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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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出張時の交通機関を勝手に変更したら「横領」になる?

遠方への出張は、業務の一環。
でも、しばらくはオフィスを離れ「羽伸ばし」の機会だととらえる人も多いでしょう。

遠方への出張だと、飛行機や新幹線などの交通手段を利用します。
出張時の交通機関の選び方や、交通費に注意しないと、横領といわれかねないケースもあります。
横領は、職場に起こる労働問題のなかでも、特に深刻で、厳しく処罰されます。

また、出張の移動には、交通費の問題に加え、「労働時間かどうか(残業代が払われるか)」、「移動中のケガは労災か」といった難しい問題が数多くあります。

今回は、出張時の交通機関の変更と「横領」について労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 出張時の交通機関が指定されているのに、勝手に変更すると横領になる可能性あり
  • 出張旅費の横領かどうかは、出張規程、旅費規程など、就業規則以外の規程も確認する
  • 出張では、横領の問題以外に、労働時間(給料・残業代の未払い)、労災の問題も生じる

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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出張時の交通機関の変更が「横領」になる場合とは

まず、特に注意しておくべき、出張時の交通機関の変更が「横領」にあたる場合について、例を挙げて解説します。

出張時の移動手段には、在来線の電車、バス、自家用車など、さまざまな選択肢があります。
遠方だと、飛行機や新幹線、船などが使われることも。

なお、横領というと、「余分にお金をもらうこと」とイメージする方も多いでしょう。

しかし、法律上は「お金を受け取ること」自体が横領罪です。
そのお金が「余分」かどうかは、横領罪の成立において必ずしも問題となりません。

出張時の交通機関を変更して、会社から出張旅費の横領だと疑われたとき、「出張には行っているわけだし、交通費の総額は変わらないから問題ないのでは」という言い訳は、通用しないケースもあります。

会社から交通機関を指定されたケース

出張時の交通機関を勝手に変更し、「横領」になってしまう場合の1つ目は、「会社から交通機関を指定された」というケースです。

会社から交通機関が指定される例とは、次のようなもの。

  • 個別の出張につき、社長や上司から交通機関を指定されるケース
  • 就業規則、出張規程、旅費規程などの規程類に定められるケース

規程類の定めには、注意を要します。
出張の多い会社だと、「どんな場合に、どの交通機関を使用すべきか」がルール化していることもあります。

「部長以上に限り、グリーン車を使用してよい」、「○○km未満の出張ではビジネスクラスを使用してはならない」などのように、出張時に使用できる交通機関が、その役職やレベルによって指定される例もあるので、自分の出張があてはまるかどうか、よく読むようにしてください。

会社からの指示は、業務命令を意味します。

つまり、指示に違反したときには業務命令違反となり、評価の低下や、懲戒処分など、不利益な扱いの対象となるおそれがあります。

チケットを現物支給されたケース

出張時の移動手段、交通機関を指定されている例のなかでも、「チケットを現物支給された」というケースは特に、個別具体的な指定が会社から下されていると考えることができます。

そのため、会社から支給されたチケットを使わないと、横領になる可能性がとても高いです。
例えば、払い戻し、より安い手段で移動すれば、出張旅費の横領となってしまいます。

チケットの現物支給をするケースは、現金で相当額を支給するケースとは全く違い、「この交通機関を利用するように」という会社からの具体的な業務命令だと解釈できるからです。

より安い交通機関に変更し、差額を領得したケース

会社からの指定に反して、より安い交通機関に変更しながら、虚偽の交通費申請を行って差額を領得する行為は、問題のある「交通費の横領」となるのが明らかです。

悪質性の高い横領をしてしまえば、懲戒解雇となるのは当然。
その他にも、業務上横領罪による刑罰を科される危険もあります。

移動時間に合わせて「出張日当」が支給されている場合は、より安い交通機関のほうが移動時間が長くかかることが多いため、交通費以外に「出張日当」についても不正受給となってしまう可能性もあります。

また、「移動時間に他の業務を指示されていた」などの理由で、移動時間が「労働時間」と評価され残業代が支払われているようなケースでは、移動時間を偽ることもまた、不正な行いとなります。

横領はとても重大な行為で、懲戒解雇されてしまうケースも多いです。

横領を理由とした懲戒解雇への対応は、次に解説します。

出張時の交通機関の変更が「横領」にならない場合とは

次に、出張時に、交通機関を無断で変更しても「横領」にあたらない場合について解説します。

なお、ここに紹介する例は、あくまで一般論。
類似のケースについて、必ず横領にあたらないと保証するものではないので、慎重な対応を要します。

会社から交通機関を指定されていない場合

会社から出張時の交通機関の指定を受けていない場合には、どんな交通機関を選んでも、また、直前で勝手に変更しても、「業務命令違反」にはあたらず、「交通費の横領」にもあたりません。

出張場所までいく移動は、「重大な荷物を監視しなければならない」とか「移動中の業務を指示されている」といった特別な場合を除けば、原則としては「労働時間」にあたらず、残業代も給料も発生しません。

そのため、交通機関やルート、経路が指定されておらず、「決められた時間までに出張場所に着き、業務を開始できればよい」というケースなら、交通機関の決定・変更が横領などと問題視されることはありません。

労働時間の定義について、次に解説しています。

より高い交通機関に変更し、差額を自腹で払った場合

上記のように、会社から出張の移動手段を指定されていないケースでも、虚偽の報告をして交通費を不正受給してしまったら、「交通費の横領」にあたるのは疑いありません。

しかし、より高い交通機関に変更し、差額を自腹で支払ったなら、責められる理由はありません。

通常、会社の一般的な慣行では深夜バスで移動することが多かったとしても、「深夜バスは疲れるから」という理由で、差額を自腹で支払い飛行機で移動したとしても、交通機関を指定されていないのであれば、特段責められる理由はありません。

交通機関を変更する正当な理由がある場合

交通機関を変更する正当な理由があるなら、その変更が「横領」その他の問題行為にはなりません。

交通機関の遅延、運休、事故などで、指定された交通機関が利用できなくなったケースが典型例。
自身の怪我や病気により、そもそも出張自体が継続できない場合もあります。

ただし、交通機関を変更する緊急の必要性があり、やむを得ず事前承諾を得ることができない場合であっても、事後に会社に報告し、「横領」などの疑いをかけられないようにしておいてください。

横領していないのに疑われた、「冤罪」ケースでは、対応に注意。
次の解説もご覧ください。

出張時の交通機関の変更についての注意点

出張時の交通機関を、会社に無断で変更してしまうと、「交通費の横領」の疑いをかけられるという点以外にも、デメリット、リスクが多く存在します。

最後に、出張時の交通機関の変更について、その他の問題点と対策について解説します。

労災の補償・安全配慮義務違反

会社が一定のルート、経路を指定したにもかかわらず、その経路を外れたり交通機関を変更したりとき、その後に不慮の事故にあって怪我してしまっても、補償が十分になされないおそれがあります。

会社の業務によりケガをしたり、死亡したりしたら、労災(業務上災害)です。
このとき、労災認定が下りれば、労災保険の補償を受けられます。
しかし、勝手に交通機関を変更した場合、「業務上の災害かどうか」が争いになってしまいます。

また、会社は労働者を安全に働かせる義務(安全配慮義務)を負います。
業務中のケガや事故で、会社の配慮が十分でないなら、損害賠償請求できます。

しかし、会社の指示に違反してケガ、事故にあったなら、安全配慮義務違反を理由とした責任追及もできません。

特に、会社が安全で合理的な移動手段を指定し、その費用を支給していたにもかかわらず、労働者があえて危険で安い経路に勝手に変更したケースだと、労災も、安全配慮義務の責任追及も困難です。

移動中のケガと労災の関係は、次に解説しています。

給料・残業代

労働者は、「会社の指揮命令下で働く時間」(つまり、労働時間)について、給料をもらえます。
そして、「1日8時間、1週40時間」を超えて働いたときは、残業代を払ってもらえます。

出張中の移動時間について、「出張に行くための移動時間」は原則として労働時間になりません。
(例外的に、出張中も「指揮命令下」にあれば労働時間になります。)
常識的な移動手段ならば、移動時間中は労働者が自由に利用できるからです。

これに対し、出張中の移動は労働時間に当たる場合が多いです。

そのため、先ほど解説した「出張時の交通機関を指定されている(チケットをもらっている場合など)」のケースでは、その時間に、その移動手段で移動する業務を指示されていたと考えられ、労働時間と評価され賃金・残業代を支払ってもらうべき場合もあります。

出張中の労働時間と残業代については、次に解説しています。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、出張時の問題について、「横領トラブル」が起こってしまう場面を解説しました。

出張は、会社を離れて「鬼の居ぬ間に洗濯」。
楽しみにして浮かれ気分の方も多いかもしれません。

しかし、「会社の目は届かないだろう」と不正するのは甘い考えでしょう。
出張時の交通機関を勝手に変更すれば、交通費の横領になりかねません。
責任追及を受けてしまえば、懲戒解雇など厳しい処分となるおそれも十分あります。

この解説のポイント
  • 出張時の交通機関が指定されているのに、勝手に変更すると横領になる可能性あり
  • 出張旅費の横領かどうかは、出張規程、旅費規程など、就業規則以外の規程も確認する
  • 出張では、横領の問題以外に、労働時間(給料・残業代の未払い)、労災の問題も生じる

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