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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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依願退職とは?辞職やクビとの違いと退職金の扱い、申し出る際の注意点

依願退職は、使用者の承諾をもらって退職することです。「将来について会社の判断に委ねる」という態度を示し、良好な関係を維持しながら雇用契約を終了させるのが依願退職の狙いです。

依願退職は、不祥事を起こしたときに懲戒解雇を避ける手段としてよく用いられます。立場が悪化する前に自ら依願退職するよう求める会社もありますが、依願退職すべきか迷うとき、労使それぞれのメリット、デメリットを理解しないと正しい判断はできません。依願退職を申し出るなら、ボーナスの支払い期限や有給消化、失業手当といった金銭面にも注意してください。

依願退職は穏便な手段ですが、必ず応じてもらえるとも限りません。依願退職を会社に拒絶された後は、懲戒解雇をはじめ重度の処分が予想されるので、万が一の事態に備えて対策を講じておく必要があります。

今回は、依願退職の基礎知識と、進め方の注意点を、労働問題に強い弁護士が解説します。

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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依願退職とは

まず、依願退職はどのような性質のものか、わかりやすく解説します。依願退職の定義や目的を理解するには、会社を辞める他の方法との違いを知るのも大切です。

依願退職の意味

依願退職とは、労働契約を合意解約する方法のなかでも、特に、労働者から退職を願い出て、使用者が承諾することで進める方法を指します。文字通り「依頼し」「願う」こと、つまり、従業員自ら「辞めたい」という意思を示し、会社が受け入れる一連の流れが、依願退職です。

労働者には退職の自由があり、会社の同意なく一方的に辞めることもできます。労動者からの一方的な退職を、辞職もしくは自主退職と呼びますが、これらと区別してあえて「依願退職」と呼ぶとき、「労動者がお願いした」という面を強調したニュアンスを含みます。

このような性質からして、あえて依願退職が選ばれるのは、会社の承諾を得ることで円満に退職しようという意図があるケース。労動者に非のあるミスや不祥事の怒った場面において、これ以上の責任追及を避け、被害を減らすために依願退職が用いられます。

依願退職は不祥事を原因とした退職によく用いられる

依願退職は、労動者の不祥事をきっかけとした退職によく用いられます。不祥事が発覚すると、最悪は懲戒解雇される危険があります。懲戒解雇のデメリットは大きく、是が非でも回避し「自ら退職した」扱いにしてもらうために依願退職を活用します。事態の大きさによっては、むしろ会社から「懲戒解雇される前に依願退職した方が身のためだ」と諭されることもあります。

軽度なミスや不手際なら、譴責や戒告など軽い懲戒処分や、始末書を書かされる程度で済む場合もあります。しかし、重度の不祥事だと、懲戒解雇をはじめ厳しい結末が予想されます。

非が明らかなら、身を守るために依願退職するのも1つの選択肢として尊重されるべき。ですが、「労動者のため」と言いながら、実は「グレーな懲戒解雇を争われたくない」という会社の都合で退職勧奨をされるケースもあります。会社にとって不当解雇を争われるのはリスクであり、依願退職してくれる方が都合がよいからです。

不当な勧奨や退職強要に遭ったら、本解説を参考に、退職する利益があるかを見極めねばなりません。「懲戒解雇されるかもしれない」という強いプレッシャーのなかで冷静な判断は難しいもの。依願退職について正しく判断するには、労働問題に精通した弁護士のアドバイスが役立ちます。

懲戒解雇を弁護士に相談すべき理由」の解説

依願退職と他の退職方法との違い

今の職から退くという広い意味の「退職」には、依願退職のほかに辞職(自主退職)、合意退職や、解雇、諭旨退職、希望退職といった様々な種類があります。

依願退職の性質をわかりやすく理解するには、他の退職方法との違いを知るのが有益です。

辞職(自主退職)との違い

辞職ないし自主退職は、労動者の意思で辞めること。依願退職も、労動者の申し出による点は辞職に似ていますが、前章の通り「労動者がお願いして辞める」点を強調した用語であり、不祥事やミスの責任をとって退職する場面で用いられるのが特色です。

合意退職との違い

労使の合意で辞めるのが合意退職であり、依願退職もまた合意退職の一種です。合意退職には会社が勧奨してされるケースもありますが、依願退職はそのなかでも、労動者の依頼、お願いによって開始されるのが特徴です。

解雇との違い

解雇、すなわちクビは、会社の一方的な意思による労働契約の解約です。依願退職との違いは、会社が、労動者の意思にかかわらず推し進められる点。依願退職も、解雇と同じく労動者の非を責める場面で起こることが多いですが、解雇の方が労動者の負担が大きいです。

解雇には、普通解雇、懲戒解雇、諭旨解雇や、公務員の懲戒免職といった様々な種類がありますが、いずれも労動者の同意は不要です。

解雇と依願退職の関係でいえば、解雇の大きなダメージを減らすべく、「解雇される前に依願退職する」というのが労動者側における依願退職の活用例です。

解雇の意味」の解説

諭旨退職との違い

諭旨退職は、「退職届を出さなければ解雇する」という一連の懲戒処分です。諭旨退職、諭旨解雇といった様々な用語で呼ばれますが、その違いは曖昧です。いずれにせよ、懲戒解雇のプレッシャーのもとに強制的な退社を促す懲戒処分の一種であり、労動者が自主的に退職を願い出る依願退職とは性質が異なります。

希望退職との違い

希望退職は、会社が一定の条件を提示して退職者を募集する制度であり、人件費カットやリストラ回避を目的に実施されます。

早期の退職に向けて進める点は同じが、目的が大きく異なります。希望退職は、整理解雇を回避したい会社の願いで行われますが、依願退職は、責任追及や法的なリスクを回避したい労動者の願いで進められます。依願退職もまた、希望退職と同じく退職時に条件を提示されることがありますが、労使の交渉上の立ち位置が大きく異なります。辞めてもらうために有利な条件を提示する希望退職と違って、依願退職では、労動者の非を責めて懲戒解雇などをしない代わりに、労動者に不利な条件が盛り込まれることもあります。

希望退職制度の注意点」の解説

依願退職のメリット・デメリット

依願退職は、労動者が願い出る退職なので、辞める従業員にとって大きなメリットがあるからこそ行われます。しかし一方で、労動者のデメリットもあります。また、企業にとっても、依願退職を受け入れる決断をする際には、メリット・デメリットを比較します。

条件次第では双方にとってメリットある関係で契約を終了できる依願退職ですが、どういった影響があるかを予想し、検討しなければ不利益を被ります。特に、企業が依願退職を過度に要求してくる場合は、会社の都合が優先されないよう注意してください。

依願退職の労動者側のメリット

依願退職する労動者側のメリットは、次の通りです。依願退職は労動者の判断によって行われるのが原則であり、誰に強制されるわけでもありません。したがって、メリットが大きいと感じる場面でないならば、依願退職を進めるべきではありません。

円満退職を実現できる

円満退職を実現できるのが、依願退職の最大のメリットです。

依願退職を検討すべき場面では、ミスや不祥事など、従業員側に非のあるケースもあります。解雇されれば労使トラブルとなり対立が生まれますが、依願退職なら後腐れなく退職でき、将来のダメージも軽減できます。一方的な辞職とは違って、会社も納得し、これ以上の責任追及をしないことが多いです。

依願退職を申し出て、会社と良好な関係で退職手続きを進められれば、退職日についてもある程度希望を聞いてくれることが期待でき、転職までの空白を減らせます。

会社から損害賠償請求されたときの対応」の解説

転職への影響を軽減できる

懲戒解雇された事実が明らかになると、転職で不利に評価されます。労動者にとって非があるケースで、懲戒解雇されたことが記録に残ると、再就職に悪い影響を及ぼします。

依願退職なら、履歴書に「一身上の都合により退職」と書くことができます。依願退職できれば、「不祥事で解雇された」「ミスを起こす問題社員だった」といった傷を残さずに済む点がメリットとなります。

退職金不支給のリスクを回避できる

懲戒解雇される前に依願退職すれば、退職金不支給のリスクを回避できます。不祥事をきっかけに懲戒解雇されると、就業規則に基づき退職金を減額ないし不支給とする企業も少なくありません。懲戒解雇になったからといって必ずしも不支給が正当化されるとは限りませんが、処分前に依願退職できれば、少なくとも自己都合退職の退職金は確保されます。

懲戒解雇でも退職金不支給が違法となるケース」の解説

依願退職の労動者側のデメリット

労動者にとって、依願退職はデメリットもあります。そのため、何も理由なく依願退職しようという人はおらず、あくまで上記のメリットとの比較をして、メリットが上回っている場合のみ申し出るようにしてください。

会社を辞めなければならない

労動者にとって最大のデメリットは、会社を辞めなければならないことです。依願退職は、責任追及などを回避し、円満に進めるために「会社に居続ける」という地位を自ら手放す選択です。自身の意に反した時期の退職となるので、転職がすぐに決まらないと当面は無職、無収入になります。

「依願退職しないなら懲戒解雇する」と脅されたとき、どうせ辞めざるを得ないからと依願退職する前によく考えましょう。解雇は無制限に許されるわけではなく、正当な解雇理由がなければ無効です。解雇を争えば辞めずに済んだのに、依願退職してしまえば、自らそのチャンスを失うことになります。

失業保険で不利な扱いを受ける

失業保険によって最低限の生活は維持できますが、限度があります。会社都合となる解雇とは違い、依願退職は自己都合扱いとなってしまうケースもあります。自己都合だと、失業保険を受給できるタイミングが遅くなり(7日の給付制限期間と、2ヶ月の待機期間の経過後)、限度額も会社都合に比べて低くなってしまいます。

※ 参考「依願退職による失業手当は会社都合退職か自己都合退職か

自己都合と会社都合の違い」の解説

希望通りに辞められるとは限らない

依願退職は、労動者が願い出て、会社が承諾する場合に始めて会社を辞められる方法であり、一方的に進められるわけではありません。つまり、会社の選択の余地があり、拒否されれば希望通りに辞めることができないデメリットがあります。

伝え方を工夫しなければ、依願退職の申出がかえって会社の反感を買い、嫌がらせや理不尽な要求をされるトラブル事例もあります。また、賞与の期限が近付いているとき、依願退職を申し出たことによって不利な退職日を押し付けられ、ボーナスをもらえず退職させられる危険もあります。

どうしても責任追及のために解雇したいと希望する会社から、依願退職を申し出てもなお、退職前に解雇されるということも理論的にはあり得ます。

解雇される前に退職する方法」の解説

依願退職の企業側のメリット

依願退職は、企業側にとってもメリットがあります。依願退職を申し出る労動者側の立場においても、企業のメリットを理解すれば、できるだけ応じてもらいやすいよう依願退職を願い出る助けになります。

企業にとって最大のメリットは、解雇のトラブルに発展せず済むことです。たとえ労動者に非のある場面でも、解雇は厳しく制限されています。解雇権濫用法理によって、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上の相当性を欠くならば、違法な不当解雇となり、無効です(労働契約法16条)。また、解雇には、30日前の解雇予告もしくは不足する日数分の解雇予告手当を払うなど、手続きの規制もあります(労働基準法20条)。

これらの法規制からして、解雇を推し進めるのは大きなリスク。どれほど慎重に進めても、労動者が争えば法的なトラブルになります。不祥事が発覚したケースで解雇のトラブルが大きくなると、社内情報が流出したり、メディアで報道されたりして会社の評判低下にも繋がりかねません。

そのため、自主的に依願退職自してもらえるのは企業にメリットがあり、あえて追い打ちで責任追及する企業は労務管理に問題があるか、労働法の法律知識が不足していると言わざるを得ません。会社都合で退職されると、受給している助成金の条件を満たさなくなるおそれがあり、依願退職してもらえれば、自己都合として処理し、引き続き助成金を受給できるメリットもあります。

企業にはメリットがあるため、解雇せずにしつこく退職勧奨し、本意でないのに退職願を書かせ、依願退職をさせようとする悪質な会社もあります。

しかし、退職したくない、解雇を争いたいという意思があるなら、どれほど強く言われても依願退職を選んではいけません。会社に残りたい気持ちがあるなら意思を明確に示すべき。拒否しているのに勧奨を続けるのは、退職強要であり違法です。

退職勧奨のよくある手口」の解説

依願退職の企業側のデメリット

依願退職に応じることは、企業にもデメリットがあります。労動者の立場としても、このデメリットを理解すれば、会社が依願退職に応じてくれない理由を知り、対策を講じることができます。

依願退職の企業側のデメリットは、退職理由を問わずに、その人が会社を辞めてしまう点にあります。労動者が減ることで人手不足が加速し、重要な人材が退職すると事業が回らないおそれがあります。このデメリットを重視する会社では、依願退職には応じてもらえず、代わりの人材が見つかるまで働くようお願いされるケースもあるほどです。

また、退職理由が明らかにならず、労動者の責任を追及できない点をデメリットだと感じる使用者もいます。このデメリットを重視する会社だと、不祥事やミスのあるケースで「懲戒解雇される前に依願退職しよう」と決断しても、退職願を突き返され、解雇されるリスクがあります。懲戒解雇は、厳しく制限されるので、処分を下されたら速やかに争うのが原則です。

懲戒解雇を争うときのポイント」の解説

依願退職による金銭面の影響について

依願退職をするかどうかを決断する際には、経済的な影響への配慮も欠かせません。金銭面についてどのような効果があるかを明らかにしないまま依願退職しては、損をするおそれがあります。後悔しないよう、依願退職によって生じる金銭面の影響を理解しておいてください。

依願退職時の退職金の扱い

依願退職時の退職金の扱いは、会社により異なります。そもそも退職金は、支給が法律で義務付けられるものではなく、支給の有無や額、要件は会社が決めることができます。

一般的に、自己都合の退職の方が、会社都合の退職より、退職金額が低い傾向にあります。そのため、依願退職をすると、労動者が自ら願い出た「自己都合退職」と扱われ、退職金が減額される可能性が高いです。不祥事やミスなどの非のあるケースで、解雇を避けるための依願退職なら、退職金が減ることも我慢せざるを得ないこともあります。

とはいえ、少しでも退職金を多く受け取りたいなら、依願退職の前に、就業規則や退職金規程を確認し、退職金がどのような条件でいくら支給されるか調べておきましょう。

退職金を請求する方法」の解説

依願退職では賞与(ボーナス)が払われるか

賞与(ボーナス)の支給日間近に依願退職をするとき、ボーナスが支払われるのでしょうか。

ボーナスもまた、退職金と同じく、法律上の義務ではなく、支給の有無と要件は会社が自由に決められます。その結果、多くの会社は「支給日在籍要件」を設け、ボーナスの支給日に会社を辞めている人には賞与を支給しない傾向にあります。そのため、支給日より前に依願退職してしまうとボーナスを受け取れません。これもまた、解雇を避けるための依願退職としてやむを得ないと考えるのか、慎重に検討してください。

なお、支給日より後に退職するのに、依願退職だからといってボーナスの金額を大幅に下げるのは、不当な評価であり、違法な嫌がらせの可能性が高いです。退職するからといってボーナスを下げてくる会社と戦いたいなら、弁護士に相談ください。

ボーナス前の退職と賞与減額」の解説

依願退職による失業手当は会社都合退職か自己都合退職か

依願退職による失業手当は、自己都合退職として扱われるのが基本です。退職理由はさておき、労動者の側からあえて退職を願い出て、会社に認めてもらって退職するという流れだからです。

依願退職後の収入源である失業保険がいつからもらえるかは重要です。失業者は雇用保険から手当を受け取り、退職による生活への打撃を軽減できるからです。ただし、自己都合の離職理由の場合、会社都合退職と違って手当をすぐには受け取れません(自己都合退職の場合、7日の給付制限期間と2ヶ月の待機期間の後にしか支給されない)。支給額についても会社都合退職の方が有利です。

例外的に、依願退職であってもすぐに失業給付がもらえる場合もあります。その一つが「特定理由離職者」に該当する場合で、例えば次のケースです。

  • 心身に障害がある
  • 父や母を介護する必要がある
  • 配偶者や扶養すべき親族との別居生活の継続が困難になった
  • 結婚に伴う転居で通勤が困難になった
  • 転勤や出向に伴う別居を回避したい

また、形式は依願退職であっても、実際には会社の強い働きかけによって依願退職をさせられたという場合には、退職勧奨による退職と同じく、会社都合退職として扱うべきです。意に反する依願退職だと感じるならば、争う余地があります。それでもなお会社が自己都合にこだわる場合は、ハローワークに異議申立てする方法で、離職理由を争えます。

退職勧奨で辞める時の離職票のポイント」の解説

依願退職すると有給休暇の残日数の扱いはどうなるか

有給休暇は、労働者の権利なので、退職すれば消滅します。依願退職も例外ではなく、退職日までに消化しきれなかった残日数は消滅してしまいます。できる限り有給消化しておきたいところですが、転職が決まっているなど、退職日を延期できない場合は買い取ってもらうことを検討しましょう。

もっとも、買い取りは義務ではなく、会社に拒否されると買い取ってもらうことはできません。退職日を調整して、有給消化をしてから辞めるよう努力すべきですが、解雇を避けるために依願退職する場合には労動者としても交渉力が弱く、十分な保証を受けられないケースもあります。

退職前の有給消化」の解説

依願退職の方法と手続きの流れ

次に、実際に依願退職をするときの方法や手続きの流れについて解説します。

退職願を作成する(テンプレート付)

まず、依願退職を申し出る際には、「依願退職届」や「退職願」といった標題で書面を作成し、提出します。様式や書き方について法律上の決まりはなく自由に作成できますが、以下のフォーマットを参考にしてください。

退職願

株式会社XXXX
代表取締役社長 ◯◯◯◯殿

私は、一身上の都合により、20XX年XX月XX日をもって貴社を退職いたしたく願い出ますので、ご承諾お願い申し上げます。

20XX年XX月XX日

住所 東京都◯◯区XXXX
氏名 ◯◯◯◯ (印)

以上

依願退職を求める退職願は、「会社の承諾をもって退職することを求める」という趣旨が記載されていれば足ります。依願退職が実現する場合、労使の話し合いで詳細な条件を詰めるので、特定の退職日を書く必要はないものの、希望があるなら念のため日にちを書きましょう。退職の理由も具体的に書く必要はなく、「一身上の都合」で構いません。

会社が依願退職を承諾する場合は、承諾通知書が届くか、電話やメールで退職してよい旨を伝えられ、具体的な退職手続きを進めていきます。不祥事など、労使の対立が残るケースだと、会社があらためて退職合意書を提示してくることがあります。内容を精査し、不利益がないことを確認してからサインしてください。清算条項のある書類に署名後は、未払い残業代の請求やハラスメントの損害賠償請求などはできなくなるので注意しましょう。

依願退職の申し出と並行して、退職に必要な書類も準備しておいてください。

退職届の書き方と出し方」の解説

依願退職を願い出る

依願退職による退職のプロセスは、労動者が願い出ることでスタートします。退職願の提出は、会社の承諾を求めるものなので、最初は下手に出るべきです。社長や所属する部署の直属の責任者といった人との人間関係を重視し、事前に依願退職したいと伝えるなど、根回ししておくのも重要です。

なお、承諾は、直属の上司が退職願を受領しただけでは足りず、退職を承認する権限を有する者の手続きがあって初めて成立するものと解されます。次の裁判例を参考に、社長や役員、人事部長など、退職の承認権限を有する者に届くよう願い出なければなりません。

  • 最高裁昭和62年9月18日判決(大隈鐵工所事件)
    最終決裁権者である人事部長による退職願の受理時点で承諾の意思表示があったと認定
  • 東京高裁平成13年9月12日判決(ネスレ日本事件)
    退職決裁権限のある工場長からの退職通知書の交付により承諾の意思表示があったと認定

業務の引き継ぎの要請に従う

円満な退職を目指す依願退職では、業務の引継ぎを要請されたら、無視せず対応するのが基本です。

ただでさえ、依願退職によって避けるべき解雇などの不利益が予想されている状況のなかで、業務の引き継ぎを怠ったことで会社の怒りを買うと、損害賠償請求をされる危険もあります。

退職の引き継ぎが間に合わない時の対応」の解説

依願退職を拒否された場合は退職届を提出する

依願退職を目指しても、会社が承諾してくれないと辞められません。退職願の受理を拒否されたり、上司の預かりとなって手続きが進めなかったりする場合、依願退職は拒絶されたと理解し、別の対処を考えなければなりません。

依願退職を拒否されても、会社との関係を良好かつ穏便に保ちたいなら「辞めることをあきらめる」という道もあります。不正やミスなどの非を理由に懲戒解雇されそうなのに、無理やり逃げるように辞めると、かえって怒りを買うおそれもあります。

それでもなお、どうしても退職したいなら、退職届を出して一方的に辞職する方向に切り替えて対応します。労働者には退職の自由が認められており、一方的な意思表示によって労働契約を解約できます。退職の意思表示から2週間が経過すれば、労働契約の解約の効果が生じるのが、法律上のルールです(民法627条1項)。

退職届のテンプレートは次の通りです。

退職届

株式会社XXXX
代表取締役社長 ◯◯◯◯殿

私は、一身上の都合により、20XX年XX月XX日をもって貴社を退職いたします。また、有給休暇が◯日残っているため、同月XX日を最終出社日とし、同日から退職日までは有給休暇を消化いたします。

20XX年XX月XX日

住所 東京都◯◯区XXXX
氏名 ◯◯◯◯ (印)

以上

重要なのは、会社の同意や承諾がなくても辞める、という強い決断を記載すること。注意点として、退職日は、退職届の提出日から2週間以降の日付としてください。契約社員など、期間の定めのある雇用の場合は、やむを得ない理由があることを示し、直ちに一方的な解約が可能です(民法628条)。

会社の辞め方」の解説

依願退職を申し出る際の注意点

依願退職すると心に決めたのなら、申し出る際の注意点をおさえてください。勤め先がブラック企業だと、厄介事に巻き込まれてしまうリスクがあります。

無用なトラブルを避ける努力をする

依願退職は、状況に配慮して、できるだけ円満に辞める方法です。そのため、依願退職することを選択したならば、無用なトラブルを避ける努力をするべきです。先に述べた業務の引き継ぎは、そうした努力の代表例ですが、それだけでなく、貸与物の返還や取引先のデータの消去など、会社の求めにはできる限り応じておくのがポイントです。

会社の承諾後は依願退職を撤回できない

依願退職を申し入れたとしても、後になって考えが変わった場合、その意思表示を撤回することができます。ただし、撤回ができるのは会社の承諾の通知が到着するまでの間だけです。解雇のリスクを避けたい会社ほど、退職願を出したら即座に承諾をしてくる可能性もあるため、退職願の提出前に考えておく必要があります。

退職届を撤回する方法」の解説

しつこく詮索されるなら退職理由を工夫する

依願退職を申し出たとき、引止めとまではいわずとも、しつこく詮索されて嫌な思いをしてしまうこともあるでしょう。退職の理由は、病気から身内の不幸に至るまで人それぞれで、プライベートな領域に属するもので、全て正直に伝えなければならないわけではありません。

依願退職の場合は、少しでも承諾してもらいやすくするために詳細に説明するのがおすすめですが、あまりにしつこく詮索されるなら、退職理由を正直に申告する義務まではありません。むしろ、しつこ過ぎる詮索は不当であり、パワハラに該当する可能性もあります。

パワハラの相談窓口」の解説

依願退職についてのよくある質問

最後に、依願退職のよくある質問に回答します。依願退職をしようとしたが失敗し、思わぬ不利益を被ったという相談が増えているのが現状です。本解説を参考に、注意点を守り、正しいやり方で進めることをお勧めします。

依願退職は何日前に申し出れば可能?

依願退職を申し出る時期に、法律上の決まりはありません。だからといって何日前に申し出てもよいのではなく、むしろ、会社が快く依願退職を受け入れてくれることを目指すなら、できるだけ企業側の負担のないよう早めに申し出るのがマナーです。

なお、会社の承諾なく辞職するには、退職日の14日前までに申し出る必要があります(民法627条1項)。しかし、依願退職は、円満な退社を目指して会社の承諾を求める辞め方なので、この条文は適用されません。

即日にでも依願退職することはできる?

即日の依願退職も可能です。依願退職は、会社の承諾によって成立するので、労使の合意で退職日も自由に決められます。

ただ、現実には即日の依願退職は難しい面があります。業務の引き継ぎや挨拶、退職後の義務を協議する必要があるからです。自身の不祥事の責任をとって身を引くといった依願退職だと、労動者の交渉力はどうしても弱くなります。ミスや不祥事の影響を最小限にすべく必要な業務命令には応じざるを得ないこともしばしばです。

なお、依願退職でも、有給消化や未払いの残業代の請求、ハラスメントの慰謝料請求といった労動者として当然の権利をあきらめる必要はありません。退職日まで期間が空くなら、証拠集めの最後のチャンスです。

試用期間中でも依願退職できる?

試用期間中でも依願退職は可能です。入社前と印象が違ったり、他社で働きたいという感想を抱いたりする方もいます。

入社して日が浅いうちに退職を申し出ると、その理由を気にする会社は多いです。依願退職は正直な本音を伝える必要はないものの、受け入れてもらいやすい言葉を選ぶべき。退職願は「一身上の都合」というだけでなく、ある程度詳細に理由を示すのがおすすめです。

採用コストは侮れず、無理してでも雇用を継続しようとする企業もあります。執拗な在職強要があるなら、退職代行を弁護士に一任するのも有効です。

試用期間中の自主退職」の解説

休職中でも依願退職できる?

休職の期間中も依願退職が可能です。復職を見越して休職したものの、休んでいる間に「退職すべきだ」と思い直す人もいます。うつや適応障害などの精神疾患はあなたのせいではありません(業務が原因なら労災であり、会社の責任です)。とはいえ、業務に支障が生じぬよう、依願退職して身を引くのも選択の1つです。出社が難しいなら、メールや電話、退職願を郵送する方法もあります。

依願退職を断られても、無期雇用なら2週間の経過によって労働契約を終了させられますし(民法627条1項)、一度依願退職の意思を示しておけば、休職の満了時、復職を求められずに円満退職させてもらえる可能性も高められます。

なお、在職中に受給していた傷病手当金は、退職後も継続してもらうことができます。

うつ病による休職」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、依願退職の法律知識と、退職を進める際の注意点を解説しました。

依願退職は、会社が一方的にする「解雇」と違い、労動者の申出により進みます。自主退職や辞職といった用語と区別されるのは、労動者からの「お願い」という側面が強調されるからです。したがって、依願退職は、退職願によって会社の承諾を前提に辞める意思を示すのであって、一方的に辞める方法ではありません。

依願退職できれば、民法の定める2週間の退職予告期間を待たず即日でも退社できるなど、労動者のメリットは大きいです。不祥事の責任をとって依願退職する場合、企業側としても辞める人にそれ以上の責任追及はせず、穏便に済ませてくれると期待できます。

ただ、依願退職では会社に残ることはできないのが当然ですし、会社に配慮せずに進めて「逃げた」と思われると紛争に発展します。依願退職は、自身の不祥事が招いたトラブルの渦中でされるケースが多いため、慎重に進めるためにも弁護士に相談すべきです。

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