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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

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労働基準法に退職金の規定はないが「賃金」に該当する可能性がある

「退職金は当然にもらえるもの」と思っている人も多いでしょう。確かに多くの企業は、従業員の長年の貢献に対する報酬として、退職金の制度を設けます。

しかし、労働基準法には退職金に関する明確な規定は存在しません。つまり、退職金は、法律に定められた制度ではなく、あくまで会社が設けた制度に過ぎません。この退職金の性質は、実際の退職に際し「退職金を請求する権利がどのように保護されるか」という点に影響します。

具体的には、退職金が就業規則(退職金規程)に定められていれば、労働基準法11条の「賃金」の性質を有します。この場合、退職金を請求することは労働契約上の権利であり、未払いとすることは賃金全額払いを定める労働基準法24条に違反します。

今回は、退職金と労働基準法の関係と、退職金が賃金に該当する場合の法的な影響について、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 労働基準法には退職金に関する明確な規定はない
  • 退職金は法的な権利ではないが、就業規則(退職金規程)に定められる場合は契約上の権利となる
  • 退職金が「賃金」に該当するなら、未払いは労働基準法違反で違法となる

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

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労働基準法には退職金に関する規定がない

労働基準法は、最低限の労働条件を保障する法律で、その目的は、労働者の権利を保護し、労働環境の改善を図ることです。労働基準法によって、弱い立場の労働者と使用者の力関係は是正され、安心して働くための権利が守られます。

退職金は退職時に支払われる金銭で、「退職金の法的性格」の通り、賃金の後払いや長年の勤務への慰労など様々な意味があります。退職金の支払いは法律で義務付けられたものではなく、企業の就業規則(退職金規程)をはじめとした労働契約に基づいて払われます。そのため、上記のように最低限の保障を定める労働基準法に明確な規定がなく、言い換えると「退職金は最低限の保障に含まれない」のです。

労働基準法は、賃金や労働時間、休暇などのルールを定めますが、退職金に関する明確な規定は存在しません。したがって、退職金制度のない企業も違法ではありませんし、退職金の額や支払い方法も企業ごとに異なります。退職金制度は、各企業の慣習によっても異なる扱いがされるので、具体的に知るには勤務先の就業規則(退職金規程)を確認する必要があります。

ただし、次章の通り、退職金が労働基準法11条の「賃金」に該当する場合は法的な請求権が発生し、労働基準法の「賃金」としての法的な保護を受ける結果、未払いは違法となります。

退職金を請求する方法」の解説

退職金は賃金にあたる場合がある

前章で、退職金について労働基準法に定めがなく、法的な請求権はないのが原則であると解説しました。ですが、労働基準法11条の「賃金」に該当するときは、法的に保護される場合があります。賃金に該当すると、退職金には労働基準法の規程が適用される結果、未払いは違法となります。

退職金が賃金にあたるかどうかの判断基準

労働基準法11条の「賃金」は「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義されます。つまり、労務提供の対価として払われる金銭は全て「賃金」です。退職金もまた「賃金」に該当する場合、労働者に法的な請求権があり、会社には支払い義務があります。

退職金が「賃金」に当たるのは、退職金の支払いが労働契約の内容になっている場合です。労働契約の内容は就業規則(退職金規程)、労働協約、雇用契約書のほか、慣行によって定まります。そのため、退職金が賃金に当たるかどうかは次の基準で判断します。

  • 退職金規程があり、金額や支払日などの支払条件が定められている
    退職金が労働契約の内容となり「賃金」として保護されるには、適用される労働者の範囲、金額や計算方法、支払時期、支払いの条件などについて具体的に定められている必要があります。
  • 雇用契約書に退職金についての定めがある
    退職金規程と同じく、雇用契約書もまた労働契約の内容となります。ここに退職金について具体的な定めがあれば「賃金」として保護されます。ただ、10人以上の社員を使用する事業場では就業規則の届出が義務であり、かつ、退職金は相対的必要記載事項(退職金を定める場合は就業規則に記載する必要あり)なので、退職金規程なくして退職金を請求できるのは、社員10人未満の場合に限られます。
  • 社内規程はないが、退職金を支払う慣行がある
    慣行による請求権が認められるには、明確な基準に基づいて、長期にわたって退職金が支払われ続けている慣行が存在する必要があります。一時的に、特定の功労者のみに支払われていただけでは、慣行があるとは言えません。

以上の条件に当てはまるなら、「退職金を払うこと」が労働契約の内容となり、退職金が「賃金」として保護される結果、労働者は退職金を請求できます。一方で、規程に定めなく、「頑張った人にだけ特別に払われる」といった場合は、退職金は労働基準法上の「賃金」でなく、法的な請求権はありません。この場合の退職金は、払うかどうかが会社の裁量に任された恩恵的な給付に過ぎません。

就業規則と雇用契約書の優先順位」の解説

賃金にあたる場合の退職金の取扱い

退職金が「賃金」なら、契約内容に従った請求権が労働者に生じ、会社は支払義務を負います。そして、労働基準法における賃金の保護が適用される結果、退職金が未払いだったり、労働契約の内容から算出される金額に不足していたりする場合、労働基準法違反となります。

具体的には、労働基準法24条は「賃金」について、次の通り、賃金支払いの5原則を定め、手厚い保護を与えています。

  1. 通貨払いの原則
    賃金は法定通貨で払わなければならず、物納などは許されない。
  2. 直接払いの原則
    賃金は、労働者に直接払わなければならず、代理受領は許されない。
  3. 全額払いの原則
    賃金は決められた全額を払う必要があり、同意のない相殺や中抜きは禁止。
  4. 毎月1回以上払いの原則
    賃金は、毎月1回以上支払う必要がある。年俸制でも月1回以上は支払いが必要。
  5. 一定期日払いの原則
    不定期の支給は労働者を害するため、賃金は一定期日に支払う必要がある。

未払い賃金を請求する方法」「給料未払いの相談先」の解説

賃金にあたる退職金には支払い義務があり未払いは違法

「賃金」にあたる退職金には労働基準法の保護が適用されると解説しました。その結果、「賃金」にあたる退職金には法的な支払い義務があり、未払いは違法となります。この場合、労働者には退職金の請求権が生じ、払われない場合には会社に請求し、争うべきです。

「賃金」にあたる退職金の未払いは、労働基準法24条の定める賃金全額払いの原則に違反し、30万円以下の罰金による制裁が科されます(労働基準法120条)。退職後の賃金は、労働者の請求があれば7日以内に支払わなければなりませんが(労働基準法23条1項)、退職金は例外的に、定められた支払期限までに払えばよいことになっています。

賃金の未払いについては、労働基準監督署への通報と共に、労働問題に精通した弁護士に相談し、内容証明で請求して交渉し、会社の対応が不誠実な場合は労働審判や訴訟などの裁判手続きで請求するようにしましょう。

懲戒解雇の場合に退職金を不支給または減額としたり、自己都合だと会社都合より退職金を減額したりする企業は少なくありません。退職金が法律上の権利でなく契約で定められるものなので、これらの扱いは必ずしも違法ではありませんが、不当な処遇は許されません。裁判例も、勤続の功労を抹消ないし減殺してしまうほど著しい背信行為のない限り、退職金の全額不支給は違法であると判断しています(東京地裁平成7年12月12日判決)。

懲戒解雇でも退職金の不支給が違法となるケース」の解説

退職金の法的性格

最後に、退職金の法的な性格について解説します。

退職金は単なる賃金の延長ではなく、労働者の功績を称え、退職後の生活を支えるなどといった重要な役割を担います。本解説の通り、退職金は法的な制度でなく労使の契約で設けられるものですが、どのような意図や方針で退職金制度を設けているかは企業ごとに異なり、その性格の違いは、退職金をめぐるトラブルにも影響します。

賃金の後払い的性格

退職金の性質の1つ目が、賃金の後払い的性格です。

退職金は、労働の対価の「後払い」という性格を持ちます。つまり、在職期間中の労働の対価は、毎月の給与が基本ですが、退職金はそれ以外に、退職まで貢献してくれた対価として退職時にまとめ払いされる賃金と位置付けられるわけです。終身雇用の慣行の残る大企業ほど、長期勤続する社員が多く、退職金のこの性格が強い傾向にあります。

伝統的には、「長く貢献してほしい」という企業の意図を満たすため、在職中の給料を一定に抑え、対価の一部を退職時に払うという発想がありました。退職金ポイント制のように毎月の給料の一部を積み立てる退職金制度は、まさにこの賃金の後払い的性格の表れです。賃金の後払い的な性格の強い退職金は、本解説の「賃金」としての保護が特に強く働きます。そのため、既に提供した労務の対価の未払いや減額は許されません。

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功労報奨的性格

退職金の性質の2つ目が、功労報奨的性格です。

退職金には、長期間にわたって会社に貢献した労働者の貢献に応じた報奨として与えられる側面があります。つまり、単なる労務の対価という性質を超えて、長年勤務した従業員に対する感謝の意や、その貢献度を評価する意味合いがあるわけです。自己都合退職の方が、会社都合退職よりも退職金が少なく設定されている点は、退職金の功労報奨的性格の表れです。

功労報奨的な性格を重要視するほど、逆に背信行為があったときには退職金を不支給にしたり、減額したりすることができるという帰結になります。

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退職後の生活保障的性格

退職金の性質の3つ目が、退職後の生活保障的性格です。

退職後は、失業保険があるとはいえ、定期的な収入は途絶えてしまいます。退職金は、労働者が次の職に就くまでの生活費の糧として重要な役割を果たします。また、長期雇用を前提として、定年退職まで働いた労働者にとっては、老後の資金としての意味もあります。

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まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、退職金の法的性質と、労働者に与えられる保護の程度を解説しました。

労働基準法には退職金に関する明確な規定は存在しません。つまり、退職金の請求権は、法的な権利ではなく、必ず退職金がもらえるわけではありません。しかし、就業規則や退職金規程に定められた場合は労働基準法11条の「賃金」として保護されます。その結果、未払いがあったり、理由なく不支給、減額したりするのは労働基準法24条違反で違法です。

「退職金は当然にもらえる」と甘く見ず、退職金に関する社内規程が存在するか、どのような権利が定められているか、必要な手続きはどのようなものかを確認しておくことが大切です。

退職を余儀なくされた労働者にとって、退職金は非常に重要なものです。長年の貢献に対して適切な補償を受けられるよう、円満退職だとしても油断せず対応してください。

この解説のポイント
  • 労働基準法には退職金に関する明確な規定はない
  • 退職金は法的な権利ではないが、就業規則(退職金規程)に定められる場合は契約上の権利となる
  • 退職金が「賃金」に該当するなら、未払いは労働基準法違反で違法となる

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