退職に伴う法律相談で、退職の際に会社に提出する書類の書き方についてアドバイスを求められることがあります。
労働者と会社との雇用契約の終了には、大きく分けて、次の3種類があります。
- 合意退職
- 辞職
- 解雇
労働者の意思表示による終了としての「合意退職」と「辞職」の違いは、前者が会社と労働者との合意による退職であるのに対し、後者は労働者の一方的な意思表示による退職であるという点です。
そして、この違いと同様のことが、「退職願」と「退職届」の違いにも表れています。
1. 合意退職の申し入れと、辞職の違い
雇用契約の終了の仕方として、合意退職を選択する場合には、労働者が会社に対して伝える意思表示は、「辞めます。」という一方的な意思表示ではありません。
この場合、「辞めたいのですが、合意してもらえるでしょうか。」というお願いの意思表示となります。
これを、合意退職の申し入れといいます。この合意退職の申し入れに対し、会社が承諾をした場合に、合意退職が成立することとなります。
すなわち、労働者が会社に対して「雇用契約を終了してほしい。」とお願いして、会社が労働者に対して「雇用契約を終了しましょう。」と納得した場合にはじめて、労働者は会社を退職することとなるのです。
これに対して、辞職は、労働者による一方的な退職の意思表示ですから、「辞めます。」というのみです。
会社が、辞職の意思表示に対して拒絶したとしても、退職をすることとなります。
2. 退職届と退職願の区別の仕方
退職届と退職願の区別は、次の通りとされます。
- 退職届 = 一方的な意思表示 = 辞職
- 退職願 = 合意の申し入れ = 合意退職
ただし、一方的な意思表示であるか、合意の申し入れであるかによって辞職と合意退職とが区別されるのであって、書面の題名をいずれとするかによって区別されるわけではありません。
要は、内容によってその法的性質が判断されるのであり、「退職届」と記載したからといって勝手に退職してよいということにはなりません。
3. 労働者側からの適切な退職届の出し方
したがって、労働者側から提出する場合には、「退職届」を提出すべきであり、「退職願」を提出するのではありません。
というのも、いざトラブルとなり、会社が「あなたの一方的な都合での退職は認めません。会社に残って働いてください。」という不適切な対応をした場合に、退職を行える期限は、「退職届」を最初から提出しておいた方が早期になるためです。
とはいえ、これは、書類の題名だけの問題でないことは既に解説したとおりです。提出前後の事情、書類の内容なども総合考慮されますから、提出する書類には細心の注意が必要です。
また、問題のある会社には、会社からの一方的な解雇の意思表示であるにもかかわらず「退職願」を記載させるという運用を行う会社もありますが、会社の口車にのって事実と異なる退職願を記載してはいけません。
会社の中には、労働法に詳しくなく、解雇の場合であっても退職届・退職願を記載させるのがスタンダードな対応だと誤解している会社すらあります。
4. 退職の意思表示を撤回することはできるか
退職の意思表示を、事後に労働者側から撤回できるかどうかについても、退職届と退職願、辞職の意思表示と合意退職の申し入れとの区別によって異なります。
まずは、辞職の意思表示として退職届を提出している場合には、会社に受理された時点で、撤回は不可能ということとなります。
次に、合意退職の申し入れとして退職願を提出した場合には、会社がこれに対して承諾をした時点で合意退職が成立し、撤回は不可能ということとなります。
いずれにせよ、退職届、退職願という題名の形式的な区別にとらわれることなく、個別の事案において適切な対応を弁護士にご相談ください。