懲戒処分とは、企業秩序に違反した労働者に下される不利益処分のことです。
労働者は、業務上のミスや不正など、問題行為を起こしたときは懲戒処分を受けるおそれがあります。懲戒処分を通告されると不安になるでしょうが、その意味や種類、どのような問題に対してどのレベルの処分が許されるかといった基準を知っておく必要があります。
懲戒処分は労働者に不利益を与えるため、社会通念上の相当性を欠く場合には懲戒権を濫用した不当処分として違法・無効となります。また、公平性を欠く場合や適正な手続きを遵守しない場合にも、処分を無効として争うことができます。
今回は、懲戒処分の意味や種類、具体的な内容、受けたときの対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 懲戒処分は、企業秩序に違反する非違行為への制裁であり、様々な種類がある
- 懲戒処分の種類ごとに、対象となる行為の内容や判断基準が異なる
- 相当性を欠く処分は、懲戒権を濫用した不当処分として違法・無効となる
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懲戒処分とは

懲戒処分とは、企業秩序に違反した労働者に対して下される不利益処分のことです。
懲戒処分は、使用者が企業秩序を維持し、非違行為を正し、円滑な運営を図るために下す「制裁」として位置付けられます。分かりやすくいえば、社内のルール違反に対するペナルティです。
懲戒処分の目的
懲戒処分には、次のような目的があります。
- 企業秩序の維持
組織の健全性と調和を保ち、円滑に運営するには、組織の規律(ルール)を各労働者が遵守し、互いに協力し合わなければなりません。 - 再発の防止
不正や規律違反に対して制裁を下すことで抑止力として機能し、再発を防止できます。 - 教育と指導
労働者に、規則を遵守することの重要性を認識させる機能があります。
企業では、私生活では全く関わりのない人が集まり、目標達成のために組織として仕事をしています。そのため、法律はもちろん、使用者の定める規律を守る必要があります。ルール違反に対する制裁がないと、問題社員から企業秩序を守ることができません。「違反した方が得である」といった状態では不公平感が生じ、優秀な人材が流出してしまいます。
懲戒処分の法的根拠
懲戒処分を下す権限を「懲戒権」と呼びます。
懲戒権について定めた法律はなく、労働契約に基づいて使用者(会社)に与えられます。ただし、雇用契約書の記載だけでは足りず、就業規則の相対的必要記載事項とされるため、就業規則に懲戒事由と処分の内容を明記しなければなりません(労働基準法89条)。
また、労働契約法15条により、労働者の行為の性質や態様に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、不当処分として違法・無効となります。
なお、公務員の場合は民間企業とは異なり、国家公務員の場合は国家公務員法82条、地方公務員の場合は地方公務員法29条という法的根拠に基づいて処分されます。
懲戒処分の対象となるケース
懲戒処分の対象となるのは、労働者に非のある問題行為です。例えば、よくあるケースには次のようなものがあります。
- 業務命令違反
上司に対して反抗的な態度を取る、配転命令に従わないなど。 - 職務懈怠
度重なる遅刻や早退、無断欠勤、頻繁な職場離脱など。 - 職場の規律への違反
同僚への暴行・脅迫、業務妨害、セクハラやパワハラなど。 - 会社への背信行為
業務上横領や備品の窃盗、不正経理、収賄など。 - 重大な経歴詐称
履歴書への虚偽記載、採用面接における質問に対する不申告など。 - 私生活上の非行
痴漢などの性犯罪、刑罰を科される重大な犯罪(ただし、私生活上の非行については、会社や業務への支障が重大なものに限って処分が可能です)。 - 二重就職
休職中の他社就労、許可のない兼業など。 - 企業秘密の漏洩
経営計画や顧客リストを競合他社に流出させる、退職後に無断で使用する、会社に対して批判的な発信を行うなど。
懲戒処分を下すには、就業規則上の懲戒事由に該当する必要があるため、これらの行為について懲戒処分を下せることが定められていなければなりません。また、形式的に懲戒事由に該当していても、企業秩序を現実的に侵害しており、処分の程度に応じた重大さが必要となります。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

懲戒処分の種類と内容
次に、懲戒処分の種類と内容について解説します。
懲戒処分には、戒告、譴責、減給、降格、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇といった種類があります。軽度のものは労働契約の継続を前提とした再発防止や指導を意味するのに対し、重度のものは労働契約を解消する処分です。

どのような処分内容があるかは、会社によって異なるため、就業規則を確認する必要があります(就業規則に定めのない処分は選択できません)。
なお、公務員は、国家公務員の場合は国家公務員法82条に「免職、停職、減給又は戒告の処分」が、地方公務員の場合は地方公務員法29条で「戒告、減給、停職又は免職の処分」が、その懲戒事由とともに規定されています。
戒告・譴責
戒告・譴責は、懲戒処分の中で最も軽い処分です。
いずれも、労働者に反省を求め、将来に向けて戒めることを内容としますが、両者の主な違いは「始末書提出の有無」にあります。一般的に、戒告は口頭や文書による注意にとどまるのに対し、譴責は始末書の提出を命じるものを指します。
最も軽い処分なので、対象となる行為も軽度の違反に用いられます。ただし、昇給や昇格、賞与の査定などにおいて不利な事情として扱われることがあります。なお、始末書の提出を拒んだことを理由に重ねて懲戒処分はできないと考えられています。
企業によっては「訓戒」「訓告」といった名称で呼ばれることもありますが、懲戒処分の前段階である「厳重注意」とは区別されます。
裁判例では、次のケースで戒告・譴責が有効とされています。
- 教員が、担当授業の増加、委員会業務の実施を拒否した(大阪地裁令和2年1月29日判決)
- 他の従業員に対して国籍を差別する発言をした、席の横に立たせて注意した、大声で怒鳴りつけたなどのパワハラ行為(東京地裁令和元年11月7日判決)
- 部長が部下に対し、帰宅後の遅い時間に何度も活動報告を求めた(東京地裁令和2年6月10日判決)
- 就業時間外の社宅で、会社を中傷するビラを配布した(最高裁昭和58年9月8日判決)


減給
減給とは、発生した賃金から制裁として一定額を差し引く処分です。
減給による制裁は一時的なもので、翌月以降は元に戻ります。また、労働基準法91条によって減額幅に次の制限が設けられています。
- 1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない。
- 1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない。
なお、遅刻・早退・欠勤により労務を提供しなかった分の賃金を支払わないことは「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づくものであって懲戒処分ではないため、この制限を受けません(なお、働かなかった時間を超える減額は認められません)。
裁判例では、次のケースで減給が有効とされています。
- 大学教授が学生に侮辱的なメールを複数送信した(東京地裁平成31年4月24日判決)
- 社用のパソコンに許可なくアプリをインストールし、これを利用した会話に参加するよう他の従業員を勧誘した(札幌地裁平成17年5月26日判決)
「減給の違法性」の解説

出勤停止
出勤停止とは、労働契約を存続させたまま就労を一定期間禁止する処分です。
「停職」「懲戒休職」と呼ばれることもあり、就労を禁止された期間中は無給扱いとするのが通常です。期間について法律上の制限はないものの、1〜2週間程度の例が多いです。前述の「減給」とは性質が異なるため、無給とされても労働基準法91条の制限は受けません。
なお、1ヶ月以上の長期にわたる出勤停止を「停職」「懲戒休職」と呼び分ける例もありますが、行為の程度に比して長過ぎる場合、不当処分として違法・無効となります。
裁判例では、次のケースで出勤停止が有効とされています。
- 119番通報に不適切な対応をした(停職6ヶ月、広島高裁岡山支部令和2年3月5日判決)
- 責任著者である大学教授が、不正論文のチェックを怠った(停職1ヶ月、熊本地裁令和2年5月27日判決)
- 会社に無断で、体調不良のため業務を終了すると顧客に伝えた(出勤停止7日、東京地裁平成15年7月25日判決)
- 新聞記者が自身のサイトで、取材源、記事の締め切り時刻などの秘密を公表して会社を批判した(東京地裁平成14年3月25日判決)
- パワハラ行為の関係者らに圧力をかけた(富山地裁令和2年5月27日判決)
- 公務員が勤務時間中、コンビニの女性社員にわいせつな行為をした(停職6ヶ月、最高裁平成30年11月6日判決)
降格
降格とは、役職や職位、職能資格や等級を引き下げる処分のことです。
職位の引き下げを「降職」、職能等級の引き下げを「降級」と呼び分けることもあります。評価制度が確立された企業では、資格・等級と連動して給与が下がることもあります。この場合、職務の変更を伴うものであれば、労働基準法91条の制限は受けません。
降格には、能力不足や評価などを理由に人事権の行使として行われるものと、懲戒処分として行われるものの2種類があります。懲戒処分として行われる場合は労働契約法15条の制約を受け、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められます。
裁判例では、次のケースで降格が有効とされています。
- 大学教授が、教え子の女生のマンションに一晩滞在した(東京高裁令和元年6月26日判決)
「不当な降格への対処法」の解説

諭旨解雇・諭旨退職
諭旨解雇とは、懲戒解雇相当の事由があるものの、情状を考慮して退職を勧告する処分です。
一定期間内に退職願が提出されれば自己都合退職とし、提出されない場合は懲戒解雇とします。提出されない場合に「退職」扱いとするものを「諭旨退職」と呼ぶことがあります。
諭旨解雇は、一見すると退職勧奨のように見えますが、制裁である懲戒処分の一種として位置付けられます。一方で、懲戒解雇よりは軽度な処分とされ、退職金の全部または一部が支給されるなど、労働者の不利益が緩和されています。
「諭旨解雇」の解説

懲戒解雇
懲戒解雇は、企業秩序違反に対する制裁として労働契約を解除する処分です。
懲戒処分の中で最も重く、「極刑」に例えられます。通常、即時解雇とされ、労働基準監督署長の除外認定を得ることで解雇予告や予告手当の支払いも行われません。多くの企業では、懲戒解雇の場合は退職金を不支給・減額とすることが定められています。
ただし、解雇に関する法規制が適用され、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」について厳しく審査され、処分の重さに相当する重大な行為がない場合、不当解雇となります。また、労働基準監督署の除外認定も、労働者の責任が重大な場合にしか認められません。

懲戒解雇は労働者の不利益が非常に大きいため、厳しい法規制を受けます。労働者としては「懲戒解雇とされたら争うのが原則」と考えるべきです。一定の非があっても、懲戒解雇に相当するほど重大ではないときは相当性を欠き、無効となるからです。
裁判例では、次のケースで懲戒解雇が有効とされています。
- 遅刻・欠勤を繰り返し、注意指導しても態度を改めなかった(東京地裁平成5年12月7日判決など)
- 採用条件である国家試験に一向に合格せず、研修を受けるよう指示されても従わずに無断欠勤した(大阪高裁平成6年2月25日判決)
- 配転命令が出され、再三出勤を督促されても拒否し続けた(名古屋地裁平成16年4月27日判決)
- 一斉退職し、無断で在庫商品や顧客データを持ち出し、会社に多大な損害を与えた(東京地裁平成18年1月25日判決)
- 対立候補(元取締役)を擁立し、現経営陣の更迭を求める署名活動をした(大阪地裁平成13年12月19日判決)
- 取引先にバックマージンを要求し、受け取った(名古屋地裁平成15年9月30日判決)
「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説

懲戒処分を受けるとどうなる?労働者側のデメリットと影響

次に、懲戒処分を受けるとどうなるのか、そのデメリットや影響について解説します。
社内評価が下がる
懲戒処分を受けると、社内の評価が低下するのは避けられません。
懲戒歴として記録され、人事考課や査定に反映されます。懲戒処分を受けたことで評価が下がるのは「二重処分の禁止」に違反しません。ただし、情報管理は慎重に行われるべきで、報復や見せしめを目的として社内で公表された場合は、違法な名誉毀損として争う余地があります。
なお、同様の問題を繰り返すと、さらに重い処分を下されたり、退職勧奨や解雇とされたりするおそれがあるため、非がある場合は将来の改善が必須となります。
「報復人事への対策」の解説

一定期間の就労が禁止される
出勤停止になった場合、一定期間の就労が禁止されます。さらに、諭旨解雇や懲戒解雇であれば、労働契約が解消されます。また、軽度の処分でも、人事処分として異動や配置転換を命令されることがあり、これまでと同様の働き方ができなくなってしまうことがあります。
「違法な異動を拒否する方法」の解説

転職活動の支障になる
重度の懲戒処分を受けると、転職活動の支障になることがあります。
転職活動において、懲戒解雇されたことが発覚すれば、「問題社員」というレッテルを貼られ、再就職の支障となります。ただし、懲戒解雇の事実が転職先に必ず発覚するわけではなく、軽度の処分はあくまで社内の評価に過ぎないと捉えることができるため、影響は限定的です。
「懲戒解雇が転職でバレるかどうか」の解説

退職金が減額・不支給となる可能性がある
懲戒処分を受けたことで、退職金が減額・不支給となる可能性もあります。
多くの退職金規程は、懲戒解雇されたこと(または、懲戒解雇に相当する事由が存在すること)により、退職金の全部または一部を不支給とすると定めています。また、評価が下がった結果として、計算基礎となる基本給が下がり、結果として退職金が減ってしまうこともあります。
ただし、懲戒解雇が有効でも、勤続の功労を抹消するほどの非違行為がない限り、全額の不支給は違法であると判断した裁判例もあり、請求をあきらめるべきではありません。
「懲戒解雇の場合の退職金はどうなる?」の解説

懲戒処分をするときの手順と具体的な流れ

次に、懲戒処分をするときの手順について解説します。
懲戒処分をする際、労働者を保護するため、適正な手続きを遵守する必要があります。企業側が守るべき手続きですが、労働者もまた不当な処分を受けないよう理解しておいてください。
規律違反の発見と調査
規律違反が発見されると、まずは社内で事実関係の調査が行われます。
調査では、客観的な証拠の収集のほか、目撃者や関係者の事情聴取が行われ、違反行為の内容が具体的に特定されます。
調査期間中の自宅待機
懲戒処分が決まるまでの期間、対象者に自宅待機が命じられることがあります。
その目的は、証拠隠滅や再発を防止することにあり、この段階では制裁としての処分ではなく、会社からの業務命令を意味します。そのため、再発の危険が大きいといったケースを除き、待機中の給料は支払われるのが原則となります。
「自宅待機の違法性」の解説

対象者の聴取と弁明の機会の付与
処分に足る程度の証拠が集まったら、次に、対象者の聴取が行われます。
対象者の聴取は、事実関係を補完するだけでなく、弁明の機会を付与する意味合いがあります。一方的に処分を下されないよう、労働者としては弁明の機会を最大限活用して、次のような反論を会社に伝えておきましょう。
- 懲戒処分の対象となった事実が存在しないこと
- やむを得ない理由があったこと
- 会社の損害が小さいこと(または、既に返済済であること)
- 反省し、謝罪を行っていること
- 被害者との示談が成立していること
- 改善の余地があり、再発の危険がないこと
- 勤務による十分な貢献があり、問題行為がなかったこと
処分内容の決定と通知
調査結果と弁明をもとに、適切な処分内容を決定し、対象者に通知します。
この際、就業規則の定めに従って懲戒委員会(懲罰委員会)が開かれることもあります。非違行為の程度に応じた相当性のある処分でなければならず、公正な判断過程を踏む必要があります。対象者への通知は、懲戒処分通知書によって行うのが通例です。
なお、後に争うかどうかを検討するためにも、口頭のみで通知されたり根拠や内容が不明確であったりするときは、必ず書面の交付を求めるようにします。
「懲戒解雇の手続きの流れ」「懲戒処分の決定までの期間」の解説


懲戒処分を受けたときの対処法と争い方

一方で、労働者側としても、懲戒処分を受けたときの対処法を知っておきましょう。
懲戒処分を下されたとき、初動の対応が重要です。「懲戒処分が違法となる場合」に該当するなら、不当処分として争うことも検討してください。
就業規則の懲戒事由を確認する
まず、懲戒処分を受けたら、就業規則を確認しましょう。
前述の通り、懲戒権は、就業規則に定められることで初めて与えられるため、就業規則に定めた懲戒事由に該当するかを確認しなければなりません。就業規則は、労働者への周知が義務付けられており、閲覧できないことは違法です。また、10人以上の労働者を使用する事業場では、労働基準監督署への届出が義務付けられています。
弁護士に相談する
不当処分として争うことを検討する場合、弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談すれば、懲戒処分に合理的な理由があるか、行為と比して相当なものかどうか、アドバイスを受けることができます。相談時は、可能であれば「懲戒処分通知書」と「就業規則」の写しを持参しましょう。
「労働問題を弁護士に無料相談できる?」の解説

懲戒処分の撤回を求める
不当処分が疑われる場合、その問題点を指摘し、撤回を求めましょう。
在職を前提とした処分でも、将来の評価に影響することが多いため、撤回させる意義があります。まして懲戒解雇の不利益は大きく、争うのが基本的な方針となります。撤回の要求は、内容証明で送付して証拠に残すようにしてください。労働者側に非のある場合でも、反論することで、より軽度の処分に切り替えてもらえるケースもあります。
損害賠償を請求する
違法な懲戒処分は、労働者に対する不法行為(民法709条)となります。そのため、これにより負った損害の賠償を請求できます。
例えば、違法な減給・出勤停止・降格によって受け取れなかった賃金のほか、精神的苦痛の賠償として慰謝料を請求することも可能です。
労働審判や訴訟で争う
交渉での解決が難しい場合は、労働審判や訴訟などの法的措置で争うことができます。特に、懲戒解雇などの重度の処分は、会社としても十分な準備のもとに下しているケースもあるため、交渉で撤回させるのは困難なこともあります。
「労働者が裁判で勝つ方法」の解説

退職を検討する
懲戒処分を受けると「問題社員」のレッテルを貼られ、会社に居にくくなることがあります。
処分の有効性はともかくとして、退職を検討する余地があります。特に、懲戒解雇が予想されるケースでは、厳しい処分を受ける前に自ら退職するという人も少なくありません。退職は労働者の自由ですが、会社の承諾が得られない場合、期間の定めのない労働契約は意思表示から2週間経過することで終了することとなっています(民法627条1項)。
そのため、退職の効力が生じる前に懲戒処分が下されることもあり、退職届を出したとしても処分を必ず避けられるとは限りません。
「退職届の書き方と出し方」の解説

懲戒処分が違法となる場合と判断基準

最後に、懲戒処分が違法になる場合と、その判断基準について解説します。
企業秩序や規律に違反していたとしても、どのような処分でも自由に認められるわけではありません。違法となる場合には、処分の撤回を求めて争うことが可能です。
懲戒権濫用の判断基準
懲戒権を濫用していると評価される場合、不当処分として違法・無効となります。
前述の通り、労働契約法15条により「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められますが、より具体的には、次のような基準が適用されます。
- 相当性の原則(比例原則)
処分の重さは、非違行為の程度とバランスが取れていなければなりません。行為の性質や態様に照らして重すぎる処分は無効となります。 - 平等取扱いの原則(公平性の原則)
同種の非違行為に対しては、過去の事例に照らして同程度の処分を下す必要があります。合理的な理由なく特定の労働者のみを重く処罰することは許されません。 - 罪刑法定主義
対象となる行為の時点で、就業規則に懲戒事由や処分の内容が定められている必要があります。労働者にとってどのような行為が処分されるか予見できていなければなりません。行為後に規定を制定・変更しても、遡及的に処罰することはできません。 - 二重処罰の禁止(一事不再理)
同一の行為に対して複数回の懲戒処分を課すことはできません。 - 手続きの妥当性(適正手続)
労働者本人への弁明の機会の付与など、適正な手続きを保障される必要があります。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

懲戒処分が違法となる具体的なケース
懲戒処分が違法となる具体的なケースには、次のものがあります。
就業規則の懲戒事由に該当しない場合
就業規則の懲戒事由に該当しない場合、懲戒処分は下せません。そのため、不当処分として争うことができます。「その他、企業秩序に違反する行為」といった一般条項についても、他の条項と同程度の重大な事由がなければ該当しないものと考えられています。
適正な手続きを欠いている場合
懲戒処分を行うにあたって適正な手続きを欠く場合にも、違法となります。
就業規則で懲戒委員会(懲罰委員会)の開催などを定めるケースのほか、弁明の機会の付与については就業規則に定めがなくても遵守すべき手続きであると考えられています。
形式的に手続きを踏んでも、聴取された弁明が全く反映されなかったり、既に処分が決まっていたりなど、手続きが形骸化している場合にも違法となります。
処分が相当性を欠く場合
行為と比して処分が重すぎる場合も違法となります。前述の通り、労働契約法15条によって、懲戒処分には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められるためです。重すぎる処分を無効とした裁判例には、次のものがあります。
- 高校教諭の修学旅行引率中の少量の飲酒などに対し、3ヶ月の停職処分は重すぎると判断した裁判例(大阪高裁平成20年11月14日判決)
- 7年前の職場での暴行行為に対し、諭旨解雇は重すぎると判断した裁判例(最高裁平成18年10月6日判決)
【まとめ】懲戒処分について

今回は、懲戒処分に関する法律知識について、詳しく解説しました。
懲戒処分は、労働者に重大な不利益を与えるため、厳格な法規制があります。就業規則上に懲戒事由と処分の内容を定める必要があるほか、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められ、これらの要件を満たさない不当処分は違法・無効となります。
また、弁明の機会を付与することをはじめ、適正な手続きを遵守しなければなりません。これらの要件は、懲戒解雇のような重度の処分では、特に厳しく判断されます。
就業規則に懲戒事由が定められていても、会社が自由に懲戒権を行使できるわけではありません。不当な懲戒処分を争うことを検討する場合、ぜひ弁護士に相談してください。
- 懲戒処分は、企業秩序に違反する非違行為への制裁であり、様々な種類がある
- 懲戒処分の種類ごとに、対象となる行為の内容や判断基準が異なる
- 相当性を欠く処分は、懲戒権を濫用した不当処分として違法・無効となる
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