痴漢をしてしまうと、逮捕され、身柄を拘束されるおそれがあります。
身柄拘束は、逮捕、勾留されると相当長期間となることも。
この間、会社にバレれば、「犯罪者」という疑いの目で見られることになります。
痴漢は、犯罪のなかでも、性犯罪としてとてもイメージの悪いもの。
会社に発覚すれば、解雇される危険があります。
「犯罪により、有罪判決を受けたこと」を、懲戒解雇の理由と定める会社も多いです。
一方で、懲戒解雇には、厳しい制限があり、その有効性を争える場合もあります。
懲戒解雇という重い処分に相当する理由がなければ、不当解雇だからです。
今回は、痴漢を理由にした懲戒解雇の有効性と、争う方法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 私生活で痴漢をしたというだけの理由で、必ず解雇できるわけではない
- 重大で、悪質な痴漢で、企業秩序に影響する場合に限って、懲戒解雇できる
- 痴漢が冤罪な場合など、不当解雇ならば、撤回を求めて会社と争うべき
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痴漢をしたことは懲戒理由に該当する?

痴漢は犯罪であり、最悪のケースでは逮捕されてしまいます。
痴漢を理由に、会社から処分を受けたら、まず、その権限が会社にあるか、確認しましょう。
懲戒解雇をはじめ、懲戒処分するには、使用者にその権限の根拠がなければなりません。
懲戒解雇をはじめ、懲戒処分とするには、就業規則に、次の2点が明記される必要があります。
- 懲戒処分の理由
- 上記の理由に該当した際にすることのできる懲戒処分の内容
懲戒処分のなかでも、懲戒解雇は特に重大な処分。
労使関係における「死刑(極刑)」にも例えられます。
労働者の将来のキャリアを無にする可能性があるほど、懲戒解雇のデメリットは重大なもの。
なので、弁明の機会の付与を含めた慎重な手続きをとらねばなりません。
懲戒理由には、「犯罪を犯し、会社の信用を著しく低下させたこと」「犯罪行為によって有罪判決を受けたこと」といった点が、就業規則に書かれていることがよくあります。
このような規定を根拠に、痴漢で逮捕された労働者が、懲戒解雇という処遇を受けます。
懲戒権は、法律で当然に与えられるものではありません。
いかに痴漢でも、懲戒解雇できる根拠なしにクビにはできません。
なお、痴漢を直接の理由にするのでなく、逮捕による就労不能を理由に処分もできます。
「その他、企業秩序を著しく侵害する行為」といった一般条項に該当する可能性もあります。
懲戒処分の種類と対処法は、次に解説します。

私生活上の犯罪を理由とする懲戒解雇は有効?

懲戒解雇であっても、解雇一般のルールとして、解雇権濫用法理による制限を受けます。
つまり、会社が労働者を懲戒解雇にできる場合は、とても狭く限定されます。
解雇権濫用法理により、解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会的に相当でなければ、違法な「不当解雇」として無効となります(労働契約法16条)。

これは、痴漢による解雇でも同じこと。
次に、痴漢を理由にした解雇の違法性について、どう判断すべきか、解説します。
痴漢が冤罪なら、解雇の理由にはならない
解雇するには、客観的に合理的な理由が必要です。
痴漢でクビにするには、少なくとも、痴漢が事実でなければなりません。
逮捕により、身柄拘束されたことのみを理由にクビにはできません。
そのようなことを許せば、冤罪の痴漢でも、解雇になってしまうからです。
痴漢が冤罪で、否認すれば、さらに身柄拘束が長くなる傾向にあります。
冤罪被害なのに一律に懲戒解雇とするのなら、痴漢をしていないと否定すればするほど、職場への復帰が困難になるという不当な結論になってしまいます。
私生活の痴漢は、解雇の理由にならない
痴漢行為は許されないことですが、必ずしも、業務に直接関連する行為ではありません。
むしろ、通勤途上だったとしても、痴漢はあくまで、労働者のプライベートの出来事。
つまり、私生活上の行為だといえます。
懲戒解雇は、企業秩序を守る義務に、違反したことに対する制裁です。
プライベートで起きた犯罪行為は、いかに悪質でも、すぐ解雇理由になるわけではありません。
すべての私生活上の犯罪に対し、懲戒解雇が有効と判断されはしないのです。
労働者といえど、労働時間のほかは、会社のルールから解放されています。
裁判例でも、「予測される職場の混乱は比較的軽微」だとし、懲戒処分を無効にしたケースもあります。
悪質な痴漢でなければ、解雇は相当でない
解雇するには、社会通念上相当である必要があります。
懲戒解雇の重大さを考えれば、これに相応なほど悪質な痴漢でなければなりません。
むしろ、軽微な違反しかないなら、懲戒解雇は不相当であり、不当解雇と判断されます。
このような相当性は、会社が決めるものではありません。
社会通念、つまり、社会の常識に照らして、裁判所が判断すべきものです。
これに反するルールを就業規則などに書いても、公序良俗違反(民法90条)で無効でしょう。
したがって、私生活上の犯罪行為を理由とした懲戒解雇が許されるのは、企業秩序を侵害するほどの重大な悪影響のある、重度の犯罪行為の場合に限られます。
懲戒解雇の理由となりうる痴漢は、会社の名誉、信用を大きく毀損するケース。
例えば、次の痴漢は、懲戒解雇でも仕方ないでしょう。
- 非常に悪質で、被害者に与えるダメージの大きい痴漢行為
- 常習的に、頻繁に繰り返し行われた痴漢行為
- 痴漢の犯人の勤務先として、企業名が報道されてしまったケース
また、痴漢の種類だけでなく、労働者の地位、役職、会社の業種や規模、知名度なども、影響力の大きさに関わる事情として、懲戒解雇の相当性を判断するにあたり重要です。
例えば、女性社員が多い企業ほど、痴漢には厳しいでしょう。
痴漢による身柄拘束を受け、懲戒解雇されたら、どれほどの悪影響があったか想像してみてください。
会社への不利益が小さいなら、見せしめ的な懲戒解雇は、違法の可能性があります。
逮捕されて不起訴になった場合の対応も、参考にしてください。

「痴漢で逮捕」に下されるその他の処分

以上の通り、「痴漢で逮捕されたらすぐ懲戒解雇」は誤るだと理解できたでしょう。
冤罪の場合には、特に、会社内でも処分されるべきではありません。
とはいえ、実際に痴漢をしたならば、なにも処分がないケースばかりではありません。
懲戒解雇は重すぎるとしても、それより軽い他の処分を受けることがあります。
例えば、痴漢したことに対し、下される軽度の懲戒処分は、次のもの。
また、懲戒解雇だけでなく、人事処分が下される可能性もあります。
痴漢だと特に、女性の多い職場からは、距離をとらされることでしょう。
人事処分の例には、次のものがあります。
実際に痴漢行為を行ってしまったなら、これらの処分は甘んじて受けるべきケースもあります。
一方、社内に居づらくなることが心配なら、自発的に退職する道もあります。
とはいえ、退職は強要されるべきものではありません。
無理やり辞めさせられそうでも、決して同意してはいけません。
痴漢による解雇は、弁護士に相談できます。
労働問題に強い弁護士に選び方は、次に解説します。

痴漢で逮捕直後は、まずクビにされないよう対応する

痴漢で逮捕されてしまったら、その直後からすぐ、クビにされないよう対応すべき。
逮捕されたら、まずは刑事弁護のため弁護士を依頼することが多いでしょう。
しかし、雇用関係もまた、労働者の正当な権利を守るには、逮捕直後の対応が必須です。
まずは、少しでも解雇になってしまわない対応が必要です。
いつ会社に伝えるべきか
逮捕されると、72時間の身柄拘束を受けます。
(うち48時間は警察、送致されると24時間は検察が拘束します)
この時間制限のうちに、早く身柄を釈放してもらうには、弁護活動が大切。
なかでも、被害者との示談が重要です。
早期に示談が成立する可能性があるなど、72時間内に出られるケースもあります。
釈放される可能性があるなら、すぐには会社に事実を伝えない方法もあります。
家族を通じて、病気、体調不良だと伝えるようにします。
ただ、嘘をつくにも限界があります。
逮捕による72時間の拘束後、勾留されると、さらに10日拘束されます。
これほど休むと、さすがに会社にバレてしまうでしょう。
真実が発覚すると、隠していた分だけ、より重い処分となるおそれもあります。
弁護士から会社へ報告してもらう
痴漢で逮捕されても懲戒解雇されないために、会社には弁護士から報告してもらうのが有効。
会社としても、事実が隠されていたり、進捗の報告がまったく来なくなったりすれば、懲戒解雇など、厳しい処分を考えざるをえなくなってしまいます。
まず、逮捕されたことで、業務に穴をあけ、他の社員に迷惑をかけた点は謝罪すべき。
その上で、無断欠勤するのでなく、理由をしっかり伝えるべきです。
真実と、弁護方針をきちんと説明し、関係を良好に保つ努力をしましょう。
ただ、痴漢などの性犯罪は、犯罪行為の詳細をすべて伝えれば、悪感情を抱かれるおそれもあります。
感情的になり、懲戒解雇されれば、後から争うのも一苦労。
円満な社会復帰のため、不起訴を目指す刑事弁護と並行し、会社への報告も弁護士に依頼しましょう。
弁護士に会社対応を任せるメリット
痴漢を理由に懲戒解雇されたとき、無効の可能性はあります。
しかし、とはいえその有効性を争うには、労働審判や訴訟が必要となります。
そもそも懲戒解雇にされなければ、労働問題を未然に防げます。
弁護士に会社対応を任せるのには、次のメリットがあります。
- 法的に正しく説明できる
「逮捕されたのだから、悪質な痴漢をしたに違いない」と思われることも。
しかし、「無罪の推定」が原則です。
つまり、逮捕されても、判決が下るまでは、無罪であると扱われます。
冤罪の危険もある段階で、ただちに懲戒解雇とするのは妥当ではありません。 - 弁護士は守秘義務を負う
弁護士は、弁護士法による、法律上の守秘義務を負います。
弁護士接見は、一般の面会と異なり、秘密が外に漏れることはありません。
弁護士は、会社に説明するときも、依頼者の利益のみを考えて行動します。
「絶対に会社にいわないでほしい」と言った内容は、漏れはしません。 - 企業との信頼関係をサポートできる
労使の利害が対立しない限り、会社の利益になる行為も行えます。
会社の迷惑をできるだけなくし、企業名の公表をストップするなどの活動もできます。
労働者の弁護士が、会社の利益も考えて行動すれば、信頼関係を維持するサポートができます。
以上の、弁護士に会社対応をしてもらうことにより懲戒解雇を回避できるメリットに対し、デメリットは、「弁護士費用がかかる」ということくらいではないでしょうか。
逮捕されたのを会社に隠し、示談する方法も参考にしてください。

痴漢で懲戒解雇されたときの争い方

以上の努力もむなしく、痴漢で逮捕されたら、懲戒解雇される危険があります。
それでもなお、あきらめてはいけません。
すでに解説のとおり、私生活上の痴漢なら、懲戒解雇は無効となる可能性も小さくないです。
痴漢を理由とした懲戒解雇の争い方は、次の手順で進めてください。
懲戒解雇を不当解雇だと争う方法は、次に詳しく解説します。

内容証明で懲戒解雇の撤回を求める
痴漢で逮捕されたことを理由に懲戒解雇されたら、まずは解雇の撤回を要求します。
弁護士に依頼する場合、内容証明を送り、解雇の無効を強く主張します。
交渉で解決できるのであれば、時間的にも、費用的にも一番です。
ただ、懲戒解雇という厳しい処分とした以上、会社もなかなか話し合いには応じません。
退職自体に争いはないなら、一旦解雇は撤回してもらい、合意退職とする手もあります。
解雇を撤回させる方法は、次に解説します。
労働審判で懲戒解雇を争う
話し合いで解決できないなら、裁判所で行う法的手続きに頼るしかありません。
まずは、裁判より簡易な、労働審判の制度で、懲戒解雇の撤回を求めましょう。
これを、地位確認請求といいます。
「労働者としての地位を確認する請求をする。」という意味です。
労働審判での話し合いは、解決金をもらっての金銭解決がメインとなります。
どうしても復職するという解決を求めるなら、訴訟が必要となることもあります。
解雇の解決金について、次に解説します。
訴訟で懲戒解雇を訴える
労働審判で解決しなかった場合には、訴訟を行うこととなります。
訴訟は、時間的にも、金銭的にも、労働者の負担は大きいと言わざるを得ません。
痴漢が冤罪であるにもかかわらず、十分な調査なく懲戒解雇とされたなど、深刻なケースでは、訴訟に訴えて解決すべきでしょう。
不当解雇はすぐ弁護士に相談すべきです。
不当解雇に強い弁護士への相談は、次に解説します。

「懲戒解雇=退職金なし」ではない

多くの方の勘違いは、「懲戒解雇=退職金なし」という誤解です。
しかし、この考えは間違いです。
懲戒解雇になっても、退職金が一切もらえないわけではありません。
実際、懲戒解雇でも、退職金の全部または一部を勝ち取れた裁判例は少なくありません。
このことは、痴漢で懲戒解雇されるケースでも同様です。
痴漢で、さらに逮捕されたケースだと、会社も感情的になります。
労働者の意に反し、懲戒解雇、さらに、退職金不支給と厳しく処分されるケースもあります。
しかし、たとえ懲戒解雇が有効でも、退職金の一部は少なくとも払うべき場合もあります。
長年の勤続の功労を、抹消するほどの非違行為がない限りは、退職金の一部は認められます。
つまり、あまりにひどい痴漢でない限り、退職金はなくならないのです。
痴漢を理由にクビになったとき、解雇を争うのはもちろん、退職金の請求も忘れないようにしましょう。
懲戒解雇と、退職金の不支給については、次に解説します。

まとめ

今回は、痴漢を理由とした解雇について解説しました。
痴漢したことが発覚してしまえば、解雇されるケースが多いのではないでしょうか。
プライベートの痴漢はもちろん、社内の痴漢ならなおさら。
しかし、解雇は厳しい制限があり、懲戒解雇できるケースはかなり限定的です。
逮捕されても、少なくとも痴漢を否認していれば冤罪の可能性もあります。
ただちに解雇されるのは、違法な「不当解雇」となることもあります。
懲戒解雇をはじめ、厳しすぎる処分を受けたら、弁護士に相談ください。
- 私生活で痴漢をしたというだけの理由で、必ず解雇できるわけではない
- 重大で、悪質な痴漢で、企業秩序に影響する場合に限って、懲戒解雇できる
- 痴漢が冤罪な場合など、不当解雇ならば、撤回を求めて会社と争うべき
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