大企業に努めていると、「退職金は当然にもらえるはず」という感覚の方もいます。
一方、短期間に転職をくり返す方のなかには、退職金にそれほどの期待をしない方もいるでしょう。
しかし、退職金の法的性格を知らなければ、損してしまうかもしれません。
退職金もまた、労働契約の内容となっているのであれば賃金にあてはまります。
つまり、給料と同じく、きちんと請求すべきお金なのです。
今回は、退職金が賃金にあたる理由と、その法的性格について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 退職金が賃金にあたるとき、賃金支払い原則などの保護を受けられる
- 退職金の支払い基準、支払い額などが、就業規則、雇用契約書に定められていることが必要
- 退職金の法的性格は、賃金の後払い的性格、功労報奨的性格、退職後の生活保障的性格の3つ
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退職金は賃金にあたる場合がある

法律上、「賃金」とは、労務提供の対価として払われるお金のこと。
退職金が賃金なら、その他の給料と同じく、労働者には請求権があり、会社には支払義務があります。
賃金にあたる退職金の例は、次のとおりです。
- 退職金規程があり、その支払い条件を満たしている
- 他の社員にも、平等に退職金が支払われている
- 規定はないが、ずっと退職金を支払う慣行があった
このとき、退職金が払われなければ、労働者は会社に対して請求できます。
法的根拠として、契約内容にしたがって算出した退職金を、請求することができます。
一方、退職金を払うかが会社の裁量に任され、あくまで恩恵的な給付に過ぎない会社もあります。
賃金にあたらない退職金の例は、次のとおりです。
- 頑張った人にだけ、特別に退職金をあげる
- 退職金がいくらかは、社長が気持ちで決めている
- 会社に気に入られていないと、退職金が減額される
この場合には、退職金は賃金ではなく恩恵的な給付であり、労働者に請求権はありません。
退職金は、基本給や残業代と違い、法律上必ず払わなければならない義務はないため、このとき、退職金を払うかどうか、払うとして、いくらにするかは、会社が自由に決めることができます。
そして、他の社員と同様の支払いがされなかったとしても、退職金請求はできません。
退職金が賃金にあたるかどうかの判断基準

退職金が賃金にあたるかは、退職金請求権が、労働契約の内容となっているかで決まります。
契約内容となるとき、就業規則、退職金規程、労働協約、雇用契約書などにルールが定められます。
つまり、退職金に関する支払金額、支払時期、支払条件などがこれらの書面にきちんと決められていれば、その退職金は労働契約の内容となっていて、賃金にあたるといえます。
したがって、退職金が賃金にあたるかどうかは、会社の規程類などを確認することでわかります。
退職金を支給するという条項が確認でき、その文言からして、支給条件や金額が明らかになるときには、退職金は賃金にあたり、その分の請求権があると考えられます。

なお、10人以上の労働者のいる事業場では、就業規則の届出が義務となっています。
そのため、就業規則が周知されていないなら労働基準法違反となります。
また、就業規則、雇用契約書などの規定がなくても、慣行によって退職金の支払義務がある例もあります。
具体的には、明確な基準にしたがって、退職金が払われ続けているという慣行の存在が必要となります。
賃金にあたるとき、労働者の請求があれば退職後7日以内に払わねばなりません(労働基準法23条1項)。
ただし、退職金については、その支払期限が定められているときは、この規定にかかわらず、退職金の支払期限までに払えばよいこととされています。
賃金にあたる場合の退職金の取扱い

退職金が賃金にあたるときには、前章でも解説したとおり、会社に請求できます。
具体的には、契約内容どおりの退職金について、労働者には請求権があり、会社には支払義務があります。
そのため、退職金が未払いだったり、金額が不足したりするときは、強く請求しましょう。
交渉しても払ってもらえないとき、労働審判や訴訟などで請求することもできます。
法律上、「賃金」は、労働者の生活を支えるとても重要なお金。
そのため、賃金にあたるならば、法律上の手厚い保護を受けられます。
具体的には、賃金にあたる退職金なら、次のとおり、賃金支払いの4原則による保護があります。
- 賃金通貨払いの原則
賃金は法定通貨で払わなければならず、物納などは許されません。 - 賃金全額払いの原則
賃金は決められた全額を払わなければならず、相殺や中抜きは許されません。 - 賃金直接払いの原則
賃金は、労働者に直接払わなければなりません。 - 毎月定期払いの原則
賃金は、毎月、決められた期限に定期的に払わなければなりません。
未払いの賃金を請求するとき、次の解説を参考にしてください。

退職金の法的性格

次に、退職金の法的性格について解説します。
退職金の法的性格は一様ではなく、次の3つの性格をあわせもっています。
重要なのは、いずれの性格を重視して考えるかで、退職金の扱いが異なるケースがあることです。
賃金の後払い的性格
退職金の性質の1つ目が、賃金の後払い的性格です。
日本の伝統的な雇用では、長年の勤続、貢献が重視されます。
そのため、在職中の給料はある程度制限される一方、定年まで勤めた人にはまとまった額の退職金がもらえるといった例のように、退職金には、継続して勤務した分の賃金の一部を、あとからまとめて払うという意味合いが含まれます。
長期雇用(終身雇用)の慣行の強い大企業ほど、このような傾向にあります。
特に、退職金ポイント制のように、毎月の給料の一部を、退職金のために積み立てていると評価できる制度なら、賃金の後払い的性格は、かなり強いといえます。
功労報奨的性格
退職金の性質の2つ目が、功労報奨的性格です。
つまり、これまでの貢献に応じた報奨として与えられるということです。
この性格が強ければ強いほど、賃金というより、恩恵的な給付という側面が強まります。
自己都合退職のほうが、会社都合退職よりも退職金が少なく設定されている点などが、退職金の功労報奨的性格をよくあらわしています。
功労報奨的性格を重視すれば、秘密保持義務違反、競業保持義務違反があったり、退職理由が懲戒解雇だったりといった、会社に対する背信行為があるとき、退職金が不支給になったり減額になったりするという結論になります。
退職後の生活保障的性格
退職金の性質の3つ目が、退職後の生活保障的性格です。
退職後に、失業保険があるとはいえ、生活が安定するのに必ずしも十分とはいえません。
そのため、退職金には、退職後の生活に充てる費用の意味合いもあります。
★ 失業保険の法律知識まとめ
【失業保険の基本】
【離職理由について】
【失業保険をもらう手続き】
【失業保険に関する責任】
懲戒解雇されたときの退職金の扱い

懲戒解雇だと、退職金は不支給ないし減額されると定める会社が多くあります。
しかし、法律上は、懲戒解雇が有効でも、必ずしも退職金の全額が不支給となるわけではありません。
つまり、懲戒解雇が有効でも、退職金を少なくとも一部は請求できる場合があります。
これは、前章の退職金の法的な性格とも関係しています。
賃金の後払い的な性格があるとすれば、懲戒解雇となったとしても労働した分の賃金は必要ですから、その分までなしにしてしまうのは許されない、という考え方に近くなります。
その結果、裁判例では、これまでの勤続の功労を抹消ないし減殺してしまうほどの著しい背信行為のない限り、全額の不支給は違法となると判断されています(東京地裁平成7年12月12日判決)。
懲戒解雇と、退職金の不支給について、次の解説をご覧ください。

まとめ

今回は、退職金の法的性格、特に、賃金にあたり保護されるかどうかを解説しました。
終身雇用は、昔から日本的な雇用の特徴でした。
しかし、現代では、終身雇用は崩壊しつつあります。
このとき、退職を余儀なくされたり、転職せざるをえなくなったりする労働者にとって、退職金が満足に払われるかどうかは、とても重大な問題です。
長年の貢献に対し、適正な補償を受けられるよう、退職金の性格についてよく理解しておいてください。
- 退職金が賃金にあたるとき、賃金支払い原則などの保護を受けられる
- 退職金の支払い基準、支払い額などが、就業規則、雇用契約書に定められていることが必要
- 退職金の法的性格は、賃金の後払い的性格、功労報奨的性格、退職後の生活保障的性格の3つ
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