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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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横領を理由とする懲戒解雇は有効?懲戒解雇となる着服の金額は?

「つい魔がさして横領してしまった」というケースが後を絶ちません。
しかし、横領、着服は犯罪行為なのは当然。
業務上横領罪として「10年以下の懲役」の刑罰が科されます(刑法253条)。

業務中の横領・着服は、企業秩序に反する行為にもなります。
社内の制裁としては懲戒処分、なかでも最も重い懲戒解雇となるのも容易に予想されます。
懲戒解雇だと、労働契約が解消されるだけでなく、「横領した問題社員」の十字架を背負うことに。
転職、再就職も困難となってしまいます。

横領・着服は、企業本来の目的である「利益の追求」を阻害します。
一方で、懲戒解雇という重い処分は、それ相応の重度の違法行為をした人にしか下せません。
安易な解雇は、たとえ横領が理由でも、不当解雇の可能性があります。

今回は、横領を理由とした懲戒解雇の有効性について、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 横領・着服は、業務上横領罪という犯罪にあたるので、懲戒解雇の可能性が高い
  • たとえ横領したのが事実でも、懲戒解雇は、違法な「不当解雇」となりうる
  • 横領額の低さ、発覚後の反省や返済など、有利な情状を主張し、不当解雇を争える

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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横領による懲戒解雇のダメージ

懲戒解雇は非常に重い処分です。

会社との労働契約が継続できないのは当然。
今後は「懲戒解雇された」といって求職活動すれば、転職、再就職にとても不利です。
なので、懲戒解雇されれば、今後、生涯にわたって、就活で嘘をつき続けなければなりません。

さらに、懲戒解雇を隠して採用されても、バレれば再度解雇されるおそれもあります。
懲戒解雇は、これほどに労働者にとってダメージの大きな処分です。
しかし一方で、業務中に会社の金を着服する行為もまた、業務上横領罪という重い犯罪に当たります。

横領額が「少額」でも懲戒解雇

業務上横領罪は、刑事罰の対象となる、とても違法性、悪質性の高い行為です。
横領をしてしまったら、懲戒解雇となる可能性は高いといわざるをえません。
「金額が少額なら、許されるのでは」というのは甘い考え
です。

たとえ少額でも、相応に重い懲戒処分が予想されます。
数万円程度の横領、着服だったとしても、懲戒解雇を有効とした裁判例は多くあります。
多額なほど悪質なのは当然ですが、それだけでなく「信頼を裏切った」「企業秩序を乱した」という事情が、とても重く評価されるのです。

次のような横領行為は、少額でも、特に厳しく処罰されます。

  • 経理担当者による横領
  • 業務で金銭を扱うことを任されているのを悪用した横領
  • 金融関係の業種における横領
  • 日常的、常習的に繰り返されていた横領

自宅待機中の給料をもらえないおそれあり

横領・着服行為が発覚すると、再発のおそれ、証拠隠滅のおそれがあります。
そのため、「解雇予告期間をおいて解雇する」というのは通常考えがたいです。
また、処分を決めるまでの期間は、自宅待機を命じられるのが通例です。

本来、会社が労働者に自宅待機を命じるなら、最低でも休業手当分(つまり、給料の6割)を払います。
しかし、横領の再発を防止するための自宅待機は例外です。
再発や証拠隠滅を防止するという正当な理由があるため、給料を請求できない可能性があります。

自宅待機の違法性と、待機中の給料について、次に解説します。

解雇予告の除外認定のおそれあり

解雇する場合は、労働基準法20条に定められた、解雇予告のルールに従います。
つまり、30日前に解雇予告するか、予告期間に不足する日数の解雇予告手当を払う必要があります。

しかし、窃盗、横領、傷害など、重大な犯罪行為を理由とする懲戒解雇だと、「労働者の責に帰すべき事由」に基づく解雇なので、解雇予告の除外認定がなされる可能性があります。
労働基準監督署の除外認定があると、解雇予告のルールが適用除外となり、労働者は保護されません。

横領を理由とする懲戒解雇は有効?判断基準は?

では、横領、着服をしたら、あきらめるしかないのでしょうか。
決して、そうではありません。
反省し、誠意をもって謝罪し、横領額を返済するなど、適切な対応をすぐにとりましょう。

できるだけ早く、適切な対応をすれば、懲戒解雇を避けられる可能性もあります。
さらに、これらの対応により、悪質性が低いと判断されることもあります。
裁判所が、その悪質性を低く評価すれば、解雇されても「不当解雇」として争えることもあります。

解雇権濫用法理

解雇について労働者を保護する重要なルールが、解雇権濫用法理です。

解雇権濫用法理により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、違法な「不当解雇」として無効になります(労働契約法16条)。

解雇権濫用法理とは
解雇権濫用法理とは

解雇するに足る程度の理由がなければ、有効に解雇はできません。
また、解雇になっても仕方ないほどの違法がないと、やはり解雇は無効になるのです。
あわせて、懲戒処分についても、濫用は固く禁じられています(労働契約法15条)。

平等の原則

横領による懲戒解雇の有効性を判断するとき、「平等の原則」も大切です。
つまり、社内の処分は、平等を意識して下さなければならないのです。

平等の原則とは、同種、同程度の違反行為ならば、同等の懲戒処分を下すべきというルールです。
例えば、同額程度の横領なのに「ある社員は不問に付し、他の社員を懲戒解雇にする」といった場合、(他に理由のない限り)平等の原則に違反する可能性があります。

なので、横領により懲戒解雇されるおそれがあるとき、過去の事例を調べましょう。
過去に会社が、どんな懲戒処分をしたか調査できれば、処分の予想ができます。
このとき、次の点を比較して調べるようにしてください。

  • 横領・着服した金額
  • 横領・着服行為の回数・頻度
  • 横領・着服行為が行われた期間
  • 発覚した後の謝罪、反省の有無
  • 発覚した後の返金の有無、返金額

過去に横領、着服をした労働者が、譴責、戒告などの軽い処分しか受けていないのであれば、悪質性が同程度なのにあなたがけが懲戒解雇となってしまったとき、「不当解雇」だと主張できるでしょう。

適正手続の原則

最後に考えるべきルールが、「適正手続の原則」。

違法性が強度で、懲戒解雇が相当なケースも、適正な手続きによって進めねばならないという考え方。
横領・着服を理由に懲戒解雇にするとき、踏むべき適正な手続きには、次の例があります。

  • 懲戒解雇の理由を、労働者に説明する
  • (労働者の請求があったら)解雇理由証明書を交付する
  • 懲戒解雇の根拠となる就業規則の規定を説明する
  • 労働者に、弁明の機会を付与する
  • 懲罰委員会(懲戒委員会)などを開催する

これらはあくまで例であり、より丁寧な手続きが定められていれば、会社の定めに従います。
どんな手続きが定められているかは、就業規則、雇用契約書で確認できます。

たとえ懲戒解雇が相当とされるほど悪質な横領行為でも、適正な手続を踏まずにした解雇は、無効と判断される可能性があります。

横領を理由に懲戒解雇するとき、必要な手続きは、次に解説します。

横領による懲戒解雇についての裁判例

以上のとおり、横領を理由に懲戒解雇になっても、「不当解雇」を主張して争えます。
労働審判や訴訟で、不当解雇だと認められれば、その解雇は違法、無効です。

とはいえ、「欲望に負けて横領してしまった」という後ろめたさもあるでしょう。
自分1人で戦っても心が折れてしまうなら、ぜひ弁護士のサポートを受けてください。

最後に、横領を理由に懲戒解雇された方が、その有効性を争った裁判例を解説します。

その他、横領による解雇について次の解説も参考になります。

横領による懲戒解雇を「無効」とした判例・裁判例

横領による懲戒解雇を、「無効」と判断した裁判例には、次のものがあります。

東京地裁八王子支部平成15年6月9日判決

  • 電鉄会社の助役による横領・着服行為に対する懲戒解雇
  • 横領・着服行為を行ったと立証する合理的な理由がないとして、懲戒解雇が無効と判断

福岡高裁平成9年4月9日判決

  • ワンマンバスの運転手による、現金運賃の横領・着服行為に対する懲戒解雇
  • 横領の意図がなく、単なる手続違反だとして、懲戒解雇は無効と判断
  • 疑惑は残るものの、会社による事実調査が不十分であるとされた

大阪地裁平成6年7月12日決定

  • 葬祭会社の従業員による、お布施の横領・着服行為に対する懲戒解雇
  • 顧客の記憶に基づくものであり横領行為の立証が十分でないとして、懲戒解雇が無効と判断
  • 会社による事実調査が不十分であるとされた

東京地裁平成18年2月7日判決(光輪モータース事件)

  • 通勤手当の不正受給という横領行為に対する懲戒解雇を無効と判断
  • 横領・着服した金額は約34万円
  • 会社に届け出なかった不誠実はあるものの、懲戒解雇は不相当であると判断

横領による懲戒解雇を「有効」とした判例・裁判例

横領による懲戒解雇を、「有効」と判断した裁判例には、次のものがあります。

福岡地裁昭和60年4月30日判決(西鉄雜餉自動車営業所事件)

  • ドライバーとして働く労働者の横領
  • 料金の横領・着服行為に対する懲戒解雇を有効と判断

東京高裁平成元年3月16日判決(前橋信用金庫事件)

  • 信用金庫の従業員による横領
  • 集金の一部(一万円)の横領・着服行為に対する懲戒解雇を有効と判断

なお、懲戒解雇が有効と判断されても、退職金が払われるケースもあります。
たとえ懲戒解雇が有効でも、「退職金の減額、不支給、没収といった処分は無効」と判断した裁判例もあります。

懲戒解雇の有効性と、退職金不支給の有効性は別問題。

退職金の不支給のほうが、労働者により有利に判断されます。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、横領・着服といった犯罪行為について、懲戒解雇となる場合の解説でした。
業務中に犯罪をしていると、懲戒解雇という重い処分が予想されます。

しかし、あきらめてはいけません。
横領した会社に居続けられないにせよ、不利益の大きすぎる処分は、違法の可能性があります。
また、どれほど悪質な横領でも、懲戒解雇に至るまでの手続きの適正は保たねばなりません。

十分な調査なく、事実に反する理由で懲戒解雇にするのは違法です。
労働者の言い分をまったく聞かずに処分を決めれば、その解雇は「不当解雇」となるでしょう。
このとき、解雇を争い、解決金や慰謝料を請求すべきケースも少なくありません。

この解説のポイント
  • 横領・着服は、業務上横領罪という犯罪にあたるので、懲戒解雇の可能性が高い
  • たとえ横領したのが事実でも、懲戒解雇は、違法な「不当解雇」となりうる
  • 横領額の低さ、発覚後の反省や返済など、有利な情状を主張し、不当解雇を争える

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