証明書をもらえないときは理由を確認し、請求した事実を証拠に残しながら対応する
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