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横領を理由とする懲戒解雇は有効?懲戒解雇となる着服の金額は?

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「つい魔がさして横領してしまった」というケースが後を絶ちません。横領、着服は犯罪行為であり、「業務上横領罪」(刑法253条)として「10年以下の懲役」という刑事罰で処罰されます。

業務中の横領・着服行為が企業秩序に反することは明らかであり、制裁として「懲戒処分」となるおそれもあります。懲戒処分で最も重い「懲戒解雇」は、労使間の雇用契約が解消されることはもちろん、「問題社員」という十字架を背負う意味を持ち、転職・再就職が困難となります。

横領・着服は会社本来の目的である「利益の追求」を阻害するため、企業秩序違反行為の中でも特に重大であり、厳しい処罰が待ち受けていると予想されます。

一方で、「懲戒解雇」という重い処分は、それ相応の重度の違法行為を行った労働者にしか下せませんから、会社が安易に行えば、「不当解雇」として違法・無効となることもあります。

今回は、会社内で業務中に行われた横領、着服に対する懲戒解雇について解説します。犯罪行為により懲戒解雇された場合、早急に労働問題に強い弁護士へご相談ください。

「横領トラブル」の法律知識まとめ

横領による懲戒解雇のダメージ

懲戒解雇は非常に重い処分です。

会社との雇用契約(労働契約)を継続できないことはもちろん、今後は「懲戒解雇をされたことがあります」と言って求職活動をすれば、転職・再就職はとても困難です。

そのため、懲戒解雇処分を受けてしまうと、今後の生涯にわたって就職活動の場で嘘をつき続けなければなりません。更には、懲戒解雇となったことを隠して採用してもらえたとしても、懲戒解雇歴がバレてしまえば、再度解雇されてしまう可能性も少なくありません。

懲戒解雇は、これほどまでに労働者にとってダメージの大きい重大な処分ですが、しかしながら、業務中に会社のお金を横領・着服する行為は、更に「業務上横領罪」(刑法253条)という重い犯罪に該当する行為です。

横領額が「少額」でも懲戒解雇

横領行為は、「業務上横領罪」(刑法253条)という、刑事罰の対象とされている非常に違法性・悪質性の高い行為です。

そのため、横領行為を行ってしまった場合には懲戒解雇となる可能性が高いとお考えください。「金額が少ないから許してください」というのは虫のいい話であるといわざるを得ません。

金額が少なかったとしても相応に重い懲戒処分が予想されます。たとえ数万円程度の横領、着服であったとしても、懲戒解雇を有効とした裁判例は少なくありません。金額だけでない理由は、「会社の信頼を裏切った」、「企業の秩序を乱した」、「他の社員に示しがつかない」という事情が非常に重く評価されるからです。

したがって、会社から業務上で金銭を扱うことを任されている方(例えば、経理担当者、金融担当者など)による横領行為は、非常に重く処罰され、「少額であっても」懲戒解雇が有効と判断される傾向にあります。

解雇予告の除外認定のおそれあり

解雇をする場合には、労働基準法上のルールでは、30日以上前に予告を行うか、その予告期間が不足する日数分の解雇予告手当を支払う必要があります。

しかしながら、窃盗、横領、傷害などの重大な犯罪行為を理由とする懲戒解雇の場合には、労働者の責任による解雇ということで、解雇予告除外認定がされるおそれがあります。横領・着服を理由とした懲戒解雇では、解雇予告手当が受け取れない可能性があるということです。

もっと詳しく

横領・着服行為が発覚した場合、再発のおそれ、証拠隠滅のおそれがあることから、「解雇予告期間をおいて解雇する」ことは通常考え難いです。また、もし解雇までに猶予期間、調査期間が必要な場合にも、その間は自宅待機とされることが一般的です。

会社が労働者に対して自宅待機を命じる場合には、休業手当として賃金の「6割(60%)」を支払うものとされていますが、横領・着服行為を理由とする自宅待機には「再発防止」、「証拠隠滅の防止」という正当な理由があることから、賃金を請求できない(無給となる)可能性があります。

横領・着服の懲戒解雇は有効?判断基準は?

では、横領、着服をしてしまったら、もはやすべてあきらめざるを得ないのかというと、そういうわけではありません。

きちんと反省し、誠意をもって謝罪し、横領した金額を返済することは当然であり、できるだけ早く適切な対応をとれば、懲戒解雇処分までは下されない可能性もあります。

更には、「違法性、悪質性がそれほど高くない」と判断されるケースでは、裁判例においても「懲戒解雇処分は過大であり、『不当解雇』として違法・無効である」と判断されたケースも少なくありません。

そこで次に、横領を理由とする懲戒解雇が「有効であるかどうか」を判断する基準、すなわち、「懲戒解雇の有効性」を判断するための原則(ルール)について、弁護士が解説します。

解雇権濫用法理

解雇に関する最も重要な原則(ルール)が、「解雇権濫用法理」です。

「解雇権濫用法理」とは、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、その権利を濫用したものとして無効とする」という考え方で、労働契約法という法律に次の通り定められています。

労働契約法16条(解雇)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

その意味は、解雇をするに足る程度の理由で、かつ、解雇になっても仕方がないと考えられる程度のものでない限り、有効に解雇することはできない、ということです。

合わせて、懲戒処分についても、労働契約法において、その濫用が固く禁じられています。

労働契約法15条(懲戒)

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

平等の原則

横領行為を理由とした懲戒解雇の有効性を判断する際に、重要となる原則(ルール)が「平等の原則」です。会社は、「懲戒解雇を行うかどうか」を判断する際、「平等の原則」に違反してはなりません。

懲戒解雇における「平等の原則」とは、同種、同程度の企業秩序違反行為に対しては、同等の懲戒処分を下さなければならないというルールです。

同程度の金額を横領したのに、ある社員は不問に付し、ある社員は懲戒解雇にした、という場合、平等の原則に違反している可能性があります。

そのため、横領行為によって懲戒解雇となるおそれのある場合には、過去の横領・着服事例の場合に、会社がどのような懲戒処分を行ったかを調査してください。この際、横領行為の程度を判断するために、次の点を比較して調査しましょう。

  • 横領・着服した金額
  • 横領・着服行為の回数・頻度
  • 横領・着服行為が行われた期間
  • 発覚した後の謝罪の有無、反省の有無
  • 発覚した後の返金の有無、返金額

過去に横領、着服を行った従業員が「譴責、戒告」という軽い処分しか受けていないのであれば、横領、着服行為の悪質性が同程度の場合には、あなただけ懲戒解雇を行うことは、「無効」となる可能性があります。

適正手続の原則

最後に考えるべき原則(ルール)が「適正手続の原則」です。横領・着服行為の違法性が強度で、懲戒解雇が相当な場合であっても、適正な手続にしたがって進めなければならない、という考え方です。

横領・着服を理由として懲戒解雇処分を下すとき、会社が踏むべき適正な手続とは、次のようなものです。

  • 懲戒解雇の理由となる横領・着服行為を説明する
  • 懲戒解雇の根拠となる就業規則の規定を説明する
  • 横領・着服行為に関し、労働者側に弁明の機会を与える

更に、上記の手続を超えて、より丁寧な手続が就業規則、雇用契約書などに定められている場合には、懲戒解雇をする前にそれらの手続を踏む必要があります。

特に、法令遵守(コンプライアンス)意識の高い会社では、懲戒解雇などの重度の懲戒処分を下す場合には「懲罰委員会(懲戒委員会)」を開催することがルールとされていることがあります。

たとえ、懲戒解雇が相当とされるほど悪質な横領行為があっても、適正な手続を踏まずに行った処分は無効と判断される可能性があります。横領行為を理由として懲戒解雇する場合にどのような手続が必要となるか、行われた手続が十分であるかは、労働問題に強い弁護士にご相談ください。

横領による懲戒解雇の判例・裁判例

ここまで解説してきた通り、横領行為を理由として懲戒解雇処分を受けてしまった場合であっても、「不当解雇」であり違法・無効であると主張して争うことができます。

とはいえ、「欲望に負けて横領をしてしまった」という負い目があるため、自分一人で争うと心が折れてしまう場合があります。「懲戒解雇」の有効性に関する争いを考えている場合は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。

実際に、横領行為を行って懲戒解雇となった労働者が、労働審判や裁判(訴訟)で「懲戒解雇の有効性」を争い、勝訴となったケースをご紹介します。

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横領による懲戒解雇を「無効」とした判例・裁判例

横領行為を理由として会社が行った懲戒解雇について、裁判所が「無効である」と判断した判例・裁判例には、次のようなものがあります。

東京地方裁判所八王子支部 平成15年6月9日判決
  • 電鉄会社の助役による横領・着服行為に対する懲戒解雇
  • 横領・着服行為を行ったことを立証する合理的な理由がないとして、懲戒解雇が無効と判断
福岡高等裁判所 平成9年4月9日判決
  • ワンマンバスの運転手による、現金運賃の横領・着服行為に対する懲戒解雇
  • 横領の意図がなく、単なる手続違反であるとして、懲戒解雇が無効と判断
  • 疑惑は残るものの、会社による事実調査が不十分であるとされた
大阪地方裁判所 平成6年7月12日決定
  • 葬祭会社の従業員による、お布施の横領・着服行為に対する懲戒解雇
  • 顧客の記憶に基づくものであり横領行為の立証が十分でないとして、懲戒解雇が無効と判断
  • 会社による事実調査が不十分であるとされた
東京地方裁判所 平成18年2月7日判決
  • 光輪モータース事件
  • 通勤手当の不正受給という横領行為に対する懲戒解雇を無効と判断
  • 横領・着服した金額は約34万円
  • 会社に届け出なかった不誠実はあるものの、懲戒解雇は不相当であると判断

横領による懲戒解雇を「有効」とした判例・裁判例

横領行為を理由として会社が行った懲戒解雇について、裁判所が「有効である」と判断した判例・裁判例には、次のようなものがあります。

なお、懲戒解雇が有効と判断されたとしても、「退職金の減額、不支給、没収といった処分については『無効である』」と判断した裁判例もあります。「懲戒解雇の有効性」と「退職金不支給」の有効性は別問題であり、「退職金不支給」のほうが、より労働者有利に判断されるということです。

福岡地方裁判所 昭和60年4月30日判決
  • 西鉄雜餉自動車営業所事件
  • ドライバーによる料金の横領・着服行為に対する懲戒解雇を有効と判断
東京高等裁判所 平成元年3月16日判決
  • 前橋信用金庫事件
  • 信用金庫の従業員による、集金の一部(一万円)の横領・着服行為に対する懲戒解雇を有効と判断

【事例Q&A】横領による懲戒解雇が無効となったケース

ご相談までの経緯

私は、営業会社で経理をしています。

会社の売上は好調でしたが、新卒で入社した私は、なかなか仕事に慣れず、失敗すると上司に怒られたりして、ストレスをため込んでいました。

ある日、他の社員の手があかず、取引先からお預かりした金銭の入金を任されることになりました。

日ごろの業務の多忙さと、上司からの度重なる叱責にストレスがたまっていた私は、自暴自棄になってしまったのでしょうか。お預かりした金銭の一部を、自分のポケットに入れてしまいました。

「こんなにたくさんあるから、少しくらいなくなってもバレないのではないか。」という軽い気持ちや、「会社に合わないからもうやめてもいいや。」という甘い考えであったのでしょう。今も後悔の思いが止まりませんが、やってしまったことは戻りません。

会社に発覚すると、即座に自宅謹慎を命じられ、翌日には「もう来なくてよい。」と告げられました。

私としては、「会社に悪いことをした。」という思いはもちろんあるのですが、反省し、これからも仕事を頑張りたいと思っていた矢先のことで、気が動転してなにも言い返すことができませんでした。

労働法の法律や裁判例について、詳しい知識がないので、弁護士に相談をして解決することとしました。

弁護士による問題解決

横領・着服行為は、悪質な行為であって、会社において何等かの処分がされることを止めることはできません。

しかし一方で、「懲戒解雇」は非常に重い処分です。労使関係においては、「死刑(極刑)」に例えられるほどです。

というのも、懲戒解雇となってしまった労働者を雇う企業はなく、今後の就職活動も困難となってしまうからです。

そこで、ご相談を受けてすぐに、懲戒解雇を回避し、退職をする方向にもっていくという方針で、会社と交渉を開始しました。

まずは内容証明郵便の形式で、会社に対して弁護士が選任した旨を伝えて交渉を開始しましたが、会社側が、話し合いによって懲戒解雇を撤回することはありませんでした。

労働者を信頼して預けた金銭を横領されたのですから、会社の気持ちも理解できます。

その後、労働審判において、横領した金額、横領行為の回数、すでに横領した金額を返済していることを主張し、懲戒解雇をするほどの相当性はないと主張して争いました。

その結果、「懲戒解雇は撤回し、合意退職する。」という内容で、労働者の権利を実現することができました。

「横領トラブル」は、弁護士にお任せください!

業務中の横領・着服といった犯罪行為に手を染めてしまった場合、懲戒解雇という重い処分を下される可能性が高く、また、懲戒解雇の有効性が認められる可能性が高いといえます。

しかし、あきらめてはいけません。いずれにせよ横領を行った会社に居続けることができないにせよ、懲戒解雇は労働者にとって非常に不利益の大きい処分だからです。どれほど悪質な横領行為でも、懲戒解雇に至るまでの手続の適正性は保たなければなりません。

十分な調査なく、事実に反する事実認定を理由に懲戒解雇としたり、労働者の言い分を一切聞かずに処分を決めたりといったケースでは、懲戒解雇が無効となる場合もあります。むしろ「不当解雇」を理由に会社に対して解決金や慰謝料を請求すべきケースもあります。

横領・着服行為を行ってしまい、懲戒解雇とされるおそれがある場合には、できるだけ早期に、労働問題に強い弁護士へご相談ください。

「横領トラブル」の法律知識まとめ

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弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区銀座)は、代表弁護士浅野英之(日本弁護士連合会・第一東京弁護士会所属)をはじめ弁護士5名が在籍する弁護士法人。 不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、近年ニュースでも多く報道される労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。 「労働問題弁護士ガイド」は、弁護士法人浅野総合法律事務所が運営し、弁護士が全解説を作成する公式ホームページです。

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